俺と天狐の異世界四方山見聞録   作:黒い翠鳥

31 / 93
2024/1/30追記:
ルミナ神の描写を少し修正。


File.No.15-4 出番のなかった太陽神の記憶

「ふふふ、うふふふ、ぬふふふ、ぐふふふ」

 

とある日、ルミナが変な声で笑っていた。

 

「一体どうしたんだい、ルミナ。何か嬉しい事でもあったのかい」

 

いや、本当に。

 

「あら、プロミネディス。これを見てくださいな。神性変化(フィギュア・チェンジ)

 

そういうとルミナの姿が変わる。

小柄だった体は僕に迫る程に大きく。

控えめだった胸は一見して大きいと分かるほどに。

元々美しかった髪は夜空を映したような艶やかさを持ち。

引き締まった筋肉には、ほど良い程度に肉が付き。

神としての威厳に溢れた目元はより鋭く。

それが絶妙なバランスで整っている。

 

いくらルミナが月の神(姿を変える神)だと言っても、無条件に姿を変えることはできない。

月の模様が変わらないようにルミナにも信仰される姿が存在し、その見え方を変える事で姿を変えているのだ。

 

だけど、この姿を僕は知らない。

魔法による変身でもない。

これは間違いなく信仰によって形づくられた姿だ。

 

真なる月の姿(トゥルース・フィギュア)。スーパーロイヤルわがままボディな(わたくし)ですわ」

 

「あ、うん。すごく美しいと思うよ。でも、どうやって」

 

考えられるのは例の異界(マヨイガ)

確かにルミナは理想の姿になるために何度かマヨイガに行っていた。

だけど、その為には最低でも30年ほどかかると言っていなかったかい?

 

「あの異界(マヨイガ)の人間。タケルさんのおかげですわ」

 

やっぱり、マヨイガの彼が関わっていたか。

だけど、いくら彼でもルミナの変質が早すぎる。

フェルドナのような一つの村からの信仰しかもっていなかった神ならともかく、ルミナはミルラト神話圏全体に信仰を持つ神なのだ。

 

「彼からは沢山異世界の話を聞きましたの。その中に興味深いものがあったので試してみたのですわ」

 

曰く、彼の世界では溢れんばかりの物語が存在するそうだが、主に特撮と呼ばれるジャンルでよく使用される設定の一つなのだとか。

 

キャラクターの活動の幅を広げる為に状況に合わせて能力を変化させ、それに合わせて見た目を変えることで物語を見る者にどのような状態なのか視覚的に分かりやすく示す。

その中には全ての能力が上昇する強化形態なるものも存在するのだとか。

 

そして重要なのはこれらが可逆である事。

 

つまりは今まで信仰されてきた姿とルミナが理想とした新しい姿の二つは矛盾しないのだ。

この形態変化をルミナは神性変化(フィギュア・チェンジ)と、通常の姿を夜を照らす月の姿(アバター・フィギュア)、理想の姿を真なる月の姿(トゥルース・フィギュア)と定義した。

 

それをフェルドナを称える物語の内容に混ぜ込み、神託を下して劇を作らせた。

 

真なる月の姿(トゥルース・フィギュア)は神としての本来の姿。

その力は通常の姿を遥かに上回る。

より完全に近い力を持つがゆえにその姿も理想(完全)に限りなく近い。

しかし、完全に近い力を持つがゆえにこの世に降り立つには消費も大きく、そのため今まで知られていた姿は消費を抑えた夜を照らす月の姿(アバター・フィギュア)であった。

 

そんな設定を紛れ込ませた。

 

そしてそれは驚くほど月の子供(ルミナを信仰する人間)達に浸透した。

神託によって作られた劇であることが伝わったのも大きいだろう。

フェルドナが実際にサツマイモを持ち帰り、それが飢餓に怯える人々に届けられたという噂が旅人を通して広まっている事も劇の信憑性を高めていた。

だけど一番の理由は上演された場所が月の子供(ルミナを信仰する人間)の多く集まるサクトリアだった事だろう。

 

数多の神々を祀る大地にあって自身の信仰する神が他の神より優れていれば、口には出さずとも嬉しく思う人間は多いはずだ。

そしてその根拠が他ならぬ神託によって示された。

 

元々ルミナは姿を変える神であった事も幸いした。

月の神(ルミナ)は今まで想像されていたよりも遥かに強い力を持っている。

今までその力を使わなかったのは強大すぎるが故に地上で使うには弊害も多かったから。

これらが今までの信仰と矛盾しなかったことで、月の子供(ルミナを信仰する人間)の間で信じられるようになったのだ。

 

それに過去に例のない目新しさもこれほどまでに話が広まった理由の一つだろう。

聖地サクトリアという月神信仰の中心地で広まったそれは、ルミナに新しい能力を与えることになった。

信仰が形を成し、ルミナが神性変化(フィギュア・チェンジ)を使えるようになったのだ。

 

いやはや、まさかそんな手があったなんて。

 

「やはり異世界の知識は宝の山ですわ。今度はどれを試してみようかしら」

 

ルミナは異界(マヨイガ)の人間を友と呼び、実際にほとんど対等にみている。

異界(マヨイガ)に行く前と帰って来た後のルミナは本当に楽しそうだった。

 

しかしそれはそれ、これはこれ。

神として利益(りえき)になるなら異界(マヨイガ)の害にならない範囲で利用する。

その見返りとしてこちらの世界での便宜を図る。

この世界の神(ルミナ)異世界の神の名代(天狐君)との間での取引。

 

