俺と天狐の異世界四方山見聞録   作:黒い翠鳥

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あけましておめでとうございます。
今年も俺と天狐の異世界四方山見聞録をよろしくお願いします。

いつの間にか評価バーに色がついていました。
評価していただいた皆さん、いつも読んで下さっている皆さん、この場を借りてお礼申し上げます。
まことにありがとうございました。


作中で尊の一人称が一部「(わたし)」になっています。
目上としているルミナ神に「俺」というのはよろしくないかなと思い「わたし」と言っていますが、一人称が変わるとわかりにくいのでこのような表記になっています。


File No.12-2 『魚は殿様に焼かせよ』

「そうそう。昨日の顛末の話、皆さんに伝えておきますわ」

 

ルミナ神の圧勝で絵双六を終え、おやつタイムを兼ねて休憩していた俺たちにルミナ神はそう言った。

昨日の顛末というと、フェルドナ神の話だな。

グラヌド神の眷属神が脅迫してきたそうだが。

 

「グラヌドと話はつきましてよ。とりあえずフェルドナは(わたくし)の預かりとなりましたわ」

 

「それはフェルドナ神はお主の眷属神……という扱いになると思ってよいのか?」

 

コンの質問に、ルミナ神は顔を横に振る。

 

「いえ、あくまでフェルドナは独立した神。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という形になっただけですわ」

 

異界にて奇跡の作物を手に入れたフェルドナ神は、標の神たるルミナ神の導きにより民たちを飢えから救うべくそれを育て上げ、己の巫女に下賜したという流れで話を広める事になったそうだ。

 

一見、フェルドナ神の手柄をルミナ神が掻っ攫ったようにも聞こえるが、嘘は言っていないのだ。

昨日コンから聞いた話の内容でもあるのだが、最初フェルドナ神は引出物で貰った作物を普通に自分で食べていたそうだ。

まぁ、その辺は当然というか配るほど量が無かったしそうなるだろう。

 

その後ルミナ神とプロミネディス神がフェルドナ神を訪ね、フェルドナ神は持て成しとしてサツマイモを(焼き芋にして)振舞ったそうだ。

そこでルミナ神はフェルドナ神がそれを栽培するように誘導したそうなのだ。

もちろん直接そう言った訳ではないそうだが、ルミナ神の言葉をヒントにフェルドナ神はサツマイモの栽培に挑戦。

その結果、フェルドナ神の神徳とルミナ神の加護、そしてマヨイガ特性によるブーストが掛け合わされたサツマイモは凄い事になったらしい。

 

下賜されたサツマイモの量は実は飢餓が起きかけていたらしい村が来年の収穫まで食い繋ぐのに十分な量だったらしいが、それでもまだフェルドナ神の手元に有り余るほど増えたとかなんとか……

そのサツマイモは食べて大丈夫なやつなのかと若干不安になるが、あくまで神徳と加護とブーストがコンボになってしまった結果だそうなのでもう普通のサツマイモでしかなくなっているとのこと。

 

それでも十分な味と量と繁殖力があるサツマイモはグラヌド神の眷属に目を付けられてしまった訳だが。

 

ちなみにこの誘導する役目は最初プロミネディス神がやる予定だったそうだが、ルミナ神がマヨイガに遊びに来るつもりである事を告げると、全部任せてしまったらしい。

以前プロミネディス神に渡されたお守りは、本来なら仲裁の役目をプロミネディス神に丸投げしてもらうための布石だったそうだ。

もう必要なくなったので好きなように使っていいとはルミナ神の言。

 

「フェルドナ神の現状は分かった。ではグラヌド神はどう出たのじゃ?」

 

「何も。特に取り込みも排除もしないし、対抗するつもりも無いそうですわ。精々次に同じことをするなら配下に余計な事をしないように言っておかなければならないから事前に伝えてくれと言伝を頼まれた程度です」

 

なっ!? まさかのグラヌド神、スルーだと!?

 

「むしろ褒めていましたわね。『異界と言う己の力の及ばぬ場所へ赴き、そこから奇跡の食物(サツマイモ)を持ち帰った働きは見事の一言。そしてそれを惜しみなく人々に授ける慈愛まで兼ね備えているとは、かの神を守護神に持つ者たちは幸せ者だ。かの神の偉業によって数多の人々が救われるだろう』と」

 

そして思いのほか高評価。

 

「ほえぇ。グラヌドさんも器が大きいのだ」

 

ミコトもなんか感心しているようだ。

実際、自分の領分を侵してくる相手に、人々が救われるのであれば構わないと言ってのけるのは相当器が大きくないとできないぞ。

 

(まぁ、半分パフォーマンスのようなものですわ)

 

何かいきなりルミナ神から精神感応が来た。

 

(そもそもグラヌドは農耕の神。サツマイモが農作物である以上、それが広まればグラヌドにも信仰があつまる。ですから(わたくし)と争ってでも大きな利を狙うより、確実な小さい利を取りに来たといったところですわね)

 

なるほど。

 

(さらに言えば『異界(マヨイガ)に関わりたくない。だから異界に出入りする者(フェルドナ)に直接干渉したくない』というのがグラヌドの本音ですわ。ここ(マヨイガ)の人間は(わたくし)達にとっては異質すぎですから)

 

ここ(マヨイガ)の人間……って俺しかいないじゃないですか。

え? 俺ってそんなにおかしいんですか!?

