仮面ライダーW ANOTHER STORY 仮面ライダーウィング   作:雪見柚餅子

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今回は場面が頻繁に入れ替わります。


Chapter 6

 風都の郊外。日も傾き、不気味さを感じさせる廃線の駅の近く。そこにリボルギャリーとフィリップ達の姿は有った。

 

「それで左が攫われたということか……」

 

 亜樹子の連絡を受けた照井は、ここまでの状況を聞き溜息を吐いた。

 

「リボルギャリーで避難したのは失敗だった。そのせいでハードタービュラーが使えなかったからね……。だけど今それを言っても遅い」

 

 フィリップは後悔の言葉を口にする。だがすぐに頭を切り替え、照井に向き合った。

 

「僕らがやるべきは翔太郎を救出すること。そして奴らを倒すことだ」

「ああ。だが手がかりは有るのか?」

 

 照井の疑問に対してフィリップはスタッグフォンを取り出して見せる。

 

「先程、奴らからメッセージが来た」

「何だと?」

 

 

 

 

 

 それは照井が到着する十分ほど前の事。彼の到着をリボルギャリー内で待っていたフィリップ達の許に電話が掛かってきた。発信者を示す名は翔太郎。

 

「えっ、翔太郎君無事だったのっ!?」

 

 亜樹子は翔太郎が無事に逃げることに成功したのかと思ったが、フィリップは一つの答えが思いつき、口元に指を当て静かにするようにジェスチャーを送る。そしてゆっくりと着信に応じた。

 

「もしもし……」

『やあ』

 

 聞こえてきたのは翔太郎の声では無く、年を取った男の声。フィリップはその声に聞き覚えがある。

 

「確かお前は、サワと名乗っていたね……」

『覚えていてくれるとは光栄だ。仮面ライダーの片割れ君……早速だが取引をしないか?』

 

 どこか見下した口調の彼はいきなり提案を持ちかけた。

 

『君の相棒はこちらが預かった。返して欲しければ、君たちが保護している実験体を渡してもらおう。あれは私達にとって重要なものだからね……』

「そう言われて大人しく引き渡すとでも?」

『それなら君の相棒の命の保証は出来ない。どちらを取るべきかは考えるまでも無いだろう?』

「……」

 

 フィリップが沈黙すると、サワはさらに取引を続ける。

 

『明日の午前9時。風都湾に面する番場工業の第三倉庫で待つ』

 

 一方的に告げられたその言葉を最後に電話は切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 四方をコンクリートで囲まれ、灯りは天井に着いた電球だけの薄暗い部屋。そこに翔太郎は手足を縛られた状態で転がされていた。

 

「ぐっ……ここは?」

 

 戦闘のダメージが残っており、さらに堅い床の上ということも有って、節々に痛みを感じる。

 

「やあやあ、待たせてしまって申し訳ないね」

 

 そこに不気味な微笑を浮かべたサワが姿を現す。

 

「寝心地はどうだい?」

「ああ、最悪だよ」

 

 サワの皮肉にも怯まずに言い返すだけの元気は残っている。

 

「まあ安心したまえ。君の相棒が利口なら、明日には解放してやろう」

「そうかよ……」

 

 フィリップの事だ。自分の考えていることは理解してくれているはず。それならこっちも信じて待つだけ。

 そして翔太郎は少しでも情報を得るべく、サワに問いかける。

 

「お前達は一体何を企んでいるんだ?」

「企むとは失礼だね」

 

 そのような言い方は心外と言わんばかりに顔を歪める。

 

「我々は新たなステージへと到達すべく、研究を行っているに過ぎない」

「じゃあ、あの子は一体何なんだ?」

「ああ、あれの事か。あれも私達の目的に重要な礎となる存在だよ。何せ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「風都湾か……」

「ああ。翔太郎を救うためには取引に行くしかない」

 

 奴らが素直に翔太郎を引き渡すとは思いにくい。かといって行かなければそれこそ翔太郎の身が危険だ。

 だが、取引の場所に行くという言葉を聞き、それが意味することを察したソラは体を縮こまらせる。それに気づいてかどうか分からないが、フィリップは作戦と称して、自分達のやるべきことを明らかにしていった。

 

「まず僕が取引の場所に行く。奴らもそれを望んでいるだろう」

 

 少なくとも個人での変身能力を持たないフィリップだけが姿を見せれば、それだけ油断する可能性はある。

 

「そして僕が時間稼ぎをしている間に、照井竜、君に翔太郎を救い出して貰いたい」

「分かった」

 

 フィリップの言葉に了承する照井。人質を救出するという役目なら、現状最適なのは間違いなく彼を除いて他にない。

 そしてフィリップは静かにソラに視線を移すと、ソラは蹲ったまま見つめ返す。やはり自分も取引の場所に行くのだろう。もしもの時、自分を引き換えに攫われた探偵を取り戻すために……。

