乃渡由比はバトスピテスターである   作:monochrome:黒

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______7年前、米国、BSLON「カード開発機関部」バーチャルバトル試験場

 

 

 

「アタックステップ、『太陽龍ジーク・アポロドラゴンX(テン)』でアタック!アタック時効果で『鬼神女王ジェラシックドール』に指定アタック!更にLv2,3の効果で『黒嫁ドール†ザンシア†』を破壊する!『創界神アポローン』がある時相手のライフのコアを1つリザーブに!」

 

 

「ザンシアっ!ッッ‼︎『鬼神女王ジェラシックドール』でブロック!…だがここで終わらぬ、『鬼神女王ジェラシックドール』の【界放:2】を発揮!『創界神ヘラ』のコアをこのスピリットに置く事で其方の『天王神獣スレイ・ウラノス』を破壊し、妾はトラッシュより『魔界騎士デストロイデン』を回収する!これで其方のアタック出来るスピリットはおらぬぞ由比!」

 

 

「いいや、まだだ!フラッシュタイミング『バーニングサン』!」

 

 

「『バーニングサン』だと⁉︎」

 

 

「手札から『太陽龍ジーク・アポロドラゴンX(テン)』に『砲竜バルガンナー(RV)』を直接合体(ダイレクトブレイヴ)させる事で回復!合体(ブレイヴ)スピリットでラストアタック!」

 

 

「うう……っ!ライフで受ける!」

 

 

「啞壌綺蝶のライフ0!よって勝者、乃渡由比!」

 

 

 

審判の透き通った声が試験場に響き渡った。

バトル終了と共にバーチャルで形成されていたスピリット達は姿を消し、各々がデッキをケースに戻した由比と綺蝶は専用マシンから下りる。

 

すると、流るる様な黒い長い髪を髪丈のやや下、蝶の形をしたソレで緩く纏める同い年の少女が腕を組み、仁王立ちで此方を見つめる______先のバトル相手である少女が緋色の瞳であからさまに不機嫌な相貌で睥睨していた。

 

彼女の名は「啞壌綺蝶」。

由比と同郷の日本人であり、日本のバトスピ運営機関「IBSA」の幹部の身内と言うお嬢様だ。BSLONによってバトスピの腕を買われこうして由比と共に「同期」として日々バトスピのカリキュラムを受けている。大人達は皆「啞壌綺蝶と乃渡由比はライバル同士」「テスターになる1、2位を争う事になるだろう」と好き勝手に言っていると聞いた。

 

そんな同期に自分はハァと大きく溜息を吐くとこう問い掛ける。

 

 

 

「これで私の48勝2敗だね?」

 

 

「サラリとグサっと心に刺さる事を言うで無いわっこんの天然阿呆由比‼︎」

 

 

「だから何度も言うけど綺蝶、私は天然じゃないよ。常識人のバトスピテスター候補生。」

 

 

「天然は己の事を天然と自覚せんわうつけめ‼︎」

 

 

「綺蝶はその古臭い言葉使い直した方がいいんじゃないかなぁ?」

 

 

「喧しいッッ‼︎」

 

 

 

言葉の攻防に目くじらを立てて怒る綺蝶。

親譲りなのか顔が整っており所謂「美人」と言う人種なのだがここまで般若の如く怒り顔していると色々と残念である。宛ら使ってた【呪鬼】中心のヘラデッキの様に「鬼女」と表現する他あるまい。ある意味四谷怪談の女妖怪と同列なのかもしれない。

 

周囲でマシンが片づけられたりデータを取ったりと教師達(教官達)がバタバタする中綺蝶は全くそれを気にせずこう問い詰めて来た。

 

 

 

「由比、其方バトルの途中手を抜いておっただろう!」

 

 

「え?どっか手を抜いてた?」

 

 

「5,6ターン目で出したスピリット、あれで妾のスピリットを倒せたものをそうはせずにおった。妾のターンでも回収したマジックをここぞと言う時に使わんところがあった!いつもの其方であれば倒し、マジックを使っておったところであろう!」

 

 

 

苛烈に怒りに燃えた瞳と言葉に由比は内心「ぐえっ」と思った。

 

どうやら"所々手を抜いてたのがバレてしまったらしい"。思いっきり図星を突かれ自分はサッと綺蝶から目を逸らす。逸らした行動を肯定と受け取った綺蝶は尚更目くじらを立ててこれでもかと睨み付けてきた。……ああ、鈍いかと思っていた自分が馬鹿だった様だ。