 

(今まで歩んできた道の常識が貴方と(わたくし)達とでは違います。それ自体は当たり前の事ではあるのですけど、異界の神を神のまま取り込み改変する人間など此方(こちら)から見れば恐ろしすぎますわよ)

 

…………?

 

(ああ、そういう事じゃったか)

 

コン?

 

(あれじゃよ。神話やらなんやらを色々取り込みまくって神を神としながらも物語や遊戯で魔改造しまくる日本人の節操のなさの事じゃよ。自国の神にすら容赦せんのじゃから外の神から見れば恐ろしかろう)

 

あーー、うん、そういう事ね。

 

(恐ろしいなんてものじゃありませんわ! 粘体生物にゆっくり全身を溶かされて同化吸収されているような感覚ですわよ! しかも本人がそれに気づかないというおまけつきです。(わたくし)ですらプロミネディスに指摘されるまで認識できなかった程ですわ)

 

お、おう。そんなに恐ろしいものだったのか。

 

(日本の神々はもう慣れてしまって動じんがのう。儂ら(神の使いや妖怪)もそうじゃ。設定を盛ったり性転換したりは日常茶飯事じゃし、むしろ変化を楽しんでいるほどじゃよ)

 

(それはそれで恐ろしい話ですわね。ともかく、それを(わたくし)を通じて知ったからこそグラヌドは不干渉を選んだのですわ。サツマイモの出所がマヨイガでなければ取り込むなり対抗するなりしていたでしょう)

 

グラヌド神が全スルーした理由は分かりましたが、(わたし)に関わると変質するならルミナ神も拙いのでは?

 

(わたくし)は大丈夫ですわよ。(わたくし)月の神(変化し続ける神)。変質した後に利のある部分だけ残して元に戻るくらい余裕ですわ)

 

それは良かった。

 

(ちなみにフェルドナはもう引き返せないレベルまで変質してますわよ)

 

え?

 

(ふふ、安心なさい。少なくとも悪い変化は起きていませんわ。そもそも貴方達は100年もしない内に元の世界へ戻るのでしょう? 貴方達との縁が切れればゆっくりと此方側に戻ってきますわ。むしろ(わたくし)としては良い意味での変化が起きる事を期待していますの)

 

良い意味での変化……ですか。

 

(ええ。とはいっても特別な何かをして欲しい訳ではありませんわ。此方の世界にいる間だけでもフェルドナを応援してあげて欲しいんですの)

 

応援ですか。そんな事で良ければ構いませんが。

 

(お願いしますわね。ふふ、これでサツマイモの食べ放題は約束されたも同然ですわ)

 

あ、(わたし)が応援する事でフェルドナ神の調子が良くなってサツマイモをいっぱい作れるようになれば手に入る量も増えていくらでも食べられるようになるという構図なんですね。

 

ところで、何で先ほどから精神感応なんですか?

コンにも届いていたようですし、普通に話せば良いのでは。

 

(それは……ミコトさんが予想以上に純真だったのであまりこういった話はよろしくないかなと思ったまでですわ)

 

ああ、なるほど。

気を使っていただいてありがとうございます。

 

ちなみに今までの精神感応でのやりとりの間、ルミナ神はずっとグラヌド神に関する蘊蓄(うんちく)をしゃべり続け、ミコトがそれをふんふんと頷きながら聞いていたりする。

 

「そうそう、フェルドナにサツマイモの下賜を止めるよう脅したグラヌドの眷属の事ですが、あれは彼の独断だったようですわね。グラヌドは(わたくし)が行くまでサツマイモの事を知らなかったようですし。どうやらサツマイモのあまりのスペックに忠誠心が空回りしてしまったようで、近々グラヌドと共に謝罪するそうですわ」

 

眷属神の独断だったか。

それにしてもグラヌド神も一緒に謝罪か。

眷属の不始末は自分の教育不足が原因と考えているのかもしれない。

 

ルミナ神はグラヌド神がフェルドナ神を褒めたことを半分パフォーマンスと言ったが、それって要するに半分は本音という事なのだからそういう性格であっても不思議ではない。

というか、そうでもないと一介の守護神に頭など下げられないだろう。神の在り方的な意味で。

 

「グラヌド曰く真面目で忠義心も高い眷属なのだそうですが、真面目過ぎて杓子定規に物事を考えてしまい、忠義心が高すぎて行動の判断基準がグラヌドにどう影響するかなのだそうですわ。幸い、グラヌドが言えばちゃんと聞くそうなので今後はフェルドナにちょっかいをかける事は無いと思って大丈夫ですわよ」

 

ああ、空回りパターンなのね。

とりあえず解決したようなので良かった良かった。

 

「この件は大体こんなところですわね。各神の思惑はあれど、落としどころが決まった以上、大きな動きは無いでしょう」

 

一件落着……という事でいいのかな?

