俺と天狐の異世界四方山見聞録   作:黒い翠鳥

29 / 93
風景の描写って難しい。
美しさであれ何であれ、強い感情を呼び起こすという設定のものは特に。


File.No.15-2 『旅の恥は搔き捨て』

新婚旅行二日目。

 

今日は朝から街に繰り出し、異国情緒にふれながら散策をする。

大都市だけあって多くの人が歩いているが、割と身なりの良い人たちが多い。

見た目も多彩でぱっと見回しただけでも、普通の人間の他にドワーフや猫人(ワーキャット)が目に入る。

 

ドワーフはその言葉で思いつくイメージそのままと言っていいだろう。

ただし個人差は大きく、背が高い者いればスマートな体つきをしている者もいる。

ちなみに女性にも髭があるらしい。

 

猫人(ワーキャット)は以前コンが言っていた通り、人間に獣の耳と尻尾がついた程度。

ただ、稀に猫ひげがあったり猫のような体毛を持つ猫人(ワーキャット)もいなくはないらしい。

流石にミコトの経立(ふったち)形態(モード)ほど獣に近いのはいないそうだが。

 

人口の比率はパッと見た感じ普通の人間が5、ドワーフが1、猫人(ワーキャット)が3、他が合わせて1だ。

他の中に含まれるのは様々なタイプの獣人や羽があったり鱗があったりする人たち。

エルフっぽい人も見かけたな。

 

なお、色々な種族がいるように見えるが(少なくともこの国、というかミルラト神話圏では)全員まとめて人間という種族なのだそうだ。

あくまで人間と言う種族を更に細かく分けるとドワーフや猫人(ワーキャット)になる感じ。

 

この分類をミルラト神話圏では(タイプ)と呼ぶ。

ドワーフ族(ドワーフ:タイプ)とか猫人族(ワーキャット:タイプ)みたいな感じで。

普通の人間は並人族(ニュートラル:タイプ)と呼ばれる。

これはどの人間種とも子供を作りやすいので、ちょうど真ん中くらいにいる(タイプ)なんだろうと考えられているからだ。

 

あと、同じ(タイプ)同士で固まって村や町などを作る事が多いらしい。

個人差はあるが生活サイクルや嗜好の方向性が似通っていることが多く、暮らしやすいんだとか。

 

とはいえ、以心伝心の呪いで翻訳される為、以後は普通にドワーフとか猫人(ワーキャット)と呼ぶし、(現世(元の世界)においての)普通の人間の事はそのまま普通の人間と呼称する。

人、もしくは人間といった場合は(タイプ)を問わず人間という種族の事を指す。

 

 

まぁ、この辺は単なる旅行先の現地情報だ。

あくまでミルラト神話圏ではこう言われているんだよと言うだけで生物学的な分類の話でも無いし。

 

人間が多いのは単純に絶対数が多いからだそうだし、猫人(ワーキャット)が次いで多いのは近く(それでも十キロ単位で離れているが)に猫人(ワーキャット)の街があるから。

ラクル村の場合とは違い大都市周辺は人類の生活圏が広がっているため、魔獣等も少ないので比較的安全に行き来が出来るのだそうだ。

次いで多いドワーフの殆どはサクトリアに仕事に来ている大工だそうです。

 

ルミナ神情報だから信憑性はあるだろう。

 

 

屋台の猫人(ワーキャット)からサミサミなる動物の肉を串焼きにしたものを購入してミコトと二人で食べる。

なんかウサギっぽい動物らしい。

 

ルミナ神にも渡そうとしたら気遣いは不要と断られた。

あくまで自分はガイド。

そんな暇があったら嫁に気を遣うようにとの事。

 

お気遣い有難く、甘えさせていただきます。

 