 

 結局、自分はただの道具でしかない……。

 

 そんな諦めと絶望、恐怖の入り混じった表情を浮かべながら震えていた。

 

「亜樹子ちゃん。君は彼女とここに残っていてくれ」

 

 だがフィリップが口にしたのは、ソラが思ってもみなかった言葉である。

 

「……え?」

「スタッグフォンを残していくから、奴らが襲って来た時はこれを使って逃げてくれ」

「分かった!」

 

 フィリップの言葉に大きな声で応える亜樹子とは逆に、ソラは口をぽかんと開けて呆然とする。

 

「何で……、私を取引に使うんじゃないの?」

 

 そして絞り出すように放った言葉に対し、フィリップはさも当然のように顔色を一切変えずに答える。

 

「君の身柄と交換で翔太郎を助けるなんて選択肢は最初から無い」

 

 そしてフィリップは手に持っていた本を閉じる。

 

「例え君が何であろうとね……」

「まさか……」

 

 ソラは顔を上げてフィリップを見つめる。

 

「君の正体は推測が付いている」

「ソラちゃんの正体……?」

 

 首を傾げる亜樹子にフィリップは説明を始める。

 

「彼女の異常な検査結果。高い身体能力。そして事務所を襲撃したサワの言葉。これらから一つの推測が浮かび上がる」

 

 そして持っていた本を閉じて、その真実を口にする。

 

「彼女はミュータミットだ」

「……」

 

 フィリップの言葉にソラは沈黙した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの子がお前らと同じ、ミュータミットだと?」

 

 同時刻。翔太郎もサワから同一の事実を聞かされていた。

 

「元々、ミュータミットとは人間を超えた身体能力、そして戦闘に特化した形態への変身能力を持った生命体。私やジャガーバンなどはその第一世代だ。だがそれを生み出すには多大なコストが掛かる上、成功確率も2%程度と低い。それでは我らの計画に大きな遅れが発生しかねなかった。そこで考え方を変えた」

 

 サワは意気揚々と自身の研究結果を翔太郎にひけらかす。

 

「変身能力を持たない代わりに汎用性を高めた第二世代を生み出した。そして変身能力を持たない代わりに、君も良く知るガイアメモリなどを活用することとしたのだ。戦闘形態への変化を外部から取り入れるという形にね……」

「……あのドライバーはそういうことか」

 

 翔太郎はソラが所持していたロストドライバーの意味を理解する。フィリップが『人間が使う物じゃない』と言っていたが、まさに文字通り。あれは()()()()()()()()使()()()()()()()()()()ドライバーだったということだ。

 

「そしてあのソラリス0315は、第二世代をさらに発展させた新型。あらかじめガイアメモリに対して高い適合率を持つように調整し、耐久力も向上させた最高傑作だ。確実なデータを得るためにも、必ず回収しなくてはならんのだよ」

「そうはさせるかよ……っ!!」

 

 翔太郎が身動き取れない状態ながら放った啖呵を、サワはまるで気にした様子も無く、話は終わったと言わんばかりに扉に手を掛けた。

 

「君が何を言おうと、あの方の計画を止めることは不可能だ。這いつくばったまま大人しくしていたまえ」

 

 そして歪んだ笑みを浮かべながら部屋を出るサワの後ろ姿を、翔太郎は睨み続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それを知ってるなら、どうして私を守ろうとするの?」

 

 ミュータミットという異形の存在。普通なら忌避の対象になることはソラも理解している。しかし、目の前の青年はその事実を突き止めながら、なおもソラを財団Xから守ると言って見せた。その行動が理解出来なかった。

 

「簡単なことさ」

 

 フィリップは笑みを浮かべて、その疑問に答えた。

 

「翔太郎が君を守ると決めたからだよ」

「え?」

「翔太郎のポリシーの一つに、『依頼人は絶対に守る』というものがある。そして彼は君のことを依頼人として認めた」

「依頼人……?」

「そうだ。どんな形であれ、君は僕達に助けを求め、それを了承した時点で依頼人だ。それなら僕は相棒として、翔太郎の意思を尊重する」

 

 出会ってから一日も経っていない、それなのに命を懸けて守ろうとしてくれる彼らの在り方にソラは引き込まれる。

 

「それじゃあ、細かい内容について打ち合わせを……」

「ちょっと待って」

 

 フィリップが翔太郎救出作戦の詳細な打ち合わせを始めようとした時、ソラがおずおずと手を挙げた。

 

「一体、どうしたの?」

 

 亜樹子に促されるように、ソラは自分の思いを口に出し始める。

 恐怖は未だに消えない。体と心に刻み込まれた痛みが記憶にこびり付いている。しかし、初めて自分を守ろうとしてくれた彼らのために、少女は自らの意思で歩み始めようとしていた。

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