乃渡由比はバトスピテスターである 作:monochrome:黒
「ふぅ…何とか倒す事が出来たけれど……」
(これで更に3勢力との啀み合いがヒートアップしたら色々巻き込まれそうだなぁ…。)
デッキをケースに戻して専用マシンから降りた由比は溜息混じりにそう呟く。
バトルするのはテスターの義務関わらず好きだ、けれども何処どこの勢力が何だのこうだのとどう見たってくだらない勢力争いに巻き込まれるのは勘弁して欲しいものである。ただでさえ何故か自分が知らぬ間に「炎利家を倒したバトラー」として2勢力から「倒すべきバトラー」の勘定に入れられているのだから困ったものだ。
少しばかりうんざりしているとバトルを見守っていた幸村達が明るい顔で此方へと駆けて来た。
「やったな由比!きっと由比も兼続に勝てるって信じてたぜ!」
「うむ、2属性を使いこなした素晴らしいバトルだったでごじゃった。」
「「
「クスクス、有り難う御座います皆さん。「
やはり幸村達のこのキラキラとした顔を見ると「バトルして良かった。」と思ってしまう。ある意味一種の癒し効果だ。先程までうんざりしていた事柄も全てどうでもよくなる様な気がした。「これも歳かなぁ?」と思っていると自分達に向けられた鋭い視線を本能で感じて視線を滑らせた。
宝緑院組の下っ端達だ。
兼続と言う自分達の大将が由比と幸村に見事惨敗した事に酷く御立腹らしい。眉を寄せ恨めしそうに此方を見てくる彼等は、由比からして見れば最初に戦った炎組の下っ端達とそう変わらないものだ。……嗚呼そう言えば、彼等は兼続によって構成されたとは言え元は
「貴様等は運が良かっただけだ!」
「次に戦えば必ず兼続様が……!」
「____やめろ。」
「「「「「兼続様……。」」」」」
2度のバトルで深く手負いを負った兼続が下っ端達の言葉を遮った。彼等からやや距離を取った位置で片腕を抑えながら佇む彼は由比達を真っ直ぐと見つめてこう告げた。
「烈火幸村、乃渡由比。お前達の思いはしかとこの身に刻み込んだ。」
「兼続…。」
「次に会う時を楽しみにしているぞ。」
「此方こそ。またお会いしましょう宝緑院兼続さん。」
フッと優しく微笑む兼続に由比はペコリとお辞儀をする。今度会う時は勢力争いやその他諸々を取っ払ったバトルをしたいものだが……さて御天道様はそんな僅かな希望を掬い上げてくれるのかくれないのか。「この人、性格は良いと思うから普通にバトルしたいんだけどなぁ。」と心の中で思いつつ顔を上げて同じく微笑み返した。
そんな由比に兼続はやや驚いた顔をしつつも、踵を返して去って行く。慌てて下っ端達が彼を追い掛ける中________________その1人が悔しさを一切隠さずに、去り際自分達に対してこう言ったのだ。
「"キースピリット"さえ出していれば勝っていたのは兼続様だからな!」
「⁉︎」
「キースピリットって…じゃあフォン・ニードは____」
「あれ以上の強いスピリットをまだ持っていたでごじゃるか……。」
「私としては「ああやはりか。」でしたけどね。」
「ごじゃ⁉︎由比は気付いておったでごじゃるか⁉︎」
由比の言葉に誰も彼もが目を瞠らせ視線を注いで来る。由比も由比で今さっき予想を真実として確信したところだった。フォン・ニードがキースピリットなんかでは無い。それを思わせたのはあの時,幸村とのバトルで____
「『蜂王フォン・ニード』がキースピリットなら何故幸村君とのバトルの際に"もう1体"出して来たんでしょう?私の様なテスター達はキースピリット言えど上限3枚までキッチリ入れますが普通キースピリットならデッキに1枚だけの筈。なら答えは簡単、『蜂王フォン・ニード』所詮は彼の"サブエース"でしか無かったと言う事です。」
「宝緑院兼続……まだまだ底知れない男だぜ…。」
「えぇ、まだ隠し球を持っている。そのキースピリットが見れるまでは暫くは様子見、でしょうかね幸村君。」
