「いやー、いっぱい買っちゃった。あ、これも持ってね侑斗。」
淡にまるで漫画に出てくる買い物好きな彼女に付き合う男性のようにたくさんの荷物を持たされている侑斗。しかし、その侑斗の髪には黄緑色のメッシュが入っていた。
「淡さ〜ん。これ以上は持てないかも。」
情けない声を出すのはデネブが憑依した侑斗、D侑斗である。
「大丈夫。これで終わりだから。」
淡はD侑斗に笑いかけ、帰路につくために駅に向かう。そのときだった。
(デネブ!イマジンだ。しかも、すぐ近くにいる!)
侑斗は精神の中でそう叫ぶやいなやデネブと急いで分離する。
「ゆ、侑斗?淡さんの荷物はどうするんだい?」
「大星に渡しとけ。無理ならしばらくお前が持ってろ。」
侑斗はデネブの疑問を適当に対応しつつ、駅の裏の通りに走っていった。デネブは両手にたくさんの荷物を抱えながら突っ立っている。
「デネブ?いつの間に来たの?」
淡がデネブの姿を見て驚く。さっきまでD侑斗と一緒にいたので驚くのも無理はない。
裏通りでは1人の女性が歩いていた。その女性は突然立ち止まる。
(何か視線を感じる…気のせいかしら…?)
だが、その女性の予感は気のせいではなかった。突然、路地裏からドーンと何かが弾けるような音がしたかと思うとそこから異形の怪物が姿を現した。
「見つけたぞ。貴女があの娘の母親か。貴女に怨みはないが、とりあえずその鞄を渡してもらおう。」
「な、何…?いやぁっ!」
その怪物は関羽ような着物を見にまとう、まさに三国志の世界から飛び出してきたような外見だった。だが、その顔は怪物と言うに相応な醜悪さであった。怪物は鞄を女性からひったくると地面に叩きつけて、腰の刀を抜く。
「ひぃ、やめてください…」
そんな弱々しい女性の制止も聞かず、怪物は刀で鞄を刺そうとする。そのときだった。
「やめろ、イマジン!」
侑斗が現れ、イマジンと呼ばれた怪物にラリアットを見舞う。不意を突かれたイマジンは体勢を崩して転ぶ。侑斗は鞄を拾おうと走るがここですかさずイマジンが立ち上がる。
「させるか!ぬんっ!」
イマジンの左手から衝撃波が放たれ、鞄に当たる。女性の鞄は風船のように弾けて割れた。鞄の中身が地面に散乱する。
「くそっ!手間取らせやがって。」
侑斗は後ろで硬直している女性に叫ぶ。
「早く逃げろ!」
侑斗は女性を逃がすことはできたものの、背後からイマジンが侑斗を刀の柄で殴打する。
「ぐっ!?」
突然の攻撃に侑斗は地面に打ちのめされる。そして、イマジンは倒れた侑斗に刀を向ける。
「余の契約を邪魔するとは万死に値する。死ぬがよい。」
イマジンは刀の振り上げる。しかし、次の瞬間、銃声が響く。
「なぬうっ!?」
イマジンの腹部に弾丸が当たる。その弾丸を放ったのは…
「侑斗!大丈夫かい?」
遅れながら駆けつけたデネブであった。
「デネブ、遅いんだよ!」
侑斗はふらつきながらも立ち上がり、変身アイテムであるゼロノスカードを取り出そうとする。しかし、突然イマジンが刀を収めてこう言う。
「二対一はあまり気が進まないな。今回はこれで終いにするとしよう。ふんっ!」
イマジンは跳躍するとあっという間に駅の屋根に乗り、そのまま逃げてしまった。
「くそ、逃がしたか。追うぞ、デネブ!」
「待って侑斗。その前にこの散らばってる物を片付けよう。」
路上には女性の鞄に入って物が散乱している。侑斗とデネブはとりあえず散らばった物を片付けることにした。デネブはスーパーで手に入れたのであろうビニール袋に化粧品や携帯電話などを詰める。侑斗はあの女性の定期券を拾う。しかし、定期券からちらっと見えた名前が侑斗に衝撃を与えた。何とそこには『ミヤナガ』と書かれていたからだ。
(『宮永』!?すると、まさかあの女は宮永 照と何か関係があるのか?)
