俺と天狐の異世界四方山見聞録   作:黒い翠鳥

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御先稲荷という呼び方が適切ではない恐れが出てきたので過去話含めて呼び方を稲荷狐(いなりのきつね)に変更いたしました。
話の内容は変わりませんので、呼び方が変わったのかくらいに思っていただければ幸いです。

追記:気づいたら評価バーが赤くなっていました。評価してくださった皆様、今作を読んでくださった皆様、誠にありがとうございます。

追記:新規に入手した情報を精査した結果、霊狐及び天狐と空狐の関係を独自解釈を交えて修正いたしました。
現状、拙作においてはこのような設定となります。


File No.13  『運用の妙は一心に存す』

「タケル様、主様はどれくらい凄い方なのでしょうか」

 

特に何もないある日、ヤシロさんがそんな事を聞いてきた。

 

今現在、俺の傍にコンはいない。

俺に憑いているとはいっても四六時中一緒にいるという訳でもないのだ。

それほど離れられる訳でもないので祈れば届く(頭の中で呼べば答える)距離にはいるけどな。

 

いや、しかし突然どうしたのだろう。

 

「何か気になる事でもありましたか?」

 

「いえ、こうして主様にお仕えさせていただいておりますが、主様がどのような妖怪なのかよく知らないという事に思い至りまして」

 

なるほど。

コンは自分をヤシロさんに紹介するとき「稲荷狐(お稲荷様の使い)の天狐」と言っていた。

そういえば稲荷狐(いなりのきつね)がどういうものかは説明していたが、天狐の事については触れてなかった気がする。

 

これはヤシロさんの立ち位置が稲荷狐のコンが出向先で現地雇用した式神(妖怪)になるからだ。

伏見に本社を置く会社・稲荷のマヨイガ支社の支社長(コン)に雇われたアルバイト(ヤシロさん)と言い換えてもいい。

 

なので基本的にコンも雇い主(稲荷狐)として接する事になるからだ。

実情はどうあれ、建前上は稲荷狐としてのお仕事なんだよね。コンが俺に憑いているのって。

 

「とても凄い方というのは分かるのですが、何分凄すぎてどのくらい凄いのかいまいちピンと来ず……」

 

ああ、わかる。

霊力も霊威も霊気も濃すぎて底が見えないんだよな。

 

それでも天狐がどんな神獣(妖怪)かくらいは説明できる。

 

「教えるのは構いませんが、コンに直接聞けば良いのでは?」

 

とはいえ、それでもコン本狐(ほんにん)程ではない。

俺に憑いている影響で、人間視点での天狐(自分)がどういうものかも知っているからな。

 

「コン様に直接お聞きするのは……なんと言いますか……気後れすると言いますか……」

 

そりゃそうか。

 

「これは失礼しました。では、そこの部屋ででもお話ししましょう」

 

飲み物を取りに行った帰りに声をかけられたから、ここ廊下なんだよね。

 

「はい、お願いします」

 

 

 

 

「コンは見ての通り狐の妖怪なんですが、狐妖怪には下から順に野狐(やこ)気狐(きこ)空狐(くうこ)天狐(てんこ)という階級があって、コンは一番上の天狐なんです」

 

「うーん、凄そうなのは分かるのですがよくわかりません」

 

だろうね。残念ながらヤシロさんが知っている比較対象があんまりいないからなぁ。

 

「野狐の中にも区分がありまして、大まかに阿紫霊狐(あしれいこ)地狐(ちこ)に分かれます」

 

厳密にいえば野狐は神性を持たない狐の総称なので普通の狐も野狐に含まれるが、今回は狐妖怪の話だから除外する。

 

阿紫霊狐(あしれいこ)は妖力を得た狐の事なので正確には妖怪とは言い難い面もあって、妖怪の括りに入れない場合もありますけどね。地狐(ちこ)は一般的な狐妖怪の事なのでヤシロさんを狐妖怪に例えると地狐(ちこ)になります」

 

阿紫霊狐(あしれいこ)地狐(ちこ)の境界はけっこう曖昧だが、目安として尻尾が二本以上あるか(よわい)が100歳を超えていれば地狐(ちこ)と考えていいだろう。

尻尾が増えないタイプの狐妖怪もいるのであくまで目安だが。

 

