「あら、おかえりなさい。咲、和、それに須賀君。」
「ただいま戻りました。」
「ふう。大変でした。」
「何だよ、お前ら。つーかこんなとこ連れてきて何するつもりだ?」
和と咲とM京太郎がそれぞれ部室に入るが、その直後、久が京太郎を引き止める。
「須賀君。ちょっと話があるんだけど…これなーんだ?」
久が手に持っているのは泥だらけの買い物袋である。久は笑顔ではあるものの、逆に威圧感が隠されていない。
「な、何だ…俺が何かしたか?」
もちろん、モモタロスは京太郎が買い出しを頼まれていることなんて知る由もない。
「あのね、須賀君。確かにうっかり落として気づかなかったなら、しょうがないって目を潰れるわ。失敗は誰にでもあることだからね。でも、聞けば須賀君はまこの喫茶店でずっと油売ってたそうじゃない。少しは探したの?」
「だから、何が何だかわからねぇって…ぐえっ!」
M京太郎は頑なに知らないと言い張る。もちろん、憑依しているモモタロスは何も知らないのである。しかし、シラを切っていると判断されたのか、ついに久はM京太郎にヘッドロックを食らわす。
「質問に…答えなさい…!」
ぎりぎりと首を締められながらモモタロスはこう思った。
(こいつはハナクソ女かよ!?)
「待ってください、部長。京ちゃんはちゃんと探し物を喫茶店でもしてました。だから、そのくらいに…」
咲のフォローにより久のヘッドロックから解放されたM京太郎。実際にはM京太郎が探していたのはイマジンであったが、何とか助かった。
「そうなの。まあ、次はこんなことないようにね?」
それだけ言うと久は椅子に腰を下ろした。
「腹減ったからさっき買ってきたパンでも食うか。」
M京太郎は紙袋からタコスを取り出す。わかると思うが、モモタロスが勝手に京太郎のお金を使っている。
「おお!タコスだじぇ!京太郎、私の分は?」
「あん?あるわけないだろ、チビ。」
意気揚々と聞いた優希を奈落の底に突き落とすような一言だった。
「じぇえ…。むー!京太郎のくせに生意気だじぇ!このっ、このっ!」
「やめろやめろ。離れろ馬鹿!パンくらい落ち着いて食わせろ。」
もたれかかっているM京太郎に掴みかかってくる優希を振り払い。タコスを一口で食べてみた…しかし、M京太郎はその味に絶叫する。
「ペッ!何だこのくそ不味いパン
はよ!?」
辛いものが苦手なモモタロスにはタコスは口に合わなかったようだ。しかし、そんなM京太郎を鬼の形相で睨んでいる人物が一人。
「お前、タコスを侮辱するなんて許さんじぇ!覚悟するじょ!」
優希がM京太郎に飛びかかってきた。
「だから離れろつってんだよ、チビ!」
ドタンバタンと効果音のするような乱闘が起こった。
「あれ?何か今日は二人の小競り合いがいつもより派手ねー。特に須賀君が激しくなってるわ。」
久は物珍しそうに見ている。
「あの、止めなくていいんですか?」
普段の部活ではまず起こり得ないことに和は当惑していた。しかし、しばらくするとM京太郎の様子がおかしくなっていく。
「くあ…何だか眠くなってき…」
M京太郎はそのままふらりとベッドに倒れ、死んだように眠ってしまった。どうやら辛いものを食べたため、モモタロスの身体に異変が起こったようだ。
「き、京太郎が死んだじょ。これはタコスの祟りだじぇ。」
「死んでいませんよ、優希。須賀さんは眠っちゃったみたいですね。」
和はため息混じりにつぶやく。
「須賀君。何だか今日は解放的だったわね。今まで溜まってたのかしら?」
「とにかく、京ちゃんは疲れてるみたい。部長。しばらく寝かせといてあげてください。」
咲は京太郎を案じて寝ているM京太郎にタオルをかけてあげた。
「見つけたぞ…あいつが契約者が言っていたやつか。」
