G-MoMo~銀暦少女モモ~   作:凰太郎

29 / 40
クルちゃんと惑星ジェルダFractal.5

 

【挿絵表示】

 

 私──クルロリは、彼女と共に草原へと腰を下ろした。

 小高い丘陵(きゅうりょう)だ。

 とはいえ、此処まで緩やかな勾配が続いていたので、そこそこ標高は高い。

 眼下には森の深緑が息吹き、見渡すに山々が青の清涼に霞む。

 二人して、その景色に意識を流した。

 風がそよぐ。

 草は泳ぐ。

「正直、驚きましたわね。まさか、このような再会になるとは」

「そうでもない」私は必然を生じるプロセスを示す。「少なくとも、私とアナタは〝地球人類種子〟と寿命が違う。太陽系銀河に於ける活動範囲を局地的に限定した場合、その尺度如何(いかん)では再会する確率は高くなる」

「……相変わらず理屈臭いですわね」

 少々辟易(へきえき)とした様子だった。

 何故かは特定できない。

 ブロブベガの〝ラムス〟──彼女とは旧知の間柄となる。

 再会は久しぶり。

「それで? 今回は、どのような面倒事を追っていますの?」

「ラムス、私が特異状況に在ると何故断定できた?」

貴女(あなた)(かか)わって、面倒事ではなかった試しなどありませんわよ」

「ふむ?」

「……思いっきり理解不能な顔でクルコクンをしないで頂けます?」

 苦虫顔で詰め寄られた。

 そうか。

 また私は〈クルコクン〉と呼ばれる仕草をしていたのか。

 自覚は無い。

「コレを捜索収集している」

 簡潔に納得を(うなが)す手段として、私は〈ネクラナミコンの欠片〉を提示した。

「石板?」

「コレは〈ネクラナミコンの欠片〉……現在は次元宇宙に散在してしまっている」

「ネクラナ……? 何ですの? その思いっきりパチモノみたいな名前のコレは?」

「アカシックレコード」

「ふぅん?」彼女は意味深に微笑(びしょう)を含んだ。「いつから(・・・・)〈嘘〉をつけるようになりましたの?」

 少し驚いた。

 どうやら易々(やすやす)と看破されたようだ。

「ラムス、質問がある。どうして〈嘘〉だと断定できた?」

「あら? やはり〈嘘〉でしたの?」

「ふむ?」

鎌掛け(・・・)ですわよ。貴女(あなた)が、そうそう秘事を露呈するはずがありませんから」

「ふむ?」

 さすがにラムスだ。

 既知の古さも推測材料にあっただろうが、それ以前に彼女自身が推理能力に長けている。

「で、何ですの?」

「いまは伏せておく」

「そうですか」

 意外とあっさり引き下がった。

「追求はしない?」

「いまさらですわよ」

 どういう意味だろう?

 私には汲み取れない。

「それで? あの子(・・・)達は、何ですの?」

()(さき)モモカと、天条リン──彼女達と保護者マリー・ハウゼンには〈ネクラナミコン〉の捜索収集の協力体制を依頼した」

「……それだけですの?」

「そう」

「本当に?」

「そう」

「……本当に(・・・)?」

 ジィと私の瞳を見据えるラムス。

 もしかして、コレが〝値踏み〟というヤツだろうか?

 しかしながら、この項目に関しては、私も〈嘘〉はついていない。

 マリー・ハウゼンとは〝ネクラナミコンを目的とした協力体制〟であり、()(さき)モモカと天条リンとは〝現地捜索を目的としたチームメイト〟だ。

 それ以上で以下でもない。

 ……何故だろう?

 彼女達を想起(そうき)すると、少し精神状態が揺らぎを見せる。

 イヤな感覚ではない。

 旧暦時代にも体験した〝(あたた)かさ〟だ。

 この〝ラムス〟と共に……。

 ふむ?

「では、最後の(・・・)は何ですの?」

「最後の?」

「あの〈蜂女〉ですわ」

「アレはバカ」

「……シンプルながらも辛辣(しんらつ)な猛毒を吐きましたわね」

 そうなのだろうか?

