ある日の事。
マヨイガにルミナ神が遊びに来た。
とは言っても、実は今回が初めてじゃないんだけどな。
最初に来た時は幼児の姿だったルミナ神だが、今日は小学生低学年くらいの姿だ。
月齢によって姿を変える神だそうだが、幼児姿の時は新月だった。
満月の時はどんな姿なんだろうか。
お土産として異世界のお菓子も持ってきてくれたので後日頂こうと思う。
「これはまた、悩みどころですわね。……決めましたわ」
そう言ってルミナ神は一枚のカードを裏向きで出す。
「儂はこれで」
「なのだ」
コンとミコトも同じように裏向きで出す。
俺も最後に手札から一枚選んで裏向きで出す。
「「「「開」」」」
皆の声を合図にカードを表にする。
ルミナ神が『金の9』、コンが『木の1』、ミコトが『木の4』、俺が『火の2』だ。
「では、この『火の3』は私のですわ」
ルミナ神は中央に置かれた『火の3』のカードを自分の場に移動させる。
俺たち3人と1柱は何故か妖札に興じていた。
異世界の遊戯に興味があるという話だったのだが、それならとコンが妖札を持ってきた。
人ではなく妖怪側の遊び道具であるが、ルミナ神的にはどちらでも良かったらしい。
今回のルールは『式比べ』。
コンの持っている妖札には古今東西の妖怪が描かれている。
これは、そんなイラスト付きの妖札でよく行われるルールだ。
別にイラストが無くても出来るゲームではあるのだが、無いとちょっと味気ない。
プレーヤーは陰陽師という設定で、式となる妖怪を集めて誰よりも強い式神軍団を作る事を目的としたゲームだ。
まず妖札を一組(一般的に裏面が黒いので黒札と呼ばれる)シャッフルし、各プレーヤーに手札として特定の枚数配る。
手札の枚数は参加人数によって変わるが、大体3~5枚くらいが多いか。
今回は手札4枚でやっている。
次に適当な方法で親を決め、もう一組の妖札(一般的に裏面が赤いので赤札と呼ばれる)をシャッフルし、一番上のカードを親がめくって場の真中へ置く。
その後、各プレーヤーは手札から一枚選んで裏向きで出す。
出す順番は親から時計回り。
全員が出し終えたら「
この自分の場にある赤札が自分の式神軍団になるわけだ。
数字が同じなら『木』が一番強く、『土』、『水』、『火』、『金』の順で強い。
出した
赤札を獲った人が次の親になり、赤札の山から一枚めくって場の真中へ。
これを赤札の山が無くなるまで繰り返す。
黒札の山は無くなったら捨て札をシャッフルして新たな山とする。
最終的に自分の場のカードの数字の合計が一番高い人が勝者となるが、同じ属性で数字が連続していた場合、連続しているカードはその一番高い数字と同じ数字として扱える。
具体的に言うと同じ属性の『4』『3』『2』『1』を持っていた場合『4』『4』『4』『4』として扱い、合計が16となるのだ。
このルールを『式比べ』では『
ルミナ神は『火の3』を手に入れる為に『金の9』を使った。
彼女の場には火属性は『8』『7』『5』『4』に『3』を加えた5枚。
このルールでは最弱の『金』といえど、数字は『9』。
ならば『火の6』がめくれた時の為に残しておくのが普通だろう。
にもかかわらず『火の3』を獲る為に使ったという事は、他の属性の『9』を持っているな。
状況はコンがやや優勢だが、ルミナ神が『火の6』を獲れば一気に逆転する。
俺やミコトも逆転できないほど差が開いている訳でも無い。
ルミナ神が遊びに来るにあたり、プライベートの時は無礼講でお願いしたいという申し出があった。
無礼講とは地位や身分の上下を抜きにして皆で楽しむ宴の事だ。
ただし、神様が言った場合は少し意味が異なる。
というのも、元々神様に奉納したお酒などを神事の参加者が授かる儀式を『礼講』と言い、礼講では神さまと人間が一緒に同じものを頂く。
以前さらっと言った神人共食の儀式の一種だ。
もう少し詳しく言うならば、まず神様にお酒を捧げて飲んでいただき、次に身分の高い人間から順にそのお酒を頂く。
