仮面ライダーW ANOTHER STORY 仮面ライダーウィング 作:雪見柚餅子
「待たせたな、左」
「おう、照井か」
病院の待合室で翔太郎は真っ赤なジャケットを着た刑事に声を掛ける。
彼―照井 竜もまたこの街を守る存在、仮面ライダーの一人として密かに戦っている。
そんな彼らがこの病院に集まったのは、朝の出来事が切っ掛けだった。
路地裏で倒れていた少女を見つけた翔太郎はすぐさま病院、そしてフィリップと照井に連絡をした。ただ倒れているだけなら病院だけに通報をすればいいが、彼女の近くに落ちていたのは、かつてこの街で様々な実験を行い、数多くの事件を引き起こした組織が作り出したアイテムだったからだ。
既にその組織は滅びたはずだが、それでは何故この場にドライバーが有るのか、そして倒れているこの少女とはどのような関係が有るのか。
翔太郎は悪い予感を感じる。そしてそれはいつも大きな事件に巻き込まれる前触れでもあった。
「今、フィリップがあのドライバーを調べてくれてる。ただ少し時間が掛かりそうだ」
回収したドライバーは事務所に速やかに届けられ、情報を得るべくフィリップがガレージ内で調査を行っている。彼曰く、「僕たちの持っている物とは少し違う感じがする」とのことで、組織とは別の何者かが作った可能性が有るらしい。
「それでそっちは何か分かったことはあるか?」
「ああ。彼女の身元について、刃野刑事が行方不明者のリストなどを調べてる。だが現状はこれといった情報は無い」
つまるところ、彼女についての情報は全くないということである。
「それじゃあ、後はあの子自身か……」
残された手がかりは倒れていたあの少女だけ。何か話を聞ければと、二人は彼女の病室へと向かおうとする。
「おお、探偵さん!」
そんな二人に声を掛けたのは、小太りで白髪交じりの医師の男。彼と翔太郎は顔見知りで、何度か捜査にも協力している。
「ちょうど良かった、お話ししたいことが有ったんです」
「お話したいこと?」
「はい……ちょっとこっちに来てもらって良いですか?」
あまり聞かれたくないことのようで、誰の目にも届かないように病院内の倉庫へと案内する。
「こんな所にまで来て、一体何の話だ?」
怪訝な表情を浮かべる照井。どこか威圧しているように見える彼に若干怯えた様子を見せるが、すぐに持ち直して、1枚の診断書を取り出す。
「今朝搬送された子の事なんですが、今は様子が安定しています。ただ、ちょっと気になることが有って……」
そう言って二人に診断書を見せ、説明を続ける。ところどころ専門用語で書かれているため、詳しい内容は分からない。しかし、医師の説明でその内容が分かると、二人の表情は驚愕に染まる。
「おい、どういうことだよ……」
「言葉通りです。検査の結果からしても彼女の体は通常のそれとは大きく掛け離れています……一番顕著なのは血液ですが、これは今まで発見されているどの血液型にも当てはまらないんです……」
何か訳ありなのは薄々感じていたが、まさかこのような事実があるとは思っても見なかった。
「すまないがこの事は内密にしてもらえるか?」
「分かりました。検査を行った者にも伝えておきます」
医師に口止めをすると、彼の案内の下、病室へと歩き出す。
ドライバーと言い、彼女の体と言い……。謎は深まるばかりである。それを解き明かすためには、やはり彼女に直接会わなくてはならないだろう。
先程まで聞こえていた話し声が全く聞こえなくなり、さらに歩いたその先。普段は誰も来ることのない静かな通路の先に彼女が眠る病室は有った。訳ありの患者のみが使うことが出来るその病室の警護は万全な形でされている。不審なものが居れば、警備員によって阻止され、さらにすぐに風都署へと連絡が良く。
「恐らくもうすぐ、もしくは既に起きていると思われます」
医師はそう言うと懐から鍵を取り出し、病室の扉の鍵穴に刺して回す。
翔太郎と照井は僅かながら緊張する。もしかすると、この風都そのものを脅かすかもしれない事件と関わるかもしれないのだから。
ゆっくりと扉が開くのに合わせ、翔太郎は軽く深呼吸する。まずは彼女を興奮させないようにしないといけない。落ち着かせたうえで、話を聞く必要がある。
だが扉が開ききり、部屋の中を見た翔太郎と照井は驚愕した。
「なっ……これはっ!?」
「おいおい、まじかよ!?」
そこに有ったのは、もぬけの空となった病室。分厚い窓ガラスは割られ、外から吹き込む風がカーテンを揺らし続ける。
「まさか、このガラスを割ったとでも言うのか?」
翔太郎が窓に近づく。下を見ると、そこには地面に窓ガラスの破片と思われるものが光の反射で光っているのが分かる。
「まさかっ!? ここは5階ですよ! それにこの窓は強化ガラスで出来ているので、普通は割れることなんて無いのに!?」