そのころ、旧校舎の付近にある木の上からおぞましき姿の何かが、部室の様子を伺っていた。
「さて、どうやって仕返し、いや倍返ししてやろうか…」
「ツモ。2000オールです。」
「むむ。やっぱりのどちゃんは強いじょ。」
和のいつもながら的確なあがりに優希は感心する。そのとき、和は咲の様子が少しおかしいことに気づく。
「あの、咲さん?どうかしましたか?」
咲は話しかけられてハッと我に返る。そして、少し恥ずかしそうに席を立った。
「すみません。ちょっとおトイレ行ってきます。」
咲が部室から出ていく。一方の京太郎は今だに爆睡していた。
(あれは本当に須賀君なのかしらね…。)
和達と卓を囲んでいた久が寝ている京太郎を訝しげに見つめていた。
「京ちゃん。どうしちゃったんだろ…。確かにあの時はかっこ良かったけど…見れば見るほど京ちゃんじゃないみたい。」
咲はもやもやした考え事をしながら手を洗ってトイレから出た。しかし、咲は旧校舎へ歩き出そうとした直後、何者かに後ろから口を押さえられて拘束される。
「おとなしくしろ。お前は契約者の仇の仲間のようだな。こっちまで来てもらうぞ?」
咲はうーうーと唸りながら手足をバタつかせるが、背後にいる者の顔を見た瞬間に身の毛がよだち、抵抗ができなくなった。そこにいたのはおどろおどろしい顔、牛のような角を持つ、『怪物』としか言いようがない何かだったからだ。
その怪物は咲を抱えるとそのまま旧校舎裏へ消えていった。
咲は怪物のような何かに拉致された同じころ、M京太郎が突然飛び起きた。
「匂いを感じた…間違いない…イマジンだ!」
「き、急にどうしたんだじぇ京太郎?」
「須賀さん?イマジンって何のこと…」
しかし、和と優希の問いかけには答えず、M京太郎はそのまま部室を飛び出した。
「須賀君、本当にどうしたのかしら…。」
そして、和があることに気づく。
「そういえば、咲さんはどうしたのでしょう?あまりにも遅すぎませんか?」
「咲、まさか旧校舎でも迷子になってるんじゃないかしら。みんなで探しに行きましょう。」
久、和、優希の三人も部室を出た。そして、咲の捜索を始めたのだった。
M京太郎は匂いを頼りに旧校舎裏へ急いだ。
「くそっ!もっと早く気づけばよかった。デンライナーを壊せるくらい強いんだったら、放っておくのはまずい!」
M京太郎は人気のない旧校舎裏に足を踏み入れる。そこには一体のイマジンとそのイマジンに人質に取られている咲の姿があった。
「来たか。わざわざ出向いてくれるなんて、こちらから呼び出す手前が省けたな。」
「き、京ちゃん!?助けに…きゃっ!」
イマジンは咲に自身の武器である鋭利な刃物がついたメリケンサックを向けた。M京太郎は臨戦態勢に入る。
「おめえ、何者だ!デンライナーを壊したのはお前か?」
「は?そんなことは知らないな。俺は『バイソンイマジン』。今から貴様を絶望に突き落とす男だぁ!」
「待て!そいつは俺の憑依してる奴の大切な友達だ。まずはそいつを放せ!」
しかし、バイソンイマジンはM京太郎の言葉を鼻で笑い、こう続けた。
「だから、この女を誘拐した。貴様を絶望させるにはどうしてやろうか…まずは女の顔を表を二度と歩けないほどに傷だらけにしてやろうか。」
「ひっ…やめて…お願い…」
咲の顔にバイソンイマジンのメリケンサックが迫る。M京太郎は咲を助けるためにバイソンイマジンに向かっていく。そのときふしぎなことがおこった!
「咲を…放せぇ!!」
「おわっ!?」
何とM京太郎の体からモモタロスが追い出されてしまった。体から弾き出されたモモタロスは尻餅をつく。
「おい…あいつ俺を追い出しやがった…まさかあいつは…特異点なのか!?」