俺と天狐の異世界四方山見聞録   作:黒い翠鳥

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本日二回目の投稿です。
まだ前話を見られていない方はそちらからご覧ください。


File No.21-2 童話『梟の恩返し』

あるところに心優しい猟師がおりました。

 

雪の積もったある日の事。

猟師が山で猟をしていると、雪の中に何か動くものを見つけました。

 

もしや獲物かと目を凝らしてみると、そこには罠にかかった一羽の梟がいます。

銀色の羽を持つ、それはそれは美しい梟でした。

 

猟師は生業として獲物を狩りますが、無益な殺生はいたしません。

かわいそうに思った猟師は、梟を助けてあげる事にしました。

 

梟が驚いて暴れないように慎重に近づいて、丁寧に罠を外します。

 

「さぁ、外れたよ。もう罠にかからないように気を付けなさい」

 

猟師がそう言うと、梟は森の奥へと飛び去って行きました。

 

「ちゃんと飛べたか。怪我をしていなくてよかった」

 

そう言って猟師は猟を再開します。

その日は多くの獲物が取れました。

 

 

 

幾日か経った雪の降る夜。

 

猟師の家の扉を叩く音がします。

 

「こんな時間にだれだろう」

 

猟師が扉を開けると、そこには美しい娘が立っていました。

見たことのない意匠の服を羽織った、不思議な鳥人の娘でした。

 

「雪に降られて道に迷ってしまいました。どうか一晩泊めてもらえないでしょうか」

 

寒さに震えながらそう言う娘に、猟師も断る事は出来ませんでした。

 

「いいですよ。さぁ、中で体を温めなさい」

 

その言葉に喜んだ娘は、お礼を言ってそこに泊まらせてもらいました。

 

 

 

次の日から、娘は泊めてもらったお礼に猟師の家で働く事にしました。

 

猟師が「どこかへ行く途中だったんじゃないのかい?」と聞くと、娘は「これほど雪が積もっていては、辿り着くことはできません。雪が解ける季節まで、ここにおいてもらえませんか」と答えます。

そう言われては猟師も追い出すことはいたしません。

 

その日から娘はこの家で暮らすようになりました。

娘は良く働き、猟師の生活は少しずつ楽になっていきます。

 

ある日、娘は猟師に言います。

 

「私に服を作らせてください。素晴らしい服を作って見せます」

 

それを聞いた猟師は快く(だく)しましたが、恥ずかしそうに娘に告げます。

 

「服を作るための布が無い。すぐに村の者から買ってこよう」

 

しかし娘は首を横に振ります。

 

「私の持っている布を使いましょう。その代り、服を作っている姿は決して覗いてはいけませんよ」

 

そう言って娘は部屋に籠ってしまいました。

 

夜になっても、朝になっても、また夜になっても娘は出てきません。

心配になった猟師ですが、覗いてはいけないと言われた手前、扉を開ける事も出来ません。

 

その次の日のお昼に、ようやく娘は部屋から出てきました。

少し痩せたように見える娘の手には、素晴らしい服があります。

銀色の糸が編み込まれた、見たこともない意匠の服でした。

 

娘はさっそく猟師にその服を着てみるように言います。

猟師が袖を通すとそれはとても着心地が良く、体が軽くなったような気さえしてきました。

猟師はとても喜び、次の日から猟に出るときはいつもその服を猟装の下に着ていくようになりました。

 

 

 

それから幾日かたったある日の夜、猟師が娘に明日行商人が村にやってくると告げました。

 

「今年はいつもより多くの獣を狩る事ができた。牙で作った装飾や(なめ)した毛皮などを売れば懐にも余裕ができそうだ」

 

猟師はいつも仕事を頑張ってくれている娘に少し贅沢をさせてあげたくてそんな事をいいましたが、娘には残念ながら伝わりません。

 

「でしたら私の持っている布も売りましょう。きっとお金になるはずです」

 

ならばと見当違いな事を言い始めた娘は、「布を用意いたします。その間、決して覗いてはなりませんよ」と猟師の返事も聞かずに部屋に籠ってしまいました。

 

売りに行く布を用意するだけならすぐに戻ってくるだろう。

そう考えていた猟師でしたが、夜が更けても娘は部屋に籠ったままです。

 

覗いてはならないと言われたので、扉を開けることも出来ません。

猟師が声をかけても、返事は帰って来ません。

ようやく娘が部屋から出てきたのは、朝日が昇ってからの事でした。

 

「これを売ってきてください。高く売れると良いのですが」

 

そう言った娘が差し出したのは、とても美しい布でした。

銀色の糸が編み込まれた、それはそれは不思議な輝きを持つ織物でした。

以前の猟師が娘に仕立ててもらい、いつも猟装の下に着ている服と同じ布でした。

 

娘に言われた通り、猟師はやって来た行商人の所に織物を売りに行きます。

行商人はその織物のすばらしさに感嘆し、とても高く買い取ってくれました。

 

猟師は娘へのお礼にと、髪飾りを買って帰る事にしました。

鮮やかな花の装飾があしらわれた、奇麗な髪飾りです。

それは娘の美しい髪にとてもよく似合うことでしょう。

 

髪飾りを付けた娘の姿を想像し、猟師はふと思いました。

今日部屋から出てきた娘は、昨日より明らかに痩せていなかったか、と。

 

思えば最初に部屋に籠った時もそうでした。

あの時は三日も籠っていたのです。

その間ずっと服を作っていれば、痩せて見えることもあるかもしれません。

 

しかし今度は違います。

籠っていたのはたった一晩。

それなのに前に籠っていた時より明らかに痩せているのです。

もう一度同じだけ籠っていれば、今度はやつれてしまうのではないかと思うほどに。

 

