俺と天狐の異世界四方山見聞録   作:黒い翠鳥

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おまたせしました。
思いのほか時間がかかってしまった。



修正履歴。
タケルがミコトと会った年齢を五歳に変更。流石に三歳であの行動力は無理があった。
霊礎の読みを『いしずえ』に変更。他と比べて浮いていたため。
神号(敬称)のかぶりを修正。一部二重敬称になってました。


File No.22-1 『所の神様ありがたからず』

「久しぶりに袖を通してみたんじゃが、どうかの」

 

ある日、見慣れない衣装を着たコンがそんな事を言った。

 

俺の結婚式で着ていた神使としての正装に似た意匠だが、何というかこっちの方が豪華に見える。

さりとて派手という訳ではなく、落ち着いた色調にも関わらず壮麗さを感じさせるような秀逸なデザインだ。

 

「似合ってるぞ。なんかいつもより神々しく見えるな」

 

「コンさん、奇麗なのだ」

 

「何と言いますか、言葉にできないです」

 

中身は姿どころか雰囲気までいつものコンなのにこうも変わるのか。

 

ありがとのう(ありがとう)。まだまだ儂も捨てたものではないな」

 

コンはいつもの人の姿に化けているが、これはコンの姿を人に当てはめた(かたち)だ。

つまりコンが人であったなら、このような姿だったという事である。

 

見かけの年齢はおおよそ三十歳くらいだが、コンにとって年齢はさして重要なものではない。

サイズ的な意味での化けやすさや使う霊気の量の関係で、年齢が上がる程化ける頻度は少ないってのはあるけどな。

 

あと、コンは女性であれば普通に他人にも化ける事が出来る。

この間なんか「偶にはこういった趣向もよかろう」とか言いながらミコトに化けて二人で迫って来た。

相手の心を相手以上に読める『他心通』を使えるせいか、性格まで瓜二つに演じる事が出来るのだ。

 

まぁ、俺は()()()()()()が。

 

なお女性限定なのは単純に得手不得手の問題。

男に化けるだけなら問題ないが、特定の誰か(例えば俺とか)そっくりに化けるのは苦手らしい。

 

「で、どうしたんだ? 急に」

 

そもそも普段着ている着物は変化で作っているものだ。

霊狐であるコンは物質的な衣服を持つ意味が……あ、いや、物質的な衣服じゃないな、あれ。

霊体……それも念物(ここのぎ)に近い。

とはいえちゃんと物理的にも触れられるが、これは霊体のコンが化けたら肉体を持つのと似たようなものだ。

 

「なに、以前眷属神としての神格を持っておった頃の正装でのう。せっかくタケルも現人神となった事じゃし、儂も神格を取り戻しておこうかと思って引っ張り出したんじゃよ」

 

「そんなちょっと衣替えしようみたいな……ってコン、神格持ってたの?」

 

「三百年と少し前までじゃがな。五百年ほど前に仕事(神使の役目)で必要になった故、資格を取った(宇迦之御魂様より位を授かった)んじゃ」

 

何か国家資格持ってるよみたいな言い方してる気がするんだが。

神格って取ろうと思って取れるものなのか?

限定的とはいえ神格を持っている俺が言う事じゃないかもしれないが。

 

(お主のように信仰されて神格を得るのとはそもそも経緯が違うんじゃがな。儂が言うのもなんじゃが、(くらい)の高い神に長年仕えて認められた一握りだけが得られる狭き門じゃよ)

 

やっぱコンってエリート中のエリートなんだよな。

 

いや、ちょっと待て。

前に自分は神格を持ってないって言ってなかったか?

 

正確には稲荷狐で一纏めにされている分の信仰があるので零ではないらしいが。

 

(はて、そうじゃったか?)

