俺と天狐の異世界四方山見聞録   作:黒い翠鳥

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タイトルのバランスを考えてファイルの文字を地味にスペルに変更。


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閲覧数で言えばすでに何時もの月の三倍以上!?
もしやと思ってランキングを覗いたらオリジナル日刊で20位くらいまでは確認した。

いったい何が起こったのだ!?

嬉しい叫びが立て続けに出てありがたい限りです。
本作を閲覧してくださった皆様、評価してくださった皆様、お気に入り登録してくださった皆様、誠にありがとうございます。

今後も『俺と天狐の異世界四方山見聞録』をよろしくお願いいたします。



File No.14-1 『濡れぬ先の傘』

ルミナ神による新婚旅行の日付も近くなってきたある日、俺はせっせと紙を切り抜いていた。

 

これは何かと問われれば、形代を作っているのだ。

形代とは禊祓(みそぎはらえ)や呪術に使用するための、何らかの形を模して造られた道具の事である。

 

異世界を旅行するにあたって、病魔や呪いなどから身を守るための手段が必要になったので作る事にしたのだ。

まぁ、ルミナ神もコンもいるのに万が一も無いとは思うが、それならそれで別の事に使えばいい。

 

今回は奉書紙(和紙の一種)から手作りしたからちょっと疲れたが、形代を作るのは初めてではない。

幼少の頃から妖怪に関わることが多かったこともあり、お守りとして作っていた。

 

他にも陰陽師の形代を式神に変えたり、自分に変化させて分身するとか憧れていたのだ。

残念ながら結構高度な術らしく、いまだに成功したことはないが。

今は妖術を利用してそれの再現を試みている。

 

 

 

隣ではミコトが筆で文字の勉強をしていた。

 

ミコトは実は結構な達筆なのだが、知っている文字がかなり古いものらしい上に達筆すぎて読めないのだ。

俺が読めないだけなら以心伝心の呪いでどうにでも出来るのだが、現世に戻ったら自分で文字を書くことなど山のようにある。

なので今のうちから勉強しているのだ。

 

出来れば鉛筆かボールペンがあればいいのだが、マヨイガには無かったので止むを得ず筆を使っている。

ミコト的には手に馴染むらしいけどな。

 

「あ、間違えたのだ」

 

どうやら書き損じたらしい。

 

ミコトは一旦筆を置くと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

その紙の文字が結構な量になっているのは、ミコトが頑張っている証拠だろう。

 

ミコトは元々屏風覗きの一種である描かれた絵が抜け出てくる妖怪だ。

その為、ミコトはなんと絵の中に入れるのだ。

 

ミコト曰く、絵の中は部屋のような感じになっていて、書かれているものが家具のように置いてあるのだそうだ。

そしてミコトは絵の中を模様替えしたり、外に持ち出したり出来る。

 

とはいえ、持ち出すと言っても所詮絵は絵だ。

書いた餅を持ち出したからと言って本物の餅が出てくる訳じゃない。

精々が別の紙に絵を移す程度のもの。

まぁ、それでも使い方次第で凶悪な事が出来るわけだが。

 

「できたのだ!」

 

「どれどれ」

 

ミコトの書いた文字は俺が採点する。

 

渡された紙には平仮名で『いろは歌』が書かれていた。

『いろはにほへとちりぬるを』ってあれね。

 

いろは歌は七五調で仮名四十七文字を重複させることなく一つの歌にしているため、手習いの手本として使われる事もあった。

その為、ミコトには五十音表より馴染みがあるそうだ。

現世で暮らす上で必要なので五十音表も勉強中だが。

 

ちなみにいろは歌には『ん』が無いので最後に「こんこん」と書いてもらっている。

 

「ん~~~、『ぬ』と『む』と『を』が違うな。ここがこうで、ここの部分は一回離してこう」

 

「あう~、憶えなおすのだ」

 

間違えた文字のお手本を書いて見せると、ミコトは覚えなおすために同じ字を何度も書き始めた。

 

ぶっちゃけミコトの字は達筆だっただけあって凄くきれいなのだ。

ミコトの文字が読めないのは単純に現代の文字を知らないから古い字で書いてしまうせいだからな。

 

屏風覗き時代に現代の文字に触れることはあったらしいが、わざわざ覚える理由も無かったから気にしていなかったようだ。

 

ちなみにミコトの字が古くて達筆なのはミコトの作者である狩谷(かりや)栄玄(えいげん)の影響である。

 

彼女(女性絵師だったらしい)は非常に字が奇麗だったそうで、自分の描いた屏風などにも度々有名な和歌などを書き込んでいたそうだ。

そのせいで彼女が魂を込めて描いた作品は彼女自身を表すものとしてその技術を受け継ぎ、妖怪となったミコトも非常に字が奇麗なのだ。

字が古いのは単純に彼女が生きた時代の字だからだな。

 

ついでに言うとミコトは大和絵も上手いぞ。

 

