乃渡由比はバトスピテスターである   作:monochrome:黒

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紫ある記憶と群青の鬼姫__弍

言われた場所に行ってみると其処は何処にでもある様な雑居ビル街が立ち並ぶ通りだった。その中で普通なら有り得ない轟音や何かを砕く様な音が聞こえる。「あのビルだ。」とすぐに判断した由比はすぐに入り口から階段を駆け上がって屋上への扉を開ける。

 

其処に居たのは_____

 

 

 

「潮は満ち、今こそ出でよ大海の王! 聖なる蒼き御名(おんな)の元に!天地万物・森羅万象……一切合切飲み尽くせ! 『蒼海明王』降臨ッッ‼︎」

 

 

 

凛とした張りのある女の声が響き渡った。その声に応じるかの様に少女の背後から大波が現れ其処から背に黄金の歯車の様なものを身に付けた青き明王像が顕現する。

 

『蒼海明王』を召喚した人物……海の様に蒼い長髪を後ろでハーフアップに結い、短めの紺と白のスカジャン、双丘を現す様に水色のコルセットが閉まりそこから薄布で出来た裾が膝下まで伸びている。臍出し短パンでロングブーツを履く凛とした萌黄色の瞳を持つ少女。確か上からの情報だと彼女は___

 

 

 

(「浜の鬼姫」の異名を持つS級バトラー群青早雲⁉︎何故海辺に拠点を置く彼女達がここに……もしかして!)

 

 

 

バッ!と言う効果音が付きそうな勢いで対戦相手を見る。彼女の相手は昨日会った幸村だった。よく見渡せば向こう側のビルに短髪緑髪に紫色の瞳を持ち顔に傷跡がある屈強な男とその子分達であろう人間達がズラリと並びこのバトルを見届けていた。あの屈強で羽織を肩に掛けた男___西武蔵を統べ、利家と凌ぎを削り合うS級バトラー宝緑院兼続だ。そして何故か隣に炎利家も居る。

 

視線を滑らせれば大勢いるギャラリーの中に環奈達も居た。

 

…間違いない。今目の前で行われているバトルは……!

 

 

 

「炎利家を倒した事による腕比べ、強いては東武蔵を乗っ取りにでも来たと言う算段でしょうかね?」

 

 

「由比⁉︎お前も居たのか⁉︎」

 

 

「いいえ今来たばかりですよ幸村君。それよりもこのバトル、炎利家を貴方が倒した事によるバトルの申し出ですか?しかも群青早雲組と宝緑院兼続組の二大勢力……人気者ですね悪い意味で。」

 

 

「ハハ…………それが由比も他人事じゃいられないんだ…。」

 

 

「……?」

 

 

 

困った顔をして頬を掻いた幸村に由比は訝しげな表情で首を捻る。「他人事じゃいられない」?どう言う事だ?別段自分は幸村の様にバトスピで天下を取ろうと思う様な血気盛んでは無いと思うんだが……。そう思ったが同時、背後から凛と声が響いた。

 

 

 

「見付けたぞ!「バトスピテスター」乃渡由比‼︎貴様も炎利家を倒したようだな!」

 

 

「私を…見付けた…?え、ええ確かに私も彼同じく炎利家を倒したカードバトラーですが……。」

 

 

「自分は烈火幸村同様貴様にもバトルを申し込む!このバトルが終わるまで首を洗って待っているが良い!次は貴様が大海に呑み込まれる番だ‼︎」

 

 

 

まるで拒否権なんてものが地球上から無くなったみたいだった。

 

思わず「えぇ…。」と引き気味に口から溢れたがこれはもう生理現象として受け取って欲しい。成程、幸村が言った事はこう言う事か。つまり由比自身も二大勢力から勘定として含まれていると。

 

テスターとしてはデータが取れて願ったり叶ったりではあるが、一カードバトラーとしては有無も無しに勘定に入れられるのは勘弁して欲しい。勝手にそっちが決めた都合に巻き込むなと言う話である。いやまぁバトルは受けるしか無いんだが。

 

 

 

(群青早雲のフィールドにはネクサス『千間観音堂』に『蒼海明王』と『青海童子』が2体。典型的な【闘神】中心のデッキ破壊がバトスタイルと言ったとこか……。)

 

 

 