「私が地狐クラス……ではミコト様は気狐や空狐だったりするのでしょうか」

 

「いえ、ミコトも地狐クラスです。例外もいますが基本的に地狐は尻尾の数によって二尾から九尾に分けられていて、(かく)が上がるごとに尻尾の数が増えていくんですよ」

 

例外はさっき言った尻尾が増えないタイプの妖狐ね。

 

「ヤシロさんは二尾クラス。ミコトは尻尾が九本あるけど正確には狐じゃなくて付喪神だから尻尾の数は関係がなく、能力的には七尾クラスだってコンが言ってたかな」

 

もっとも、呑み込みが早いのでこの調子で修行を続ければ近いうちに八尾クラスに至れるそうだ。

 

「ミコト様でも七尾……」

 

「まぁ、気狐(きこ)より上は霊狐(れいこ)とも呼ばれ、妖怪よりもむしろ神獣に近いですからね。その気狐ですが、主に金狐・銀狐・白狐・黒狐などの種類がいます。気狐は基本的に霊的な存在で、狐としての(かたち)をとる影響で尻尾は一本に戻る事も多いらしいですよ」

 

個狐(こじん)によっては最初から複数本あったり、格を上げる過程で増える者も存在する。

逆に天狐になるまで一本しか持たないものも結構いるそうなので、尻尾の数で強さが計れないのがこの階級だ。

 

ちなみに霊狐(れいこ)についてもうちょっと補足すると、霊狐(れいこ)は神性を持つ狐の総称で、気狐(きこ)空狐(くうこ)天狐(てんこ)が該当する。

基本的に肉体を持たないが、一部信仰対象になって神性を得たことで霊狐(れいこ)に分類されている肉体持ちの妖狐もいないではない。

 

もちろん稲荷狐であるコンも霊狐(れいこ)に分類される。

コンの神性は天狐としては並程度だそうだ。

 

なお、字面が似ているので間違えやすいが、神性を持つ狐であって神格を持つ狐ではないので注意。

 

他にも仙狐というのもいるが、これは階級というよりは仙術を修めた狐という資格を表すものだ。

とはいえ、仙狐というだけで最低でも気狐クラスの力の持ち主と考えてもらって問題ない。

コンも仙術を修めているから仙狐でもあるしな。

 

「ウチだと……確かこんごうさん達が気狐クラスだったはず」

 

「え!? そうなのですか!?」

 

そうなんだよねぇ。

ただ、彼らは仮面の付喪神であるせいか()()()()が強くて外から見ると大した妖怪に見えないんだよな。

 

こんごうさん達の真の力を見抜くには最低でも上級妖怪クラスの力がいるらしい。

伊達に異界そのもの(マヨイガの意思)天狐(コン)に紹介していないという事だ。

 

「とはいえこんごうさん達は隠蔽(いんぺい)特化みたいなものだし、コンの比較対象にはできませんね。そもそも俺にも実力が分からない」

 

「私、先輩方の事を何も分かっていませんでした……」

 

「それは仕方ない事ですよ。むしろ理解されていたらこんごうさん達の立場がない」

 

色々と隠す事が存在意義な妖怪ですから。

 

 

 

閑話休題。

 

「さて、その気狐の上。狐妖怪の最高位にしてコンが属する階級こそが天狐。一応天狐も尻尾の数でランク分けされますが、地狐とは逆で尻尾の数が少なくなるほどランクが高くなります。ちなみに初期数が九本で最小数は四本です」

 

「確か主様の尻尾の数は──」

 

「四本ですね」

 

「主様は天狐の中でも更に最高位なのですね」

 

「ここまで来ると下手な神よりよっぽど霊威も霊気も高いですからね」

 

「え? 神様よりも凄いんですか!?」

 

「神様と言っても千差万別ですから一概にはいえませんが」

 

お稲荷様の眷属だったりするとその加護もあるしなぁ。

少なくともフェルドナ神よりは確実に強い。

ルミナ神はどうだろ。

 

「私、凄い方に仕えることになったんですね」

 

実際コンは凄いからなぁ。

本来俺に憑いてくれるような相手じゃないんだよな、うん。

 

「あれ? そういえば気狐と天狐の間にもう一つ何かありませんでしたか?」

 