侑斗は定期券をデネブの持つビニール袋に投げ入れる。
「侑斗、とりあえずこの落し物は交番にでも届けようか。」
しかし、デネブの提案に侑斗は首を横に振る。
「いや、少し確かめたいことがある。デネブ、それを持ってちょっと来てくれ。」
侑斗はそのまま歩き出す。
「大星!宮永 照の家を知ってるか?」
侑斗は戻るとすぐに淡にがっつくように聞く。
「ちょ、急にどうしたの侑斗
?」
「宮永…あいつが危ないかもしれない。下手すれば命に関わる。」
最初、淡は冗談かと思ったが、あまりにも侑斗は真剣な目をしていたため、淡は侑斗に照が住んでいる白糸台高校の寮へ案内した。
「淡、それに桜井さん!?とにかく大変なんだ!」
駆け足で白糸台の寮へ向かう淡と侑斗とデネブの前に菫が息を切らしながら現れた。
「照がおかしな化け物に襲われている!」
「まずい!急ぐぞデネブ!」
「早く行かないと照さんが心配だ。」
侑斗とデネブは淡を置いて先に走り出す。
「ねぇ、照が危ないって本当なの…?」
淡はショックを受けたような顔になる。だが、菫は頷いたあと、すぐに淡の手を取った。
「だから、助けが必要なんだ。淡も一緒に来てくれるよな?」
「はい!」
淡は決意したように返事をし、侑斗とデネブの後を菫と共に追った。
一方、そのころ。太陽が傾き始めたころ、寮の裏に照、そして、秦の始皇帝のようなイマジンがいた。
「貴方は…本当に何者?」
「余は『エンペラーイマジン』。今から貴女の望みを叶える。まあ、邪魔が入った所為で予定より遅くなってしまったがな。」
「私の望み…「妹のことを全国の間だけは忘れたい」。そんな虫のいい望みを叶えてくれるの?」
照はかつてあるインタビュアーに「清澄高校の宮永 咲と血縁関係があるのか」と問われたことがあった。そのときは「私に妹はいません」と答えてその場を離れた。だが、それ以来、急に咲のことが気になり出し、ついには麻雀にまで支障が出だした。だから照はせめて全国の間だけは咲のことを忘れたいとイマジンと契約したのであった。
「余はこのような物を手に入れた。この中にいい物が入っていたからな。」
エンペラーイマジンが取り出した物。それは照の母親の財布だった。そして、エンペラーイマジンは乱暴に財布をこじ開けると中から家族が写っている写真を抜き取る。そのエンペラーイマジンの行動に照は驚きを隠せなかった。
「待って!やめて。それはお母さんの大事な写真だよ…!」
照は必死にエンペラーイマジンを止めようとするがエンペラーイマジンは冷酷にも写真を頭上に放り投げ、刀を抜く。
「やめて!」
照は冷静さを失ってエンペラーイマジンに向かっていく。だが、エンペラーイマジンは写真をそのまま刀で真っ二つに斬り裂いてしまった。写真はちょうど幼い頃の咲の部分が斬り裂かれていた。
「契約完了だな。」
エンペラーイマジンはあまりの衝撃的な光景に動けなくなった照をまるで果物か何かのように二つに裂く。これはイマジンが照の過去の扉を開いているのである。エンペラーイマジンは照の過去の扉の中に入って消えてしまった。
エンペラーイマジンが照の過去へ飛んだ直後、侑斗とデネブが滑り込む。
「くそっ、遅かったか!」
「侑斗、今のはイマジンだったよね?」
「侑斗…イマジンって何…?」
「説明は後だ。とりあえずこれで…」
侑斗は照の頭上にライダーチケットを翳す。すると、そこにエンペラーイマジンの画像と『19XX年 10月 27日』という日付が浮かび上がる。
