一年生にとって今の料理界でTOPを走っている者たちの姿はとても鮮明に映るだろう。そして憧れになるのはほぼ間違いないと言っても良いかもしれない。
だが、一年生たちも宿泊研修が本格的に始めれば嫌でも知る事になる。この宿泊研修が振るい落とすためのものだと。
最初に学長も言っていたが『諸君の99%は1%の玉を磨く為の捨て石である』。これが現実的になってきたと言えばいいのだろう。この試験が終わるころには一体、なん人の生徒がこの場に残っているだろうか。教師の立場としてはなるべく多くの生徒に残って欲しいがそれは多分、難しい。例年、この宿泊研修でかなりの人数が退学になっている。
そしてそんな宿泊研修が今、始まりの火ぶたが切られようとしている。
「おはよう、諸君。これより簡単に合宿の概要を説明する」
シャペル先生のそんな声と共についに宿泊研修が始まった。
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説明や顔合わせが終わり堂島さんに「移動開始」の掛け声と共に生徒たちは一斉に出口へと向かい始めた。それぞれのブロックによってお題は全くと言って良いほどに違う。
どのお題、どの卒業生に当たったとしても地獄に変わりはない。普段は優しそうな顔をしている卒業生でもこと料理においては卒業生は料理のプロフェッショナルと言っても良い。そんな人たちが料理に関して甘いわけがない。
「さて、僕はこれからどうしようか……一応、これで僕の仕事はひと段落したしな」
僕の仕事は卒業生たちの案内だから、もう終わった。そしてこれから試験が始まる。これから先の事において僕が手伝えるような事はない。それに試験の途中で教師が生徒に干渉しようものなら僕の首が飛ぶかもしれない。
「それでは私の話相手になってくれるか?」
いつの間にか僕の隣に立っていた堂島さんがそんな事を口にした。本当にこの人を間近で見ると迫力が凄い。体が大きい上に鍛えているのが服の上からでも分かってしまうほど筋肉だ。この人を見たことがない人にこの人の職業は何だと思うと聞いても『料理人』なんて答えは百人に聞いたとしても出てくる事は多分、ないだろう。
「別に良いですけど……堂島さんはこんなところに居て良いんですか?遠月リゾート総料理長」
「その呼び方を止めてくれないか。確かにそうだが今日は料理長ではなく只の料理人として若き卵たちを見に来たのだから」
「でも、仕事は多いでしょう。いくら宿泊研修中と言っても」
別に宿泊研修をやっているかと言って仕事がなくなるような事はないはずだ。この人は多忙で暇を取るのも難しいと聞いた事がある。
「まあ、それはそうだが…………そんなに急ぐような仕事はないからな。お前と話すような事はこんな機会でもなければないからな」
「それもそうですね……僕は遠月学園の教師、堂島さんは遠月リゾート総料理長兼取締役会役員。普通に仕事をしているだけじゃ絶対に会う事はありませんからね。そう言えば、前は言い忘れていましたが『長らく僕の店をご贔屓してくださり誠にありがとうございました!』」
僕は隣にいる堂島さんに頭を下げた。これは絶対に言っておかないといけない事なのだ。料理長兼オーナーとして。店にとってお客は大事だ。お客が居なければ店は成り立たない。ならば一旦、閉めてしまった事を詫びると同時に今までの感謝を伝えなければならない。
「それを君の口から生きているうちには聞きたくなかった」
「それは誠にすいません。でも、堂島さんは一週間に一度ぐらいの頻度で来ていただいていたのでこれをいつかは言わないといけないと思っていました」
「まだ言わなくて良い。俺はお前がもう一度、店を開ける事を待っている。お前の料理は中毒性があるからな。俺はあまり我慢が好きではないからなるべく早くもう一度開けてくれよ」
理由を見つけたらもう一度僕があの店を開く日も来るかもしれない。
「あまり期待しないで待っててくれると助かりますがもし、もう一度開く事があったらその時はまたご贔屓をお願いします」
「ああ、必ずな」
番外編としてその人の視点の話を一つ書こうと思っているんですがどのキャラが良いと思いますか?
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四宮小次郎
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乾日向子
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水原冬美
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司瑛士
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木久知園果
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茜ヶ久保もも
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小林竜胆
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薙切えりな
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堂島銀
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薙切アリス
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幸平創真