ここは『19XX年 10月 27日』。長野県のある病院の前に一台の車が止まる。そこから眼鏡をかけた男性と幼い少女が出てくる。
「照、お前は今日からお姉ちゃんになるんだぞ。」
「うん!」
どうやら親子のようだ。だが、そんな微笑ましい空気をあるおぞましい怪物が壊した。
「ここが過去の時間か。とりあえず、まずはここを手始めに破壊しよう。ふんぬっ!」
先ほど照の過去の扉に入っていったエンペラーイマジンが左手から放つ衝撃波で病院の周辺の建物や駐車場の車などを破壊し始めた。その異変に気づいた人々が悲鳴を上げながら逃げ惑う。
「まずい!照、逃げるぞ!」
「お父さん!」
照の父親であろう男性は照を抱きかかえ、避難しようとするが頭上に瓦礫が降ってきた。
「うわぁー!?」
照の父親は身を屈める。だが、瓦礫が当たる直前に何かが照と父親をかばう。
「ふう、何とか間に合った。」
何とデネブが照を襲う瓦礫の盾になったのである。
「デネブ、大丈夫ー?」
どうやらデネブは一足先にゼロライナーから降りたらしく、残りの侑斗達がデネブの元へ駆けつける。
「大丈夫。ちょっと痛かったけど。」
そして、侑斗はパスを取り出すとデネブに問いかける。
「デネブ、カードはあと何枚だ?」
「7枚…いや、1枚増えてる!?」
侑斗とデネブの知らぬ間にゼロノスカードが1枚増えていた。これは一体、どういうことなのだろうか?
「まあいい、それをくれ。いいか、皆。まず、大星はそこにいる小さい宮永を安全な場所まで連れて行け。弘世はそいつの親父に肩を貸してやれ。デネブは2人の護衛だ。それで俺は奴を倒しに行く!」
侑斗はパスを持ってエンペラーイマジンの元へ走る。残った淡達は照に話しかける。
「大丈夫?お姉さんが助けてあげるね。」
「大丈夫ですか?もし、よければ肩をお貸しますが…」
照の父親は菫に気づくとふらふらと立ち上がる。
「いや、僕のことはいい。僕は病院に行かないと…妻と咲が…」
「病院!?危ないですよ。怪物が近くにいますし…」
「君、済まないが、娘と一緒に逃げてくれ。僕は病院に行く。」
「お父さん、どこ行くの…?」
慌てる照を淡はそっと包み込む。
「大丈夫。君はお姉さんが守ってあげるよ。」
「照、そこのお姉さんの言うことを聞いて待ってるんだ。いいね?」
そのまま照の父親は病院に走り出す。
「待ってください!」
菫も照の父親の後を追って走り出す。その場には淡とデネブ、そして、幼き頃の照が残った。
「大丈夫だよ。お父さんは絶対に帰ってくるから。」
淡は小さな照の頭を撫でる。
「本当…?」
不安がる照に微笑みかける淡。そして、横からデネブがそっとキャンディーを差し出した。
「む?貴様は先ほど余の邪魔をした坊主か。何をしに来た?よもや、余を倒しに来たと言うのではあるまいな?」
病院の駐車場に佇むエンペラーイマジンは血がにじむくらいパスを握りしめた侑斗を挑発する。
「お前だけは…絶対に許さねぇ!あいつの思い出を踏みにじったお前は俺が倒す!」
侑斗はパスをベルトに変化させ、ゼロノスカードをベルトにセットする。そして…
「変身!」
『アルタイルフォーム!』
侑斗の身体に一瞬、無機質な黒いアーマーがついたかと思うと、3本の角が生えた緑色のマスクが頭に、黒いアーマーが緑と黄色のアーマーに変化した。これが桜井 侑斗がライダーパスを使い、変身した姿『仮面ライダーゼロノス アルタイルフォーム』である。
「最初に言っておく。俺はかーなーり強い!」
ゼロノスは大剣を武器にエンペラーイマジンに斬りかかる。しかし、相手もエンペラーの名に恥ず、侑斗の剣撃を正確に受け止め、反撃する。
「ぐっ!?早い…!」
「その程度では余に片膝を尽かすことも無理であろう。」