ちなみに購入資金はミコトと二人で手作りしたお菓子をルミナ神に捧げ、そのご褒美として財を与えるという形で貰ったものだ。

突然「明日、(わたくし)の為に菓子を作って献上なさい」と言われた時にはいきなりどうしたのかと思ったのだが。

あ、これは前回ルミナ神がマヨイガに来た時の話ね。

 

その翌日に作って捧げたお菓子は眷属蟹が回収していき、昨日迎えに来てもらった時にご褒美を貰ったという流れだ。

マヨイガ妖怪の手助けがあったとしても、俺たち二人がルミナ神の為に心を込めて作った事で捧げものとしての価値が出た。

それを捧げた褒美という事ならお小遣いをあげる程度は問題ないという事なのだろう。

 

要するに便宜を図る為の名目である。

ありがたい事にな。

 

なので今回ばかりは役に立てなかった妖怪菓子箱がしょぼんとしていたりする。

贅沢出来るほどの額ではないが、旅行を楽しむには十分だろう。

ルミナ神の事だからこの旅行でちょうど使い切る額に調整しているような気もする。

 

 

ぶっちゃけ二日目は町中をぶらつきながら適当に買い食いしてただけだな。

この国の雰囲気を肌で感じてもらうのが目的だったらしい。

それもまぁ、旅の楽しみ方の一つ。

普通に楽しかったし。

 

ちょくちょく入るルミナ神の解説も面白く、街並みを眺めているだけでも全く飽きなかった。

流石は導く神と言ったところか。

 

 

 

三日目は歴史ある建物や人気スポットなどのいわゆる観光名所を巡る。

 

 

まず向かったのはレワート門と呼ばれる巨大な建物だ。

門と名は付いているが、扉などの侵入を拒む要素は見当たらず、そもそも町の中に存在している。

 

これは元々は都市を囲う外壁の門だったそうだが、人口増加による都市の拡大に伴い新たな外壁が作られた。

その後、交通の便の関係で古い外壁は取り壊されたそうなのだが、記念碑的な扱いで門だけ残されたそうだ。

扉はメンテナンスの手間などを理由に古い外壁とともに解体されている。

 

祭りの時などはこの門から神殿に続く大通りでパレードが行われるそうだ。

なお、レワートは単に地区名である。

 

 

次に向かったのはカワデロの泉。

都市内にある50メートルほどの半円の人口泉なのだが、その直線部分に壁のようにそびえ立つ城のような建造物と、両者に挟まれた石床の岸辺に建てられた数々の彫像によって荘厳な雰囲気を醸し出している。

 

この彫像はミルラト神話の神々を模しているらしい。

ルミナ神の神座の都市らしく、二十歳前くらいの姿のルミナ神と思われる彫像が中心の一番目立つところに置かれている。

その少し左手前にある彫像が多分プロミネディス神。

 

城のような建物は現世でいう公民館のようなもので、泉や彫像の管理も行っているらしい。

名称にあるカワデロとはこの人口泉及び建物の設計を行った建築家の人の名前だそうだ。

 

 

御次の目的地はミロム大時計台。

 

ミロム地区にある巨大な時計台で、毎日正午に鐘を鳴らして時刻を伝える役目を持つ。

これは巨大な機械式時計なのだが、動力として魔力(マナ)が使われているそうだ。

 

聖地サクトリア自体が一種のパワースポットである龍穴の上に作られた都市であり、そのエネルギーを汲み取っているとの事。

ただし、その為にはかなり大掛かりな装置を必要とするらしく、聖地サクトリアでも利用されている場所は片手の指で足りる数しかない。

イメージ的には地熱発電が近いか。

 

個人の魔力(オド)を利用するものであれば比較的普及しているとの事だが、それは聖地サクトリアのような都会の話であり、国全体でみれば普及率はかなり低い。

ラルク村くらいの規模の村だと村長が一つ持っているかどうか。

それなりに裕福でも一般市民にとっては購入をためらう程度には高価であり、修理やメンテナンスの手間がかかるものなのだそうだ。

 

