乃渡由比はバトスピテスターである 作:monochrome:黒
由比が日本の拠点にしているマンションの屋上では良い風が吹いていた。このマンション、部屋数が多くその分敷地面積も広い為当然ながら屋上のスペースも広かったりする。そしてご近所トラブルを防ぐため一部屋一部屋が防音壁と言う中々用意周到なのである。
通常は転落防止のため屋上のドアは管理人以外開けられないのだが…今回ばかりは「上でバーチャルバトルをしたいのでお願いします。」と頼んで二つ返事でOKして貰った。流石はIBSAが用意してくれたマンションと言うか……優しく理解力のある管理人さんで助かった。マンション全室防音措置を取っているからバトルの音で苦情を言われる事もないだろう。
「では始めましょうか幸村君。次に相手になるのであろう宝緑院兼続に対抗する為にも。」
「ああ!いつでも準備は出来てるぜ!」
環奈達が見守る中__由比は懐から、幸村は腰から各々のデッキケースを取り出して天高く掲げ叫んだ。
「降りしましませ、「尊星王」!」
「来い!「轟天龍」!」
叫ぶと同時に轟ッッ‼︎と言う耳朶を叩き付ける様な音共に現れる両者の専用マシン。幸村の専用マシンは「轟天龍」の名の通りドラゴンを思わせるような形をしていた。彼が【武竜】メインの赤デッキである事を印象付ける様である。
お互いが専用マシンに乗り込み、デッキをセット。デッキ上から4枚ドローするとお決まりの言葉を宣言する。
「「ゲートオープン・界放!」」
ストリートバトルが認証され何も無かった無機質なマンションの床に長方形の枠組みの光が走り、黒と白の2色で出来たフィールドが展開された。……S級同士、お互いに専用マシンを持つならば世界中何処であれそこがバトルフィールドになる。これこそS級バトラーの特権であり専用マシン以外のもう1つの特徴であった。
掛け声と共にバトルは開始された。
先攻は由比だ。スタートステップ、ドローステップ、そしてメインステップ、
「コスト3の『異牙忍ラッパンサー』をLv1で召喚。バーストセットしてターンエンド。」
「俺のターンだな。スタートステップ!コアステップ!ドローステップ!メインステップ!まずは『イクサトカゲ』をLv1で召喚、更に『ジンライドラゴン』をLv1で召喚だ。」
Lv1で召喚された幸村の『ジンライドラゴン』には最早当たり前の様にソウルコアが乗っていた。『ジンライドラゴン』の効果は確かこのスピリットにソウルコアが載っている時にBP+と【真・激突】を得ると言う内容だった筈。アタックされれば間違いなくラッパンサーはBP負けして破壊されるだろう。
先の早雲とのバトルもそうだったが…幸村は利家と同じ赤デッキでも【真・激突】や指定アタック____つまりスピリット同士の戦いを好む「激突型」の赤デッキだ。それを究極にまで極めたデッキと言っても過言では無い。
「人柄が出るなぁ。」と呑気に思いつつ、幸村がアタックステップ入った。
「アタックステップ、『ジンライドラゴン』でアタック!【真・激突】発揮!『ジンライドラゴン』にソウルコアが乗っている間BP+3000し相手は可能ならブロックしなければならない。バトルだ、ラッパンサー!」
「ラッパンサーでブロック。ブロック時効果発揮、ボイドからコア1つをこのスピリットに置く。よってLv2にアップ!」
緑属性の特徴の1つ「コアブースト」。だがそれでもラッパンサーのBPは3000だ。ソウルコアの力でBP6000まで上がった『ジンライドラゴン』に敵う訳が無い。完全にBP負けだ。
青き豹、ラッパンサーはそれでも尚迫って来た『ジンライドラゴン』相手に果敢に攻め入った。背に生えた手裏剣で斬りかかろうとするがそれは『ジンライドラゴン』の兜の刃に塞がれそのまま身を貫かれ爆散する。だがラッパンサーの破壊は決して無駄にはしない。
破壊されるのは解っていた。
だからこそこのバーストを伏せておいたのだ。それを今ここで発動する!