 私は真実を告げただけ。

 誹謗(ひぼう)中傷(ちゅうしょう)の自覚は無い。

「では、この惑星ジェルダには、それ(・・)の捜索へ?」

「主目的は、そう。副次的目的は、違う」

「副次的目的? 何ですの? それは?」

「それは──」

 (くち)にしようとした瞬間、明後日の方角で大爆発が生じた。

 森の一角だ。

 そして、濛々(もうもう)と煙が上がる。

 微かに流れて来るのは、けたたましい喧騒。

 大方、予測通り。

「アレは……〈アリログ〉の集落が在る方角?」

 ラムスが焦燥に腰を浮かせた。

 彼女が言う〈アリログ〉とは、この惑星に原生する六本腕のゴリラ──つまり()(さき)モモカが〝ロッポちゃん〟と呼んでいる種族の事だ。

「いったい何事が?」

 何事でも無い。

 予測確率九十六%で、確定している。

 程無くして、巨大少女が樹海の波間から飛翔した。

 滞空に眼下を見据えて叫ぶ。

「こンの! モモを返しなさいよ!」

 やはり。

 天条リンだ。

 いや、訂正しておこう。

 あの形態は〈Gフォルム〉に巨大化しているから〈Gリン〉と呼ぶべきだ。

 そして、この展開になったという事は、(おの)ずと原因(・・)も判明する。

 一応、釘を刺しておいたが、それも無駄であったようだ。

 かと言って、特に悲嘆も動揺も無い。

 予測通り(・・・・)なのだから。

 望む望まないに(かか)わらず。

「なッ? 何ですの? アレ(・・)は!」

 ラムスにしては珍しく、思いっきり驚愕していた。

 ああ、そうか。

 それ(・・)が、普通(・・)の反応か。

 彼女は初見だった。

「何故、あのモブ女(・・・)が巨大化していますの!」

「そういう特性だから」

「ファジーな説明で片付けないで下さいますッ?」

 ふむ?

 私は無駄を省いて要点だけを押さえたつもりだったが、どうやら彼女の要求にはそぐわなかったようだ。

 とりあえず現状に()いて、それ(・・)はいい。

 それよりも気になるのは〝()と事を構えているか〟だ。

 そう、一般的に最重要視される〝()が原因で、こうなった(・・・・・)か〟という要因すら、あの二人(・・・・)には無意味だ。

 何故なら、()が要因であろうと、あの二人(・・・・)ならこうなる(・・・・)

「ふむ?」と、私は気になった判断材料を一顧(いっこ)。「おかしい? ()(さき)モモカがいない?」

「え? モモカ様? モモカ様が、どうか致しまして?」

「通常なら、あの二人はワンセット。天条リンが巨大化したのならば、当然のように()(さき)モモカも巨大化して(そば)にいる」

「……いま、何と(おっしゃ)いました?」

()(さき)モモカも巨大化する」

「そちらではございませんわ!」

 では、どちらだろう?

「あの二人はワンセットで、当然のように(そば)にいる……ですって?」

「原則として、そう」

「フ……フフフ……フフフフフフ……」

 ()

「ゆ……ゆゆゆ……」

 湯?

「許せませんわーーーーッ!」

 唐突に絶叫した。

 声量にはビックリしたが、言動自体に驚きはしない。

 極稀(ごくまれ)に、彼女はこうなる。

「あのモブ女(ごと)きが? (わたくし)のモモカ様と?」

 アナタのではない。

「誰に断って、そのような役得を得ていますの! あのモブ女!」

 別に役得ではないし、許可も()らない。

 ()(さき)モモカは、基本的に誰に対してもフリーパスだ。

 何故なら『警戒心』という言葉が脳内欠落している。

「……行きますわよ、クルロリ様!」

 何処へ?

「こうなったら、(わたくし)が目にもの見せて差し上げますわ! あのモブ女! そして、完膚(かんぷ)()きまでに叩き込んであげますわ……(わたくし)こそが、モモカ様に相応(ふさわ)しいと!」

 ()(さき)モモカと付き合うのに、品格が要求されるとは初めて知った。

 私が知る限り、彼女の前には〈人間〉も〈アリログ〉も〈ブロブ〉も〈ハーチェス・エルダナ・フォン・アルワスプ・ビースウォームⅣ世〉も並列なのだが?