 

ほら、前に伏見稲荷大社に行った時に。

 

(ああ、あの時のか。あれは単に()()神格を持っていないという意味じゃよ。当時は神に戻る予定も無かったしのぅ)

 

そういう意味かよ。

 

(そもそもただの神使が主である宇迦之御魂(うかのみたま)様の(めい)もなく名代(みょうだい)を名乗れる訳が無かろう)

 

そりゃそうか。

コンって結構いろいろな権限持ってたりするし、そう考えると確かに腑に落ちるな。

 

「え? あ、え? 主様って神様だったんですか?」

 

なんかいまいち理解が及んでなさそうなヤシロさんが声を上げた。

 

「正しくは『かつて眷属神じゃった』じゃな。現時点ではただの神使じゃが、この後神格を戻す儀を行う予定じゃ。それが終わればまぁ、神という部類に入るのう」

 

「で、では、私も神使という事になるんでしょうか」

 

残念ながらヤシロさんの場合は神使とはならない。

言葉にするなら配下というのが正しいだろう。

これは仮面の付喪神(面霊気)達も同じ(こっちは配下ではなく部下)だ。

 

それをコンが伝えると、ヤシロさんはあからさまにホッとした表情を見せた。

あれかな、まだ神使としてやっていけるほどの実力はないのにとか思ってたか。

ヤシロさん、自己評価が低いからなぁ。

 

「儂が神となっても仕事(役目)が変わる訳ではないから安心せよ。もちろん儂が任せられると判断すれば新たな仕事(役目)も増えていくじゃろうが、これは神でなくても変わらんからの」

 

そろそろ次の段階に進んでもいいかもとか言ってたしね。

 

「とはいえお主も神の陪臣(ばいしん)(家来の家来の事)の()()()()()じゃし、心構えくらいは持っておくのじゃぞ」

 

「は、はい。ですが私は宇迦之御魂神(うかのみたまのかみ)にお会いしたこともありませんし、なんと言いますか実感が持てなくて」

 

前にヤシロさんの事を支社長(コン)が雇ったアルバイトと評したことがあるが、そう考えるとアルバイト(ヤシロさん)にとって本社長(宇迦之御魂神)はそもそも接点すら無い相手だろう。

 

「いや、宇迦之御魂様ではなくタケルの事じゃよ。異界神の神格を得て現人神となった訳じゃし、お主のところ(ミルラト神話圏)で信仰されて……って知らんかったようじゃな」

 

「え? え? タケル様が? 故郷で異界で神様で? え?」

 

さっきも一応話に出てたんだけどね。

コンが元神様だったって事を理解するのに時間がかかって聞き逃したか。

 

ちなみに俺とコンの立場の関係って結構複雑だったりする。

宇迦之御魂神に仕える者としてはコンの方が格上だが、異界神としては俺の方が格上となる。

そして陽宮尊とコンであれば俺が主でコンが従だが、コンが従であるのは稲荷神の意向によるものであり直接的な主従関係ではない。

もっとも対外的な立ち位置の話なんでプライベートでは関係ない訳だがな。

 

それからヤシロさんに事の次第を説明するのに一時間くらいかかってしまった。

ルミナ神に近いレベルの神格があると説明したあたりで許容量をオーバーしたのか、固まって動かなくなってしまったせいもあるが。

 

 

 

それからコンは神に戻る為にマヨイガにある稲荷神社の方へ行った。

神格を還すという感覚がいまいちよく分からないのだが、稲荷神社に還した神格を再び取り込むことで神に戻れるらしい。

現世では稲荷神の加護もあるので必要なかったが、俺が異世界(ミルラト神話圏)と関わる事が多くなってきたので対応に幅を持たせるために肩書を得ておきたいそうだ。

 

力ではなく肩書が必要というのもあれだが、マヨイガに籠っているだけならともかく異世界の神(ミルラト神族)と関わるなら神格の有無で出来ることが全然違う。

ルミナ神みたいに完全にプライベートなら別だが、公式的な話(神としての御役目中)だと特にね。

 

一応、異世界に来た時点でもやろうと思えばできたらしいが、神に戻る為に大量の神気を消費するのと存在を維持するために必要なコスト(人間で言えば基礎代謝に必要なエネルギー)が高く割に合わなかったそうだ。

異界神キツネツキへ信仰が増えてきたことで、それを神気の補充に回せば赤字を避けられる目途が立ったからこその今回の話である。

 

