俺と天狐の異世界四方山見聞録   作:黒い翠鳥

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File No.07-1 『日に就り、月に将む 』

マヨイガの庭で、俺は精神を集中させていた。

感じ取るのは俺自身の中を(めぐ)る霊的エネルギー。

それを両掌(りょうのてのひら)の内で回転させ、加速させる。

可能な限り加速させたら、両腕を突き出し、(てのひら)を発射口に見立てて撃ち出す!

 

「波ぁ!!!」

 

結果、俺の前にお座り状態でいたコンが、そよ風を浴びたようにポテリと倒れた。

 

『うむ、いい感じで霊波を習得してきておるの。良きかな良きかな』

 

倒れたコンがすぐさま起きて同じ姿勢に戻る。

俺がやったのは霊波と呼ばれる霊的な攻撃。

霊能力者がよく「波ぁ!!」ってやるあれだ。

 

なんでそんなものをコンに向けて撃っているかと言えば、俺の霊波の習得具合の確認の為だ。

妖術の勉強をしている俺だが、狐火や念力を習得するならまず霊力を放出する技術を覚える必要がある。

その為には霊波の修行が一番効率がいい。

 

霊波は色々応用が利くそうなので、覚えていて損は無いとのこと。

コン曰く基礎にして奥義なのだとか。

 

コンに向けて撃っているのは視覚的に分かりやすくするためだ。

実際に霊波を浴びてみて、威力の分だけ転がってみせる。

なんか霊波で吹っ飛ばしているように見えてやる気出るじゃろとの事。

 

言うまでもないが、俺の霊波ではコンはダメージどころか小動(こゆるぎ)もしない。

5回くらい転がせたらひとまず合格ラインだそうだが、倒れるだけでは先は長そうだ。

 

「波ぁなのだ!」

 

隣でミコトが霊波を放つ。

ポテッと倒れたコンがころころと3回ほど転がった。

最近勉強を始めたばかりのミコトにもう追い越されて一瞬やるせない気持ちになるが、これは仕方ない。

 

ミコトが霊力との親和性高い『妖怪』である事が一つ。

 

普段から妖術を使っているため、元々基礎はできていたのが一つ。

 

「タケル、見たのだ!? 三回も転がったのだ!」

 

「やるな、ミコト。凄いぞ」

 

そう言って頭を撫でてやると、ミコトは「にひひ」と嬉しそうに笑う。

俺が褒めるとミコトのやる気がぐーんと上がって一層頑張るのが一つだ。

 

まぁ、俺もミコトにいいところを見せたくて頑張っている面があるので何も言えないが。

一応、俺も人間にしては結構いいペースで習得出来ているらしいからな。

 

 

 

『ぬ? 客人か』

 

そう言ってコンが人に化ける。

今日は15歳くらいかな。

 

誰か来たようなので入り口を見てみるが、特に人の姿は見えない。

 

「だれもいないのだ」

 

「境界で戸惑っておるようじゃの。どれ、呼びに行くか」

 

あぁ、まだ境界付近なのか。

 

境界を抜けてからマヨイガまで少し距離がある。

一本道ではあるが、マヨイガの特性上ここからでは境界のすぐそばは目視できないし、逆もまたしかり。

とはいえ、コンが俺から離れて迎えに行ける程度の距離ではあるのだが。

 

(タケル、歓待の準備じゃ。ミコトは客間を整えておけ)

 

いきなりコンから精神感応が来た。

え? 何があったの?

 

(超大物の客神じゃよ。()()()()()()()じゃ)

 

 

 

なん……だと!?

 

 

 

 

 

マヨイガの台所で歓待の為の料理を作る。

とは言っても所詮は素人の料理。

あまり豪華なものは作れないので珍しさで勝負する。

すなわち和食だ。

 

今回マヨイガに訪れた太陽神はフェルドナ神側の神話体系らしいので、和食は珍しい分類になるだろう。

太陽の国(五郎左殿のところ)の太陽神ならまた別の対応になるだろうが。

 

ご飯は炊き込みご飯。

白米だと味が薄すぎて好まれない場合があるからな。

 

おかずに出し巻き卵と茸の天ぷら。

あと味噌汁を用意する。

 

具はとっておきの油揚げと豆腐を使う。

前に稲荷寿司を作った時にいくつか保存しておいたのだ。

中に入れたものが腐らず劣化しないという妖怪蠅帳(はえちょう)に入れておいたので保存状態は問題ない。

サイズ的に量が入らないのが難点だが超便利な妖怪である。

 

ちなみに蠅帳とは通気を良くしてかつ虫が入らないように金網等を張った戸棚の事。

折り畳みタイプの蠅帳もあるが、こちらは食卓カバーと言った方が分かりやすいか。

 