あ、ミコトの作者はコンが調べてくれました。

狩谷栄玄はペンネームらしいけどな。

 

 

 

人型に切った奉書紙に名前を書くなどして身代わりの贖物(あがもの)を一通り作る。

俺の分はこれで作り終えたので、あとはミコトに書いてもらってミコト用の贖物(あがもの)を作れば作業終了だ。

 

一応念のためコン用のも数枚用意しておいた。

俺が作る贖物(あがもの)で防げる程度の厄や呪いがコンに効くわけがないのだが、念のためな。

 

 

 

さて、そろそろおやつにするにはいい時間である。

 

「台所へ行ってくるか。ミコト、これの仕上げお願いね」

 

「分かったのだ!」

 

ミコト用の贖物(あがもの)の仕上げを頼み、俺は台所へおやつを取りに行く。

贖物(あがもの)の文字はミコトの知っている古い文字でも問題ないから任せて大丈夫だろう。

 

 

 

廊下を抜け、台所へ到達。

戸棚から妖怪菓子箱を取り出し、今日のお菓子をお願いする。

 

中から出てきたのは大福餅だった。

俺、これ好きなんだよね。

 

二度目を開けると今度は草大福。

よもぎ大福と言った方が分かりやすいか?

 

三度目は豆大福。

豆の食感がいいんだよな。

 

四度目は塩大福。

今日は大福祭りなのか?

 

五度目で饅頭の詰め合わせが出てきた。

きっちり梱包されているところを見ると、お土産用だろう。

 

それ以降は何も出なかったのでこれで打ち止めだ。

妖怪菓子箱にお礼を言い、大皿に取った大福餅を分けていく。

 

各種大福餅が()()()()

仮面の式神たちは基本的に食べないので、俺とミコトとコンとヤシロさんと……一人四種を一個づつか。

 

一人分ずつ皿に載せ替え、二皿ずつ盆にのせる。

妖怪急須から湯呑に茶を注ぎ、これも同じように。

 

残った一皿と湯呑を一個小さな盆にのせ、それを持って台所の隣の納戸(なんど)の戸を開ける。

中ではヤシロさんが妖怪生簀の中を掃除していた。

お仕事中だったらしい。

 

「ヤシロさん! ヤシロさんの分のおやつ、ここに置いておきますね」

 

生簀に向かって声をかけると、中から「は~い。ありがとうございます!」との声が帰ってきたのでちゃんと聞こえたようだ。

 

ヤシロさんの分のおやつを近くの台に置き、台所に戻る。

 

残った二つの盆を持って元来た道を戻るのだが、片手で持つと乗っている湯呑が危なっかしいので両手でしっかりと一つの盆を持つ。

もう一つの盆は着ている小袖から伸びた手が持ってくれた。

小袖の手、久しぶりの登場である。

 

 

 

おやつを持ってとことこ進む。

ミコトのいる居間に戻る前に、コンの所に寄らなくてはならない。

場所は座敷(客間)だな。

 

台所からそれほど離れていないので大して時間はかからない。

とりあえず俺とミコトの分のおやつを(つぎ)()(従者用の控室)に置いて、座敷の襖の少し前で正座する。

 

「失礼します」

 

人数とおやつの数が合っていない時点で気づいていた人も多いとは思うが、座敷には今お客様が来ているのである。

なのでしっかりと作法にのっとって入室する。

 

返事があったので引手に手を掛け────とかやってから部屋に入ると、中にはコンと口から魂を吐き出しながら座卓に突っ伏しているフェルドナ神がいた。

もちろんお客様とはフェルドナ神の事である。

 

フェルドナ神はサツマイモの神として信仰されたことで神格が上がったそうだが、神格が上がれば上がるほどしなければいけない役目(仕事)が出てくるのだそうだ。

 

大地の魔力(マナ)の取り分の調整だったり、利害がぶつからないようにするための話し合いだったり、眷属神との御恩と奉公の契約とそれに伴う権利の行使だったり。

今までのいち土地神の頃のように自由にとはいかない。

 

神格が上がれば上がるほど影響力は強くなり、それはつまり他の神々と衝突することが増えるという事。

これらの仕事はその衝突を可能な限り避けるための規則(ルール)なのだ。

 

普通なら段階的に神格が上がっていくため、その過程で諸々のやり方を覚えるのだが、フェルドナ神は一足飛びで神格が上がってしまった。

なので最低限でも役目が果たせるようにコンに教えを乞うて勉強中だそうだ。

 

現世の神々にも近いことがあるそうで、眷属のコンもある程度なら対応できるから。

 

本来ならルミナ神が教えられればいいのだろうが、ルミナ神もあれで結構忙しいらしいのと、あんまり関わりすぎると要らぬ嫉妬を買いかねないという事で却下となった。

あくまでフェルドナ神は独立した神であって、ルミナ神の眷属神では無いからだ。

ルミナ神は貴高神だけあって意外と心酔している神も多いらしいのよ。

 

