Only 10g of metal   作:おはようグッドモーニング朝田

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以前投稿した『ぼくからキミへ』の正統続編的な存在です。ギャグテイストとシリアステイストを分割しました。
ギャグの方は『生意気邪竜嫁がトホってワイプ顔オチする話』と題して別作品としてまとめることにしました。そちらもよろしくお願いします。

今作は邪ンヌと立香の微熱ストーリーをメインに書いていけたらいいなと思います。

ドライだけれど、確かな繋がりがある。そんなお話です。
どうぞよろしく。


かわいてて、ぬるくて、あたたか。

かわいてて、ぬるくて、あたたか。

 

 

 

 街の雰囲気とは裏腹に空が零す涙が、まだ雪に変わる前。1年で最もカラフルな光が世界を照らすクリスマス・イヴ。無邪気な夢が食卓を飾り、それを見守る者たちがサンタさんへと変わっていく。

 目を覚ますと、そんなクリスマス・イヴが終わる3時間前だった。

 

「これは、やらかしたなぁ……」

 

 ベッド脇の床に倒れている段ボールの、その中で出番を心待ちにしているモミの木もどきに手を合わせる。南無。どうやら君の出番はまた365日後になりそうだ。

 

「ほら、オルター。起きてー」

 

 隣ですいよすいよと寝息を立てている灰髪の女性を揺する。俺が起き上がったことで布団に冷気が入り込んだらしく、ぷるっと震え、体が少し縮んだ。布団を掛けてあげると、また膨らむ。剥ぐ。縮む。掛ける。膨らむ。

 それがなんとも可愛くて、何度も何度も繰り返してしまう。ははは、愉快。

 

「……寒いんだけど」

 

 眠り姫も、どうやら微睡みに刺さる冷気には敵わないらしい。その瞳は未だ開かずとも、意識は世界に引っ張り出されてしまったようだ。

 

「あ、ごめん。起こしちゃった?」

 

 当初の目的さえ忘れ、寒さにプルプルする彼女に形容しがたい感情を呼び起こされた自分がいた。

 顔だけでこちらを向き、眉間にしわを寄せる寝ぼけ姫。

 

「起こす気まんまんだったでしょう。何言ってんだか。ねぇ、今何時?」

「9時」

 

 露骨なため息。もぞもぞと布団の中に帰っていく。

 

「まだそんな時間? せめて昼まで寝かせなさいよ……」

 

 布団を握りしめ、防御は万全。徹底抗戦の構えだ。

 そんな彼女に、俺は切札にして最強の1撃を放つ。

 開けられたカーテンの音に何を勘違いしたのか、こちらに背を向ける相手兵士。強烈な太陽の光が差し込むと思っているのだろうが、いつまでたってもそんな時は来ない。不思議に思ったであろう彼女がこちらを向き、恐る恐るその眼を開く。

 窓から差し込むのは、陽光ではなく月光だ。眩しいはずも無し。その額縁に見えるのは青空などではなく、濃紺に塗りつぶされた夜空だ。暗闇に慣れた目に優しかろう。

 

「今、夜の9時だよ。21時」

「……はぁ?」

 

 ここ数日、ある界隈の冬の祭典で地獄のような日々を送っていた俺、藤丸立香と藤丸ジャンヌ・オルタは、完全に寝過ごしていた。

 クリスマス・イヴ終了まで、あと2時間と45分。これは、そんなサンタクロースが交通渋滞を起こす時間帯に始まった俺と彼女の、乾いていて、ぬるくて、ちょっとだけ暖かい、クリスマスのお話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 オルタという人間は、捻くれ者なのだ。簡単に言うと。

 口ではあーだこーだ言いつつ実は素直じゃないだけだったりするし、流行り物を皮肉ったりするが意外とミーハーなところもある。

 つまるところ、イベント事やそれにちなんだ催し物が好きなのだ。こう見えて。バカにするような物言いをするが、なんだかんだ言いつつ参加する。そういう性格なのだ。面倒くさい。でも、可愛い。

 

 何が言いたいかっていうと。

 

「イヴだからって、わざわざ出かけなくたっていいじゃない。それにもうこんな時間よ?」

「そんなこと言って。オルタ、歩くのめちゃ速いよ」

「うるさい!」

 

