仮面ライダーW ANOTHER STORY 仮面ライダーウィング   作:雪見柚餅子

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Chapter 3

 鳴海探偵事務所。そこには翔太郎の相棒であるフィリップ、所長の鳴海亜樹子、そして合流した照井が既に集まっていた。

 そこに少女を連れた翔太郎が姿を現す。少女はその場にいた三人にも警戒の眼差しを向けながらも、翔太郎に促されるままソファに座る。そして対面に翔太郎が座って、口を開いた。

 

「それじゃ、まず自己紹介から始めるか。俺の名は左 翔太郎。探偵だ。そしてこいつが俺の相棒のフィリップ」

「やあ」

 

 翔太郎に顎で示されたフィリップは、軽く手を挙げて応える。同様に亜樹子と照井も紹介する。

 

「次に君が何者か、教えてくれ」

 

 少女は翔太郎を見つめながら、おずおずと答える。

 

「……ソラ。そう呼ばれてた」

「ソラちゃんね……中々いい名前じゃないか。それじゃあ本題だが、君は一体何者なんだ?」

 

 直球の質問に対し、ソラは口を噤む。

 

「君が病院から逃げ出した時、窓を割ったようだが、あの窓はそう簡単に割れるもんじゃない。それにあの高さから落ちたのに目立った傷も無い。検査結果を見ても、君の体が特殊なことが分かっている。何より、あいつらが君のことを追っているというのが、何よりも重要だ」

 

 『あいつら』。それが指し示す相手が何者かは少女も理解した。

 

「あの組織……財団Xと君は一体どういう関係なんだ?」

 

 問い詰める翔太郎に対し、どこか怯えたような表情を浮かべてソラが答えた。

 

「……分からない」

「何?」

「分からない。気が付いたら、よく分からない部屋の中に入れられて、実験とか言われて色んな機械を使わせられたりして……だからとにかく逃げようと思って、気が付いたら……」

「なるほど……」

 

 ソラの言葉を聞き、フィリップが納得の言ったような顔を見せる。

 

「君はこれを使って、奴らから逃げたということで良いのかい?」

 

 そう言って、彼は解析していたロストドライバーを取り出す。

 

「……」

 

 黙って頷くソラを見て、フィリップは溜息を吐く。

 

「そういや、それの解析が終わったんだよな?」

「ああ」

 

 フィリップはどこか複雑な表情を浮かべ、手にしたドライバーについて説明を始めた。

 

「率直に言うが、これはまともな人間が使うような代物じゃない」

「そりゃ、どういうことだ?」

「このドライバーは僕達が持っているドライバーとは違い、メモリの力を増幅して発揮するための機構が備わっている。単純な出力だけでも、およそ二倍のパワーを発揮できるだろう」

「何だと?」

 

 スペックだけなら十二分に強力だろう。だがそれをまともではないと評した理由は別にある。

 

「だが副作用も存在する」

「その副作用って?」

 

 疑問符を浮かべた亜樹子にフィリップが答える。

 

「このドライバーを使えば通常以上の力を発揮できる。だけどその反動が大きすぎるんだ。通常の人間が使えば、それこそ動くことすらままならない。場合によっては命を失う可能性も有る」

 

 その言葉に全員が言葉を失う。

 

「それと、このドライバーの内部には高圧電流を発生させる装置も付いていた。彼女の言葉から推測すると、恐らく実験体の暴走を抑え込むための備えみたいなものだろう」

 

 確かにこれは普通の人間が使うようなものでは無いだろう。使用するだけで大きなダメージを受け、内部には電流を発生させる機構。拷問器具や処刑道具と言った方が合っているのではないかとすら思ってしまう。

 だがここで一つの事実が浮かび上がる。目の前に居る少女―ソラは、このドライバーを使用したということだ。

 

「検査結果などから、彼女はあらかじめこのドライバーを使うことを目的として、財団Xによって何らかの処置を受けたのではないかと予測出来る。奴らは再び彼女を狙って来るだろう」

 

 極めて冷静に告げられたその言葉に、ソラの顔に恐怖が浮かぶ。

 

「……やだ。もう、あそこには戻りたくない」

 