ちなみに魔力(マナ)魔力(オド)の違いだが、人体の外にある外気と呼ばれるものが魔力(マナ)で人体の中にある内気と呼ばれるものが魔力(オド)である。

正確に言えば固有波長とかの違いもあるのだが、ここから先はかなり専門的な話になるので省略させてもらう。

 

ついでに言うと、以前霊力と妖力は基本的には同じものという事を言ったが、それは魔力も同じだった。

コン曰く使い道によって名前が変わり、妖術に使えば妖気、霊術に使えば霊力、魔法に使えば魔力、仙術に使えば気と呼ばれる。

魔力(マナ)にしたってコンに言わせれば大気中や大地を流れる気の事だ。

 

もちろんそれぞれに適した状態に変化させて使用する為、完全に同一のものとは言えないが、それでもものとしては同じだ。

この辺は説明が難しいのだが、例えて言うなら凝固させて物を冷やすのに使ったり(氷)、蒸発させてタービンを回したり(蒸気)、物を洗い流したり(流水)、噴霧して虹を作ったり(霧)、呼び方は変わるけど物質的には全部『水(H₂O)』である、みたいなイメージが近いだろうか。

 

 

おっと、関係ない方向に話が行ってしまったな。

ミコトと二人でその巨大な時計を眺める。

今日はあと一か所で終わりだ。

楽しい時間と言うのはあっという間に過ぎていくものである。

 

 

最後は大神殿前公園。

 

一昨日は神殿内部だけだったし昨日は街に繰り出していたからじっくり見た事はなかったが、神殿前には庭園のような光景が広がっているのだ。

 

奇麗に切りそろえられた生垣と、紋章のごとく張り巡らされた水路。

いくつも植えられた色鮮やかな花々が幻想的な風景を演出し、ガーデンアーチが訪れた者を出迎える。

青々とした芝生が気持ちよさそうだ。

 

ここを抜けると広場があり、その奥が神殿となっている。

広さは……ぱっと見で横500メートルの縦400メートル弱か?

見渡せば人々が思い思いに過ごしているのが見える。

 

夕食の時間までミコトと二人で公園の散策。

生垣がちょっとした迷路のようになっていたり、水路に見慣れない魚が泳いでいたりと飽きなかった。

 

 

ルミナ神のおかげで一般人では入れないようなところまで見れたのはありがたかったな。

 

 

 

四日目は都市を離れて付近の山の天然温泉を堪能。

 

『群衆の外套』を脱がないといけない関係上、人目のある所は避けたいという事でルミナ神の聖域にある温泉に入らせてもらえることとなった。

聖域は神域とは違い基本的に現世側にあるので見られる可能性はゼロではないが、周囲はルミナ神の眷属蟹ががっちりガードしているから大丈夫だろう。

 

「あぅ~極楽なのだ~」

 

「温度もちょうどいいし眺めも最高だ。ルミナ神には感謝しかないな」

 

ミコトと二人並んでお湯につかりながら雄大な大自然を堪能する。

夫婦だし家族風呂で問題ないだろうという事で一緒に入る事となった。

 

ふと、ミコトの尻尾がふれる。

ミコトは普段、狐耳も尻尾もない人間形態でいることが多いが、リラックスしている時は狐耳と尻尾が出てくる。

これは気が抜けたら変化が甘くなるとかではなく、そちらの方が(くつろ)ぎやすいからなんだそうだ。

 

ミコトが半歩分こちらに近づき、体を預けてくる。

尻尾が俺の背中に回され、抱きしめるように包んでいく。

思わずミコトの体を抱き寄せると、上目遣いなミコトと目が合った。

その澄んだ瞳に引き込まれたまま俺は…………

 

(おぬし、儂はともかくルミナ神がおる事は忘れんようにの)

 

コンの言葉にハッとなる。

 

いかんいかん、つい流れでディープな接吻をするところだった。

とはいえ、この状態で何もしないというのも収まりがつかないのでミコトのおでこにライトキス。

ミコトが「ふにゃぁ」と蕩けたので良しとしよう。

 

(あら、別にそのまま事に及んでしまっても良かったのですわよ)

 

ルミナ神!?