出来れば魚が欲しいが、無いものは仕方ない。

そのうち異世界の魚を釣ってきて妖怪生簀(いけす)で飼ってみようかな。

 

コンからの報告では客神は二柱。

一柱は幼児らしいのだが、大人と同じ食事が出来るので量だけ減らして同じものをとオーダーが入った。

通常の食器に加えて少し小さめの食器を用意して盛り付ける。

 

一通り料理が出来たら客間へ運ぶ。

異世界の太陽神か。

緊張するな。

 

 

 

作法に則って客間に入る。

そこにはコンの他に二柱の神が座っていた。

 

一柱は明るそうな青年。

もう一柱は幼児なんだが、オーラが幼児のそれじゃない。

青年の方はいるだけで周囲を温める正しく太陽なオーラを纏っているのに対し、幼児の方は夜の(とばり)

熱を冷まし、全てを受け止め、静寂をもたらす。

『夜』に関する神なのは間違いないだろう。

 

「紹介いたします。この者は同じく宇迦之御魂神(うかのみたまのかみ)に仕える禰宜(ねぎ)

 

禰宜(ねぎ)にございます」

 

コンの紹介で頭を下げる。

 

「君が異世界の人間か。見た感じ僕らの世界の人間と変わらないんだね」

 

「ぷいや~」

 

青年と幼児が興味深そうにこちらを見る。

二柱からすれば俺は違う世界の人間だ。

神としても物珍しいのだろう。

 

今の発言で分かった事は青年の方(おそらく太陽神)は異世界人を見たことがないという事。

少なくとも信仰される領域にはいない可能性が高い。

もしかしたら現世に帰る方法を知ってたりしないかなぁと期待したのだが。

 

「おっと、紹介がまだだったね。僕はプロミネディス。太陽神だ。こっちはルミナ。月の女神さ」

 

「ぷい(胸を張っている)」

 

「彼女は特殊な神でね。月の満ち欠けによって年齢が変わるんだ。だから見た目はこんなだけど大人の女性として扱ってくれるとうれしいな」

 

食事を運んで来ただけの一介の禰宜相手に態々自己紹介だと!?

なんか思ってたよりフレンドリーなんですけど!?

 

「ご紹介、痛み入ります」

 

「ははは、そんなに硬くならなくていいよ。僕達は単に旅の途中で立ち寄っただけの旅人だ。天狐くんのご厚意に甘えさせてはもらっているけど、人間の君にとっては関係のない異国の神なんだから」

 

プロミネディス神はそういうが、ではそうしましょうという訳にはいかない。

俺は宇迦之御魂神の禰宜。

そう名乗った以上、俺の印象はコンと宇迦之御魂神の評価にも関わるのだから。

 

「う~ん、ならこうしよう。天狐君、お願いがあるのだけど禰宜君には下がってもらって()()()()()()()に同席してもらってもいいかな?」

 

「差し支えございません」

 

なんともまあ、豪気な。

そうまで言われたら()()()()()()()

 

「それでは改めまして、陽宮(ひのみや) (たける)と言います。以後お見知りおきを」

 

「タケル君だね。よろしく」

 

「ぷ~い」

 

自己紹介を終えると、ルミナ神がパンパンと軽く座卓を叩く。

 

「どうしました?」

 

「さっきからいい匂いが漂ってきているからね。待ちきれなくなったんだよ。かく言う僕も興味をそそられっ放しだ」

 

これはしまった。

料理を置いたまま話し込んでしまった。

 

「これは失礼しました。是非ともご賞味ください」

 

料理を二柱の前に置く。

ルミナ神は目を輝かせ、プロミネディス神は感心したように頷いた。

すぐさまフォークを使って食べ始めたルミナ神に対し、プロミネディス神は箸を手に取ると使いかたを確かめるように数度動かしてから食べ始める。

 

箸を使えるのか。

しかし常用しているようには見えず、かといって箸使いのタブーを避けて食事しているのが分かる。

おそらく『宿命通』やそれに類する能力で俺かコンを覗いて覚えたのだろう。

それを前提で対応した方がいいな。

 

食事の方は割と気に入ってもらえたようで、出し巻き卵のお代わりを要求するルミナ神と苦笑しながら自分の分を分けてあげるプロミネディス神というやり取りを見ることになった。

出し巻き卵ぐらい追加で作りますよ。

 

食事を終え、デザートとして柏餅(かしわもち)を出しながら歓談する。

主に聞かれたのが、異世界に来てどう思ったかとかこれからどうするつもりなのかとかだ。

 

