乃渡由比はバトスピテスターである 作:monochrome:黒
「烈火幸村には負けたが次は貴様だ乃渡由比!その「バトスピテスター」とやらの力見せて貰うぞ!」
己の専用マシンに乗ったまま早雲は此方をビシッと指を差した。バトルに負けた後で矜持的な部分は大丈夫なのかと思ってしまう。見栄え的には宜しくないのは事実だろう。少なくとも
だが最早由比の居ない所で決められてしまったのは事実だ。まさかこんな事に巻き込まれるとは思っても見なかったが、上からも「何方かとバトルしろ」と言われている以上やらない訳にも行くまい。
懐からデッキケースを取り出しつつ誰にも気付かれないように小さく溜息を吐きながら
「私まで勘定に入れられているのは納得行きませんが良いでしょう。貴女相手にどれだけ出来るか試させて貰います。_____降りしましませ、「尊星王」!」
告げたと同時に轟ッ‼︎と言う音を立てて現れる自分の専用マシン「尊星王」。飛び乗ってデッキをセットすると由比はまるでマジックショーのマジシャンの様なお辞儀をしてこう言う。
「改めて自己紹介させて頂きましょう。私は乃渡由比、IBSAに重宝されし日本唯一の「バトスピテスター」です。「浜の鬼姫」の異名を持つ群青早雲さん、少しばかり胸をお借りします。」
「戯言はいい、どの道貴様は大海に沈む。利家に勝ったからと言って自分に同じ手が通用するとは思わない事だ。」
「此方こそ。私に貴女の十八番が通用するとは思わないで下さい。貴女のやりたい事、尽く封じてご覧に入れましょう。」
「何だと⁉︎やれるものならやってみろ‼︎自分は海、この手塩にかけたデッキで貴様を海底へと引き摺り込んでやろう!」
由比の無意識な煽りにものの見事に乗ってしまった早雲は眉を潜め、「鬼姫」の異名通りに鬼の様に怒りに満ちた顔で宣言する。
鬼姫の怒りに空気は一瞬にして張り詰め、ギャラリー達もやや怯えて由比達を見守る。相手の闘志は今ので大きく勢い付いた。幸村に既に負けている早雲としてはここで勝って名誉挽回と行きたい処だろう。ならば双方がする事など1つしか無い。デッキから4枚引いて由比と早雲はお決まりの台詞を叫んだ。
「「ゲートオープン、界放!」」
先攻は幸村の時同様早雲だ。
コアステップを飛ばしドローステップを行った早雲は1度手札を確認すると1枚を手に取り、メインステップに入った。
「自分は3コスト『青海童子』をLv1で召喚。ターンエンドだ。」
(早速デッキ破壊の下準備と言う訳か…。でもコアは1つしか乗っていない、ならこっちは___)
『青海童子』は青属性の要素の1つである「デッキ破壊」、その典型的な効果である「Lvの数だけ相手のデッキを破棄出来る。」と言うものを持っている。これだけなら同じ効果持ちで破壊されてもネクサスを疲労させれば場に残る『ライオット・ゴレム』でも十分代わりは務まると思うのだが……まぁカードの採用は人其々だ。下手に口を出す訳にもいくまい。
由比は相手のスピリットの"乗っているコア"を確認しつつ自分のターンを宣言する。コアステップ、ドローステップを重ねメイン、
「『魔界兵カースソーズマン』をLv2で召喚。」
「紫のスピリット…?利家とのバトルで耳にしたのは確か黄色と白の混色の使い手だと聞いたが。」
「あの時は偶然黄色と白の混色デッキを使っていただけの事。テスターは1つの色に縛られず色んなデッキを使用してバトルするカードバトラーです。今の私は差し詰、紫デッキの使い手でしょうかね?」