ヤシロさんは頭を冷やして話を整理したいと言って寝床(妖怪生簀)に戻ってしまった。

別に今まで通りでいいのだし、そうも言ったんだけどな。

 

逆にコンが神に戻ると聞いてもいつもと変わらないのがミコトだ。

「ほえ~、凄いのだ」くらいは言ってたけどね。

 

言動のせいでいまいち内容を理解していないように見えるが、完全に理解したうえで()()()()()()()()()()()()()()()()()()が故の行動である。

ルミナ神が相手の時もそうだが、神に対する敬意を持っていないわけでは無い。

敬意を持ったうえで遠慮する必要が無いと理解しているのだ。

この辺は俺に近いとルミナ神に言われたので俺の影響かも知れないが。

 

ちなみにコンもそうだが、礼節が必要なときのミコトの変わりようは凄いぞ。

フェルドナ神が仕事(御役目)で来た時とかに見れるが、その時の振る舞いは仕事のできる熟練の御殿女中(宮中などに仕えている女性の事)の如きである。

普段のなのだ口調も意識して喋れば出ないようにできるそうだし。

見た目が幼いというのもギャップがあって逆に魅力的だ。(惚気)

プライベートで来た場合はいつものミコトなので最初はフェルドナ神も戸惑う事があったが。

 

 

 

さて、夕飯の準備を始めるにはまだ早いし妖術の自主練でもしようかなと考えていると、いだてんさんがやって来た。

なんでもルミナ神が遊びに来たらしい。

 

仕事(御役目)ならともかくプライベートなら俺とミコトでも大丈夫だな。

一応、ルミナ神が来たことだけはお祈り(脳内会話)で届けておこう。

 

 

 

という訳でルミナ神を玄関でお迎えし、俺・ミコト・ルミナ神の二人と一柱は座敷へやって来た。

 

「今日は何をしましょうか。コンが居ないので三人用か二人用のになりますが」

 

妖札か、絵双六か、三人用のゲームって案外ぱっと思いつかないもんだな。

式神達の誰かでも入れて数を揃えればいいと思うかもしれないが、彼らってコンの式神だからコンが居ないと俺に命令権はないんだよね。

頼んだら一個(ひとり)くらいは参加してくれるかな?

 

「双六がいいですわ」

 

(わたし)は異論ないですね」

 

「それじゃぁ、双六さんを持ってくるのだ」

 

ルミナ神の希望で絵双六に決まったのでミコトが元気よく妖怪双六を取りに行った。

妖怪双六にNPC(ノンプレイヤーキャラクター)をやってもらうのもアリかも知れない。

頼んでやってくれるかは分からないが。

 

「それにしても、コンさんがいないというのも珍しいですわね」

 

「そうですね。お客さんが来るときは基本的にいますし」

 

それだけルミナ神はコンに信用されているという事でもある。

これがプロミネディス神とかなら多分儀式を中断して同席しただろう。

 

一応、コンがいない理由はルミナ神に伝えてある。

その際にルミナ神は「あら、思ったよりも早かったですわね」と言っていたので、コンが元神である事は知っていたようだ。

ルミナ神は相手の過去を見通す『宿命通』を得意としているようなので、知っていても特段おかしな事ではない。

 

「それほど時間はかからないと言っていましたから、夕食前には戻ってくると思いますよ。あ、ルミナ神は夕食は食べていかれますか?」

 

今日は鍋物の予定。

 

「ええ、ご同伴に預かりますわ」

 

それならマヨイガの畑から追加で野菜を取ってこないとな。

白菜、大根、ネギに水菜。

椎茸や舞茸にしめじも有ったはず。

季節関係なくいつでも美味しい野菜があるのが妖怪畑の良い所だ。

 

「タケルさん、少し聞きたい事があるのですがいいかしら」

 

「あ、はい。何でしょう」

 

()()()ってご存知?」

 

「ええ、存じてますが」

 

祟り神(たたりがみ)──神々の荒々しい側面である荒魂(あらみたま)の更に一側面。

 