慌てる医師の言葉通り、ここは地上からそれなりの高さがある。地面は芝生になっているため若干の柔らかさはあるだろうが、それでも普通ならこの高さから落ちれば怪我を負うことは必至である。そもそも、このガラス自体もどうやって割ったというのだろうか。
「左!」
「ああ。あの子がどこに行ったのか追わねえと!」
翔太郎は懐から2本のメモリを取り出すと、それをカメラに装填する。
〈BAT〉
カメラは電子音声と共に、それぞれコウモリに似た姿へ変形すると、穴が開いた窓から飛び立っていく。
「今、刃野刑事にも連絡をして、捜索を頼んだ」
照井も短い言葉で翔太郎に伝えると、二人は顔を見合わせて頷き、急いで病室から出ていく。
「……これ、どうすれば良いんだ?」
残された医師は、病室の惨状を見ながらそう呟くしか出来なかった。
風都の街を走る一人の少女。着の身着のまま裸足で走る彼女だが、向かうべき場所など存在しない。ただひたすら、逃げなければ、という感情のまま足を動かしているに過ぎない。
通行人の中にはそんな彼女を訝し気に見る者もいるが、ほとんどはそのまま通り過ぎ、何か感じた者も走り去っていく彼女には声を掛ける暇もない。
ただどこまでも走り続ける彼女。普通なら息切れしてもおかしくないが、まるで疲れている様子も無く、汗の一滴すら掻いていない。その気になれば、どこまでも走り続けられそうな印象まで感じさせる。
だが、そんな彼女の前に、突如として一台の車がまるで行く手を遮るかのように停まった。
彼女がその車をじっと睨む。すると、車の扉が開き、中から白いスーツを着た男達が数名降りてくる。
「ひっ!」
その姿を見た瞬間、少女の顔から血の気が引いていく。そして踵を返して逃げ出そうとするが、いつの間にか、既に背後にも同じ姿をした男達が少女を囲むように陣取っている。周囲に居たはずの通行人の姿も消えており、この場には少女と男達だけしかない。
そして遅れて車の中から一人の長身の男が降りてくると、少女を見つめて口を開く。
「大人しくこちらに来い」
「……」
「分かっているんだろう? お前の生きる場所はここしか無いと」
その言葉に少女は黙って俯く。それを見て、男が少女を捕らえようと腕を伸ばした。
「っ!!」
男の手が震える少女に触れようとした。
だがその瞬間、突如として男の手が何かによって払われる。
「何だ?」
飛来したそれは一度少女の頭上を回ると、どこかに向かって飛んでいく。それと同時に二つのバイクのエンジン音が響いた。
飛んで行った物体は、そのエンジン音がした方向へと向かっていく。
「なるほど、面倒な連中が来たようだな」
二台のバイクが男達の前に止まる。
「おい、こりゃ一体どういうことだ?」
バイクから降りた男―翔太郎が呟く。バットショットからの通信を基にやって来たら、まさか会うとは思っても見なかった相手が居るでは無いか。
「何でてめえらが居やがる!」
翔太郎はこの男達の服装に覚えが有った。
かつてこの風都を恐怖に陥れた組織。その背後に居た強大な存在が居た。無尽蔵の資金を持ち、様々な組織に対して出資することで技術力を得る。その規模や目的は一切不明。しかし危険な存在であることに間違いはない。
その名は『財団X』。
「その質問に答える気はない」
翔太郎の質問に対して男は無感情に答えると、改めて少女の腕を掴み、強引に車の中に引き込む。
「お前達はそいつらを抑えていろ!」
「待て!」
引き留めようとした翔太郎達の前に、男の部下が足止めとして立ちふさがる。さらに彼らはガイアメモリを手にすると、首筋に挿入した。
〈MASQUERADE〉
その音声と共に顔がまるで髑髏のように変化した財団Xの戦闘員―マスカレイド・ドーパントが翔太郎達を囲む。
戦闘能力自体は大したことは無いが、全員相手にしていては男に逃げられてしまう。
そこに照井が声を掛ける。
「左、ここは俺に任せろ」
「おい、一人で大丈夫か?」
翔太郎の疑問に、照井は不敵な笑みを浮かべる。
「くだらん質問をするな」
「……そうだな」
その返答に翔太郎も笑みで返す。
そして照井はバイクのサイドパネルから大剣エンジンブレードを取り出すと、勢いをつけて放り投げる。マスカレイド・ドーパント達がそれを避けたことで生まれた隙を狙い、翔太郎はバイクで駆け抜ける。
「待て!」
何人かが追おうとするが、照井がそれをさせない。
「お前たちの相手は俺だ」
そう言うと、照井は取り出した機械―アクセルドライバーを腰に装着する。
〈ACCEL〉
さらに手にしたガイアメモリを起動させると、ドライバーに挿入する。
「変……身!」
掛け声と共にドライバーのスロットを捻ると、照井の全身が赤い装甲に覆われる。
この姿こそ、風都を守る戦士の一人、仮面ライダーアクセル。
「さあ、振り切るぜ!」
その言葉と共に、アクセルはマスカレイド・ドーパント達に立ち向かった。