個性「魔轟神」 作:グリムロ
なおおそらくですがこの作品でクルスちゃんの代わりに吹っ飛ぶのは青山君か砂藤くん。クラス21人って微妙ですしね……
警察を呼んだ。あの女が私の母親であることは伏せて、ただアシェンヴェイルが叩きのめした大男だけを突き出す。掴まれた腕が赤くなっていたからか、私も同行する羽目になった。結局孤児院に戻ったのは七時過ぎだったように思う。
心配する兄弟姉妹達を「疲れているからまた今度ね」とやんわり引き離し、中学生になって与えられた自分の個室に入った。
──全て見知らぬ人間のように、家族に対して何も感じなかった。昼のうちはちびっ子にスーパーでお菓子でも買ってやろうなんて思ってて、食材は兄や姉の負担を減らそうと思って。そんな同じ家に住むなら抱いて当然であろう親愛の情をも、母親へのそれと共に私は失ったのだった。
「召喚」
カードを二枚掲げる。いつものようにアシェンヴェイル、その隣にはグリムロがいた。
「あまり気に病むべきじゃないわ。親愛は確かに大きな感情ではあるけれど、恋とか性愛とかとは別物だもの。それに貴女が望むなら……その何方も与える準備はできているのよ?」
グリムロはにっこりと笑って見せた。
「……保留で」
「あら残念。ところでアシェンヴェイル」
「何だ」
「強化前だと私の方が攻撃力高いって知ってた?」
「………」
「貴方は、仕方がない話だけれど……能動的に手札を捨てる手段だわ。だからこその最初に呼ばれた魔轟神」
「何が言いたい」
「──一応、同性だし。これからはクルスちゃんの面倒は私が見たほうがいいと思う」
「……分かった。お前に任せる。有事の際に呼び出してくれりゃあいい」
なんか二人で話が勝手に進んでいる。というか、別に私はアシェンヴェイルが嫌いなわけではない。これは……親愛ではないなら自己愛に入るのだろうか?そんなことを考えつつ、私は待ったをかけた。
「別に、何もなくたって呼ぶよ。付き合い長いし」
「……そうか」
今度こそアシェンヴェイルはカードになった。
「優しいわね」
「信頼だよ」
主人公にとってターニングポイントであった今日は、私にとってもそうであった。
_________________
事件から数日後のおよそ深夜三時。これまた孤児院を抜け出して私は例の海浜公園に来ていた。季節は夏に近づいていようと、夜はまだ肌寒い。
「グリムロの言う、攻撃力ってのは、どう言う数値なの?」
「……まぁ、火力に関する総合的な評価と言ったところかしら。重要なのは力そのものじゃないってことね」
グリムロは近くにあった軽トラを指差した。指先にバスケットボールほどの黒い球が街灯に照らされて浮かび上がる。グリムロが指を振るとそれは軽トラに突っ込み、ベキバキバキ!と音を立ててそれを破壊した。
「つまり、私はこういう攻撃手段こそあるけれど、腕力があるわけじゃないってこと。そういうのはアシェンヴェイルに任せておけばいいわ」
「なるほど……。他に何かできたりするの?あ、別に今のが、駄目って言ってるわけじゃないんだけど」
グリムロが破壊したトラックを眺める。
「他に……?貴女を愛することなら」
「違う、そうじゃない」
違うのである。一応私も元男、綺麗な女性に憧れがないわけではない。ないのだが……どうにも身近に外面良し中身クソな女性がいたもので。あえていうならもうこりごりって感じなのだ。
男は恋愛対象にならん。そういう意味では気楽に接することができる。
とりあえずアシェンヴェイルも呼んだ。先ほどの説明からして、アシェンヴェイルはどのくらいの重量を持ち上げられるのか気になったからだ。
「てなわけで。軽トラって、大体1トンくらいらしいよ」
私はスマホを眺めながら言った。アシェンヴェイルはそうか、と呟くと軽トラの正面に両腕を突き刺して、そのまま持ち上げて見せた。
「………すご」
「このくらいならどうにかなるな」
「その筋力を超えるグリムロの攻撃力って一体………」
色々と試した。軽トラの荷台に冷蔵庫やらなんやらを乗せ、重量を増して再チャレンジ。目算1600キロくらいが限界だった。この世界でそれが強いのか弱いのか……クソ女が連れてたあの大男、アシェンヴェイルと対等に渡り合っていたが。
あいつの個性は制限時間と引き換えに一般的な増強系の個性より爆発力を上げるものだったらしい。あてにならん。
「……ん。そろそろ四時、帰らねば」
空が明るみ始めているのが見えた。緑谷君の身体づくりのためにここはもう使われ始めているだろうから、もう利用しない方が良いかもしれない。良い実践場だと思ったんだけどなぁ……。
_________________
およそ、十ヶ月が経った。母親の襲撃なく、新しくカードが増えるようなこともなく。今日は入学試験、実技の当日である。
そもそも対外的な理由として、私が孤児院に恩を返したいがためにヒーローを目指しているという話を先生や周りの生徒にそれとなく伝えている。だから孤児院の家族は私を応援して送り出してくれたし、その事には感謝している……が、同時に申し訳なさも感じる。
どこまで行ってもやはり、私は彼らが「少し身近な他人」くらいにしか見えなかった。店員に親切にされたような、そんな感じ。
だから。その店で買い物をすることが回り回って店員の給料になるように、私は孤児院に寄付なりなんなり還元をしよう。それは復讐という最大の目標とは違うけれど、副次的に叶うもの。それが私なりの感謝の表現方法である。
(作戦通り、私が単独でポイント付きの敵を破壊。クルスちゃんは──)
(俺と救助活動、だな)
(似合わないわね)
(喧しい)
別に仲が良くないわけではないらしい。多分悪魔なりのコミュニケーションなんだろう。確かにアシェンヴェイルは顔からしてヤバいし、グリムロも黙っていればダウナー系お姉さんって感じで雰囲気あるんだけど……。どうにも私と接する時は世話焼きお姉さんとしての側面が出過ぎというか。
(任せなさい。試験でかっこいいところ見せて惚れ直させてあげるわ)
聞こえていたらしい。それと別に惚れてない。そう心の中で言いながら私は受験会場の門をくぐった。
ほとんどの作者さんがそうだと思うのですが、作者にとって感想というのは一種のドーピングであり魔剤でして、届けば嬉しくモチベーションがアホほど上がるものなのです。
なんならアクセス数、お気に入り数や評価もめちゃめちゃ嬉しいのです。しかし、感想は言葉で残るし時間経過で変動するようなものでもなく、いつ見返しても嬉しくなれるものでして。
長々と語りましたが、とにかく言いたいのは、読んでくださってありがとうございます、ということのみです。