個性「魔轟神」 作:グリムロ
アシェンヴェイルが赤ゴリラを思い切り蹴飛ばし、私のところまで下がってくる。
「多人数を相手にしている場合はこうするつもりだった。相手が一人ならまだやりようがあったが……」
「き、聞いてない!それにこれ、アシェンヴェイルは」
彼はいつも通り不機嫌そうな顔で、何でもないかのように言ってのけた。
「まぁ消えるが……」
「そんな簡単に」
「機会がありゃまた会える。効果の使い過ぎには気を付けにゃならんが」
そうして、アシェンヴェイルは私の頭を軽くたたき、「早くしろ」と急かした。迫ってくる敵たちを前にして、私は覚悟を決めなくてはならなかった。
滲む視界を強引に拭い、拾い上げたカードを掲げる。
刻まれた
「それでいい」
アシェンヴェイルを中心に二重の魔方陣が現れた。彼を取り巻くように闇が噴出し、より大きな人型を象る。最後に見えたその横顔は、どこか満足気で──少しだけその口角が持ち上がっている、気がした。
「……くそっ」
結局また頼ることになった。何かを失わずに進めたためしがない。私だけでは力不足で、この命は二人の上に成り立っていて、だからこそ──私だって向こう側へ進まなければ二人に顔向けができない!
「
効果により捧げるのはアシェンヴェイル一人でいい。闇が晴れて、三メートルほどの巨体が姿を現す。
肌色というにはいささか生々しい色の血管が浮き出た肌に、蝙蝠に近い大きな羽。腕輪や仮面などそのすべてが鋭く尖ったフォルムであり、指先につけられた金属製の爪と鋭い牙が凶暴性を物語っているかのよう。
私が何か言う前にディアネイラは飛び出して赤ゴリラの脇腹に爪を突き刺し、楽々と待ちあげて投げ捨てた。その巨体に見合った膂力を発揮してゴミ屑のように敵を吹き飛ばして行く。それはまさに蹂躙だった。その攻撃力は2800である。
と、先ほどの牛頭がディアネイラに突進を仕掛けるのが見えた。先ほどの衝撃が伝わってきた時を思い出すが、背中の痛みの所為で素早く避けることができない。思わず目を瞑る。
「……あれ?」
しかし一向に何かが起きる気配がない。恐る恐る目を開けてみると、ディアネイラはいまだ敵陣の中で蹂躙を続けており、残りの敵もわずかと「わん!」「わん!」「わん!」「ああちょっと!いうことを聞いてください!」
「えっ」
足元を見ると、赤毛で三つ首の子犬がこちらを見上げていた。その首輪につけられた鎖を、小さいデフォルメされたような姿の悪魔が持っている。まるで飼い主とそのペットのような構図だが。
知っている存在だった。
「ケルベラル?」
魔轟神獣ケルベラル。犬の方、レベル2のチューナーである。わふわふと返事するケルベラルに代わって話し始めたのは鎖を持った悪魔の方だった。
「ご存じでしたかクルス殿。あ、私めはまだ名もなき魔轟神の端くれでありまして、ケルベラルの世話を任されているものであります。クルス殿の効果、ああいやこちらでは個性でしたか、によって呼び出された次第です」
「……ディアネイラが何か、した?」
悪魔は小さな腕を組んでうんうんと頷く。マスコット感があって微妙に可愛い。
「説明する前にディアネイラ殿を引き留めておいた方が良いかと」
振り向くと敵は全て地に伏し、ディアネイラはクソ女の方に向かっていた。流石に殺されては困るので、彼を引き留める。別に温情とかではなくただもっと苦しんで生きてほしいだけだが、クソ女は安堵したような表情を見せた。腹が立ったので、
「やっぱお願い、ディアネイラ」
「は!?待って、待っ」
ドゴン!
