仮面ライダーW ANOTHER STORY 仮面ライダーウィング 作:雪見柚餅子
「はああああっ!!」
ただ一歩踏み出す。それだけでウィングはマスカレイド達を肉薄すると、右足の回し蹴りで一掃して見せる。
「……すごい」
今まで仮面ライダーの戦いを見て来た亜樹子ですら溜息を漏らすほど、その力は圧倒的である。マスカレイド・ドーパント達は何とかウィングの動きを止めようと殺到するが、ウィングの流れるような動きに付いて行けず、ただ蹂躙される。
しかしそんな状況でも、サワは余裕の笑みを浮かべた。
「相変わらず素晴らしい能力だ。だが、そのドライバーを使っている以上、私からは逃げられん!」
そう言うとポケットからボタンが付いたスイッチを取り出す。それはロストドライバーに仕込まれた伝習発生装置の起動スイッチ。これを押すだけで、ウィングの全身に高電圧の電流が流れ、一瞬で動きを封じることが可能である。止めようにもウィングとサワの間には、未だにマスカレイド達が道を阻むように陣取っている。
そしてサワはまるで見せびらかすようにスイッチを押した。
「ぐああっ!!」
それと同時に響く悲鳴。だがそれは少女のそれではなく、野太い男性のもの。
「何っ!?」
サワはその光景が信じられなかった。
「がっ!?」
「うわっ!?」
次々と響く呻き声。それはまるでダメージを受けた様子の無いウィングの攻撃によって倒されたマスカレイド達が流したものだった。
「一体どういうことだっ!」
サワは何度もボタンを押すが、ウィングのドライバーから電流が流れることは無い。彼は知らないことだが、昨日フィリップがドライバーの解析を行った際に、高圧電流発生装置を取り除いていたのだ。そのため、今サワが持っているスイッチはただのガラクタでしかない。
そんなことを知らないサワは怒りを抑えきれず、スイッチを地面へと叩きつけると、最後のマスカレイドを倒したウィングを睨みつける。
「私の言うことも聞かない屑め……そんなに命が惜しくないかっ!」
怒号と共にサワの姿が怪人態―サドンダスへと変化する。
「がああっ!!」
そして獣のような叫び声をあげて飛び掛かってくる。
「はっ!!」
ウィングも迎え撃つように跳躍し、サドンダスに組み付く。だがサドンダスは持ち前のパワーを活かしてウィングを倉庫の外壁へと叩きつける。
「くっ……」
さらにサドンダスは翼を広げて飛翔すると、口から火球をウィングへと放つ。一つ、また一つとウィング目掛けて放たれる火球によって、近くに有った倉庫の壁が崩れ、砂煙と共にウィングの姿は見えなくなった。
「ソラちゃん!!」
「ふん、所詮この程度。あのお方に次ぐ力を持つ私に敵うわけが無いのだよ!」
心配の声を挙げる亜樹子に対して、サドンダスは嘲笑の言葉を投げかける。
〈WING UP〉
しかし電子音と共に、深緑の影が砂煙の中から飛び出した。
「ぐっ!?」
それはサドンダスへと急接近し、その勢いのまま体当たりをして見せる。まともに受けたサドンダスは体勢を崩すが、すぐに攻撃をしてきたそれに視線を向ける。
それは首元のマフラーを翼のように広げたウィング。その姿は美しい鳥にも見える。
「はあっ!!」
再びウィングはサドンダスへと猛スピードで接近する。対するサドンダスも禍々しい翼を広げて対抗する。
空中で何度もぶつかり合う緑と黒の影。文字通り二人の間には火花が舞う。
「喰らえぃっ!!」
サドンダスは再び連続で火球を放つ。だがそれが命中することは無い。ウィングは広げた翼を器用に操り、まるで宙を舞うような自由な動きでサドンダスの攻撃を躱す。
この機動力はメモリの力によるものである。ウィングメモリは文字通り『翼』の記憶を宿している。そして翼は飛行のための器官だ。それ故に空中戦はウィングにとって、最高の能力を発揮できる場なのである。
「はあああっ!!」
ウィングも躱してばかりではなく、再び接近してサドンダスの肩を掴むように組み付く。そして翼の推進力を利用し、サドンダスもろとも急降下した。
番場工業の倉庫内では、二人の仮面ライダーがミュータミットが争っていた。
『こいつらを早く倒さねえとっ!!』
焦りを見せる翔太郎。飛び去ったサワが狙っているのがソラであることは明白。彼女に何かある前に止めなくてはならない。だがそれには、目の前の敵が邪魔だった。
「フシャアッ!!」
猫のような唸り声を上げながら、槍状の右腕で攻撃を仕掛けるジャガーバン。ダブルも右腕の刃で攻撃を往なす。スピードもパワーも互角。決して簡単に勝てる相手ではない。