個神としてもミルラト神話圏の神(ミルラト神族)としてもいい付き合いしてるね、ほんと。

 

「ところでちょっと聞きたいんだけど、何でタケル君を異界神(キツネツキ)としたんだい?」

 

彼は人間であって神ではない。

神である必要があったとしても、異界(マヨイガ)で祀られていた神は宇迦之御魂だった筈だ。

 

「それは100年後を見越しての事ですわ。タケルさん達は100年もしないうちに異世界に帰るでしょ。ですが、すでにこの劇によって異界の存在は異界神の名とともに広まり始めている。そうなるとタケルさん達が帰った後、どうなると思います?」

 

それが十分に広まっているのなら、信仰によって新たな異界神が誕生する。

そして新たな異界神は劇中の通りルミナの友として顕現することになるだろう。

 

……なるほど。

そうなると貴高神級のルミナの味方が一柱増える訳だ。

それも神々のパワーバランスの外にいる存在が。

 

ルミナ(とフェルドナ)のみが異界神(キツネツキ)という切り札を得たと考えればその影響力は想像に難くない。

 

「彼らが帰る時に(わたくし)の分霊というものを月読命(異世界の月神)の化身として送り込めれば、その後も縁を通じて異世界の知識を得られるので理想的ですが難しいでしょうね」

 

分霊というのは神の神霊を分割して他の神殿に移すことで元の神霊と同等の力を持つ神を増やす異世界の神の能力の一つだったか。

分霊しても元の神霊に影響はなく、信仰さえあれば無限に増やせるのだとか。

改めて考えても脅威の能力だ。

 

「更に言えば、これは他の神話圏(ミルラト神族以外)の神と接触した時の受け皿になると思いますの。今までは拒絶するか堕天させるかの二択しか無かったでしょう」

 

「そうだね。それによって血が流れた事も少なくない」

 

なるほど、異界神(キツネツキ)の名が広まれば他の神話圏(ミルラト神族以外)の神を異界神(キツネツキ)に連なる神として外に置いたまま共存が可能になるかもしれない。

上手くいけば先日ルミナが言っていた習合とやらで取り込むことも出来るようになる可能性もある。

最悪、それらに失敗したとしても異界神(キツネツキ)が調停神となれる場合もあるのだ。

そう考えればミルラト神話圏の神(ミルラト神族)にとっても悪いことではない。

 

「それとキツネツキとしたのはフェルドナと彼らの約束で宇迦之御魂やマヨイガの名前が出せなかったからですわ。それに、(わたくし)の友神なのですから会った事もない神よりもタケルさんを元にした方が好ましいですから」

 

「そういう事か。それにしてもずいぶんとタケル君を買っているようだね」

 

今までにもルミナに気に入られた人間はいたが、友とまで言われたのはタケル君が初めてだ。

 

「一緒にいて楽しいというのはありますわ。作る料理もおいしいものばかりですし。それに、(わたくし)に敬意を持ちつつも遠慮せずに付き合ってくださるから心地がいいというのもありますわね」

 

これは何とも。

 

『神の天敵』ともなりうる彼だけど、逆にそれが心地よく感じるほどに神の心にふれる在り方をしているとも言えるのだ。

それこそ、分霊を傍に置いても良いと思わせるほどに。

 

「それと洞察力も凄いですわ。なにせ(わたくし)があの劇に込めた思惑を本命以外の全てで過不足なく読み解けたほどですから。まぁ、実際にはこっそりコンさんに頼んで思考を中断させてもらったのでそこまでたどり着いてはいませんが」

 

「導く神としての権能で、そのまま思考していれば読み解いていたと知った訳か」

 

「ええ。コンさんには全ての思惑を伝えていましたから二度手間でしたし。なにより余計なことを考えずに新婚旅行を楽しんで欲しかったのですもの」

 

そして読み解けなかった本命の目的が理想の体型になれるようにする事だったと。

彼もまさか他の事よりも体型を変えることが本命だとは思わなかったんだろうなぁ。

 

「次に異界(マヨイガ)に行く日が楽しみですわ。もう幼い容姿の日にしか行けない理由は無くなりましたし、早く月の女神としての役目(今のお仕事)を済ませてしまいませんと。それでタケルさん達にも真なる月の姿(トゥルース・フィギュア)を見てもらって……」

 

よほど嬉しかったんだね。

 

それからしばらく楽しそうにマヨイガについて語り続けたルミナ。

理想の姿(トゥルース・フィギュア)のまま延々とマヨイガに想い焦がれているその顔は、屈託のない満月のような笑顔だった。

 




ルミナ神のマヨイガの面々に対する評価はこんな感じ。

タケル……お気に入りの人間。友人としても神としても好意的に見ているが、踏み込み過ぎると危険。おそらくこのくらいの距離感がお互いにとってベスト。
ミコト……良い子。ちょっと贔屓してあげたくなる程度には可愛く思っている(ただし小動物的な意味で)。
コン……油断ならない実力者。お互いに適度に利用し合うくらいの関係が丁度いい立ち位置。
こんごうさん達……優秀で働き者なコンの眷属。
耶識路姫……知ってはいるが接点が無い。そんなに怖がらなくてもと思っている。


この後、ルミナ神は真なる月の姿(トゥルース・フィギュア)でマヨイガに行きましたが、美的感覚の違いでいまいち思っていた反応が得られなかったので、次から夜を照らす月の姿(アバター・フィギュア)で来るようになったとか。

ちなみに漢字で書いてカタカナ語読みするセリフはミルラト神話圏の古い言語をルミナ神が格好つけで使ったものを翻訳した結果になります。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。