「お疲れ様です。お茶と茶請けを用意いたしました。ご賞味ください」

 

「ありがとう……禰宜くん……」

 

フェルドナ神が弱々しく顔を上げた。

相当大変だったんだろう。

 

「では暫し休憩に致しましょう」

 

コンの改まった言葉遣いを聞きながら、コンとフェルドナ神の前に菓子と茶を置く。

 

これで俺の役目は終了だ。

長居する理由も無いのでさっさと座敷を後にする。

お土産の饅頭の詰め合わせは帰られる時に渡せばいいだろう。

 

 

 

俺とミコトの分の菓子を回収して、再びとことこ廊下を進む。

特に意味はないが到着までに一つ豆知識でも語ろうか。

 

 

『おやつ』はなんでおやつと言うのか。

 

 

おやつという言葉は昔の時刻の呼び方の一つである『昼八(ひるやっ)つ』に由来する。

 

昼八つは『十二時辰』という時間の単位から来ているのだが、十二時辰とは一日を12に分けて、それぞれに十二支の呼び名をつけたもの。

 

午後11時から午前1時までの二時間を『()(こく)』、午前1時から午前3時までを『(うし)の刻』という風に2時間ごとに名前がついているのだ。

ちなみに『丑の刻参り』の丑の刻はここからきている。

 

昔は食事が一日二食が基本だったんだけど、それだけだとどうしてもお腹がすく。

なので昔の人は『(ひつじ)の刻』くらいの時間に間食を取っていた。

 

(ひつじ)の刻』は午後1時から午後3時までなのだが、これを更に初刻(しょこく)正刻(せいこく)に分けることが出来る。

 

初刻は刻の始まりになる時間を指すので、未の刻であれば午後1時。

正刻は刻の中間の時間を指すので、未の刻であれば午後2時。

 

ちなみに『(うま)の刻』の正刻が12:00で『()()』だ。

 

そして昔は時計など寺や裕福層しか持っていない高級品。

その為、寺では正刻に鐘をついて時間を知らせていた。

 

まず正刻の鐘を鳴らす合図として3回鳴らす。

そして何の刻かによって決められた回数だけ鐘を鳴らすのだ。

 

子の刻で九回、丑の刻で八回……と一つづつ減っていき巳の刻で四回鳴らした後、午の刻でまた九回に戻る。

なんで九から始まって四で終わるのかはよく分からないが、三以下になると最初の鐘と同じ回数になってどちらか分からなくなるからとか、単純に数が少ないと分かりづらいからとか言われている。

コンに聞いても「その辺はあまり気にしておらんかったからのぅ。詳しくは知らぬ」と言われた。

 

それはさておき、未の刻の正刻は最初の合図を除いて鐘を八回鳴らす。

なので『昼の鐘が八つ鳴る時刻』という意味で『昼八(ひるやっ)つ』となり、昼八つに取る間食という意味で『おやつ』となったのだ。

 

なお、当時の時間の分け方は不定時法と言って日の出と日の入りを基準に分けられているので昼と夜では一刻の長さが違っていたりする。

丑三つ時のようなさらに細かい分け方もあるので、興味がある人は調べてみるのもいいんじゃないかな。

 

現代ではおやつは基本的には3時ごろの間食を指す言葉だが、時間を問わず間食の事をおやつと呼ぶことも多い。

また、その際に菓子などを食べることが多いので『おやつ=菓子』のイメージがあるが、別におやつはお菓子の事ではない。

 

と、まぁ、こんな所か。

 

なんとなしに独白していれば、すぐに居間に到着だ。

 

「ミコト、おやつ持ってきたぞ」

 

「ここ、あけるのだ」

 

小袖の手に襖を開けてもらってミコトに声をかけると、ミコトは座卓におやつを置くためのスペースを空け始める。

 

ふと見ると俺用の贖物(あがもの)の束の横に、ミコト用の贖物(あがもの)の束が並べられているのが分かった。

後は文字を書くだけだったとはいえ、この短い時間で作り終えてしまったらしい。

ミコトは優秀だから夫である俺の鼻も高いよ。うん。

 

盆を置き、おやつの乗った皿と湯呑をそれぞれの前に置く。

 

「んじゃ、いただきますか」

 

「いただきますなのだ」

 

これを食べ終えたら、そろそろ旅行用の荷造りを進めておくか。

ミコトと旅先に思いを巡らせて、一緒に何をしたいかなんて語り(イチャイチャし)ながら。

 

大福餅をおいしそうに頬張るミコトの横顔を見ながら、そう思ったのだった。

 




()れぬ(さき)(かさ)

雨が降る前に傘を用意しておくように、失敗しない為にに前もって準備しておくという意味。
類例に『転ばぬ先の杖』がある。

旅行前の準備中な主人公。
この時期が一番楽しいとも言いますが、さてはて。

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