もしや見ておられました?

 

(直接目にしてはおりませんわ。しかし、このくらい離れている程度なら分かります。(わたくし)はそちらの(いとな)みに関する権能も持っていますもの。蟹は満月の夜に産卵するという話はご存じ?)

 

現世での話なら知っているが、異世界でもそうなのか。

 

もちろん確定で満月の夜にという訳ではないらしいが、少なくともそんな話が広まる程には満月の産卵が多いそうだ。

他にもサンゴとかクサフグ辺りが有名かな。

 

……ああ、そうか。

 

満月と言う特別な夜に揃ったように卵を産む生き物たち。

その神秘性が月の神の導きによるものと考えられた事でルミナ神は()()()()()()()に対する権能を得たのだろう。

 

それが拡大解釈されて人間にも適応されるようになったと。

いや、あながち拡大解釈でもないのか。

人間だって満月の夜には性欲が高まるという話はあるのだから。

 

(それでこの湯の効能が『子孫繁栄』『子宝成就』なんじゃな。それと『安産成就』に……のう、ルミナ神。この湯、発情を促す効果とかあるのではないか?)

 

(わたくし)の聖域にある温泉ですから(わたくし)の権能を強く受けますし、多少はありましてよ。まぁ、少し興奮を覚える程度ですが)

 

(いや、ミコトが思いっきり影響を受けておるんじゃが)

 

気づけばミコトが俺に体をこすりつけてきていた。

 

しかもいつの間にか経立(ふったち)形態(モード)になってる。

この形態はミコトの妖怪としての性質が強く出てくるのだ。

そしてミコトは『俺の(つがい)』という妖怪なわけで……

 

「あなたぁ~」

 

「いや、ちょっと待てミコト。ここでは流石に」

 

(ああ、これは温泉の魔力(ルミナ神の権能)に酔っておるの。これミコトよ、ルミナ神の領域(このような場所)で事に及んでは……)

 

(いえ、先ほども言いましたが、(わたくし)としては別に構いませんわよ。あ、コンさん。終わるまでの間、こちらでおしゃべりでもいかがかしら?)

 

(ぬぅ? ルミナ神が良いというのであればまぁ、よいか。ではそちらにお邪魔させてもらうとするかのう。あ、ミコト、後でもよいから吸精を忘れんようにの)

 

(お二人とも、ごゆっくり)

 

いやいやいやいやいや、ミコトを止めてよ!

 

そうだ、そうだった。

あの一柱と一匹、普通に人間と感性が違うんだった。

人間の感性自体は理解してるけど、ここ(ルミナ神の領域)でそれを優先する理由は無いものな。

 

「あなたぁ! からだがあついのだぁ~!」

 

「ちょっと待てミコト! 場所、場所を考えて!」

 

ここ、温泉だからな!

押し倒されたら沈むからな!

ちょっ! 溺れる!

 

あああああぁぁぁぁぁ!

 

 

 

その後、30分ぐらい抱きしめて何とかミコトを落ち着かせることに成功した。

何で温泉に入ってこんなに気疲れしないといけないだろう。

 




温泉でのルミナ神の行動やセリフは全て「良かれと思って」です。
ミコトに温泉の効能が効きすぎたのは予定外だったようですが。

ちなみに、テンパっていたタケルは気づいていませんでしたがコンが(まじな)いをかけてかけてくれていたので押し倒されても溺れることはありませんでした。


『旅の恥は搔き捨て』
旅先だと知り合いもおらず長居する訳でもないので、普段はやらないような恥ずかしいこともついやってしまいがちという意味。
とはいえ、人の迷惑にはならないようにしましょうね。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。