言葉にすればそれだけだが、礼儀を重んじる儀式故に「礼講」と呼ばれるのだ。
そして、礼講の後に神様抜きでくだけた雰囲気の宴が行われる。
この宴では地位の差関係なくお酒を酌み交わしたそうなのだ。
これを『
稀に無礼講を「無礼を働いても許される宴会」と間違って認識している人がいるが、あくまで身分の上下を抜きにした宴会であり、無礼などもってのほかである。
『堅苦しい礼儀』は不要というだけで最低限の礼儀やマナーは忘れてはいけない。
「無礼-講」ではなく「無-礼講」だからな。
少し話が逸れたが、神様が言ったなら「無礼講は神様抜きで行われるものであるから、神である自分も同族と同じように扱ってくれ」という意味になる。
コンはルミナ神を神使仲間と同じように扱うし、ミコトは付喪神、俺は人間と同じように対応する。
だからと言って気安くとはいかないがな。
ここ何度かで多少の
まぁ、普通に見知ったお客さんくらいの対応だ。
「そう言えばルミナ神、今日は夕食は食べて帰られますか?」
ちなみにこの場合の「神」は敬称な。
「お邪魔でなければお願いしてもいいかしら」
「ええ、ではご用意させていただきますね」
さて、何作ろうかな。
今までは和食で物珍しさを押し出したから、今日は洋風で馴染みのありそうなものにするか?
いや、物珍しさを期待している可能性もあるな。
……日本生まれの洋食、オムライスにするか。
決して小学生のようなルミナ神を見てお子様ランチが思い浮かんだからではない。
しばらくして『式比べ』の決着がついた。
ルミナ神はコンに『火の6』の獲得を阻まれ、しかしコンも獲得を阻むために強い手札を握り続けた事で今一つ点が伸びず、その陰に隠れて着実に点を伸ばしたミコトが漁夫の利を掻っ攫った。
俺? 普通に負けたよ。そんな日もあるさ。
「なかなか面白かったですわ。勝てなかったのは残念ですけど」
実際、ルミナ神とコン、ミコトの点数はほとんど同じだ。
ルミナ神とコンで首位争いをしてると思ったらミコトが温存していた手札で一気に
気付いた時にはすでに遅く、ルミナ神もコンもミコトの快進撃を止められる手札ではなかったのだ。
「そろそろおやつ時ですね。何か用意しましょう」
「手伝うのだ♪」
「待っていましたわ」
期待されているようなので台所へ急ぐ。
妖怪菓子箱さん、今日のおやつをお願いします。
蓋を開けると出てきたのは
中身を取り出し、一度蓋をして再度開ける。
菓子箱のサイズ的に量が多いと一度では取り出せないのだ。
次に出てきたのは
土地によって色々種類があるが、多分山口県の外郎かな?
その次は
温泉地のお土産とかで売られているやつな。
量的にこれで最後かな?
次に出てきたのはカステラ。
……え? カステラって和菓子なの?
最後に袋に入った飴玉が出てきた。
これはルミナ神へのお土産かな。
それ以降は蓋を開けても何もなかった。
三人と一柱分のおやつとしては十分な量だろう。ありがとう、妖怪菓子箱。
さっそくミコトと一緒に皿に乗せて持っていく。
「お待たせしました。本日の菓子になります」
座卓に並べて皆で摘まみながら笑談する。
ルミナ神はどうやらカステラを気に入ったようで持ってきたカステラの半分くらいはルミナ神のお腹に納まった。
「このカステラ……でしたかしら? 美味しいですわね。タケルさん、この菓子の作り方をご存じかしら?」
え? 俺?
えっと、確か材料が──
以前作った記憶を思い出しながら、どうにか答えていく。
「なるほど。こちらで作るとなると大分高くつきそうですけど、作れなくはなさそうですわね。今度私に仕える神官に作らせて献上させようかしら」
卵とか砂糖とか貴重なんだったか。
しかし、何とか説明できたが大変だった。
ルミナ神、『他心通』と『宿命通』が使えるってコンが言ってたよな。
いっその事、カステラを作っていた過去を見てもらった方が早かったんじゃないか?
(それでは意味が無いんじゃよ。お主の口から聞いたというのが重要じゃからの)
コン?
それどういう事?
