俺と天狐の異世界四方山見聞録   作:黒い翠鳥

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思ったより長くなってしまいましたが、上手く分割できなかったのでそのまま投稿。
お待たせしてしまって申し訳ない。


File No.17-2 『仇も情けも我が身より出る』

コンに頼んで千里眼モニターを出してもらい、邪気溜りを観察する。

 

うわぁ……これは凄い事になってるな。

見るからに物凄く濃い邪気の塊が蠢いているのがわかる。

これはもう邪気を越えて瘴気の(たぐい)だよ。

中心付近の木なんか完全に枯れ果ててるよ。

 

とはいえ、今日明日で妖怪化するような感じではないと思われるのが救いか。

 

ちなみに瘴気とは簡単に言うと生物(場合によっては無生物にも)に直接害をもたらす邪気の事。

科学的には火山性のガスとかが瘴気の正体と言われているし、感染症を引き起こす菌やウイルスの事を指す場合もある。

しかし今回は完全に霊的なものだ。

 

それで……コン、この瘴気が妖怪化した場合、どれほどの強さになる?

 

(そうじゃのう。推定霊威 1,600といったところかの)

 

意外と低い……と思ってはいけない。

1,600と言えば上級妖怪に分類されるほどの霊威だ。

並の陰陽師であれば即座に逃走を選択するレベルである。

 

神であっても土地神クラスなら普通に呑まれかねない。

今のフェルドナ神であれば神威は(まさ)っているが、実際に討伐を考えるなら命を賭ける必要があるだろう。

 

なお、俺は1,000以上の霊威を正確に読むことはできないのでフェルドナ神の神威はコンに聞いた。

 

「これ、ここの森を管轄する神はどうしたんですか」

 

栄枯盛衰、諸行無常の理の内とか言われたら手の出しようがない。

この状態になるまで放っていた以上、そう考えている可能性は高そうなんだが。

 

「それが、それぞれの村や特別な場所を守護してる神はいるのだけど、この辺り一帯を(つかさど)っている神は居ないの」

 

いないのかよ!

 

いや、よく考えれば予想できたことか。

そんな神がいればフェルドナ神も先にそちらへ行っているだろうし、既に断られていたのならそう言っている筈だ。

 

もうフェルドナ神がその座に就いてしまってもいいのではと思ってしまう。

神威的にも神格的にも資格は十分の筈だ。

流石に(そそのか)す訳にはいかないから口にはしないが。

 

しかし、こっち方面は新婚旅行の際にルミナ神の眷属蟹に乗って通っている。

あくまで方面なので現場までの距離はあるし周囲の木々が目隠しになっている事を考えれば俺が気づかなかったのは分かるが、ルミナ神は気づかなかったのだろうか。

 

いや、気づいていたとしても何も言わないか。

 

ルミナ神は導く神ではあるが、それはあくまで標としての在り方だ。

何かを成そうとする人が先にあって、それに答えて道を示す。

それが無いのであれば、それこそ栄枯盛衰、諸行無常を眺めているだけだ。

フェルドナ神のサツマイモの件は完全にルミナ神側の都合だったからだし。

 

多少、人寄りな所はあっても、ルミナ神は自然側の神なのだ。

逆に人側に全振りしているような神がフェルドナ神である。

 

 

 

話が逸れたので戻すが、このまま瘴気が妖怪化してしまっては大変な事になる。

ぶっちゃけマヨイガにはほぼ影響は無いので、これはフェルドナ神視点でという意味だが。

 

そもそもマヨイガ自体が霊威 1,600程度ものともしない大妖怪なうえに邪気や瘴気といった類のものに圧倒的な耐性がある。

コンもこのあたりを扱う技術に優れているため、何なら正面からねじ伏せる事も可能だ。

いざとなればプロミネディス神のお守り(太陽神の力を借りられる)というミルラト神話圏最高クラスの強力なアイテムもあるのだ。

 

