乃渡由比はバトスピテスターである   作:monochrome:黒

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翠の愛,緋白の果たし状__壱

 

「このカードを抜いて、こっちのカードを入れると良いですよ。そうしたら相手がアタックした時それを返り討ちに出来る可能性があります。」

 

 

「成る程……そう言う手もあったか。有難うな、由比。」

 

 

「デッキ構築の助言までやれるとは流石はバトスピテスターでごじゃるな。」

 

 

「いえ、この前ご飯を食べさせて下さったお礼もありますがテスターとしてバトラーが強くなるよう努めるのも仕事の1つなので。やれる事はやらせて頂きますよ。」

 

 

 

幸村とのバトルからその後、由比は頻繁に彼等の居住地に足を運んでいた。お互い住所も連絡先も知れた事だし、自分が幸村のバトルの練習相手にもなれるから一石二鳥と言う訳だ。こうしてデッキのアドバイスも出来るから一石三鳥かもしれない。

 

向かい側のテーブルでは有弥と佐助、太一がバトスピをしつつ、宝緑院兼続の事について話していた。

 

 

 

「たぁく、昨日の兼続には拍子抜けしちまったな。強敵の早雲を倒して、「さぁ次は兼続とバトル!」________ってなる筈だったのにさぁ…。」

 

 

「肝心の兼続が消えちまってるなんて予想外もいいとこだぜ。」

 

 

「幸村のバトル見てビビっちまったんだぜきっと!」

 

 

「あの兼続がか?オイラはそうは思わないなぁ。」

 

 

「え?」

 

 

 

太一と有弥が悪戯っ子の様に「兼続が幸村のバトルを見てビビって逃げた。」と笑った。……が、そこで太一とバトルをしていた佐助が訝しげな面持ちで言葉を挟んだ。あの兼続がそう逃げる様な人間では無いと、2人の発言に納得していない様だ。

 

これに関しては由比も佐助に賛同だった。

宝緑院兼続はS級バトラーにして西武蔵を統べる男。そんな自分の身可愛さで逃げる様な人間であれば西武蔵を統べる処かS級バトラーにすらなっていないだろう。あの時初めて見た兼続の風体と言い雰囲気と言い、覇気とただならぬものを感じたのは確かだ。例えるのであれば巨大で且つ誰にも壊されない程の硬さを持つ1本の柱の様なソレだろうか?

 

 

 

「私も佐助君に同意見ですね。宝緑院兼続……彼が幸村君に臆して逃げる様なカードバトラーでは無いのは"確かです"。」

 

 

「どうしてそんな言い切れるんだ?」

 

 

「不思議ですか有弥君?私や幸村君、宝緑院兼続も含め私達はS級バトラーです。______そんな強い相手を見たら"万全な状態で全力のバトルをしたくなるのがS級の性と言うものでしょう?"」

 

 

 

目を三日月に細めニヤリと笑った由比の笑みは彼等にどう映っただろうか。

 

「強い相手を見たらバトルしたくなる。」そう思ってしまうのはカードバトラーに付いて回って来るものだ。強い相手と戦いたい、自分の全力を出せる様な相手と戦いたい、強い相手と全力でぶつかって勝ちたい………………そう思わずにはいられない。だからこそ「逃げる」と言う選択肢なんて有り得ないのだ。

 

同種の人間なら目で解る。

宝緑院兼続と言う男はそう言う男だ。決して臆して逃げない。もし己のテリトリーに影響が出ようとも気にせずに由比と幸村にバトルを申し込んで来るに違いない。

 

 

 

「宝緑院兼続か……一体どう言う奴なんだ?」

 

 

 

考え込んでいた幸村がふと佐助に問い掛ける。

武蔵(ココ)に訪れてから日の浅い彼にとっては西武蔵やら東武蔵やらそう言った事情は知らない事だらけだ。問われた佐助は一つ一つ時を追う様に険しい声音で答えていく。

 

 

 

「全国でバトスピブームが広がった頃、バトスピが盛んだったこの武蔵には大勢のバトラー達がやって来たんだ。その中には無法者も多くて特に西地区が酷く荒らされていた時期があったんだ。」

 

 

「ほう……西地区__基西武蔵にそんな時期があったんですねぇ。」

 

 

「ああ。その時圧倒的な強さでそいつらを倒して、疾風の様に西武蔵を制したのが兼続なんだ。」

 

 

「無法者を力で束ねたのか。」

 

 

 

幸村の言葉に佐助は肯定の意味で頷いた。

無法者を力で束ねた兼続__それが「西武蔵」。そう言えば東武蔵は逆に______

 