対面の壁際ではアクセルとアルマジーグが戦っている。アルマジーグの甲殻はやはり頑強で、アクセルのエンジンブレードの一撃すらダメージにならない。
「くっ、やはり厄介だな」
一度下がり、息を整えるアクセル。ダブルもジャガーバンに回し蹴りを放つことで、距離を取る。
「しぶとい奴らめ……」
ジャガーバンも中々倒せない仮面ライダー達に苛立ちを募らせている様子だ。そこにアルマジーグが声を掛ける。
「それなら俺がまとめて潰してやるよ!」
意気揚々と言うアルマジーグ。一体何をするのかと訝しんで見ていると、アルマジーグは全身を丸め、球状に変化する。
「行くぜぇ!!」
そしてアルマジーグは回転しながら仮面ライダー達に向かって突撃する。
「避けろっ!」
その威力を知っているアクセルが叫びながら横にずれるようにして躱す。ダブルも素早い身のこなしでその一撃を躱すことに成功した。だがアルマジーグの回転は止まらない。倉庫の壁にぶつかりながら、まるでピンボールのように縦横無尽に駆け抜ける。
「おらおらぁっ!!」
猛スピードで迫るアルマジーグの攻撃を紙一重で躱し続ける仮面ライダー達。一度でもぶつかれば、ただでは済まない。だが同時にジャガーバンも危機に瀕していた。アルマジーグはただ転がるままに走っているだけ。倒れ伏すマスカレイド・ドーパントも跳ね飛ばし、その攻撃はジャガーバンにすら迫ってくる。
「これは……」
その光景を見て、フィリップは有る作戦を思いつく。
〈SHOULDER FANG〉
ダブルは右肩に生成した刃を引き抜くと、それをアルマジーグの攻撃を避けるジャガーバン目掛けて投げつける。
ジャガーバンはアルマジーグに注目していた影響でダブルの行動に気付けず、その背に攻撃を受ける。
「ぐっ!?」
さらにその攻撃によって背中を押されるように一歩踏み出したことで、アルマジーグの攻撃の軌道上へと出てしまった。そこに急加速するアルマジーグの突進がぶつかる。
「ぐあっ!?」
思いっきり吹き飛ばされ、壁へと叩きつけられる。アルマジーグも反動で止まるが、ぶつかったのが仮面ライダーでは無いことに気付き、疑問を浮かべた。
「おい、何でお前がぶつかってるんだ!」
「くっ、この能無しがっ!! 貴様こそ少しは考えて行動しろ!!」
仮面ライダーそっちのけで喧嘩を始める二体のミュータミット。
『あいつら……馬鹿なのか?』
「……俺に質問するな」
あまりのことに仮面ライダー達も思わず動きが止まる。
だがその喧嘩も突如として止まる。
「何か来る!」
フィリップの警戒の言葉と同時に、天井に空いた穴から何かが降って来た。その衝撃音は倉庫内に響き渡り、仮面ライダーも喧嘩をしていたミュータミットも落下した物体に視線が向く。
「ぐっ、実験体風情がっ!」
そこに居たのはサドンダス、そして
「はあ、はあ……」
『おい、あれって……』
「まさか……」
肩で息をする深緑の怪人―ウィング。その姿を見た仮面ライダーは思わず口が空く。
「があっ!!」
「たあっ!」
飛び掛かって来たサドンダスに対して、膝蹴りで対抗するウィング。その衝撃で互いに後退する。
「大丈夫ですか、サワ様!」
「煩いっ、お前達は自分のやるべきことをしていろっ!」
駆け寄ってきたジャガーバンに怒号を放つサドンダス。
対して仮面ライダー達は、見知らぬ姿の怪人に声を掛ける。
『おい、今の声って……ソラちゃんか?』
「……はい」
翔太郎の質問に、ミュータミットを睨みながら頷くウィング。
「あの男は私が倒します……」
その言葉には有無を言わせない強い意志が感じられる。
『……分かった、無理だけはしないようにな』
「そのメモリ、色々と聞きたいことはあるけど、後回しだね」
「こちらもさっさと決着を付けんとな」
三者三様にウィングに言葉を返す。
「お前達、行けっ!」
サドンダスの指示と共に再び二体のミュータミットが迫るが、それをダブルとアクセルが受け止める。
その間にウィングはドライバーに挿したメモリから伸びる突起を二回弾く。
〈WING SLASH〉
すると、ウィングの両腕から羽状の刃が生成される。そしてまるで威嚇するかのように体勢を低くしながら、サドンダスを見つめた。
「この欠陥品がっ!」
叫びを上げながら飛び掛かるサドンダス。ウィングは右腕を振りかぶり、跳躍する。そしてサドンダスの鋭利な爪とウィングの刃がぶつかり合い、高い金属音が鳴り響いた。