とはいえ、流石に妖怪化してしまったら周辺の村々は無事では済まないだろうし、フェルドナ神的にも俺の心情的にも妖怪化する前に祓いたいところだ。

 

さて問題はどうやって祓うかだが、わざわざ相談に来ているあたりフェルドナ神側には祓う手立てが無いという事になる。

正確に言えば「代償が大きいから出来れば使いたくない手段」ならあるかもしれないが。

 

浄化と考えて最初に思い浮かぶのはやはり『塩』だろうか。

お相撲さんが土俵の邪気を祓う為に撒いたり、お葬式帰りにケガレを持ち込まないように振りかける清めの塩なんかが有名だろう。

 

ただ、よく勘違いされるのだが塩は邪気を吸収し土地や体から祓う事は出来る。

しかし邪気を生み出したり呼び込んだりするものそのものを浄化する力は無い。

邪気を纏った悪霊に塩をかけたとして、纏った邪気は祓えるが悪霊自体には何の効果も及ぼさないのだ。

 

原因まで含めて浄化する為には別の手段が必要になる。

例えばお相撲さんであれば、四股を踏むことで地中の悪いものを踏みつけ、土地を浄化している。

悪霊であれば専用のお札とか祀って鎮めるとかだろうか。

 

あ、そうそう。

塩の件で注意して欲しいのがもう一つ。

 

実は塩が吸収できる邪気の量には限界があるという事だ。

 

何らかの手段で吸収した邪気を浄化したのなら話は変わるが、周囲の邪気を吸収しきれず許容量の限界を超えた場合、せっかく吸収した邪気が吹き出してしまい、邪気溜りができるのだ。

 

普通であればそんな状況になるのは吸収しきれないほどの邪気溜りに振りかけたときくらいなので、吸収した邪気が吹き出したところで「効果が薄い」で済む。

しかし、盛り塩をしていた場合は気をつけなければいけない。

 

盛り塩には邪気を吸収する効果と、良い気・悪い気問わず引き寄せる効果がある。

引き寄せた悪い気を盛り塩が吸収し、良い気の恩恵だけを受けるというのが盛り塩の原理なのだ。

 

ところが、盛り塩を置きっぱなしにしているとだんだん悪い気を吸収しきれなくなり、最後には吸収した悪い気が吹き出して邪気溜りを作ってしまう。

そうなると悪い気が集まる速度が加速し、厄除けの為の盛り塩でかえって厄を呼び込んでしまうのだ。

 

塩が湿ってきたらそろそろ吸収の限界近くにきているという事なので、新しい盛り塩と交換しよう。

古い塩は火で燃やす・大地に埋める・水に流すなどの方法で吸収した邪気を浄化できるのだが、今は個人で勝手にゴミを燃やせないところも多いし川に流したり庭に埋めたりすると水質や土壌の汚染になるのでやらないように。

生ゴミなどに混ぜて燃えるゴミに出すか、水道水で排水口に流すのが無難かなぁ。

 

そんな訳で今回『塩』は使えない。

あれだけの邪気を吸収しきれるほどの塩の量となればトン単位で必要だし、用意したらしたで確実に土壌汚染になる。

 

マヨイガ妖怪には邪気や瘴気を食べたり浄化したりできるものもいるが、あれを全部浄化するには時間が足りない。

 

「手段を選ばないのであればコンに焼き払ってもらうという手もありますが、まぁ、心情的にあまりよろしくは無いですよね」

 

天狐という大妖怪の火力をもって邪気を焼き払い、陰火を使って森が燃えるのを防ぐという力技である。

一応、出来るというのはコンに確認を取った。

 

ただ、ルミナ神がいないのでマヨイガの外に出ると弱体化の危険もあり、回復出来るとはいえあまり消耗して欲しくないというのはある。

 