 ただ怯えるソラ。その姿からどのような扱いを受けていたかは想像に難くない。

 

「とりあえず、しばらく彼女はここで預かった方が良いだろう。もしもの時、俺かお前達が近くに居た方が良いからな」

 

 照井の言葉通り、今の風都で財団Xに対抗できるのは、翔太郎とフィリップと照井の三人だけだ。いつ来るか分からない襲撃に備え、照井も事務所に滞在するつもりである。

 

―くぅ~―

 

 そんなことを考えていると、事務所内に小さな音が響く。

 

「おい亜樹子。お前、さっき昼飯食べたばかりなのに腹が鳴るって、どんだけ食いしん坊なんだよ」

「私じゃないわよ!」

 

 翔太郎は亜樹子の腹の虫と思ったようだが、そうではないらしい。音の主がフィリップや照井、ましてや翔太郎自身でもないとするなら、残るは一人しかない。

 

「もしかして、お腹減ったの?」

 

 亜樹子が尋ねると、ソラは首を傾げる。

 

「お腹が減る……?」

 

 言葉の意味が分かっていない様子に、亜樹子たちは戸惑う。

 

「そういや、確か朝から何も食べてないよな」

 

 翔太郎の言葉通り、彼女を保護したのは今朝の事だ。それからずっとソラは飲まず食わずだったはずである。

 

「あっ、そうだ!」

 

 亜樹子はあることを思い出し、戸棚を開ける。そこから一つの袋を取り出すと、ソラに手渡した。

 

「ほら、これ食べて」

「……何これ?」

「お饅頭。食べたことない?」

 

 こくりと頷いたソラに対し、亜樹子は一緒に食べようと言って、隣に座る。ソラはどこか緊張した様子を見せるが、亜樹子の動きを観察しながら、おずおずと包装の袋を剥がし、一口頬張る。

 

「……!」

 

 あまりの美味しさに驚いた、とでも言いたげにソラは目を見開く。

 この饅頭自体は風都では普通に売られているものだ。特別高級というわけでも無い、市販の菓子である。しかしそれですら嬉しそうに食べる姿を見ると、彼女がどのような食事をしていたのかも予想がつく。

 

「全く、食べ過ぎて太るんじゃねーぞ」

「なっ! レディに対してその言葉は何事か!!」

 

 翔太郎の軽口に、亜樹子はスリッパを使って応戦する。

 

「おい、お前止めろって!」

「問答無用!」

「……ふふっ」

 

 そんな二人の姿を見たソラは、思わず笑みを浮かべた。初めて見せたその表情に、その場に居た皆の心が温かくなる。

 そんな中、フィリップは一つの引っ掛かりを感じていた。

 

(彼女はロストドライバーを使って財団Xの下から逃げたと言っていたが、ドライバーは単体ではその効力を発揮しない。ガイアメモリも必要不可欠……。しかし彼女を保護した時、ガイアメモリはその場に無かったと翔太郎は言っていた。じゃあ、彼女が使ったメモリは一体どこに……?)

 

 疑問を抱くフィリップを他所に、未だに翔太郎と亜樹子の諍いは続いている。

 そんな鳴海探偵事務所の屋根の上に、鳥の形をした何かが止まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうか、彼がやられてしまったか」

 

 風都の郊外にある廃墟。そこに何者かが集まっていた。その中心にいる白髪交じりの男は、部下からの報告を受けていた。

 

「折角の新技術だったんだが、残念だ。それで、発信機はどうなっている?」

「やはり駄目です。位置が送信されて来ていません。原因は不明ですが、恐らく何かの衝撃で破損したか、何者かによって無効化されたか……」

 

 その言葉に残念そうな表情を見せる。

 

「だが、どうやらアレはこの街の仮面ライダーと接触したのだろう?」

「はい」

「それならば、彼らの拠点に居る可能性が高いな」

 

 部下の返答を聞き、男は不気味な笑みを浮かべた。

 

「折角だ。私が直々に行こう。彼らには直接、私達の恐ろしさを身を以て体験してもらおうじゃないか!」

 

 そして男は目的の場所へ足を動かす。

 

「待っていたまえ、仮面ライダー!!」


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