仮面ライダーW ANOTHER STORY 仮面ライダーウィング 作:雪見柚餅子
一年以上前に予告した作品をようやく書くことが出来ました。
本作もよろしくお願いいたします。
街灯の光だけが道を照らす深夜。
「がっ!?」
「ぐっ!?」
暗闇の中でただ激しい戦闘音が響く。その音を放っているのは、複数のスーツを着た怪人―マスカレイド・ドーパントと、左目だけが妖しく輝く一人の影。その影が放つ手刀や蹴りが一体、また一体とマスカレイド・ドーパントを蹴散らしていく。
「ふっ!」
そして最後に残っていた一体も、影が放った回し蹴りを頭部に受け倒れ伏す。
影は肩で息をしながらも、分厚い雲で月が隠れた夜空を見上げる。そこにどこからかパチパチと拍手の音が聞こえる。
「さすが我が最高傑作の一つだ。これほどの力を見せてくれるとはね」
暗闇から姿を現したのは白衣を纏った白髪交じりの男。笑みを浮かべ影に近づくその姿からはどこか不気味な気配を感じさせる。
「だが君には自由は許されない。早く戻ってきなさい」
そう言って手を差し伸べる男に恐怖を感じているのか、影は後ずさりして距離を取ろうとする。男がその姿に落胆した様子を見せると、白衣のポケットからリモコンのようなものを取り出してボタンを押す。
バチバチィッ!!
その瞬間、影の腰に巻かれた機械から電流が走り、影の全身を駆け巡る。先程までの戦闘のダメージも相まって、思わず膝を付く。
「全く、少しは大人しくしたまえ」
その言葉と共に男は近づく。しかし影はまだあきらめてはいない。静かに腰に装着された機械を操作する。
〈WING UP〉
その音声と共に、首元に巻かれたマフラーが広がり巨大な翼を形成する。
一瞬のことに男が驚いている間に影は翼を大きく広げると、そのまま月夜へと飛び上がる。
男もすぐにリモコンを操作するが、影はそのダメージを耐えながらも飛行する。可能な限りこの場から離れるために……。
残された男は飛び去って行く影を静かに見つめながら溜息を吐く。
「貴重な実験体だ。みすみす逃がすわけにはいかないな……」
遅れてやってきた白いスーツ姿の集団が男にタブレット端末を手渡す。
「なるほど。この先にあるのは……」
タブレット端末が表示しているのは影に装着された機械から発せられる位置情報。そこにはある街の名が記されていた。
「彼らに邪魔されると面倒だな……まあ、大した問題にはならんだろう」
男は残酷な笑みを浮かべながら、明かりが灯る街に視線を向ける。
「折角、我らの計画が始まるんだ。楽しもうじゃないか!!」
男の高笑いが、暗い空に響き渡った。
風都。常に風が吹き続けるこの街では、様々な事件が起きる。そしてそれは時に、ドーパントと呼ばれる超常の力を持った怪人が関わることがある。
そんな風都において、多くの事件を解決してきた存在が居る。人々は彼を、いや彼らに憧れや経緯を評してこう呼ぶ。
―仮面ライダーと。
「ったく、茶菓子ぐらい自分で買って来いってんだ」
帽子が特徴的な青年―左 翔太郎はレジ袋を抱えながらぶつぶつと文句を言っていた。
彼が勤めている鳴海探偵事務所。そこの所長である鳴海亜樹子から、依頼人に振舞うための茶請けのストックを買ってくるように命令され、今はその帰り道である。
少し足を急がせながら街を歩く。10月になり、少し冷たくなった風が、彼の頬を撫でてゆく。
人が行き交う、いつもと変わらぬ平和な街並み。その光景に目を向けながら、翔太郎は口元を緩める。
この光景こそ、彼が守りたかった街なのだから。
探偵である彼にはもう一つの顔がある。この街で事件を引き起こす怪人―ドーパントを倒す仮面ライダーとしての顔が…。
彼とその相棒は仮面ライダーとして数年もの間、この街を守り続け、その果てにドーパントを生み出していた組織の撲滅に成功した。
だが組織が滅びようと、ドーパントによる事件が無くなったわけでは無い。今も彼らは、密かに戦い続けている。
だからこそ、この何気ない日常に彼は笑みを浮かべる。この光景こそ、彼が守りたかった街なのだから。
しかし事件は何の前触れもなく突如として起きるものだ。
ふと歩いていると、彼は一つの路地裏に違和感を感じた。それは探偵としての勘なのか、それとも別のものなのか。
彼は少し警戒して薄暗い路地裏に入る。
聞こえるのは自分の息遣いと足音、そしてレジ袋が擦れる音だけ。いや、微かに別の音も聞こえる。
「……何だ?」
そして路地裏の暗さに慣れた彼の目に映ったのは、倒れ伏す髪の長い少女。見た目は高校生ほどであろうか。汚れた白衣に包まれたその体は、触れただけで壊れてしまいそうな印象を与える。
すぐに駆け寄り、少女の体を様子を確かめる。見た所、大きな怪我は無さそうだ。しかし、何故こんなところで倒れこんでいるのだろうか……。
考え込んでいると、視界の端に奇妙なものが映りこみ、目を見開く。
それは一つの機械。赤く塗装され、片手に収まりそうな大きさのそれに彼は見覚えが有った。なぜなら彼自身もそれと同じものを所有していたのだから。
赤い機械の名はロストドライバー。かつて翔太郎達が撲滅した組織が作り出した装置の一つだった。
「どうしてこいつが……」
静かに眠り続ける少女をただじっと見つめる翔太郎。そんな彼の頭上で何かが羽ばたいた音がした。