プロミネディス神は話を聞き出すのが上手く、直接聞かれた訳でもないのにいつの間にかその話題になって話してしまっている。

別に話して困る事ではないのだが、なんとなく悔しい。

 

こちらからは異世界の大きな都市や文化の話を聞いた。

60年に一度、(プロミネディス神の神話体系の)すべての神々が聖地に集い、盛大な祭りが催されるのだとか。

 

そこでは神々の代表による穢れ払い大会が行われ、優勝するとパワースポットである『金色(こんじき)の泉』を1年間独占できるのだとか。

プロミネディス神も何度か優勝経験があるそうだが──

 

「金色の泉って名前は凄そうだけど見た目が派手なだけの龍脈で、独占権と言っても記念品みたいなものだからね。参加するよりも見てる方が楽しいよ」──だそうだ。

あくまで名誉を賭けた戦いらしい。

 

他にもこの国の首都は西の方にあるとか、プロミネディス神を信仰している国は大小含めて7つあるとか、ここは大陸の端っこの方であるとか。

色々参考になる話を聞けた。

引きこもっておく予定なので役に立つ日がくるかは分からないが。

 

そうこうしている内に時間の方もいい感じに過ぎていく。

 

「おっと、思ったよりも長居してしまったね。そろそろお(いとま)させてもらうよ」

 

プロミネディス神がそう言いだし、この歓談もお開きになった。

ルミナ神にお土産の御団子詰め合わせを献上し、境界まで見送る。

境界まで歩く途中、プロミネディス神にお守りのようなものを渡された。

 

「もし、僕の力が必要になったらそれを握りしめて祈るといい。ご馳走になったお礼に力を貸すよ」

 

「ありがとうございます。もしもの時はお願いしますね」

 

使わないで済むに越したことは無いけど。

そして二柱は境界を越えて出て行った。

 

ふぅ、これで一段落か。

 

「お疲れ様じゃな。フェルドナ神の時より落ち着いて対応できていたではないか」

 

それはプロミネディス神が『お稲荷様の禰宜』ではなく『陽宮尊』を相手にしてくれたからだ。

正直、あの時まで何か粗相をしてしまわないかびくびくだったんだぞ。

ぶっちゃけお稲荷様の禰宜として神様の相手をするのは俺には荷が勝ちすぎるんだよ。

かといって居ないのも無礼になる可能性があるもんだから隠れている訳にもいかない。

 

それをプロミネディス神は個人の付き合いの場に変えてくれた。

そうなると俺自身の器量は試されるが、プレッシャーはぐっと減る。

 

「そう言えばコンは途中から全然話して無かった気がするんだが」

 

ほとんど俺とプロミネディス神が話してたぞ。

 

「タケルが来る前にお互いの要件は済ませたからじゃよ。お互いに胸襟(きょうきん)を開いて事に臨んだ故に存外早く終わってのぅ」

 

やはりお互いに『他心通』と『宿命通』が使えると話が早くて助かるとコン。

胸襟を開いたってそういう事かい。

まぁ、話は早いわな。

どういう結果になるかは別として。

 

「プロミネディス神の要件って何だったんだ?」

 

「異世界から来た儂らの調査じゃよ。目的とか脅威にならないかとか。一応名目は『旅の途中で隠れ里を見つけたから立ち寄ってみた』じゃったが、建前じゃと自分で言っておったしのぅ」

 

で、どうだったの?

 

「一言で言えば経過観察じゃ。『行動の制限はしないけどやりすぎたら警告するからその時はすぐにやめてね。あと大きな行動をする時は一言報告してくれると助かる』といった感じじゃな」

 

当たり前と言えば当たり前の話。

 

「そうじゃな。大分配慮してくれたんじゃろ。まぁ、マヨイガの起点がある場所の最高神にそう言ってもらえたのは大きい。余計なちょっかいを出される心配が減るという事じゃからな」

 

そういう意味では有難い。

というか、プロミネディス神はやっぱり最高神だったのね。

太陽神というからそんな気はしていたが、性格的にあんまりそんな感じがしなかったから確証が持てなかった。

 

「タケル、コンさん、もうお話は終わったのだ?」

 

日本屋敷からミコトが駆け寄ってくる。

 

「お待たせ。もう終わったよ」

 

「じゃぁ、ご飯にするのだ。準備できてるのだ」

 

そう言えばお腹空いてきたな。

時間的には遅い昼食だ。

 

「献立は何だい?」

 

「えーと、ご飯とお味噌汁と────」

 

そんな会話をしながら今日という一日は過ぎていくのだった。

 




『日に()り、月に(すす)む 』
物事が着実に進んでいる事の例え。
「就り」は成り、「将む」は進む。
事が日ごとに成り、月ごとに進んでいるという事。

少しずつ、でも確実に。
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