「「相手のスピリットによる破壊」によりバースト発動!地を裂き轟き出でよ!『大地の忍ダイビート』をLv1でバースト召喚!」
「バースト召喚⁉︎」
バーストが発動されたのと同時フィールドが土の様に盛り上がり、そこから緑色の兜虫の様な形をした巨大なロボットが這い上がった。本来ならバーストのコアでコアブーストが出来る筈だったが対象がないためそのままの召喚になってしまったのだ。
だがそれでもBPは6000。
相手の『イクサトカゲ』は回復状態だが確実にBPで負けるのは目に見えている。ならば幸村の手段は1つしか無い。
「ターンエンド。まさかスピリットが破壊されるのを見越してバーストを貼っておいたとはな。次は緑か、よしかかってこい!」
「私のターン。緑、緑ですか……幸村君、これは"緑だけのデッキじゃないんですよ"?メインステップ、『焔三忍発破のカヤク』をLv1で召喚!」
「赤のスピリットだと⁉︎」
「召喚時効果発揮!BP5000以下のスピリットを破壊する事でデッキから1枚ドローする!『ジンライドラゴン』を指定!」
「っ、『ジンライドラゴン』!」
カヤクが黒い火薬玉を『ジンライドラゴン』目掛けて投擲しそのまま『ジンライドラゴン』は爆発の花を盛大に咲かせた。【真・激突】は少々厄介だ。なのでそちらを先に優先して破壊させて貰った。
瞠目する幸村に由比は口細く笑い、デッキから1枚ドローしてこう告げる。
「今の私は緑と赤の混色使い、早計な判断は良くないですよ幸村君。ダイビートをLv2にアップ。再びバーストセット。アタックステップ、ダイビートでアタック!アタック時"相手はスピリット2体かアルティメット2体でしかブロック出来無い"!」
「何⁉︎ライフで受ける!」
「続けてカヤクでアタック!」
「ライフで受ける!」
「ターンエンドです。」
『ジンライドラゴン』を破壊され『イクサトカゲ』しかいない中、2体ブロックなど出来ない幸村はダイビートのアタックをライフで受け、BP負けによって軽減を失わない為にカヤクのアタックもライフで受ける道しかなかった。これにより幸村のライフは残り3。「押されてしまっている」と言われても過言ではあるまい。
二打点の衝撃で体勢を立て直す幸村に由比は笑みを保ったまま、まるで戒める様にこう言う。
「宝緑院兼続が使うデッキは恐らく緑デッキ。私のデッキは緑と赤の混合ですが彼と相手をするならばコアブースト、疲労効果、回復効果など……きっとこう言う戦い方もしてくる筈です。その為にもこれは模擬戦とでも受け取って下さい幸村君。」
「ぐ……っああ!勿論だ、どんな相手だろうと俺は俺のバトルを貫き通すだけだ!」
瞳の奥に苛烈な炎をを保ち続け、彼は己のバトルを貫き通すと宣言する。
これから相手する兼続は間違いなく強い。
何せ西武蔵を治めるS級のカードバトラーだ。S級がどれだけ強いのかこの世界では誰もが知っている。そしてバトスピテスターは更にその上に立っている様なものだ。由比だって幸村だって兼続に負ける訳には行かない。
(やっぱりこのデッキにして来て正解だったな。幸村には良い予行練習相手になるかもしれない。)
由比は己のターンを進める幸村を見ながら確信を持った。実のところバトルを始める前にわざわざ自室へ一度戻りこのデッキに変えて来たのだ。上からの情報で兼続が緑デッキの使い手だと言う事は既に把握済みだったからだ。
正直、"緑を使うならもっと上手く使いこなすテスターが1人いるが"___今日本に居るテスターは由比しか居ないのだから仕方がない。「彼に相手して欲しかった。」と思っても無い物ねだりだ。故に自分でも使える様な赤と緑の混色で構成されたデッキを持って来た。
そう____このデッキ、敢えて名付けるのならば
(このデッキは「
同じカードバトラーとして、同じS級として、かつて同じカードを使った者同士として、自分は彼をこの場所で実力を試そう。