「宮永、この日付に覚えはないか?」
侑斗はライダーチケットを見せる。すると、照は驚きを隠せない様子でこう言った。
「この日付は…私の妹、咲の誕生日…!」
「そうか…よし、行くぞデネブ!」
「わかった!」
デネブがそう言うと侑斗とデネブの前に緑色の列車のようなものが現れる。これはゼロノスの専用の時の列車『ゼロライナー』である。
「待って!私の、その、時間で何が起きてるの?」
「君がさっき話していた怪物はイマジンと言ってね。要約すると君の過去に飛んで君の過去を壊そうとしているんだ。」
照はデネブの説明に胸が締め付けられるような気がした。照はしゃがんで俯き、涙を流す。
「私のせいだ…私が『妹を忘れたい』なんて願ったからだ…」
その言葉を聞いた途端、侑斗は顔色を変える。そして、侑斗は照の顔を持ち上げ、パチンと平手打ちを入れた。
「お前は…本当に馬鹿だな。いいか、『記憶』ってのはな、そう簡単に忘れていいものじゃないんだ。家族のことならなおさらだ。お前と妹との間に何があったかは俺は知らない。だがな、お前と血が繋がっていることは確かなんだろ?家族との記憶は何よりも大切なものだと俺は思ってる。」
侑斗は涙目で見上げる照に必死に語りかける。
「俺は…記憶を犠牲にしてイマジンと戦ってる。だからな、思い出を粗末にするのは許せねぇんだ。お前はもっと記憶を大事にしろ!いいな!」
侑斗は照から背を向ける。先ほどからの侑斗の言葉は変身に必要なゼロノスカードの効果で自分の存在を犠牲にしているがゆえの言葉だったのかもしれない。侑斗は簡単に記憶を忘れたいと思っている照が腹立たしくもあり、羨ましくもあった。
「侑斗……ごめんなさい…。」
「照さん、侑斗は謝ってほしいんじゃないと思うよ。侑斗は君に伝えたかったんだ。『記憶』のかけがえなさを。」
デネブは照をそっと撫でながら言い聞かせる。
「早く行くぞ。」
侑斗とデネブはゼロライナーに乗ろうとする。そのときだった。
「待ってよ、侑斗。その…私も連れて行って!」
「おい、淡。無茶を言うな。」
おそらく侑斗と照のやりとりの一部始終を見ていたのであろう、淡と菫が侑斗を引き止める。
「でも、私、照の力になってあげたいんだもん。せめて、過去の照を守ってあげるくらいなら私にもできるでしょ!ねぇ、お願い!」
侑斗はしばらく考えて、淡にこう言う。
「仕方ないな。断ってもお前は引き下がらないだろうし、特別に連れて行ってやる。ただし、二度とこの時間に帰ってこれないなる可能性もある。それでもいいのか?」
「それは違うよ。私達は照の過去を守って、必ずここへ帰ってくる、そう信じて戦わなきゃ!」
「あははは、淡さんは肝が据わってるなあ。よし、合格だ!」
デネブは淡の言葉に感心したように小さく拍手をする。
「淡が行くなら、私も行こう。私も照を助けたい気持ちは同じだ。それに、護身用の武器も一応持ってる。」
菫は鞄から小さな棒のようなものを取り出す。菫はそれを回しながら伸ばす。すると、弓矢が出てきた。どうやら仕込みの弓のようだ。
「この弓矢は殺傷力がある。万が一、怪物に襲われたときはこれで何とかしよう。」
侑斗は3人を見回す。そして、こう言い放った。
「よし、デネブ、大星、弘世、準備はいいな?行くぞ!」
全員、ゼロライナーに乗り込み、照の過去へ飛んだ。
(みんな…私のために…必ず無事に帰ってきて…)
残された照はただ、皆の無事を祈った。