乃渡由比はバトスピテスターである 作:monochrome:黒
「んん……もう朝…?ふぁぁ〜…」
目覚まし時計の音で目が覚め、由比は布団からノソリと起き上がり欠伸をする。どうやらもう朝がやってきた様だ。未だ必要最低限(布団と歯ブラシセット、あと昨日の夜に急いで付けたカーテンのみ)のものしか置かれてない殺風景な部屋で簡単な身支度を済ませる。
日本での由比の拠点は何処にでもある様な普通の数回建マンションの一室だった。拠点はIBSAが用意してくれたのだが、本当は高級ホテルの様な拠点を用意したかったらしい。しかし自分としてはそう言うのは慣れないと言うか、生活し辛さもあって普通のマンションの一室を借りさせてくれと頼んだのである。
「日本唯一のバトスピテスター」としての立場は時によっては便利だ。こうして家賃代も光熱費もIBSAが肩代わりしてくれる。勿論彼方にも彼方でこうして恩恵を売って後で美味しい恩を貰いたいのだろうがそれは大人の話としておこうか。
フローリングタイプの質素な室内にダンボール箱がいくつも置かれている。つい3日前までシンガポールにテスターとして行っていたのだ。日本に着いたのだって初日は夜であったし、この部屋に足を運んだのも一昨日だ。荷解きなど無論まともに出来ている訳がない。
(昨日は早くバトルがしたくて荷解き放ったからしにしちゃったんだよなぁ…。出掛ける前に少しだけ荷解きして必要なものから順に家具を置いて…)
そうと決まれば行動は案外早いものだった。
段ボール箱を開け、寝室兼自室にデスク用の机とゲーミングチェアを設置。このマンションはWi-Fiがある為デスクトップパソコンを置くだけで済ませられる。本棚を置き其処には本や巡った世界各地の写真を収めたアルバムを入れておく。
リビングには以前外国で買った絨毯を敷きその上に面積の広いテーブルを置いた。キッチンにはお気に入りのマグカップを置いて、押し入れには取り敢えずガムテープだけ剥がして置いた差し替え用のカードやBSLONから渡されたカード達を突っ込ませておく。後は服を在るべき所に掛けておけばこれで荷解きは終わりだ。我ながらこの手際の良い作業は褒められて良いのではないかと思う。
「さて、今日は何しようかな。」
今日一日を何に費やすか考える。
まだまだ武蔵がどんな所か詳しく解っていないから取り敢えず観光するのもありだろうか?それともまた利家にバトルを挑みに行くのも楽しそうだ。嗚呼でも、烈火幸村とバトルするのもありかもしれない。彼とはまだ手合わせをしてないのだ。
だが彼はいつも何処に居るのだろう。
昨日蕎麦屋に行く道すがら大体の事情は聞いている。幸村と環奈は武蔵では無い所から来て、今は佐助の親が手持ち無沙汰にしている部屋を借りて生活しているらしい。その場所までちゃんと聞いておけばよかったと由比は今更になって後悔した。
(武蔵を観光していればその内何処かで会えるかなぁ。取り敢えず外に出てふらついてみ_____)
____prrrrr
「ふらついてみようか。」と考えたその時だった。
由比の懐でスマホが鳴り響いた。その音に自分は顔を一瞬顰めた。正直言えば出たくは無い。が、これはこれで出ないと面倒になるのは目に見えている故スマホの件名を見ずに応答ボタンを押して耳に当てた。
由比のスマホには必要最低限の人間しか連絡先を入れていない。しかもこんな朝からかけてくる人間はバトスピテスター仲間には居ないし、親でも無いだろう。ならば答えはたった1つ______
「はい、此方アジア圏担当乃渡由比です。BSLONの「カード開発機関部」の方が一体何の連絡でしょうか?昨日の活動報告はメールにて送信させて頂きましたが。」
『相変わらず他人の様に振る舞うのはよしなさい、
「私はそれ以前にバトスピバトラーです。其方こそ番号名で呼んでまるで実験動物扱いするのは如何なものかと。」
『此方は貴方方をテスター者として正式名称で呼んでいるに過ぎません。』
_____BSLONの人間だ。
BSLONにも国際連合の様に幾つかの機関がある。その1つが「カード開発機関」、由比達バトスピテスターが使うカードを作り開発する機関である。「バトスピテスター」は其処の機関に所属している事にはなっているが所詮は書類上の事、それに自分はテスター達を実験動物の様に見てくる機関部の人間に好感は持てなかった。これならまだ機関部で仕事をしている親の方がマシだ。
通話相手は無機質な声音のままこう言う。
『其方の国、武蔵内でS級バトラー専用マシンの信号を2機キャッチしました。場所は○○○ビルヘリポートの屋上、ストリートバトルと予測されます。貴女は其処へ向かいバトルを観測、強いては片方にバトルを挑みデータを収集する事に努めて下さい。此方からは以上です。では。』
言いたい事だけ言って相手はブッツンと通話を切った。何ともまぁ自分勝手なのやら。こっちは使いっぱしりでは無いのだ、あまりにも対応の悪さに流石の由比も眉間にしわを寄せて嫌な顔をした。
やっぱり嫌いだ機関部の人間。
一生かかっても好きにはなれない、そう確信する。
いつかもっと偉い立場になったら不平不満を沢山言ってやろうそうしよう。
(色々不服だけど…今日やる事は決まったかな。)
一日を無駄に過ごす事にはならなそうだ。
しかし由比はふと疑問に思った。バーチャルシステムが設置されたスタジアムがある中で「ストリートバトル」をやる様なバトラーがいる何てどう言う事だ?「ストリートバトル」するとなると必然的にお互い専用マシンを持つS級バトラーだ。
武蔵には少なくとも自分含めたS級バトラーが4人居る。その内の誰かがバトルを持ち掛けた?態々「ストリートバトル」で?
「………、」
拭い切れぬ違和感。
だが最早考えても仕方がない。上から連絡が入った以上仕事としてこなさなければなるまい。
自分の目で見て一体誰と誰がバトルしているのか確認して、その上で何方かにバトルを挑もう。そう考えて由比はデッキケースにデッキを差し込み懐に入れ、指定の場所へと足早に向かったのだった。