 

一時は厄介事の気配がぷんぷんしていたが、ルミナ神があっという間に解決してくれたおかげで枕を高くして眠れる。

いや、本当にありがとうございます。

 

「話は変わりますが、タケルさんとミコトさんは最近結婚されたばかりだとか」

 

「ええ、まぁ」

 

あれから結構な時間がたっているが、神の感覚で言えば年単位でも最近の範疇らしいので頷いておく。

 

「まずは友神として祝わせて頂きますわ。タケルさん、ミコトさん、御結婚おめでとうございます」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「ありがとうございますなのだ」

 

友神という凄い言葉が出てきたことに一瞬戸惑ったが、ミコト共々お礼を述べる。

言葉自体はそれほどおかしなものでは無い。

日本語的には造語だが人ではなく神なのだから友人ではなく友神という事なのだろうし、以心伝心の呪いの効果でそう認識しているだけで異世界では普通にある言葉なのだろう。

 

問題はルミナ神が俺たちをそう呼んだという事なのである。

すなわちプライベートとは言えルミナ神が俺たちを対等な相手と見てくれているという事なのだ。

一つの神話体系の最高クラスの神がだぞ。

社交辞令では無いのが以心伝心の呪いで分かってしまうだけに戦慄を隠せない。

 

「本来なら月の神として作法に則って祝福する方が良いのでしょうが、プライベートならともかくミルラト神話の貴高神としてはあまり表立って祝福できませんの。ごめんなさいね」

 

一応、日本神話側の人間になりますからね、(わたし)

 

ちなみに作法に則って別の神話側の人間を祝福するとフェルドナ神の時のような感じになる。

実はあれでも略式だったらしいが。

 

「代わりと言っては何ですが、そちらの世界には新婚旅行なる文化があるとか」

 

ええ、近代になってからのものですけどね。

(わたし)としてはコンやミコトの妖怪としての性質もあって現世に戻ってからと考えていましたが。

 

「お祝いとして(わたくし)が聖地サクトリア五泊六日の旅をプレゼントして差し上げますわ」

 

おお!?

え? いいの? それ。

先も言いましたが(わたし)、日本神話側の人間ですよ。

加えてコン(異世界の神の眷属)がついてくる訳で、(わたし)が自分で行く分にはともかく、ルミナ神が招いた場合問題ありませんか?

あと、こちら側でもちょっと問題が……

 

コン達の方を見るとミコトは目を輝かせて嬉しそうにしている。

ミコトは立場的には問題ないんだが──

 

コンは特に驚いた風もなく、さも当然のように話を聞いている。

あ、これ予定調和(既に根回しが済んでいる話)だわ。

 

そう言えば聞き忘れていたが、何か取引してたんだよな、コン。

もしかして外出問題、何とかなったのか?

 

(うむ。ルミナ神のおかげでようやく目途がついたぞ)

 

おお、まじか。

ならせっかくだしご厚意に甘えさせてもらおうか。

 

「重ね重ね、ありがとうございます」

 

「お気になさらず。そちらに御用が無ければ出発は次の三日月の日を予定していますが、いかがかしら?」

 

「特に用事はないですね」

 

マヨイガに引きこもっている関係上、予定は数日分か季節単位でしか決めていない。

異世界の月もおおよそ30日周期で公転軌道を巡るらしく、前回の三日月は五日前だったから次は25日後という事になる。

準備時間は十分にあるな。

 

「でしたらもう少し詳しい話をいたしましょう。これはコンさんとした方がいいかしら?」

 

「そうじゃのう。お互いの禁忌関連の調整もいるじゃろうし、儂の方が良いじゃろう」

 

「ミコトさんも行ってみたい場所などありましたら遠慮なく言いなさいね」

 

「ルミナさん、ありがとうなのだ!」

 

そしてこの日は皆でわいわい言いながら旅行の計画を立てることになった。

マヨイガに籠っての生活も悪くは無いんだが、偶には遠出したくなったりする事もあったのでありがたい。

しっかり準備して楽しみにしていよう。

 

 

 

 

 

あ、そう言えばこれ、結婚祝いの品になるのかな。

ルミナ神に引出物の用意をしておこうか。

 




『魚は殿様に焼かせよ』
正確には『魚は殿様に焼かせよ餅は乞食に焼かせよ』。
全文入れると目次の見栄えが悪くなるので前半部分だけタイトルに。

魚はゆっくり火を通したほうがいいので殿様のように鷹揚な人物が適しており、餅は何度もひっくり返して焼くので乞食のようにがつがつとした人物が適しているという意。
要するに『適材適所』。

『瓜の皮は大名に剝かせよ、柿の皮は乞食に剝かせよ』とも。



追伸:怪猫蜜佳様、誤字報告ありがとうございます。
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