このバトルで兼続はキースピリットを出して来なかった。若しくは出しても"扱い切れないもの"だとしたら、もう1枚何かが必要なのだとしたら……それが揃った時どんなに強敵になるのか由比も幸村も想像が付かない。由比以外の全員がゴクリと息を呑んだ時、自分は両手をパンっと叩いてその張り詰めた空気を一掃した。
ここで悩んでいても仕方がない。
出るものが出たらその時考えれば良い。だから____
「さあて、バトルも終わった事ですし皆で東武蔵に帰ってお昼ご飯にしましょう!私バトルしてお腹ペコペコです!」
「出た由比の食いしん坊!」
「お前も他人の事言えないだろ太一〜!」
「よし、じゃあ東武蔵に帰るか!」
「「「「「「「お〜っ!」」」」」」」
幸村の言葉で盤上一致した一行は再び草の根を分けて元来た道を歩き始めた。
________遠い何処かのある場所で、幸村と由比が兼続を倒したといち早く知った人間達が裏で暗躍している事も知らずに……。
■
何処かのとあるビルの屋上にある大きく時代錯誤も甚だしい城、その中も時代錯誤さることながら一国の戦国大名が居座る様な間に1人の男と少しの距離を置いて女が座っていた。男と女の向かいには「蘭丸」と呼ばれた10代前半の少年が立て膝を付き、薄暗い室内で幸村と由比のバトルの勝敗を報告していた
男は炎を連想させるような焦茶色の髪をし角の付いた何とも硬そうな上半分の面をつけ、赤黒い直衣を現代風にアレンジした様な服装にRPGの"魔王"を思わせる様な10代後半を過ぎたかどうだかだがの姿だ。しかし向かいで頭を下げる少年の主と見受けられた。____そう、この男こそかつて蘭丸が、綺蝶が言っていた「お館様」であり「殿」なのだ。
「そうか。利家、早雲に続いて兼続も。」
「烈火幸村、乃渡由比2人の為に武蔵の勢力図は更に混沌として参りましょう。」
「それこそ此方の思惑通り。嵐が近づいている…全てを呑み込む大きな"嵐"が。____綺蝶、お前もそう思うだろう?」
「お館様」と呼ばれる男が少し距離を置いて座る女____かの『南総里見八犬伝』に出て来る姫、「伏姫」を連想する様な長るる黒髪を持ち緋色に光る瞳。着物を白拍子と掛け合わせ和洋折衷にアレンジした藍色の装いには袖に蝶と菊が煌びやかに刺繍を施されている。自身の「殿」に問われた女__啞壌綺蝶はその誰もが羨むであろう容姿端麗な顔を嬉しそうに微笑みながら、ふっくらとした唇で言の葉を紡いで応える。
「はい。殿がこの日の本の国全てを呑み込み手中に仰せになる未来が妾には見えますわ。早う妾にお見せ下さいまし、殿。殿がこの日の本の国……何もかもを呑み込み天下を取る御姿を。」
「はは、そう急くな。____聞いての通りだ、「猿」。」
「キキっ!」
男が呼んだのと同時、奥に何処からともなく____猿面を被った、何処か山賊風味を漂わせる格好をした背の低い少年が現れた。綺蝶はその「猿」と呼ばれた少年に視線を向けるとこう告げる。
「成すべき事は理解しておろうな"藤吉郎"。殿の為、精一杯励が良い。」
「ハッ!お館様と奥方様の仰せのままに……。」
____誰も知らぬところで今まで揺れ動かなかった闇が蠢めき始める。闇が日の出る国を呑み込まんとせんとする。
嗚呼、禍いだ。禍いだ。
独りの孤独な魔王と、1人の孤独な魔王を深く愛する蝶の禍いだ。
その禍いを止められるのはきっと__________烈火の燃え上がる炎の少年と、宵闇を照らす月と星を持つバトスピテスターの女のみ____
どうもモノクロです。これにて三勢力編は終了です!次回から武蔵最強決定編が始まります!遂に大六天魔王勢が動き始め、彼等によって知らず知らず蝕まれて行くこの武蔵……。バトスピテスター、乃渡由比はどう立ち向かって行くのか!新編も乞うご期待下さい!ではばさらだ!