あとフェルドナ神の面子の問題。

コンが、つまりはキツネツキが出張るという事はフェルドナ神では解決出来なかったという事だ。

同じく解決が出来なかったであろう他の村々の守護神なら問題ないと思うが、直接関わりのない神々から侮られ、見下される恐れがある。

せっかく神格が上がったというのに本来自分の役目ではないところでけちをつけられたくないだろう。

 

「いえ、他に手が無かったらそれをお願いするわ。もちろん対価も出来る限り用意するから。私のプライドや評価なんかより我が子達の方が大事よ」

 

その我が子(守護下の人間)達の為にも評価を落とさないで欲しいんですけどね。

とはいえ、そんなフェルドナ神だからこそ手を貸したくなるのですが。

 

他の手段となると、火で焼くか水で流すか。

 

水は水源が無いのでまず無理だな。

あれだけの邪気を洗い流すとなれば相当の水量が必要になる。

 

火は別に普通の火でもいいので、近くの木にでも火をつけて燃え広がれば火力は事足りる。

まぁ、森で火事を起こすという事がどういう事かは少し想像すれば明白なので燃え広がらせない手段は確実にとらねばならないが。

 

「そういえばフェルドナ神は雨を呼べると言っておられたと思いますが、細かく場所を指定したり場所によって降る時間を変えたりは出来ますか?」

 

確かそんな神徳を持っていると神様のお仕事の勉強で来た時に言ってた気がする。

 

「ごめんなさい。雨を降らせる場所は大まかにしか決められないの。それに一部だけ雨を止ませる事もできないわ」

 

駄目か。

 

周りだけ雨を降らせて延焼を防ぎつつ邪気を焼くというのは無理と。

邪気を焼き終えるまでにどこまで延焼が広がるか分からないから、焼き終えたら一気に消火する作戦も不可。

コンの未来視による延焼予測も、あの規模の邪気相手にはちょっと心もとない。

火を使った方法は無理かな。

 

雨による浄化も考えたが、あの規模を相手にするとなれば土石流が起きかねないほどの大雨が必要になる。

 

後は大量の形代を作って邪気を吸収させ、個別に浄化していくとかか?

どうやってそんな大量の形代を用意すればいいのやら。

 

もしくは大量の邪気を取り込める大型の形代を作るとか。

いや、それはむしろ形を与えることで妖怪化の時間が早まりかねない。

 

 

 

……いや、待てよ。

 

形代……形を与える……大量の……燃やす……妖怪化……

 

 

 

これは行けるか?

 

「フェルドナ神。この件に関してラクル村の協力を得ることは可能と思っていいんですよね」

 

「ええ、無茶なことでなければやってくれる筈よ」

 

ミルラト神話圏は神が直接恩恵を与えてくれる事もある影響か、信仰心が深い人たちが多い。

だからこそ、神託が大きな影響力を持つのだ。

フェルドナ神が神託を下せば、このくらいなら喜んでやってくれるだろう。

 

コン、この方法ならいけると思う?

 

邪気の浄化に必要な手段を頭に思い描いていく。

心を読めるコン相手には言葉にするよりこっちの方が手っ取り早い。

 

(ふむ、悪くない手じゃ。じゃが、一つ懸念がある)

 

それは()()についてか?

 

(そうじゃ。まぁ、これについては儂らが手を貸しても良いとは思うがのぅ)

 

対応を間違えなければ完全に裏方で終わるからな。

何ならフェルドナ神にも気づかれないようにやる事も出来ると思う。

 

そもそも懸念があるだけで何も起きない可能性の方が高い。

念のため俺たちがラクル村で待機してれば大丈夫だろう。

 

後は、()()()()()()()()に関してかな。

 

()()()()()()()()()()()()()、どちらにせよフェルドナ神に帰属する訳じゃし、その扱いはフェルドナ神に任せるのが妥当じゃろう)

 

コンはどっちだと思う?