エンペラーイマジンの剣技に打ち負かされて、ゼロノスは壁に叩きつけられる。だが、ゼロノスは諦めずに剣を振るい、エンペラーイマジンに立ち向かう。しかし、エンペラーイマジンは鼻歌交じりでゼロノスの攻撃を受け止め、こう言い放つ。
「余の武器は剣だけではないぞ。はあっ!」
エンペラーイマジンは至近距離から先ほどまで遊んでいた左手から衝撃波を放ち、ゼロノスを吹っ飛ばす。
「ぐあっー!」
ゼロノスは駐車場にあるライトバンにぶつかり、そのライトバンは無残にも横倒しになる。
「この野郎…舐めんなよ!」
かなりのダメージを受けたゼロノスであったが、諦めずに剣を構えてエンペラーイマジンに向かっていった。
一方、ゼロノスとエンペラーイマジンが鎬を削っている場所からそう遠くない病院の一室に出産を迎えたばかりの女性とその夫と思われる男性がいた。
「あなた、咲だけでも連れて逃げて…」
「何を言ってるんだ。君も一緒に連れて行ける方法が何かあるはずだ。それなら他の看護師さんに…」
どうやら照の父親とおそらく母親のようだ。そんな緊迫した中、照の父親の後を追ってきた菫が2人を落ち着かせるように言う。
「あの、怪物のことなら大丈夫です。今、私の仲間がその怪物の相手をしています。だから、しばらくこちらに来ることはないでしょう。」
照の両親は突然現れた菫を不審な顔で見つめるが、やがて父親が口を開く。
「君を信じていいのかい?」
菫は何も言わずに頷いた。
(頼みますよ、桜井さん。貴方があの怪物に勝ってくれないと過去の照も淡も危ない。)
すると、菫の耳に微かにガシャンと何かが倒れた音が聞こえた。
(桜井さん?嫌な予感がする…)
菫は病室から出る。そして、病院の非常階段に向かった。
「ぐはっ!?くっ!かはっ!」
「どうした?やはり貴様程度では余を止めることはできぬのだな。」
エンペラーイマジンはゼロノスをこれでもかと攻め立てる。そして、ついに…
「はあっ!!」
「ぐわああー!」
ゼロノスはまたもや衝撃波を食らい、地面に転がる。エンペラーイマジンもとどめを刺さんとばかりに近寄る。そのときだった。
「侑斗ー!大丈夫かい?」
デネブが指から弾丸を乱射しながら現れた。エンペラーイマジンは突然のデネブの攻撃に怯む。
「デネブ?大星達の護衛はもういいのか?」
「大丈夫だ。2人とも安全な場所に避難させてきた。」
ゼロノスはふらつきながらも立ち上がり、カードをベルトから抜く。そして、裏返し、黄色い面を上にしてベルトにセットする。
「いくぞ、デネブ!」
「OK、侑斗!」
『ベガフォーム!』
デネブがゼロノスの背後に立つ。すると、デネブがアーマーとマントに変化する。そして、ゼロノスの頭にはドリルを模した仮面がつき、胸部にはデネブの顔が現れる。これが仮面ライダーゼロノスのもう一つのフォーム、『仮面ライダーゼロノス ベガフォーム』である。
「最初に言っておく。胸の顔は飾りだ!」
「姿が変わっただけで余を倒せるとでも思っているのか!」
ベガフォームのゼロノスとエンペラーイマジンが再び刃を交えた。
そのころ、菫は病院の非常階段からゼロノスとエンペラーイマジンの戦いを目の当たりにしていた。しばらく何もできずに見ていたが、ゼロノスが少し押されていることに気づく
。
(まずい…しかし、私が出ていって力になれるか…?無理だな。)
菫は自分の非力さを悔やむが、ハッとあることを思い出す。
(そうだ…!一か八かの掛けだが、私には弓矢がある。たとえ、あの怪物に手傷を負わすとまではいかないが、気を逸らすことならできるはずだ。)
菫は非常階段からなるべく息を殺して弓を引く。菫はアーチェリーの経験があり、そのときの感覚を思い出して、狙いを定める。
(今だっ!)