 ふむ?

「ラムス、もう少し待ってほしい」

「何故ですの! この期は、ドサクサ(まぎ)れに、あのモブ女を失脚させて、ブラックホールのド真ん中へと(ほうむ)り去る絶好のチャンスですのよ!」

 いま、物騒な事を言った。

「そして、モモカ様に(わたくし)を売り込む好機! そうしたら、毎日毎日、溺愛(できあい)のままに抱き合えますわ! 誰の目も気にせずに、全宇宙公認のラブラブチュッチュッですわ!」

 いま、アブノーマルな性癖(せいへき)口走(くちばし)った。

「ラムス。気持ちは微塵(みじん)も分からないけど、もう少し待つ事を要求する」

「……いま、軽く毒を混ぜていませんでした?」

 混ぜていない。

 真実。

「もう少し待っていれば、何か起きますの? あのモブ女が爆死しますの?」

 何故、そこまで天条リンを敵視するのだろう?

 親近嫌悪というヤツであろうか?

「たぶん、もうひとつの構成要素(・・・・・・・・・・)が生じる。そして、いつも通り(・・・・・)の展開となる」

「もうひとつの構成要素?」

 彼女が怪訝(けげん)を浮かべた直後、雲間を抜けて鋼鉄の巨人が降下してきた。

『フハハハハハッ! 宇宙の帝王まで、あと100ポイント! ドクロイガー参上!』

 予想通り〈ドクロイガー〉が現れた。

 そして、何故かポイント制になっていた。

 彼が介入する展開は、かなりの高確率で予見出来た。

 ただしポイント制については、まったくの予想外。

「帰れ」

『ヌォォ? 取り付く島も無しにッ?』

 間髪入れずに、Gリンの冷蔑冷遇(れいべつれいぐう)

 この展開も予測通りだ。

「さて……」私はベルトバックル部からパモカを取り外し、指令を(くち)にした。「来て、ドフィオン」

 彼方中空に(きら)めきが一条。

 それは、すぐさま〈宇宙航行艇(コスモクルーザー)〉として飛来する。

「な……何ですの? この巨大なエイは?」

「私の愛機〈ドフィオン〉」

「愛機?」(しばら)く言葉を呑んで見入るラムス。「あの〈ドリル軽バン〉は、どうしましたの?」

「……ラムス」

「はい?」

コチラ(・・・)の読者が、アチラ(・・・)を読んでいるとは限らない。その辺りのTPOは(わきま)えてほしい」

「……貴女(あなた)でもメタツッコミとかしますのね」

 何故、苦虫顔を向けられるのだろう?

 まったく心当たりが無い。

 ふむ?

 と、後方から見知った顔が飛来した。

「おお! クル! 此処に()ったか!」

 ハーチェス・エルダナ・フォン・アルワスプ・ビースウォームⅣ世だ。

 (いささ)か興奮気味にも見える。

「ハッちゃん、何?」

「クルコクンで〝ハッちゃん〟言うな」

 ふむ?

 おかしい?

 ()(さき)モモカに準じたのだが?

「そんな事より! そなたに伝えるべき事が出来たのじゃ!」

「状況が一転したのは、こちらでも視認した。いったい、何があった?」

「うむ、コレじゃ!」

 (てのひら)サイズのカラフル立方体を見せてきた。

 確か旧暦時代の立体パズル玩具〈ロービックキューブ〉というヤツだ。

「……ハーチェス・エルダナ・フォン・アルワスプ・ビースウォームⅣ世? コレが何?」

「うむ、自力(じりき)(そろ)えられるようになった!」

 

 

 

「では、加勢に行って来る」

 私はラムスへと簡潔に告げ、愛機〈ドフィオン〉を発進させた。

 彼女の(かたわ)らには、消沈したハーチェス・エルダナ・フォン・アルワスプ・ビースウォームⅣ世がガクリと(ひざ)をついていた。

 ぞんざいな無視に傷ついたようだ。

(そろ)えたのじゃ~~! 自力(じりき)(そろ)えたのじゃ~~~~!」

 聞こえない。

 地表から嘆き声が聞こえたけれど、聞こえない。

 カオスは、もういい。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。