 

七分(ななぶ)で『物』かのう。もっとも、何も残らぬという可能性もあるが)

 

()』とは十分の一を表す単位だ。

なので七分というのは70%という意味になる。

 

ちなみに、何割何分という言い方をする場合は一割(十分の一)の十分の一という意味になるので、この場合の一分(いちぶ)は1%だ。

偶に()そのものを百分の一の意味だと間違えて覚えている人もいるが、そうなるのは(わり)と一緒に使った場合だけである。

 

「でしたら、一つ案がございます。お召し物を一枚使っていただく必要がございますが」

 

正確には白蛇神(フェルドナ神)の抜け殻が必要なのだ。

何なら以前貰った(マヨイガに飾ってある)ものを使ってもいいのだが。

 

「服の一枚や二枚で何とかなるなら構わないわ」

 

では、詳細を煮詰めていきましょうか。

 

 

 

 

 

 

 

五日後、俺はミコトを連れてラクル村に来ていた。

朝から多くの村人が集まっている。

 

コンは念のため俺に憑依中。

更に天狐の面(こんごうさん)を憑けて正体を隠し、以前ルミナ神に借りた『群衆の外套』と同様の効果を持つマヨイガ妖怪『稀人の深編笠(マレビトノフカアミガサ)』を被っている。

 

深編笠とは顔を隠すように深く作られた編み笠の事。

その力で群衆に溶け込んでいるが、それ抜きにすると見た目の違和感が凄い。

 

ミコトも同じように『稀人の深編笠(マレビトノフカアミガサ)』を被っているが、付けている面は白狐の面(なでしこさん)である。

 

なでしこさんはコンの式神である仮面の付喪神達の中で唯一の女性型付喪神だ。

得意分野は感知。

向けられた感情、特に悪意や害意を感じ取る事に優れている。

 

ちなみにコンの式神である仮面の付喪神達は性別がない。

ミコトの前身である屏風覗きのように明確に性別のある付喪神ももちろんいるのだが、元になった器物の雰囲気に合わせて男だったり女だったりするように見えるだけで実は性別のない付喪神って結構多いのだ。

 

なでしこさんも仮面のモデルが(メス)の狐だっただけであり、本仮面(ほんにん)に性別は無いのであくまで()()()の付喪神である。

 

それと、一つ嬉しいことがあった。

なんと、俺が異界神キツネツキという神格を得たことで、コンの存在維持と御稲荷様の加護を使った分の神気をキツネツキへの信仰から補給できるようになった事が判明したのだ。

 

流石に変換効率はよろしくないので元の量に戻すにはある程度時間がかかるが、今までのように神気の回復手段が無い状態から考えれば上等すぎる。

これでルミナ神の同伴がなくても外に行ける手段が出来たわけだ。

 

 

 

以上が俺が異界神キツネツキとなった事で得られた恩恵である。

 

 

 

……うん、他に何もないのよ。

何か権能や神通力が得られた訳でもないし、肉体的に強くなった訳でもない。

一応、それなりに神格は高いようなのだが、実権のない名誉職みたいなものだからなぁ。

 

フェルドナ神の対応も、落ち着いて考えてみればあれはやり過ぎである。

驚いて頭が回っていなかったが、主神相手ならともかく神格が高いだけの異界神相手の対応ではない。

多分、フェルドナ神もテンパってたんだろうな。

 

 

 

話が逸れてしまったが、ここに来た理由は森に出来た邪気溜りを浄化するための祭りを見届ける為だ。

 

邪気溜りを直接浄化しようとすると、どうしても大規模になってしまって周囲に影響が出てしまう。

なので村人達の協力を得て、祭りを行う事で遠隔浄化を試みようという訳だ。

 

準備として大型の木材を井桁(いげた)に組み、着火材となる小枝や藁などをセットしている。

キャンプファイヤー的なヤツを想像してもらえれば分かりやすいだろう。

 