 オルタはクリスマスを楽しみにしていたのだ。

 赤や緑の光が、目まぐるしく背後に消えていく。俺たちは夜の街に繰り出していた。あの後、パッとシャワーを浴びて、サッと着替えて。

 しかし、今夜の街はにぎやかだ。通りのライトアップ、整った男女比、年齢の傾向、人の密度……。人口が急激に倍増したかのような錯覚を覚える。この中にサンタはいないだろうということを考えると、なおさらだ。

 

 特にあても無く、オルタと2人で浮かれた街をぶらつく。それはそうだ。こんな時間に起きた俺たちに綺麗な夜景が見えるディナーなんて用意されている筈がなく。雰囲気の良い小洒落たお店も同様に。そんなものはとうに予約でいっぱいだろう。通りは人で溢れているのに、冷たい風が首元を撫でていった。

 そもそも、一般的な社会人とは言えない生活をしている俺とオルタに一般大衆向けのイベント事なんていうのも、土台無理な話なのだ。ていうか、なんでこう毎年冬の祭典はクリスマス周辺なのだろうか。俺たちみたいな日陰者はどうせ特に予定もないだろうという運営の配慮だろうか。馬鹿にしているのだろうか。薄暗い部屋で適度な湿気と明かりを頼りに生きていろとでも言いたいのだろうか。

 確かに陽の当たらない場所でじめっとした生活を送っているが、季節のイベントだって楽しみたいし、騒ぎたい。決して日陰者同士が集まって「〇〇さんの誰々が尊い」とか「ガチャで〇万爆死した」なんていう傷の舐め合いなどではなく、もう少し落ち着いた場所で、季節感と節度のある楽しみ方がしたいのだ。隣で同じように文句を垂れる彼女と2人、向かい風が少々冷たい世間を歩く。

 そんな俺と彼女が流れ流され辿り着いたのは、よく見る普通の居酒屋だった。看板メニューは焼き鳥らしい。

 流石にイヴの夜にここはどうなのだろう、と思った俺が彼女を窺う。

 

「ここでいいの?ローストチキンも、ブッシュドノエルも無いけど」

 

 串に通ったチキンはあるけど。

 

「いいのよ。べつに。何処だって」

 

 堂々と、臆することなく店内に踏み込んでいくオルタ。街には普段以上の人がいるのに、この店は普段以上に人が少なかった。

 クリスマスのクの字もない店内に、オルタの燃えるように苛烈で、手を伸ばせば掻き消えてしまいそうなほど儚く透明な声が染み込んでいく。

 しばらくして、オードブルも何もない、飾られてすらいないテーブルに生ビールのジョッキが2つ置かれる。お通しと枝豆を連れて。運んできた若い男の店員の笑顔には、青筋が浮かんでいた。合掌。

 炭火焼の煙が漂う大衆居酒屋。2人用のこぢんまりした座席。その対面で頬杖をつくオルタがジョッキを掲げる。それに合わせてこちらもそれを持ち上げると、視線を交差させた彼女が珍しく、本当に珍しく、柔らかく微笑んで。

 

 

「ケーキもごちそうもいらないわ。1杯の祝杯と、アナタがいれば」

 

 

 きっと街の熱気にやられてしまったんだろう。こんな言葉が平気で飛び出る。

 

「……そうだね。キミと2人なら、何処でもいいか」

 

 やられたのは、俺も同じか。

 カツン、とその見てくれに似合わない優しい音がぶつかったジョッキから聞こえる。中身を半分ほど減らすと、ポカポカと体が熱くなった。

 

 真冬だというのに体温が上がっていくのは、俺と彼女の顔が赤いのは、酒のせいに違いない。そう、きっと、酒のせいだ。

 君の瞳に恋なんて、もうしないと思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 早起きなニワトリが鳴き始める頃、俺とオルタは帰路にいた。あの後は結局クリスマスの浮かれムードは鳴りを潜め、いつものわいわい朝までコース。朝と言ってもまだ暗いけれど。

 厚手のジャンパーに覆われた腕をさすり、白い息を吐くオルタ。

 

「うー、寒い。朝の冷え込みって異常よね。火でも着かないかしら」

 

 己の左手を見つめるオルタ。

 

「そんなファンタジーな。それに、今手から火を放たれたら俺が真っ先に燃える」

「あぁ、焚火。良いかもしれないわね、暖かくて」

「もしジャンヌが炎を操る魔女だったら、絶対手は繋がないようにしよう……あいたっ!」

 

 俺の左手がゴキリと悲鳴を上げる。ついでとばかりに足も踏まれた。最後のは余計だろう。

 仕返しだ、と体重の軽い彼女をぐるぐる振り回す。

 