 

 

「同じ頃東武蔵で勢力を伸ばして来たのが"炎利家"。利なんだ。」

 

 

(無法者を力で束ね安寧を築いた西武蔵の兼続とは対局の存在が利家さん率いる炎利家組って事か……。)

 

 

 

自分が1番初めに武蔵に来た時の事を思い出す。赤井長頼を倒した後、炎組の不良(ツッパリ)達にガンを付けられるわ、般若の如き顔で理不尽に憤られ仕舞いには殴られかけたのはまだ記憶に新しい。あれは利家が無法者をそのまま自身の下に付かせたのか。まぁ確かにあの組は揃いも揃ってゴロツキと言うか何と言うか……顔も風体も治安が悪い。

 

利家は殴られかけたところを止めてくれたり、早雲戦の際に此所まで運んで貰った恩があるからそこまで怖いイメージは無いが。

 

 

 

「と言うと……必然的にも2人は衝突する事になるのでは?」

 

 

「そうなんだ。お互い2人は引かれ合う様に何度も何度もバトルでぶつかった。でも、利と兼続の力は"互角"で決着が着かないまま互いのテリトリーを東西で分ける形で武蔵の二大勢力になったんだ。」

 

 

「正にライバル同士な訳ですか…。」

 

 

「あの利と互角のバトラーか、益々兼続と戦いたくなったぜ!」

 

 

 

左掌に拳を叩いてやる気満々に幸村は言う。

昨日、日が西に落ちりきるまで由比と対兼続戦をしていた彼にとっては「来るならいつでも来い!」と言う自信の表れなのだろう。1度も由比には勝てなかったが対緑デッキ戦のコツは掴めた様だ。そんな幸村に自分は苦笑しつつ、

 

 

 

「そう言っていると本当に宝緑院兼続にバトルを挑まれてしまいますよ幸村君。」

 

 

 

………………………と、言った矢先であった。

階段からドタドタと下りる大きな音がして拓馬が慌ててやって来ると、切羽詰まった声音で叫ぶ。

 

 

 

「大変だぁ‼︎」

 

 

「どうした拓馬?」

 

 

「「兼続の遣い」って奴がこれを幸村と由比にって……!」

 

 

「「「兼続の遣い??????」」」

 

 

「うん…。」

 

 

 

思わぬ事態に佐助と太一、有弥は揃えて声を上げた。

拓馬から差し出された紙___基文は一通のみ。由比にまでバトルを申し込むのであれば本来二通だが、先日のバトルの時に自分が幸村勢力に居ると思われたのだろう。と言うかどうやってこの場所を見付けたのか。逆にそっちの方が怖いのであった。

 

 

 

「「果たし状」……。」

 

 

(これまた古風な……時代錯誤もいいとこだなぁ。)

 

 

 

そもそも「果たし状」とは一対一(サシ)でやる旨を伝える文では?と言うツッコミは置いといて、自分は拓馬から差し出された果たし状を手に取りひろげる。内容は至極短く簡潔、しかもちゃんと硯で墨を出してあろう達筆な字で書かれてあった。書道のコンクールがあれば間違い無く賞状入りするだろう。

 

 

 

「ええと何々___『明朝七時,西武蔵「場取ヶ原」にて待つ。』…だそうです。噂していた矢先にですね、タイミングが良いのやら悪いのやら。宝緑院兼続はやる気満々だそうですよ幸村君。」

 

 

「そうこなくっちゃな!由比とのバトルで得たものを発揮する時だ!」

 

 

「……こっちもやる気満々の様ですね、私も明日は頑張ります。今日は念入りに幸村君のデッキを調整しましょう。」

 

 

「由比は良いのでごじゃるか?」

 

 

「私はもう宝緑院兼続とのバトルでどのデッキを使うかは決めてあるので。次はそうですね……「創界神(グランウォーカー)」の出番でしょうか?」

 

 

「ぐらんうぉーかー…?」

 

 

「クスクス、まぁ明日をお楽しみにしていて下さい。また新たなカードをお見せします。」

 

 

 

首を傾げる佐助に由比は唇に人差し指を付けて内緒ポーズで応える。

 

利家、早雲に続きお次は「緑の大将」宝緑院兼続。緑属性の使い手にして西武蔵の統治者だ。……さぁ、あっちがその気ならこっちもその気になってやろう。最早勘定に入られてしまっているのなら存分に暴れてやる。明日のバトルを待ちわびながら由比はその日、夜になるまで幸村のデッキ調整に取り組んだのだった。

 

 

 

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