白色の鎧と双剣を身につけ、頭部に悪魔の様な羽根を付けたスピリットを見て瞠目する早雲に由比は宥める様に説明する。まさかそこまで噂が広がっていたとは驚きだ。人間の伝言ゲームとは本当に恐ろしい、これがまだ尾鰭が付いていなくて良かったと心底安心する。昔、別の国でやたら尾鰭が付いてあらぬ噂を立てられた事があって酷い目に遭ったものだ。
あれと比べればまだまだ噂は序の口程度なのだろう。まぁまだ勝ってから1日がやっと経った程度だし。
「アタックステップ、カースソーズマンでアタック。カースソーズマンのLv2の効果、相手のスピリットのコア1つをリザーブに置きデッキから1枚ドローする!よって『青海童子』は消滅する。」
「何ッ⁉︎『青海童子』‼︎」
『青海童子』に乗っていたたった1つのコアが除去され相手は消滅した。
これが紫属性の要素の1つ「コア除去」だ。
紫属性に当たったらコア除去を警戒し余計にコアを乗せなくてはならなくなる。そこが結構面倒臭い効果だ。
だがこれで1体はデッキ破棄出来るスピリットを消滅させられた。そしてまだ此方のスピリットのアタックは続いている。ブロッカーのいない早雲は無論これをライフで受ける選択肢しか無い。
「ライフで受ける!っ!貴様これが狙いで___!」
「言ったでしょう?貴女の手は「尽く封じてご覧に入れましょう。」と。生憎私は今日紫デッキ使いなんです。バトスピテスター相手に残りデッキ枚数が片手で足りる何て事絶対にさせませんのでお覚悟して下さい群青早雲さん。___私はこれでターンエンドです。さぁ貴女のターンをどうぞ?」
「くっ……!自分のターン、ネクサス『千間観音堂』をLv2で配置。ターンエンドだ。次のターンで貴様は膝下まで海に浸かる事になるぞ。」
「さてどうやら?せめて踝程度では無いでしょうか?___では私のターン。スタートステップ、コアステップ、ドローステップ、リフレッシュステップ、メインステップ。」
早雲の後方横に黄金に輝く千体の観音が揺らめきながら現れる。Lv2まで上げてきたと言う事は次の早雲のターンで確実にデッキ破壊が来ると言う事だ。まぁそれは些細な問題では無い。青属性の戦い方とは【強襲】などの様に基本ネクサスとセットでバトルするものだ。早雲の戦い方は間違ってはいない。
『千間観音堂』は確かLv1の効果で系統【闘神】にBP+、Lv2でソウルコアが乗っているスピリットでデッキを破壊した時+5枚更に破壊する効果を持つネクサスだったか。よくよく考えるとそこそこエグいネクサスだ。デッキ破壊に完全に味方しているネクサスではないか。
(こっちが使えるコアは4つ……軽減出来るシンボルは1つ…と言う事は…コイツを出しても問題ないか。)
「『鎧闘鬼ラショウ』をLv2で召喚。不足コストはカースソーズマンから確保、よって消滅。ラショウの召喚時デッキから4枚破棄する事で2枚ドローする!」
途端フィールドに紫に鎧を纏った鬼が現れた。効果によってデッキが露わになり4枚オープンされて宝石の様にカードが砕け散る。が、その代わりに由比は自分のデッキから2枚ドローした。
デッキから破棄されたのは『ボーン・グラディエイター(RV)』『ソウルホース』『魂鬼』『シキツル』の4枚。自分からまさかデッキを破棄するとは思っても見なかったのだろう。早雲やギャラリー達が一同に騒然している。
相手がデッキ破壊の使い手なのに自分から自滅行為をするなんて有り得ないだろう。普通ならば。しかし、由比がこうしたのはちゃんと訳がある。『鎧闘鬼ラショウ』そのLv2,3の効果は……
「ラショウのLv2,3の効果。自分のトラッシュにソウルコアがある間、相手のネクサス全てのLvコストを+2する。つまり貴女の『千間観音堂』はLv1に戻る!」
「何⁉︎」
