乃渡由比はバトスピテスターである 作:monochrome:黒
夜も更け、ネオンの光が目立つ夜景の中…1つ、とあるビルの屋上にて時代遅れな城が建っていた。大凡作りは戦国時代以降の、誰もが「城」と言われてイメージするものだ。そんな時代遅れな城にだれが住んでいるのか僅かな人間以外は知る由も無いだろう。
逢魔が時の様に薄暗く蝋燭で灯された空間があった。
部屋の作りは平安時代の寝殿造にある様な、御簾に阻まれたかの時代でも貴族と言う裕福な人間達が住み、暮らしていいたようなものである。因みに城の中でこの様な形をしているのはここだけだ。
御簾に閉ざされ中が見えずとも部屋に人が居る影がある。
その御簾の外で立て膝をつき頭を垂れる少年が1人。淡い紫と黄色のツートン髪を後ろで軽く結い、現代風にアレンジされた様な紫をベース色にした狩衣を着込み、紫の口紅を塗ったそれがミステリアスな雰囲気を漂わせていた。腰に付けているデッキケースを見る限り少年もまたカードバトラーなのだろう。しかも蜘蛛を象ったデッキケースとはつまり
少年は御簾の中にいる人物にハスキーボイスが目立つ声音色でこう告げる。
「奥方様が申し上げていた「例のバトスピテスター」が動き出しました。どうやら我々の動きをBSLONは察知しておられる様です。」
「…そうか、やはり妾の予想通りになったと言う事であろうな。………しかし「殿」の邪魔をされては面倒だ。「殿」の宿願は我々の宿願でもある。そう易々と手を出されては行かぬ話よのう。」
御簾の奥から聞こえたのはやや低めの女の声であった。声の後に衣が擦れる音がし、体勢を変えたのが解る。言葉だけでも少し気に食わぬ、危惧をしているのだと、眉を潜めているのだと少年は頭を垂れた状態のまま「奥方様」呼んだ女の様子を察した。
「この事を殿には?」
「いえ、「例のバトスピテスター」とは"奥方様に縁がある"ため此方に先に参じた次第です。奥方様に報告をした後お館様に報告するつもりですので奥方様は気にする事ではないかと。」
「縁がある……か。たった2、3年程度アレと共に外つ国でバトスピに励んだだけだと言うのに。今やアレはIBSAも重宝せし日本唯一のバトスピテスター、対して妾は殿の伴侶となる元"候補生"…ふ___瞬きの刻の間に立場も何もかもが変わった。」
「奥方様…」
「気にするな、ノスタルジーに浸る趣味など妾は持ち合わせてはおらぬ。そして決してアレに肩入れしてもおらぬ。……妾と殿の邪魔をすると言うのならアレや他のバトスピテスターも諸共に蹴散らそうぞ。」
邪魔立てを企てているのなら容赦はしない。
此方の宿願を叶える為なら力で叩き伏せ、2度と立ち向かわせなくさせればいいのだ。
正に慈悲なき覚悟を言の葉にする女の覇気に少年はゴクリと息を呑んだ。これは冗談でも比喩でもないと本能がそう告げている。
この人ならやりかねない。
いいや、もしもバトスピテスターが此方の目的を阻む様な事があれば間違いなく目の前にいる人間は確実にやるだろう。誰よりも愛する人の為にも自らが矛となり剣となり邪魔者を蹴散らす。それだけの力を確かに持っている。
「報告ご苦労であった、下がってよいぞ"蘭丸"。烈火幸村同様…引き続き乃渡由比の行動も監視するのだ。」
「ハッ!承知しております_____
頭を垂れていた少年___紫鬼神蘭丸が頭を上げて立ち上がり、己の頭に報告する為に薄暗い空間へ溶ける様に消えた。
誰も居なくなってシン…と静まり帰る中、女___
「そうか、そうか、由比。其方も遂に
両腕で四肢を掻き抱く様に身を震わせ、昂らせながら、綺蝶は暗がりの御簾の奥で愉悦に嗤っていた。