この祭りは『ラクル村の生活圏全体の厄を祓う』ものである。

フェルドナ神に神託でそんな祭りをしてもらえるように告げてもらったのだが、流石に昨日の今日で行える筈もなく五日ほどかかってしまったがこれでも早い方だろう。

 

祭りが始まると、フェルドナ神の巫女である女性が木彫りのフェルドナ神像を組み木の中に入れる。

フェルドナ神の木像は人の姿ではなく白蛇の姿の方である。

 

巫女さん、前にマヨイガに来た人じゃん。

 

その後、村人たちが枯れ枝などの細長いもので体を撫で、それを次々に組み木の中に入れていく。

これは細長いものをフェルドナ神の抜け殻に見立て、それで撫でることで体の中に溜まった邪気や厄を持って行ってもらうのである。

 

要は一種の贖物(あがもの)であり、流し雛の炎版という訳だ。

 

流石に村人全員分となると結構あるな。

次々に増えていく贖物(あがもの)を眺めている事数十分。

人数にして300人くらいか?

 

最後の一人が木の枝を入れ終わると、巫女さんが笹のような葉の沢山ついた長めの枝を持ち、ゆっくり横8の字に振り回す。

こうやって土地の邪気を葉の中に封じ込めているらしい。

現世では見た覚えが無いので多分異世界側の儀式手順だろう。

 

その間、巫女さんはなにやら言っていたが、よく聞き取れなかった。

コンによると、「祓い給え、清め給え」みたいな事を言っていたようだが。

 

1分ちょっとほどで振るのを止めると、今度はそれを組み木に被せるように置く。

 

「我らが守り神、穢れなき純白なる聖蛇の神。フェルドナ様、その赫き舌にて災いを打ち払い給え」

 

ああ、炎を蛇神の舌に見立ててるのね。

アルビノである白蛇の体に、炎のように赫い舌はよく映えるだろう。

 

そして村長さんらしき人物から火がついた松明を受け取り、組み木に火を入れる。

着火剤に火が付き、燃え上がる炎が組み木を炙り、やがて炎が広がっていく。

中の贖物(あがもの)が燃え始め、組み木全体が燃え上がり始めた。

 

そろそろいいな。

 

(フェルドナ神、頃合いです。儀式を開始してください)

 

こんごうさん─のっぽさん経由でのっぽさんと供に待機していたフェルドナ神に精神感応を送る。

そんな携帯電話みたいな能力がコンの式神達にはあるのだ。

 

(わかったわ…………第一ステップ完了よ)

 

まぁ、儀式と言っても抜け殻を邪気溜りの中に投げ込むだけなんだけどね。

 

投げ込んだ抜け殻には呪術でこの祭りとの縁を深める(まじな)いが刻まれている。

祭りに使われる贖物(あがもの)をフェルドナ神の抜け殻と見立てることで、実際の抜け殻と同調させるのだ。

 

そして贖物(あがもの)が燃える事で、結果的に抜け殻の方も炎による浄化を受け続ける事になる。

それを邪気溜りに放り込む事で、邪気の吸収→浄化のサイクルが発生する。

 

"神様の一部" "中が空洞な器" "再生の象徴とされる事もある蛇" と多くの邪気を吸収し、なおかつそれに耐えられる耐久度を実現する霊的要素には事欠かない。

これによって大量の邪気を遠隔で浄化してしまおうという訳だ。

 

懸念としては炎による浄化が間に合わなかったり抜け殻の邪気を貯め込める量が少なかった場合に縁を通じて祭りの方に邪気が逆流してくる事だが、今のところそのような様子は見られない。

 

ちなみに呪術で縁の深さを調整しているのでマヨイガにある抜け殻にはほぼ影響はない。

 

 

 

このまま順調に推移していけば、組み木が燃え尽きる頃には大方の浄化も終わり、後はフェルドナ神が雨を降らせて残った邪気を浄化すれば完了だ。

多少細かい邪気溜りは残るだろうが、その程度なら日常的に発生しては消えていくものであり、森の浄化能力に任せてしまえばいい。

 