籠っていた時間は最初の方が長いのに、後の方が痩せている。

仕事だって布を探すより服を作る方が大変だろう。

他に違いがあるとすれば……()()()

 

猟師に嫌な汗が流れますが、首を振ってその考えを追い出します。

何を馬鹿なことを。

きっと自分が見間違えただけだ。

万が一そうだったとしても、もう二度と売る必要が無いように自分が稼げばいいのだと。

 

 

 

家に帰って来た猟師は、早速娘に髪飾りを送ります。

娘はとても驚き、それから嬉しそうに自分の髪につけて見せました。

その姿は猟師が想像した通り、とても似合っていました。

 

そしてそういえばと前置きし、娘が「布は高く売れましたか」と聞いてきます。

猟師は「とても高く売れたよ、ありがとう」と言って織物の代金を娘に見せました。

予想以上に高く売れたのか、娘はまたも驚きます。

 

これで当分二人で暮らせるだけの貯えが出来たと安堵する猟師。

しかし、娘の考えは違っていました。

 

「これほど高く売れるなら、残りの布も売ってしまいましょう。準備してきますから覗かないでくださいね」

 

なんと突然の事に唖然とする猟師を残し、再び部屋に籠ってしまったではありませんか。

しばらくしてようやく頭が働きだした猟師が慌てて呼びかけますが、返事はありません。

 

猟師の頭に、やつれた娘の姿がよぎります。

そう考えた瞬間、猟師は覗かないでと言った娘の言葉を無視し、僅かに扉を開けて隙間から中を覗きました。

 

しかし部屋の中に娘の姿はありません。

そこにいたのは()()()()()()()()()()()()()()()()()だけでした。

 

そして猟師は見てしまいました。

梟が自らの羽根を抜き出し、美しい織物に変えているところを。

娘が痩せてしまっていたのも当然です。

なんせ自分の体を削って(羽根を抜いて)布を作っていたのですから。

 

気付けば猟師は扉を大きく開け放っていました。

そんな事をすれば当然、梟だって気が付きます。

突然の事にしばし言葉の出なかった梟ですが、何とか絞り出すように猟師に向かって言いました。

 

「覗かないで下さいと言ったのに、何で覗いてしまったのですか」

 

悲しそうな声で言う梟に、猟師は答えます。

 

「今朝君が部屋から出てきたとき、君は随分と痩せていた。次に君が部屋から出てきたとき、もし君がやつれてしまっていたらと思うといてもたってもいられなかった」

 

猟師の頬に、一筋の涙が流れます。

 

「君は自分の身を削ってまであの布を作ってくれていたんだね。気が付かなくてごめんよ」

 

それを聞いた梟は鳥人の娘の姿に変わると、猟師をやさしく抱きしめました。

しばらくして猟師が落ち着いてくると、娘は自分の身の上を話し始めます。

 

自分は以前、猟師に助けられた梟であること。

その恩を返すために人になりたくて、異界へ赴いたこと。

その一心で異界神キツネツキ様の試練を受け、人になれる神器を授かったこと。

道に迷ったと偽り、この家にやって来たこと。

 

全てを語り終えた娘は、最後に猟師を欺いていたことを謝りました。

しかし、猟師は謝られるような事をされたとは思っていません。

むしろそこまでして恩返しに来てくれた梟に感謝していました。

 

「ありがとう。もう十分、恩は返してもらったよ」

 

その言葉に、娘は悲しそうな顔をします。

それは娘がこの家にいる理由を失う言葉だったからです。

娘はこの家で過ごすうちに、猟師に惚れてしまっていたのですから。

でも……と、猟師は言います。

 

「恩返しの為ではなく、一緒に暮らしても良いと思ってくれるのなら、これからもこの家にいてくれないだろうか」

 

猟師もまた、同じように娘に魅かれていたのです。

 

「私は梟の魔獣です。いくら人に変わっても、私は人と同じではありません。そんな私でも、ここにおいてもらえますか?」

 

「もちろんだとも」

 

 

 

それからしばらくして、二人は夫婦の契りを結びました。

心優しき猟師と、誠実な魔獣の娘。

種族すら違う二人は、いつまでも仲睦まじく暮らしましたとさ。

 

めでたしめでたし。

 

────────────────────────────────

 

「……という詞曲(しきょく)が吟遊詩人の間で流行ってるのだけど、キツネツキ君は何か知らない?」

 

「恩返しをしたがっていた梟にマヨイガ妖怪を授けはしましたが、それ以外は何もしていませんよ」

 

「あ奴らが誰ぞに喋って広まったという線はないか?」

 

「ないわね。そもそも村の者(我が子)達も彼女が魔獣だとは知らないわよ」

 

「話の内容は実際にあった事とは違う。しかし偶然というには同じ部分が多すぎる……と」

 

「まぁ、偶然ではないじゃろうな」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「ルミナ神かな」

 

「ルミナ神じゃな」

 

「ルミナ様かぁ」

 

という会話が未来のマヨイガで交わされたとかなんとか。

 

 




蛇足

Q.前話の内容と矛盾してる所がない?
A.ミルラト神話圏の人好みになるように改変され、尾ひれとかついてます。

Q.そんなに羽根を抜いちゃって大丈夫なの?
A.ちょうど彼女の換羽期で、抜ける羽根を使っただけなので問題はありません。詩曲ではちょっと大げさに表現されています。

Q.覗くなという約束を破っちゃったけど……
A.猟師が返事をする前に籠ってしまったので、そもそも約束自体が不成立です。
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