 

だからと言って謝る気は全く無い。

逆にそうでもしなければいけなかった。何故ならこのBSLON「カード開発機関部」に属するテスター候補生(子供)は___

 

 

 

「だって、こんな広い組織でバトスピの実験が出来る子供って______私と貴女2人しか居ないでしょ?なら尚更バトルでは長引かせてカードのデータを取らなきゃ。」

 

 

「………………、」

 

 

 

少なくとも最初此所には10も満たない候補生達が集められていた_________が、由比と綺蝶以外厳しいカリキュラムの中で心が折れたり挫折をして去ってしまったのだ。そして次の「補充」がいつになるのかも解らない。

 

たった2人のバトスピテスター候補生。

………………だがいずれ、その候補生とて"1人になる"。

 

 

 

「……私、まだ綺蝶とずっとバトルしてたいなぁ。」

 

 

「それはっ……っ…由比には悪うと思うておる。だがこれは決め事だ、其方1人が結果を覆せる訳も無かろう。」

 

 

「…そうだよね。あーあ…あと2年もすれば綺蝶はIBSAの幹部、天魔コンツェルンの御曹司に「お嫁」に行っちゃうのかぁ。」

 

 

「よっ、「嫁」はよせ!「嫁」は!まだ妾は幼い身!せめて許嫁や好きな人の下に行くとかそう言え阿呆ッッ!」

 

 

「クスクス、ごめん綺蝶。」

 

 

 

林檎の様に顔を赤らめて必死に訴える彼女に自分はフッと笑ってしまった。その姿は「恋する乙女」そのものだ。否、実際に"長く恋をしているのだから当たり前だろう"。

 

綺蝶は此所に来る前……4,5歳の時に"天魔コンツェルンの長男に一目惚れして"それからずっと恋をしている。そうしてBSLONによって声をかけられる前、家同士で綺蝶を天魔コンツェルンの長男の嫁にどうかと話があったらしい。お互いが古く続く良好関係を築いて来た家だ。既に初恋をしていた彼女にとっては願っても無い案件であった。故にBSLONに入ったのは花嫁修行の意味もあり、バトスピの腕が上がれば好きな人に気を引いて貰えると思った様だ。

 

恋とは、愛とは、偉大だ。

誰でも使える魔法でどんな魔法よりも強力だ。

それは此所で一番近くで綺蝶を見ていた自分がよく解っている。彼女は直向きに頑張って来た。彼女の強さは恋と愛で出来た、世界中の沢山の宝石達と比べて宝石が見劣りする程美しくて愛らしく力がある。

 

 

 

「でも綺蝶にはその想いがあったから強くなって私の好敵手になったんだよなぁ…。」

 

 

「由比……。」

 

 

「貴女の「恋」は私でも止められないから仕方が無いね。……本当はもっとずっと、ずーっと貴女とバトルしたかったけど…。」

 

 

 

言葉を紡ぐ度に声が小さくなっていく。

嗚呼、こんなにも自分は「寂しい」と思ってしまうのか。"「あの時」"ですらこんなにも心が寒々しく虚しいとはおもわなかったのに。

 

それ程綺蝶に信頼を寄せ、友として、戦友として心を許していたのだろう。たった2年後には別れてしまう事に「寂しい」と感じるのが証明だった。

 

 

 

「……ならば、テスターになっても妾に会いに行けば良い。」

 

 

「え…?」

 

 

「妾とて由比に会えなくなるは寂しい。故にいつか、其方がバトスピテスターになった時妾の下に来るが良い。訪れ、そしてまた何時もの様にバトスピをしよう。約束だ。」

 

 

 

例えお互いの道が違おうとも。

綺蝶がテスターになれず由比がテスターになったとしても。この絆は、紡いできた時間で得た友情は変わらないから。

 

真摯に此方を見つめる綺蝶。

その両手は由比の手を優しく握りしめていた。

 

ならば、自分は、それを握り返して、

 

 

 

「うん…うん!私がバトスピテスターになったら絶対に会いに行く。絶対に約束するよ綺蝶!」

 

 

 

 

______約束だ。私はいつかキミに絶対に会いに行く。そしたらまたあの時の様にバトルをしよう___

 

 

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