「わ、ちょっと、やめなさいよ! 私たちお酒入ってるのよ!」

 

 白い街灯が弱々しく俺とオルタを照らす。腕を引き上げ、空いている手で彼女の背を支えて停止する。

 

「……なに? ダンスでも踊っているつもり?」

「ダンスは、苦手だな」

「もっとマシな照明、用意しなさいよ」

 

 一瞬が無限に引き延ばされる感覚。オルタの吐息が当たった頬が、少し熱を帯びる。

 

「決め台詞とか、無いワケ?」

 

 ニヤリ、といやらしく笑う彼女に乗せられた俺は、何処かのドラマで聞いたような言葉で返事をする。

 

「パーティは終わらない。今夜は踊り明かそうか」

 

 目を見開いた彼女と至近距離で見つめ合う。遠くでトラックが走り去っていった。

 

「……」

「……」

「……ぷふ! ごめ、ちょっと待ちなさい、クククッ!」

「ふ、あはは!」

 

 支えていた手を放し、歩き出しながら大いに笑う。頭上の電線が揺れた。街灯はどんどん後ろへと遠ざかり、手をつないだ2人で1つの影が薄く、まっすぐ伸びて消える。

 

「なに! さっきの!」

「さぁ? ドラマか何かで観た気がするんだけど」

「はぁ、おかしい。最高に似合ってないわよ」

「だよね。しかも踊り明かそうって。もう明けてるし」

 

 それに、とはどちらが放った言葉だっただろうか。涙さえ滲んでいる顔で笑い合い、まったく同じことを口にする。

 

「ダサいわね!」

「ダサいよね」

 

 特に示し合わせてもいないのに、どちらともなく揃う台詞。もう何もかも可笑しくなってしまい、2人で下品に笑い合う。世間的にはクリスマスの朝。街並みに響く男女のミスマッチな汚い笑い声。近隣の住民を起こしてしまわないか普通心配になるものだが、如何せん酔っ払いのやることである。理性は数倍に薄められていた。

 

「笑った笑った。素面だったらキモいだけよ? あれ」

「今度の新刊で使おうよ」

「ギャグ本になる以外の道が見えないわ」

「えー、そんなことないでしょ。クリスマスに、あのセリフだよ? ロマンチックじゃん」

 

 隣を歩く彼女がまた盛大に笑った。底冷えするような朝の空気はとうの昔に吹き飛んでしまっている。

 

「私たちのクリスマスがそうなったこと、1度でもあったかしら?」

 

 片手で器用に、そして大げさに、肩をすくめた。そしてこちらに、ニヤニヤと視線を寄越す。

 確かに。夜景が見えるレストランも、煌びやかなパーティも、俺とオルタのクリスマスに登場したことは1度だって無かった。俺が考えていると、話は最後まで聞きなさいとばかりに腕が引かれた。

 

「そしてこれからも、きっと無いわ」

 

 振り向いて、今夜限りの貧相なスポットライトを見つめる。遠ざかるそれは、もう古いらしく点いたり消えたりを繰り返している。

 

「冷え冷えとしていて、なんだか寒そう」

 

 それは、世間一般的に言われている「ロマンチックなクリスマス」のイメージだろうか。それともスポットライトに照らされるパーティ会場のステージだろうか。

 

「まぁ、燃えるように情熱的な夜も、いらないけれど」

 

 イベント事が好きな彼女にしては、意外な意見だった。俺が驚いている様子からその考えを読み取ったらしい彼女が、ツーンと横を向きながらぶっきらぼうに答える。

 

「馬鹿ね。私たちには私たちらしい温度感があるってことよ」

 

 そうね、ちょうどこれぐらいの。結ばれていた手がキュッと強く握られる。

 だいたい36度くらいだろうか。それはちょっと、ぬるすぎな気もするけど。

 

 

 頭の上で光が明滅する。真冬の上空を横切ったのは、流星だろうか。サンタクロースだろうか。

 下を向いていた俺には、わからなかった。上を向いていたオルタなら確認できたかな。

 重なり合って止まっていた影が動き出す。スポットライトは、もう誰も照らさない。家はもうすぐだ。

 

 ドライで、ぬるい。そんな俺とオルタの温度感。そのクリスマスだっていつも通りで、ほんのちょっとだけあたたかい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<おまけ>

 

ぐだお「嫁の実家でブッシュドノエルを死ぬほど食わされました」

邪ンヌ「だから言ったでしょう。いらないって」

 





ありがとうございました。

次回もよろしくお願いします。
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