青属性の特徴の1つである「デッキ破壊」。

これは何方かと言うとバトラーの心を揺さ振る要点が大きい。バトラーにとってデッキは魂そのものだ。幾つものカードを使って勝利の法則を作って行くそれを一気に瓦解出来る力を持っている。デッキ破壊でキースピリットがトラッシュに送られてしまう事だってあるのだ。

 

その証明に幸村のフィールドには残りデッキ枚数が片手で数えられるだけの枚数まで減らされている。彼のフィールドに『サムライ・ドラゴン』や【武竜】のスピリット達が居ると言う事は烈火の名の通り【武竜】メインの赤デッキだろう。

 

 

 

(状況から見れば今は幸村君のスタートステップ…でもここで打開策を__それこそキーになるカードでも引かなければ群青早雲にターンを渡してデッキアウトで負けてしまう。さぁ…どうする?幸村君?)

 

 

 

スタートステップ、コアステップ、そして幸村の運命のドローステップ______引いたカード一枚の内容を見て、彼はフッと笑みを溢した。由比にとってはそれだけで勝負の結果が見えたのと同じであった。

 

 

 

「早雲、お前が海なら俺は炎だ。見せてやるよ、大海も一気に蒸発させる灼熱の炎を‼︎」

 

 

(来たみたいだね、下で息を潜めていた君の"キースピリット"が。)

 

 

 

幸村のメインステップ。

ならばお手並み拝見と行かせて貰おうじゃないか。幸村のキースピリット、それがどんなものか!

 

 

 

「『サムライドラゴン』をLv1にダウン。行くぜ!召喚!_____"『戦国龍ソウルドラゴン』"‼︎』

 

 

「戦国龍…ソウルドラゴン…⁉︎…………驚いたなぁ…まさか"また"君を見る事になるなんて。」

 

 

 

巨大な紅蓮の火球から切り裂く様に現れた赤き武者(もののふ)のドラゴンに由比は懐かしむ様に目を細めた。何を隠そう『戦国龍ソウルドラゴン』はそれが世に出て来るずっと前……由比がまだ10歳の頃、機関部に所属する親がテスター用に試しに使ってみろと渡されたデッキの中に入っていたカードだった。

 

由比はそれを使いこなし親を驚かせ、テスターになる為のBSLONが運営するテスター候補生スクールに通う事になったある意味自分にとっても運命のカードであった。

 

 

 

「コイツが俺の"キースピリット"だ!」

 

 

「‼︎」

 

 

(そうか……君は幸村君のキースピリットになったんだね。良かった、いい使い手のキースピリットになって。)

 

 

 

ソウルドラゴンをLv3に上げればその手に見事な槍が現れ、赤き龍はクルリと回すと「いつでも行ける」と言わんばかりに構える体勢に入った。狙いは定まっている。かつて使った事のあるカードだからこそ由比はその効果を知っていた。

 

故に結論づける。これがラストターンだ。

 

 

 

「おぉっ!燃えろ俺の魂!燃えろソウルドラゴン!アタックだあッッッ!」

 

 

「何が来ようと同じ事だ!」

 

 

(いいえ。群青早雲、ソウルドラゴンだけは同じ事にはならないよ。行け、幸村君!)

 

 

「いや!お前に次のターンはない!アタック時効果!【連刃】発揮!ソウルドラゴンのソウルコアをトラッシュに置く事で相手は"必ず2体のスピリットでブロックしなければならない"。同時バトルだ!」

 

 

「何⁉︎」

 

 

 

ソウルドラゴンのアタックにバトラーの意に反して回復状態の『青海童子』2体が迎え撃ちだした。しかしLv3のソウルドラゴンの方がBPが上回る為2体は龍の槍の餌食となる他無い。槍が2体を貫き爆発の花を咲かせる。

 

【連刃】はこれで終わり?いいやまだだ。ソウルドラゴンの【連刃】はスピリットを破壊した時もう1つの効果を発揮する。否、これこそ真価と言うべきか。それが___

 

 

 

「ソウルドラゴンLv2の効果!ソウルドラゴンはスピリットととのバトルに勝利した数だけ"相手のライフを破壊する事が出来る"!」

 

 

「なんだと⁉︎」

 

 

「俺の勝ちだ!群青早雲‼︎」

 

 

 

ライフへの貫通。

相手のスピリット2体を破壊したソウルドラゴンが幸村の声に呼応する様に群青早雲の最後のライフ2つを容赦なく削り切った。

 

この勝負、間違いなく幸村の勝利だ。

 

 

 

 

 

群青早雲のライフ:0

勝者:烈火幸村

 

 

 

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