ディアネイラが拳を引き抜いたのを確認して、溜息をついた。まだ背中は痛い。ああ、クソ。どうにも腹が立つ。やっぱり正当防衛扱いで皆殺しの方が良かったかな?いやでも一応ヒーローだしなぁ。そんなことを思いつつ外に出る。
大男とケルベロス(子犬)。傍から見れば私たちが敵じみた風貌だろうな。
「……そういえば。私って、何を捨てたの?」
話を聞くと、ケルベラルは『甘え』だそうだ。これ、心の隙とかそういうのより他人に頼る気持ち、心を許す、あるいは甘えるという行為の時働く心情のことらしい。甘える相手いないし、あったところでどうにもならないからいいけど。
「ディアネイラは?」
「グゥゥ……」
「狂気だそうです」
「わかるの?」
ケルベラルを抱えて、セントラル広場を目指しながら話を聞くことにした。彼の効果の話も聞いておかないと。
……ケルベラルやわこいなぁ。可愛い。
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「……生き、てる」
気絶から意識を回復した女の顔の傍にはクレーターが存在していた。拳をわざと外された、生かされたのだと理解して無性に腹が立つ。だが自身の能力の条件のためここから追いかけるのは困難である。
今は退却するしかない。あの黒霧とかいうやつを捕まえて、ここから──
「よぉ、久しぶりだなァ?美姫」
かけられた声は女にとって既知のものであった。最も会いたくない男の声。
「あたしをその名前で呼ぶな」
「いいじゃねぇか、その通りなんだから。そんなことより聞いたぜ、個性がただの魅了じゃなかったんだって?」
「あんたには関係ない、そもそもどうしてここにいるのよ!」
男は笑った。
「そりゃあお前、可愛くて麗しの妹が生んだ子供だ、見てみたいに決まってるだろ?いやあ、ありゃお前より数倍優秀な個性だなぁ。何体出せるか知らないが、それぞれが個性持ちみてぇなもんだ。完全にお前の上位互換だな」
「……」
女──美姫は言い返せなかった。それを楽し気に眺めて、男はいつも愉快そうに上がっている口角をさらに引き上げて提案した。
「そんな哀れなお前に仕事をやろう」
「……どういうつもり?」
「変な意味じゃねえさ、ただ今まで通りお前の娘にちょっかいかけてればいい。お前が娘を殺すことができれば、その時はお前に居場所をくれてやる」
美姫はその手を取るしかなかった。断れば個性によって命が使いつぶされて死ぬ。それが嫌だから、私は──
「それでいい。幹」
『はいなっ』
そうして二人は姿を消した。
難産でした。自分でもこんなに時間かかるとは思わなんだ。
解 説
遊戯王知らないけど読んでるって方がいてくれるようなので用語だけ解説しときますね。知ってる人は読まなくても大丈夫です。
・アドバンス召喚
モンスターを生贄にささげる(=リリース、フィールドから墓地へ送る)ことで高レベルのモンスターを召喚すること。レベル4以下は普通に召喚できて、レベル5,6は一体、レベル7以上は二体の生贄が必要になります。
・エラッタ
直訳で誤字(複数形)やその訂正表という意味。遊戯王では「すでに発売済みのカードの効果などが変更されること」。表現をわかりやすくしたり、強すぎる効果を下方修正する行為にあたります。
「魔轟神ディアネイラ」
悪魔族 レベル8 ATK/2800 DEF/100
このカードは「魔轟神」と名のついたモンスター1体をリリースすることで表側攻撃表示でアドバンス召喚できる。このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、相手が発動した通常魔法カードの効果は「相手は手札を一枚選んで捨てる」となる。この効果は1ターンに一度しか発動できない。
最後の方わかりにくいかと思いますが、相手からみた相手はこちら側ですので、こちらが手札を捨てる効果になる、ということです。
因みにAdvanceには進歩とかの意味もあります。
初めの言葉はSBRのアクセル・ROの台詞。シビル・ウォーかっこいいですよね……
あと設定が固まってきたのですが作者が体育祭までのストーリーしか知らないので一先ず進めてもそこまでです。
そこから先は単行本買うまで更新できないと思われます。作者は5巻までしか手元にないです。