「あぁ、空狐ですね。空狐はちょっと立場が特殊でして」

 

狐妖怪の最高位は天狐ではなく空狐とする場合がある。

これは狐妖怪が最後に至る境地が空狐だからであり、三千年以上の時を経た天狐は空狐になるのである。

 

では何故天狐が狐妖怪の最高位とされているのか。

これは天狐と空狐の神性の違いに理由がある。

 

天狐の神性は狐としての性質が強い。

その姿も基本的に狐と呼べるものである。

 

対して空狐の神性は純粋に超自然的な性質が強い。

狐という枠に収まりきらなくなる為にその姿を神々に近づける者も多く、尻尾も亡くなってしまう。

 

「狐というよりは精霊に近くなってしまうので、狐妖怪としての階級は下がってしまうんですよね」

 

どっちが強いかと言ったら、基本的に長く生きている方が強い。

稲荷神の加護とかを抜きにすればのはなしだが。

 

ちなみに神性の性質が元々超自然的寄りな気狐は、千年で天狐をすっ飛ばして直接空狐になったりするのもいる。

空狐が全員三千歳以上という訳では無いのである。

 

そんな訳で狐の妖怪という視点から見れば最高位は天狐だが、単純に妖怪という視点から見れば空狐が最高位というややっこしい事態が発生するのだ。

 

加えて狐妖怪は地狐までであり、気狐以降は神獣という括りになるので狐妖怪の最高位は九尾の狐とする考え方もある。

 

余談だが、コン曰く稲荷神に仕えている天狐が三千歳を超えて空狐になった場合は稲荷空狐と呼ばれるそうな。

ここまで来ると多くの稲荷空狐は引退して後進に席を譲るらしい。

コンも本来ならそろそろ引退を考える歳らしいのだが、稲荷狐業界の人手不足もとい狐手不足によりもう数百年は引退できそうにないとか言っていた。

 

「へぇ、ただ上がっていくだけでは無いのですね」

 

「妖怪の強さ(実力)凄さ(階級)はまた別の基準ですからね」

 

基本的には凄い(階級が高い)方が強い(実力も高い)のだが。

 

ただ狐妖怪には白面金毛九尾の狐のような階級は地狐なのに実力は空狐クラスという無茶苦茶な奴も存在する。

というか個体名持ちの九尾は大体やばいと思って間違いない。

 

しかもそういうのに限って悪狐(わるいきつね)なのだ。

これは地狐が気狐に至る条件が単なる実力や年齢だけではなく、精神的なものも含まれるのが理由である。

 

実力がある善狐(よいきつね)は気狐になれるが、実力があっても悪狐(わるいきつね)は気狐になれない。

そうなると個体名持ちになれるほど実力がある地狐は善狐であれば気狐になるので地狐にはいなくなり、悪狐であれば地狐として残り続ける。

結果、強い地狐は悪狐ばかりという状況になってしまう。

 

日本で九尾の狐が悪の妖怪の代表の一つになっている原因の半分はこれなんじゃないだろうかと思う。

もう半分は玉藻御前の知名度が大きすぎて九尾の狐=玉藻御前のイメージがついてしまったこと。

九尾の狐って本来はおめでたい妖怪だし、絶対数で言えば善狐(よいきつね)が大半なんだけどなぁ。

 

 

 

さて、これでコンが凄く偉い狐であることは分かってもらえたと思うが、狐の中では凄くても妖怪全体から見ればどうなの? と思う事もあるだろう。

なので次は妖怪の強さの指標で比べてみよう。

 

この妖怪の強さというのは存在の強さという意味で戦闘能力が高いという意味ではない。

 

「妖怪の強さを表す指標として一般的なのは『霊威(れいい)』『霊気(れいき)』『霊力(れいりょく)』『霊躯(れいく)』の四つですが、特に重要なのは『霊威』ですね」

 

『霊威』は妖怪の持つ力の器の強さを表したものだ。

個体名はなく種族名も持たない妖怪──妖怪変化(ようかいへんげ)と一括りで呼ばれる妖怪たち──が大体数値にして『100』くらいだそうだ。

 

「基本的にはこれが高いほど凄くて強い妖怪になる訳ですが、ヤシロさんは大体120くらいですね」

 

