個性「魔轟神」 作:グリムロ
個性のコンビネーションの練習や基礎訓練に時間を費やして、いよいよ今日は体育祭である。
ここは1-A控室。飯田君が叫んでいるようにあと数分で入場である。
「真陣さんは緊張してなさそうだね」
「そういう麗日さんは……」
ガッチガチだった。彼女の震える握りこぶしから緊張が伝わってくる。あ、いいこと思いついた。
「そんな貴方には、あにまるせらぴー。召喚『魔轟神獣ケルベラル』」
とりあえずケルベラルを呼んで、抱き上げて見せた。腕の中のケルベラルはわふわふと尻尾を振っている。
「触って、みる?」
「いいの!?じゃあ……」
そうっと麗日さんが手を伸ばした。ケルベラルがくすぐったそうに眼を細める。
「わん!」「わん!」「わん!」
「か、かわいい。もふもふだ」
ひとしきり撫できると、麗日さんは息を吐いた。どうやら上手く緊張も解けたらしい。たしか両親が見ているとか……気持ちはわからなくもない。私だって自分の価値を示す必要があるし、それに今日は虚意さんがカメラ片手にやってきている。
やけに張り切っていたうえに後で孤児院で上映会をするとも言っていた。……そう思うと確かに少し緊張する。私はケルベラルの赤毛に顔をうずめつつ開会を待った。
▽
「さて、今年の第一種目は……これよ!」
電光掲示板に映し出された文字は『障害物競争』。普通の競技に聞こえるがここは雄英である。簡単な障害など出るはずもない。
「スタート!」
同時にカードを掲げる。召喚するのはもちろん飛行手段。
「来て……『魔轟神獣ルビィラーダ』」
「ア”ア”ア”ァァーー!!」
南米感あふれるこの大きな鳥こそルビィラーダである。実はこいつ欠点がいくつかあって、その中の一つが滅茶苦茶喧しいこと。隠密行動など夢のまた夢…だけど、今日に限っては人目を引くのはプラスにも働く。
「第一関門はこれだぁ!ロボ・インフェルノ!」
入試の時の0P敵だ。会場に一体ずつだったやつが十数台こちらを阻むように現れた。
「クシャノの言ってた通り、あいつらの上から行くよ」
「ア”ァ」
見れば私の他にも空ルートを選んだのが何人かいる。その先頭は爆豪君だ。後ろ手に爆発を放っているのでうかつに近づけないが、まあ最終的に予選が通過できれば何でもいいのでここは様子見、高みの見物と行こうじゃないか。
……爆豪君より高いところにいたら怒るかな?
▽
「……ふむ」
オールマイトには教え子である緑谷出久の他にもう一人注目している生徒がいた。真陣来栖だ。画面の向こうでは彼女が怪鳥に乗って第二関門を突破した。空を飛べる個性にこの障害物競走は些か簡単だろう。
USJ襲撃以来、彼女の扱う召喚体は一変した。今までの悪魔は姿を見せなくなり、奇妙な動物群に変化している。監視カメラの映像から見て、あの二人の悪魔は死んだのかもしれないなどと推測は立てられるが、それを面と向かって聞けるほどオールマイトは無神経ではない。
「隣、いいでしょうか」
「ん?」
今はトゥルーフォームだからヒーローとしての知り合いではないはずだ。そう思いつつ声の主を見た。
つい最近写真で見た顔だった。
▽
第三関門は地雷原であった。このまま飛んで最後まで行ければ良かったのだが……。
「ア”ァ……」
「……わかった」
実は、サイズなどの問題からルビィラーダは人を乗せての長時間飛行ができない。スタミナ切れを起こしたのだ、最後は自力でどうにかするしかなかった。私は懐のカードに触れ意思疎通を図る。
『あの地雷、派手だけど威力は低いんだって。
『奇遇だね、僕も同じことを考えていたよ。起爆役はケルベラル達がどうにかできるはずだ』
『えっ』
声を上げたのはちび悪魔の方だった。
『……できる?』
『……了解しました』
よし、やろうか。今の順位は20くらい、うまくいけば後続を一気に突き放せるだろう。私はルビィラーダに触れ、カードに戻した。同時にケルベラルを呼ぶ。
一瞬の浮遊感。背中の羽を思い切り伸ばして、私は滑空を始めた。さらにケルベラルを投下する。
「ケルベラル、お願い」
「わふー」「わふー」「わふー」
ちび悪魔が必死に羽をはばたかせ、ケルベラルは軟着陸に成功した。その周りの生徒がけげんな表情を浮かべている。
ケルベラルは走って私の前方に行き、地面を嗅ぎ始めた。……準備ができたようだ。タイミングを合わせて──
「今!」
「「「わん!」」」
「えっ」
「ちょっと──」
ケルベラルが思い切り地雷を踏みぬいた。
BOOM!
「……くうっ!」
弾ける爆風に煽られて、私は上空に吹き上げられた。無理やりだがこれで高度が確保できた!
「よし、これでまだいける。あと二回くらい手伝ってもらえば──」
BOOOOOOOOOM!!!!
「えっ」
▽
「……隣、いいでしょうか」
「ん……!? いや、どうぞどうぞ」
「失礼」
隣に座った中年の男に見覚えがある。オールマイトは取り敢えず会話を続けることにした。
「お子さんの応援ですか?」
「ええ、そんなところです。音沙汰の無かった娘に子がいると知りまして、一目見てみたくなったのですよ。そちらは?」
「ああ、ええと……私はこの学校で個性アドバイザーのようなものをやっておりまして」
もちろん嘘である。職員室にも保健室にもよく行くオールマイトにとっては思ったより都合がいい言い訳だった。
「なるほど……そのような仕事もあるのですか。まあ私は見ての通り異形系、しかも人の形をあまり外れていない方ですから、お世話になったことはないのですが」
浅黒い肌に長い白髪はダークエルフという表現が一番近いだろうか。そこにドラゴンのような緑の翼を足したような風貌である。
「そもそも長所と短所は表裏一体、片方が弱ければもう片方も弱い……逆も然り。そう考えればほぼ無個性でも悪くないものです。代償もほぼないのですから」
「……それはもしかしたら真理かもしれませんね」
「半分ほど父の言葉ですがね」
そういって男──魔轟
「……」
「……」
その中に若干一名、爆発に巻き込まれて盛大に墜落した少女の姿が見えた。オールマイトはなんと声をかけるべきか最後まで分からなかった。
可愛いものとか小さいものに対する擬音を平仮名にする傾向にあります。
そもそもあまりカタカナの擬音語は使わない傾向にありますが、読みにくかったらお知らせください。