何事も無ければ後はミコトとのお祭りデートだ。

現世の夜店が並ぶようなお祭りではないが、これはこれでキャンプファイヤー的な楽しさがある。

太陽がさんさんと輝いている時間帯ではあるけどな。

 

それに、今回の相談の対価としてフェルドナ神から鹿肉が貰えることになっているのだ。

村一番の猟師から今年初の獲物として捧げられた供物なので、当然ながら念物(ここのぎ)であり、そのままでは俺は食べられない。

 

正確には食べられなくはないが、味が全くしないのだ。

これは俺の味覚が霊的な食べ物に対応していないかららしい。

 

なのでマヨイガの食材と一緒に調理することで霊体と物体の境界を曖昧する。

こうする事で俺の味覚でも念物(ここのぎ)の味を楽しめるようになる。

野菜を多めに入れて野菜ハンバーグにするかな。

 

今年初めての獲物って何時(いつ)ぐらいの頃のやつなんだろうかと思わないではないが、そもそも念物(ここのぎ)は腐らないので別に気にする必要はないのか。

 

今回、コンの弱体化無しで外に出られるようになった事が判明したので、肉が食べたければ自分で狩猟するという選択肢が増えた。

そういう意味ではフェルドナ神から肉を分けてもらう必要は無かったとも言えるが、正直念物(ここのぎ)の味には興味がある。

 

念物(ここのぎ)は捧げられた(おもい)によって品質が上がる。

フェルドナ神は村の人たちに慕われているようだし、その信仰心がたっぷり詰まった念物(ここのぎ)はさぞかし美味しいだろう。

 

 

 

そのまま何事もなく時間は経過し、組み木も燃え尽きたので後は巫女さんが祝詞を唱えて解散となる。

特に何事もなく祭りは終了したが、フェルドナ神の方はどうなったかな。

 

(キツネツキくん!)

 

お、噂をすれば。

 

(ちょっと訳の分からない事態になってて。邪気溜りから私が出てきて、私が私をお母さんって)

 

(落ち着いてください、フェルドナ神。すぐ行きますので)

 

これは三分(さんぶ)の方になったかな。

 

「ミコト、フェルドナ神の所へ行くぞ」

 

「わかったのだ!」

 

ミコトをお姫様抱っこで抱きかかえ、『神足通』を使ってラクル村から一気に森を飛び越えてフェルドナ神の元へ向かう。

念のため言っておくけど神足通を使っているのは憑依しているコンである。

 

 

 

はい、到着。

 

「あ、キツネツキくん!」

 

ミコトを下ろすと、フェルドナ神が駆け寄ってきた。

その腕に黒髪で白い服を纏った一回り小さいフェルドナ神(2Pカラーのそっくりさん)をぶら下げて。

 

「ああ、無事産まれたんですね。おめでとうございます」

 

まぁ、誰かは予想がついている。

フェルドナ神の抜け殻が念物(ここのぎ)になって、更に妖怪化した(付喪神になった)存在だ。

祭りによって村の信仰が一気に注がれたことで、その受け皿である抜け殻が意思を得たのだろう。

 

一応、可能性としては考えていたが、おそらく念物(ここのぎ)止まりだろうと思っていただけにちょっと驚いたが。

それだけラクル村の信仰心が高かったという事で。

敬愛されてますねぇ、フェルドナ神。

 

「え? どういう事? 一人で理解してないで教えてよ」

 

「あれ? 打ち合わせの時に説明したと思いますが。浄化に使ったフェルドナ神の抜け殻が力を得る場合があると」

 

「こういう方向に力を得るなんて思わないわよ!」

 

ああ、これは俺が影響してる可能性もあるのか。

フェルドナ神の様子を見るに、おそらくミルラト神話にはあまり無い事なのだろう。

しかし(キツネツキ)に知恵を借りた事で異界(日本神話)成分が少し混ざったのかもしれない。

 