俺も妖怪が見えるようになって長いから、ある程度なら霊威の強さを読むことが出来る。

流石に1,000を超えるとどれも同じように見えてしまって無理だが。

 

「私が霊威百二十ですか」

 

今一実感が湧かないと言った感じでヤシロさんが答える。

まぁ、例えばあなたの握力は50㎏ですって言われても、他の人の記録を知らないとそれってすごいの? ってなるよね。

 

「妖怪に成り立てとしては結構いい数字ですね。普通は100未満だそうですし。もちろんこれはコンの加護なしの数値です」

 

コンの加護込みだと300を超える。

 

ついでに言うなれば霊威は人間のコンディションのように常に変動しているので、あくまでおおよそこのくらいという目安でしかない。

 

「ミコトの霊威が880くらいでこんごうさんの霊威がコンが言うには1,200くらいだそうです」

 

コンの式神(仮面の付喪神)達の平均霊威はコン曰く1,100ほどだそうだが隠蔽能力のせいで俺には100くらいにしか見えない。

 

そしてミコトの数値が意外に高い。

基本的に妖怪の強さは歳を得るごとに増していくが、ミコトの年齢だと400くらいが普通なのだそうだ。

ミコトが何歳かは秘密な。

 

「私もいつかそれくらい強くなれるでしょうか」

 

「なれますよ。諦めずに目指していけば必ず」

 

ぶっちゃけヤシロさんは人魚という恵まれた種族(有名な妖怪)天狐(コン)に師事していて才能もあるとわかっているのだ。

頑張れば一流の上級妖怪として名をはせることも夢ではない。

もちろん立場や才能に溺れて努力を怠るような事が無ければの話だが。

 

「肝心のコンの霊威ですが、おおよそ3,000だそうです」

 

これはコンの自己申告ではなく、お稲荷様から聞いた話なので間違いないだろう。

もちろんお稲荷様の加護抜きでの数値だ。

 

ミコト3.5人分と考えるとあんまり高くないように思えるが、実際は霊威が100違うだけで強さが全然違う。

 

分かりやすく言うなれば、ゲームのステータスで言えば霊威はレベルに相当する。

レベル880のミコトが一万人いたところで、レベル3,000のコンには敵わない。

まぁ、これはあくまで例えて言うならそんな感じという意味だが。

 

ちなみに、先ほど霊威は一定ではなく変動すると言ったが、霊威の高い妖怪ほどその振れ幅は大きい。

なので霊威を数値化する場合は(かみ)二桁までで三桁目以降は四捨五入するというのが通例になっている。

 

調子によっては2~3割くらい変わることもざらにあるらしいからな。

 

「一般的に霊威が300未満が低級妖怪。300以上から下級妖怪。800以上で中級妖怪。1,500以上なら上級妖怪。2,400以上まで行くと大妖怪と言われています。あくまでそう呼ばれるおおよその目安であって正式にそういった基準がある訳ではありませんが」

 

「では霊威が三千ある主様は大妖怪ということですか?」

 

「ええ、有名な大妖怪と比べても遜色ない霊威の持ち主ですよ」

 

実際、コンと面識がある大妖怪の霊威を上げると姫路城の城化け物『長壁姫(おさかべひめ)』が2,800。鞍馬山の大天狗『鞍馬山僧正坊(くらまやまそうじょうぼう)』が3,300。台風の化身たる一目の龍『一目連(いちもくれん)』が3,400だそうだ。

いずれも押しも押されもせぬ大妖怪である。

 

このお三方の数値はコンが面識を得た当時の霊威であり、信仰による強化を含まない数値だそうだ。

当然ながら俺は何方(どなた)にも会った事はない。

 

余談だが、妖怪同士が何らかの方法で競い合った場合、その優劣は霊威の強弱よりも相性に強く影響される。

もちろん相性の有利不利が無ければ霊威が高い方が有利ではあるが。

 

この相性というのは単純なお互いの属性に限らず、勝負内容、場所、時間、伝承、立場など多岐にわたる。

 

例を上げるならば、先の長壁姫とコンが化け比べをしたとしよう。

長壁姫の化け術は変化範囲で狸には劣るもののそれなりにあり、精度に関しては相当なものだそうだ。

一方コンの化け術は人間の女性に化けるのは上手いが、他はあまり得意ではない。

 