エンペラーイマジンが菫に背中を向けた瞬間に矢を放つ。そして、その矢は…
「ぐぬっ!?ぶはあっ!く、首が…首に矢があぁぁ!?」
菫が放った矢はエンペラーイマジンの丁度、首の後ろに刺さった。
「今だっ!食らえ!」
ゼロノスの剣が痛みに悶えるエンペラーイマジンを大きく吹っ飛ばす。
「ごふぁー!?」
エンペラーイマジンはそのまま病院の壁に叩きつけられる。さらにゼロノスはダメ押しとばかりに剣で再びエンペラーイマジンを薙ぎ払う。エンペラーイマジンは地面を転がり、病院の近くの道路に放り出された。
「いくぜ、とどめだ!」
ゼロノスは自身の武器、ゼロガッシャーをサーベルモードからボウガンモードに変え、エンペラーイマジンに狙いを定める。そして、十分にエネルギーが溜まったところでボウガンの一撃を撃つ。
「なにぃ!?ぐわああー!!」
エンペラーイマジンは『V』の形をした紋章を身体に刻まれて爆発した。これが仮面ライダーゼロノスのゼロガッシャー、ボウガンモードの必殺技『グランドストライク』である。
「やったか?」
そうつぶやく侑斗だが、皆さん御察しの通り、エンペラーイマジンはまだ倒れていなかった。突如、エンペラーイマジンの身体が膨らみ、みるみるうちに巨大化、さらに分裂を始めた。
「侑斗、大変だ。照さんのイメージが暴走した!」
「やばいな。急いでゼロライナーに戻るぞ!」
イマジンは時折、イメージの暴走が起きる。そのイメージが暴走した姿が『ギガンデス』と呼ばれる。まるで怪獣のようなその巨大な体躯で過去の世界を蹂躙するのである。そして、今回は2体出現した。陸のギガンデス『ギガンデスヘル』、空のギガンデス『ギガンデスヘヴン』である。
2体のギガンデスが動き出そうとしたとき、2体の頭上からゼロライナーが現れる。まず、後部車両のゼロライナー『ナギナタ』がプロペラを出し、空を飛んでギガンデスヘヴンを迎え撃つ。ギガンデスヘヴンは光線を発射し、ナギナタを牽制するが、ナギナタは光線をひらりと回避し、そのまま高速回転するプロペラでギガンデスヘヴンに突撃。そして、ギガンデスヘヴンを切り刻んでしまった。一方、先頭車両のゼロライナー『ドリル』は前方のドリルで地上で暴れるギガンデスヘルに向かう。ドリルの存在に気づいたギガンデスヘルが火球を発射して攻撃するも、ドリルはビクともせず、そのままドリルでギガンデスヘルを撃ち抜いた。そして、2体は同時に爆発したのであった。
「よし、今度こそ片付いたな。」
「良かったな、侑斗!」
ギガンデスを倒したゼロノスはゼロライナーを病院の近くに止め、変身を解除して侑斗に戻った。
「お父さん!おかえりなさい!」
照が父親に抱きついた。
「ありがとうございます。貴女達には何とお礼したらいいか…」
「いえ、お礼なんてそんな。それより、娘さんにもう一度会いに行ってはいかかですか?」
「あ、はい。でも、ありがとうございました。」
「バイバイ、お姉ちゃん!」
「うん、バイバイ照ちゃん!」
淡は元気良く手を振る小さな照に手を振りかえした。
「さあ、お前達。そろそろ現代へ帰るぞ。」
「みんな無事で良かった。」
「菫さん。ありがとう。菫の助けがなかったらイマジンを倒せてなかったよ。」
デネブはホッと胸を撫で下ろす菫に感謝の言葉を述べる。
「うー、小さい頃の照、すごく可愛かった!」
淡は浮かれた様子でゼロライナーに乗り込んでいた。
ここは20XX年の東京、白糸台高校。ゼロライナーはその高校の寮の前に止まった。ゼロライナーの前には、寮から出てきた照に淡、菫、そして、侑斗とデネブがいた。
「ありがとう。私の大事な過去を守ってくれて。」