黄泉の国へ行った伊弉諾尊(いざなぎのみこと)禊祓(みそぎはらい)をする際、脱いだ衣服から十二もの神々が産まれたのだ。

邪気をたっぷりと吸いケガレ、炎によって(はら)われたフェルドナ神の抜け殻(衣服)が妖怪化するのもさもありなん。

 

付喪神の名に神の字が入るように、神と妖怪は近しいものでもあるのだ。

 

「初めまして、異界の神様。私は今日、お母さまより産まれたのです。以後、お見知りおきを」

 

フェルドナ神の腕から手を放し、片手を胸に当てて挨拶をする。

妖怪化すると、ある程度の知識は初めから知っている状態になるのだとコンが言っていた。

これは妖怪が産まれる過程で、それを信仰する(妖怪を信じる)人々の集合意識から知識が刷り込まれるかららしい。

 

加えて彼女はフェルドナ神の抜け殻から生まれた為、フェルドナ神の記憶の一部を受け継いでいる可能性が高い。

そしてフェルドナ神の体の一部から生まれた故に、フェルドナ神を母と呼ぶのだろう。

 

「よろしく。(わたし)はキツネツキ。そう呼んでくれると嬉しいかな」

 

フェルドナ神が俺の事をキツネツキ神と呼んでいる以上、彼女にタケルと呼ばせる訳にもいかないからな。

 

「はいなのです! キツネツキ神」

 

あと、ミコトとコンの事も紹介しておく。

元気に挨拶をするミコトと、憑依を解いて威厳たっぷりに名乗るコン。

 

コンがわざわざ霊威を威圧的にならない程度に開放しているのは印象操作の類だろう。

俺は異界神キツネツキとして神格はそれなりにあるようだが、神威の方はからっきしなのでその方面をコンが担当してくれているのである。

 

「それで、フェルドナ神。彼女の名前は何というのですか?」

 

「な、名前!? ……そ、そうね。えっと……」

 

神様もですが、妖怪にとって名前は重要なものですからね。

しっかり考えてください。

そして名前を考える事に夢中で気づいてないようですが、名前を付けた時点で貴方は彼女の存在を己に連なるものとして認める事になるのです。

 

まぁ、既に認めてはいるのかもしれませんがね。

娘としてか、眷属としてかはともかく。

 

ふと見ると、ミコトが羨ましそうにフェルドナ神とその娘さんを見ていた。

ミコトの事だから、多分だけど自分も子供が欲しいと考えているのだろう。

俺もいずれ子供が欲しいとは思っているが、最低でも現世に戻るまでは無理なんだ。

 

もしも現世に帰れるのが百年後と決まっているのなら、異世界(こちら)で子どもを育てる選択肢もあったかもしれない。

だけど、もしかしたら数年で帰還できる可能性もある以上、それは選べない。

 

場合によっては百年近く待たせてしまう事になるかもしれない。

ごめんな、ミコト。

せめて今日はいつも以上に目一杯可愛がるからな。

 

未だにうんうんと唸っているフェルドナ神を尻目に、俺はそんな事を考えるのだった。

 




『仇も情けも我が身より出る』

人から憎まれるのも、人に愛されるのも、日頃の自分の行いの結果だという事。
なので普段の態度や心がけには気を付けるようにしましょうという意味。



File.No.17は次話で終わり、その次に繋ぎ回を入れようかと考えていますが、その後の話が決まっていません。
なのでどれが見たいかアンケートを取ってみる事にしました。
どの話もいずれは書く予定ですが、どれが一番見たいか教えていただければ幸いです。
なお、頭の中のキャラたちが勝手に動き出した場合はそちらを優先するつもりなのであらかじめご了承ください。

※アンケートは終了致しました。ご協力ありがとうございました。
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