荒魂は文字通り荒ぶる魂であり、その荒れ狂うほどのエネルギーは時として人に様々な厄災を(もたら)してきた。

例として河川の氾濫や火山の噴火などがあげられるが、これらは基本的に神々の持つ性質の発露であり敵意から来るものではない。

それが結果的に人間の害になっているだけなのだ。

 

むしろそれらは新しい変化を生み出す力を秘めており、神の顕現そのものでもある。

もっとも、人間からしたらたまったものではないのだが。

 

しかし祟り神は違う。

 

そこには明確な害意があり、怨恨がある。

人が神の意に反し、罪を犯し、祭祀を(ないがし)ろにしたとき、その懲罰あるいは報復として為される厄災──祟り──。

それを成す(もの)を祟り神と呼ぶ。

 

「では、()()()()()()()は知っているかしら?」

 

「知っているといえば知ってますが、相手が何を怒っているのかによりますので具体的には何とも……」

 

「具体的でなくとも構いませんわ。()()()さえ答えていただければ」

 

それでしたら、まぁ。

 

「では。まずは、何で怒っているのかを知らない事には話にならないので、卜占(ぼくせん)で祟りの理由を調べますね」

 

卜占というのは(うらな)いの事である。

占いは運命や相性を判断するだけでなく、神の言葉を読み解く為のものとしての側面もあるのだ。

 

神子(みこ)などに仲介してもらって直接お伺いを立てるのもいいだろう。

先ほど言った河川の氾濫や火山の噴火なども実は祟りだったという場合もあるし、何かあったらとりあえず聞いてみるというのは有効な手段だ。

 

祟りは神意の表れでもあるのだから、その辺は作法に(のっと)って聞けば祟り神でもちゃんと答えてくれる。

 

「原因が分かったら、それを(あやま)って埋め合わせをします」

 

この辺は人間と同じだ。

神意に反していたのであればそれを改め、罪を犯していたのであれば贖罪(しょくざい)をする。

そして祭祀を行い、許しを請う事で祟りを鎮めるのだ。

 

どのような贖罪や祭祀を行うかは祟りの規模や祟り神の性格によるので何とも言えないが、御供え物くらいで許してもらえる事もあれば、罪を犯した者の命をもって償う必要がある事すらある。

祟り自体が懲罰でもあるので、祟り神の気が済むまで祟りを受けるという方法もあるにはあるがお勧めはしないな。

 

なお神意に反していた方であれば実は交渉の余地がある。

代わりに祭りをしたり供物をささげたりするからこうさせてくれとお願いすれば、後付けでも案外神意を曲げてくれる事もあるのだ。

そうなれば代わりに提示した条件を満たしている限り、それで祟られる事はない。

 

あとは強力な怨霊による祟りを、神として祀り上げる事で鎮めるパターンもある。

というか、祟り神と言えばこちらを思い浮かべる人の方が多いんじゃなかろうか。

 

粗末に扱えば恐ろしい祟りをなすが、手厚く祀ればむしろその強力な力で守護してくれる。

全国に祟り神を祀る神社が結構あるのはそういった理由からだ。

 

怨霊であれ神であれ、祟るのにはそれなりの訳がある。

あくまでこちらの対応次第であり、祟り神そのものは悪い神ではないのだ。

 

その辺の話をルミナ神に伝える。

 

「こんな感じですかね。日本(こちら)の神々の話なのでミルラト神族(そちら)でも同じかは分かりませんが」

 

「考え方自体はおおむね同じですわね。実際の内容としての違いは、ミルラト神話圏(こちら)では祭りによって鎮めるというのはあまりなく捧げものが基本というのと、理由を聞かずとも神託などで自らアピールする事が多いという位でしょうか」

 

割と自己主張が激しい神が多いのですわよねとルミナ神。

 

あと、怨霊を祟り神として祀って鎮めるとかはミルラト神話圏には無いらしい。

怨霊は討滅か浄化が基本なんだとか。

そういえばこのタイプの祟り神は日本特有のものだと聞いたような気がする。

この話をしていた時のルミナ神、「まじかー」って顔してたし。

 