「これにこりたら、もう記憶を粗末にするのをやめろよ。」
侑斗は微笑む照に言い聞かせるように語りかける。
「桜井さん、デネブ。2人と打つ麻雀は新鮮で面白かった。」
菫も破顔し、2人に微笑む。
「それは良かった。じゃあ、お土産のデネブキャンディーを…」
「いくつ渡すんだよ…」
侑斗のツッコミをスルーし、デネブは3人にキャンディーを配る。そして、2人はゼロライナーの扉を開く。
「侑斗、デネブ。また、会えるよね?」
「さあな。」
淡と問いかけに侑斗は少しばつが悪そうに返事をする。
「そんな悲しそうな顔しないで。俺たちはまたいつか、君たちに会いに行くよ。」
「うん!」
デネブの言葉にぱあっと笑顔になった淡は扉が閉まり切るまで2人に手を振っていた。
「……無責任なこと言うなよ、デネブ……」
侑斗は最後に小さくつぶやいた。
「侑斗、そういえば、なぜあの時、カードが増えたんだろうね?」
照達と別れた後、デネブの質問に侑斗はため息をつく。
「お前な。だから無責任なこと言うなって言ったんだ。あのゼロノスカードは俺と宮永達の記憶から作られたカードだ。俺はそのカードを使って変身した。あとは言わなくてもわかるよな?」
侑斗の言葉に肩を落とすデネブ。
「侑斗…ごめん。」
侑斗はそれ以上何も言わなかった。
そのころ、照、淡、菫の3人は帰路につきながらこんな話をしていた。
「うーん、今日も疲れた!」
「その割りには元気そうだな。てか、淡。今日は何をしたんだ?」
「うーんと、確か3人で麻雀を打って…あれ?もう1人いたかな?」
「何を言ってるんだ淡。今日は私達3人しか部活に来てなかっただろ?」
「そうだったっけ?」
この淡と菫のやり取りからわかるように3人から侑斗の記憶は消えてしまっている。ゼロノスカードは使うごとに桜井 侑斗を知る人物から桜井 侑斗の記憶が消えてしまうというカードなのである。そんな中、照は1人、デネブからもらったキャンディーを手のひらに乗せて眺めていた。
(どうしたんだろ、私。何か大切なことを教えてくれた人に…今日、会った気がする…。でも、顔も名前も思い出せない…。言葉だけは覚えているのに…。)
照はそっと自分の頬を撫でた。
『敵イマジン図鑑 No.6』
「エンペラーイマジン」
・宮永 照と契約したイマジン。見た目は三国志の関羽のような着物を羽織っているように見える。それは照の能力に関連する『照魔鏡』が古代中国である王に近づく妖怪の正体を見破ったという逸話からのイメージが具現化したからである。刀を武器に戦い、その腕前はゼロノスを追い詰めるほど。また、左手から衝撃波を放つ。急所は首の後ろ。
(作者あとがき)
申し訳ありません!このところ忙しくて1ヶ月半ほど放置してしまいました。まずはそこにお詫び申しあげます。
さて、今回のエピソードですが、「デネブを登場させたいけど、どうしよう?」といろいろ考えた上で出来ました。最初は京太郎と絡ませようかなと思ったのですが、やはり、ゼロノス=侑斗のイメージが抜け切れず、戦闘シーンを入れるために今回は侑斗に登場してもらいました。白糸台高校を舞台にしたのも、電王のメインの舞台となる東京にあるが所以で、侑斗とデネブが居てもおかしくないかなと思ったからです。
ちなみにこのエピソードの時間枠は電王本編の37話あたりです。つまり、侑斗はすでに最初に持っていた10枚のカードを使い切っていて、追加のカードを手に入れたところです。他にもいろいろ矛盾が生じてますが、そこはパラレルと割り切ってくださると幸いです。
さて、次回はモモタロス達と京太郎に話が戻ります。そして、ついに京太郎を付け狙う謎の女性の正体が明らかに?お楽しみに!