由比が宣言したのと同時、早雲の後方横に並んだ黄金の観音堂が力を奪われたかの様に項垂れた。本来『千間観音堂』がLv2になるのに必要なのはコアは1だが、ラショウの効果であと2つ置かなければならない事になったのである。
ソウルコアがトラッシュにある間、ラショウが居る限りこの効果は健在だ。ネクサスとセットでバトルする青属性____しかも『千間観音堂』で更に破棄枚数を増して来る早雲にとっては痛手に他ならない。
「バーストセット。アタックステップ、ラショウでアタック!」
「っ、ライフで受ける!貴様自分を侮辱しているのか⁉︎」
「いえ?そんなつもりはありませんが?」
思わぬ事を問われたので由比は不思議そうに首を傾げた。全く以って此方は親切のつもりでやっている事だ、ライフのコアがリザーブに行けばスピリットを召喚する布石になれるしネクサスのレベルを上げられるかもしれない。益はある筈である。それが侮辱何てとんでもない。
それだと言うのに由比の答えに更に早雲は一層不愉快と怒りの顔をする。まるで「後で覚えていろ。」と言わんばかりであった。
因みに由比に悪気は無いのだが第三者から言わせて貰えば「悪意なき悪意だ」と言われるだろう。天然と言うのは良くも悪くも相手を煽り易いのか。
「私はこれでターンエンドです。」
「自分のターン!もう1枚ネクサス『千間観音堂』をLv1で配置。更にもう1枚、『千間観音堂』をLv1で配置してターンエンドだ。」
「あら良いんですか?スピリットを召喚しなくても。ライフを先に奪われても知りませんよ?」
「自分を普通のカードバトラーと一緒にするな。貴様を海に沈められるのならライフの1つや2つ惜しくは無い!」
(成程……カードバトラーとしては心が海の様に深く、それ故に心が強いのか。)
普通のカードバトラーなら1つ2つ突いてやればその精神を揺さ振り、バトルにも大きく影響が出るものだ。だが早雲はそこら辺が違うのだろう。彼女の場合、バトルは自分自身と相手とのバトルではなく自分と自分との戦いなのだ。
早雲の背後一面に黄金色の計三千体の観音像が揺らめく。まるで夕陽に当てられた麦の穂の様な輝きだと由比は呑気に思った。無論、これで早雲がデッキ破壊可能なスピリットを出して3枚のネクサスのレベルを上げられたらネクサスだけでも軽く15枚は持って行かれるのだが。
だが此方はコア除去を出来る。例え召喚出来たとしても相手が安易にスピリットを召喚出来る訳もない。コア1つ、2つ乗せられたところでコア除去の餌食になるからである。それを解って出す程早雲は馬鹿では無い事くらい由比にだってわかる。
「私のターン、『クリスタニードル』を其々Lv1で2体召喚。更にネクサス『最後の薔薇水晶』を配置。」
コスト支払いにソウルコアを使い、まるでスノードームの様な水晶に納められた紫の薔薇がフィールドに顕現する。由比は己の手札とフィールドを見て"笑みを溢す"とアタックステップに入った。
「アタックステップ、ラショウでアタック!」
「ライフで受ける!」
ラショウがその拳で相手のライフを砕いた。これで早雲のライフは残り2つ。幸村がフィニッシュを決めた時と同じ数になった。相手のフィールドにはネクサスのみ。守るスピリットは居ない。『クリスタニードル』2体でアタックすれば間違いなくライフを削り切れるだろう。
だが由比は、
「"ターンエンド"です。」
「なんだと…?」
「聞こえませんでしたか?ターンエンドだと言ったんです。」
「だが!」
「確かにフルアタックかければ貴女を負かす事は出来ますが____「まだ」此方としても終わらせたく無い事情がありまして。まぁゆっくり待っていて下さい。貴女のターンにでも"面白いものをお見せしますから"。」
そう告げて由比はニヤリと笑った。