勝負内容との相性は長壁姫に軍配が上がるということだ。

得意であるというのは相性がいいという事でもあるからな。

 

コンがこれを覆すには他の相性で補うか、長壁姫が相性不利となるように仕掛ける──すなわち弱点を突く──必要がある。

 

例えば会場を稲荷神社境内にするとか。

稲荷狐であるコンは稲荷神社との相性がよく、実力以上の力を発揮することが出来る。

 

一方長壁姫と稲荷神社の相性は悪い。

というか、長壁姫が姫路城の城化け物という妖怪である以上、姫路城以外すべての土地での相性が悪いと言うべきか。

 

そうなると長壁姫は実力を十分に発揮できず、化け比べはコンの勝ちとなるだろう。

 

長壁姫は典型的な領域型妖怪なのだ。

逆を言えば会場が姫路城だった場合、長壁姫は無類の力を発揮してコンの勝ち目がなくなるという意味でもある。

 

これが戦闘となると特に顕著になる。

 

有名なのは九千匹の河童を束ねる西の河童の大親分、『九千坊(くせんぼう)』だろうか。

当時負けなしを誇っていた九千坊だったが、加藤清正によって大量の猿を(けしか)けられ、一族もろとも敗北を期している。

神の使いや妖怪の猿神ではない、普通の猿によってである。

 

詳細は長くなるので割愛するが、河童は猿との相性が致命的に悪い。

大妖怪と言って差し支えない九千坊ですら成すすべなく敗走するほど、妖怪にとって相性というのは大きいのだ。

 

他にも刀も槍も通さぬほどに硬い表皮を持つ大百足(おおむかで)(つば)によってその防御を無効化されたり、どんな鋭い刀でも切れない(ふすま)という一反木綿の一種も一度でもお歯黒に染めたことのある歯なら噛み切れたりする。

 

見越し入道のように特定の言葉を言えば退散する妖怪も、その言葉の持つ言霊との相性が悪いため退散するのだ。

 

いかに強力な妖怪であっても、こちらが相性有利に持ち込めば(弱点を突くことができれば)勝利することができる。

まぁ、そう簡単に相性有利を取れない(弱点を突けない)から大妖怪な訳だが。

 

 

 

 

いい加減話が長くなったので『霊気』『霊力』『霊躯』については簡単に解説しよう。

 

『霊気』はその妖怪のもつエネルギーの大きさ。

 

『霊力』は一度にどれだけ大きい力を扱えるか。

 

『霊躯』は外部からの干渉にどれだけ存在を保てるかという存在強度を表す。

 

これらは基本的に得手不得手はあれど霊威が高いほど高くなる傾向にある。

なので霊威さえ把握できればある程度は推測できるのだ。

もちろん霊威は低いのに霊力は極端に高いという例も無くはないが、その辺りは霊威の質を見れば大体分かってしまう。

 

 

 

 

さて、長々と妖怪の強さについて説明したが、ここまでほぼ独白(モノローグ)なのに気づいていただろうか。

ぶっちゃけヤシロさんにはここまで詳しく説明していない。

 

ちょうどいい機会だと思って説明したが、ヤシロさんが聞きたいのはそういう事ではないのだから。

ヤシロさんが聞きたいのはコンがどんな妖怪なのか。

 

「コンは宇迦之御魂神(うかのみたまのかみ)、すなわちお稲荷様に仕える稲荷狐(神の使い)です。主にマヨイガ稲荷神社の狛狐をしていましたが、とある切っ掛けで俺に憑いて守ってくれています」

 

「主様とタケル様の出会い……一体どのような事があったのでしょうか」

 

「あーー、悪いですが秘密で」

 

「残念です……」

 

あの時は本当にやらかしたから恥ずかしいのだ。

 

あっ、それと『稲荷狐=天狐』という訳じゃないので注意な。

あくまで稲荷狐の中に天狐がいるという話だ。

それに、比率としては少ないが稲荷狐以外の天狐もいる。

 

ついでに狛狐という言葉も正確には誤りだ。

狛犬の狐版という意味で言ったが、そもそも狛犬は『狛な犬』ではなく『狛犬』で一つの言葉なので本来は分けられないのだ。

分かりやすくするための造語だと思ってくれ。

 