(神には神の規則がある。その辺は長くなるから後でな。おそらく今後も幾度となく質問されると思うが、好きなように答えると良い。話して不味い事は儂が止めるから安心せよ)
答えるのは構わないが、何で俺なのだろうか。
知識量はコンの方が遥かに上なんだが。
……コンでは駄目と仮定するならば、相手が人間であることが重要なのか?
俺の方が口を滑らせやすそうだと思われているとか……ないよな。
それから夕食を挟んで他愛もない話をした後、ルミナ神は帰っていった。
今回はいつもより滞在時間が長く、日も落ちる時間になっていたので泊っていくか尋ねたら「気使いは不要ですわ」と断られてしまった。
夜はルミナ神の領域だ。
彼女は夜を照らす
夜の世界を旅し、暗闇の中を導く神。
世界を覆う闇の中でこそ、彼女の真価は発揮される。
ざっくり言うと、ルミナ神的には日が暮れてからの方が安全だから心配するなという事である。
実は夜行性で、昼はむしろ寝ている事の方が多いらしい。
ちなみに彼女はあくまで月の神であり標の神。
夜を司る神という訳ではない。
ルミナ神も帰ったので交代で風呂に入る。
今はミコトが入っているので順番待ちだ。
「今日はやけにルミナ神に構われた気がするんだが、あれ、何だったんだ?」
今までも何かと元の世界について聞かれたが、今日は特に多かった気がする。
プロミネディス神もそうだったが、そんなに面白く感じるのかね。
『異世界人の知識は宝の山じゃからな。それを少しでも手に入れたいのじゃよ』
そろそろ踏み込んで聞いても無下にはされない程度には仲良くなれたと判断したんじゃろうな──と霊狐形態に戻ったコンがいう。
確かに楽しく話せる相手ではあるが。
多少雑学には自信があるが、俺の知識なんて大したものじゃないだろう。
俺に聞くよりコンに聞いた方がいいと思うんだが。
『異世界の文明は己の文明とは異なった道を進んだものが多い。それは即ち己の文明が思いつきもしなかった知識を持っている可能性が高いという事じゃ』
まぁ、確かに。
例え文明が遅れているように思える相手だったとしても、自分たちが持ちえない技術を持っている事はよくある。
過去に生み出されて現在では再現できない技術など山ほどあるのだ。
逆に相手の方が進んでいると思えるのなら知りたい情報は数限りない。
『文明とは人間の
それは分かったが、それなら
『その辺はお主が人間で、儂が神使じゃからじゃな。知るだけなら『宿命通』があれば不可能では無い。じゃが、神や神使には『宿命通』で得た知識を使うには色々と規則があるんじゃよ。これは異世界も現世も同じような感じじゃったな』
その割にはコンは好き放題使ってたような気がするんだが。
『ちゃんと規則は守っておるよ。で、じゃ。お主が口に出して伝えた知識であれば、ルミナ神は気兼ねなく使う事ができるが、神使の儂が口にした知識では神同士の権利関係とか色々面倒な事があるんじゃよ』
前にフォルドナ神への贈り物の件であった権能がどうとかみたいな感じ?
『そんな感じじゃ。まぁ、そんな訳で色々知りたいんじゃよ。うまく使えば自分への信仰を更に集める事も可能じゃしのう。まぁ、ルミナ神はそちらよりも「おいしい物食べたい」とか「楽しい事をしたい」といった感じじゃったが』
高位の神の余裕ってことかね。
『じゃな』
聞かれた事の多くが食べ物関係か娯楽関係だったもんな。
月の神という直接人間に恩恵を与える神でないからかもしれないが。
『そろそろミコトが風呂から上がるな。タケルよ、今夜はミコトをいつもより多めに構ってやるのじゃぞ』
ん? 何かあったのか?
『ほれ、今日はお主はルミナ神ばかり相手しておったじゃろ。客人なのじゃから当然と
あー、分かった。
そう言うのはなかなか分からないから教えてくれるのは助かる。
『儂はお主の守護狐じゃからな。夫婦生活も守って見せようぞ』
守るどころか引っ掻き回している気がするんだが。
まぁ、感謝はしてるんだけどな。
さて、今日はどんなふうにミコトを可愛がろうか。
そんな事を考えながら夜は更けていくのだった。
『
後悔する事で次から備えることが出来る。
後悔は気づきの切欠であるという意味。
いったい誰がどんな後悔をしたんでしょうかね。