「マヨイガ稲荷神社は霊的に重要な土地らしくて、そこを任されているコンは稲荷狐の中でも精鋭(エリート)中の精鋭(エリート)なんですよ」

 

「それは凄いです」

 

流石に総本宮である伏見稲荷大社や日本二大稲荷と呼ばれることもある豊川稲荷の天狐に比べれば一段下がるそうだが流石にそれは仕方ない。

 

人の来ない神社を任されている辺り左遷させられているようにも見えるが、そんな事は無いのだ。

後任の稲荷狐が来ないのもマヨイガ稲荷神社を任せることが出来る稲荷狐が他にいないからなのだし。

 

「そのお稲荷様は食べ物や農業の神様でして、他にも産業全般にご利益を持っている凄い神様なんです。なんでもお(やしろ)が3万社以上あるのだとか」

 

「さんっ!」

 

ヤシロさんが絶句した。

そこまで凄い神様だとは思っていなかったのだろう。

 

実際日本屈指の神社数を持つ神様ですからね。

多くの稲荷神社は無人だったりしますけど。

 

「まぁ、なんか色々凄そうな事を言いましたが、コンは俺の守護狐です」

 

長々と語ってしまったがコンとは何者かと聞かれれば、俺の回答はこれしかない。

 

「一緒に暮らして、一緒に遊んで、一緒に馬鹿をやった相棒です。俺を守って、導いてくれて、一緒に悩んでくれた俺の家族です。稲荷寿司が大好きな、一匹の狐です」

 

「タケル様の相棒で……家族で……」

 

「なんで神々しさとか威厳とか貫禄とか特にそんなに無いんでとりあえず稲荷狐だという事だけ覚えておけば大丈夫かと」

 

「……え? あ、あの、今なにか感動的な話をされていたんじゃ」

 

「いえ、特に凄い妖怪だと思わなくてもいいという話の前振りですが?」

 

相棒で、家族で、大切な半身で。

そう思っているのは事実だが、ヤシロさんの聞きたかったことはそっちでは無いからな。

わざわざここで語る事でもない。

 

これでコンが侮られても困るが、ヤシロさんの性格的にそれはないだろう。

 

「あんまり細かいこと言うのもなんですし、こんな所ですかね。参考になりましたでしょうか」

 

「は、はい。ありがとうございます」

 

「それじゃ、まぁ、今回はこれでお開きという事で」

 

「はい、お手数をおかけしました」

 

そう言ってヤシロさんは一礼すると、部屋を出て行った。

 

 

 

 

 

「ふぅっ……これでヤシロさんももう少し気兼ねなくコンと(せっ)する事が出来ればいいんだけどな」

 

とりあえず飲み物に口をつける。

とっくに冷めてしまったがそれでも美味い。

 

「タケル。こんな所で何しておるのじゃ?」

 

(ふすま)が開いてコンが入ってきた。

 

「ちょっとヤシロさんとお話してた」

 

「おお、耶識路姫とか。どうも儂相手には及び腰でのう。もう少し気楽に話しかけてもらえればいいんじゃが」

 

「性格的にもなかなか難しいんだろうな」

 

なんだかんだ言っても新米妖怪と大妖怪、部下と上司だからな。

願わくば今回のお話でもう少しだけコンとヤシロさんの距離が縮まればいいなぁと思う今日この頃なのだった。

 




天狐及び空狐の尻尾の数ですが、この話は一次出典が明確ではないんですよね。
とはいえ面白そうなので第一話のあとがきの通り、作者の好みでこの説を採用。
本作の天狐は格が上がるごとに尻尾一本に貯えられている霊的エネルギーの容量が増えるので、それを再配分した結果尻尾の数が減る(代わりに一本一本が前より太くなる)と独自解釈しています。

また、その関係性などに一部独自解釈が含まれますのでご注意ください。



運用(うんよう)(みょう)一心(いっしん)(そん)す』

どんな能力もうまく活用するためには、それを使う人の心一つにかかっているという意味。


力は使い方次第で善にも悪にも優にも劣にもなる。
タケルもコンの力を正しく理解して、理解した上でああ言っています。
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