「ところでいきなり祟り神とか、何かあったんですか?」

 

機嫌が悪い神でもいたのだろうか。

 

「そのうち祟り神のお相手をする事になるかもしれませんの。その時に異世界の祟り神の鎮め方を聞いておけば穏便にいくかもしれないと思ったのですわ」

 

「なるほど。ではあまり参考にはならなかったですね」

 

何をされたら嬉しいかの違いで、やっている事は同じようだし。

 

「いいえ、ちゃんと参考になりましたわ」

 

「そう言ってもらえるとありがたいですね。そう言えば祟り神の対応ってルミナ神がするのですか?」

 

ルミナ神は月の女神にして(しるべ)の神。

あんまりそういう仕事をするイメージが無いんだが。

 

「普通はしませんわね。祟り神となった神が己の領分を越えて被害を出した場合には介入する事がありますが、それは太陽神(プロミネディス)の役目ですし。ですが、そこまででもない場合は守護下の人間(我が子)達から神助を求められる(頼られる)事も多いのですわ。何せ、(わたくし)標の神(導く神)ですから」

 

文字通り神頼みされたら応える事もあるって事か。

とはいえ言い方からして直接手を出すのではなく、助言がメインなのだろう。

その際の手札を増やせればって事だったのかな。

 

「おまたせなのだ! 双六さんを持って来たのだ」

 

そこへ元気な声と共にミコトが戻って来た。

話もひと段落したようだし、それじゃぁ双六を始めますか。

 

 

 

「ここで5以上なら……よし、6。あがり!」

 

「あら、あと手番が一つ足りませんでしたわ」

 

「あなた、おめでとうなのだ」

 

双六の結果は僅差で俺が一位を取った。

ルミナ神がゴールまであと2マスでミコトが8マス。

次がルミナ神の手番だから二位がルミナ神、三位がミコトで確定か。

 

キリもいいし、そろそろ俺は夕飯の準備に入ろうかな。

そんな事を考えていると、コンの気配がして襖が開いた。

 

「お、二人ともおるの。ルミナ神、いらっしゃいじゃよ」

 

「お邪魔してますわ」

 

そこにいたのは宇迦之御魂神(うかのみたまのかみ)の眷属神の正装をしたコン……なのだが。

 

 

 

尻尾(しっぽ)でかっ! そして(ふと)っ!

 

 

 

え、なにあれ。

体に対してバランスが悪く見えるほどでは無いのだが、コンの尻尾がすごくデカくなってる。

 

元々コンの尻尾は普通の妖狐より大きかった。

例えばミコトの尻尾はモフモフとはしているものの、太さに関しては野生の狐とあまり変わらない。

個体差はあるが標準的な九尾の狐の尻尾の太さはそのくらいだそうだ。

長さに関しては獣人形態(じゅうじんモード)で立った時にぎりぎり尻尾が地面につくかつかないかくらい。

 

対して元のコンの尻尾は身長比で考えてもミコトの倍ほどの直径があった。

この時点でも十分太いと思うが、現在のコンの尻尾の最大直径は肩幅より大きい。

形もなんか卵型になっているし、なにより()()()()()()()()()()

 

天狐は強くなればなるほど尻尾の数が減ると言われているが、それでも最小数は四本だ。

つまり今のコンは天狐の限界を超えているという事になる。

いやまぁ、神に成っているんだからそりゃそうなんだが。

 

(ほら、タケルさん。何か言って差し上げなさい)

 

ルミナ神!? そ、そうですね。

 

「凄い尻尾になったな。毛並みもモコモコしてて柔らかそう」

 

って、何言ってんだ俺は。

尻尾のインパクトが強すぎて見当違いな事を言ってしまったぞ。

 

「かかかっ、ありがとのぅ」

 

あれ? 意外に好感触?

 

ああ、そうだった。

基本的に狐妖怪相手には尻尾を褒めておくのが無難だって言ってたっけ。

それだけ重要な部位なんだってさ。

 

「すっごいのだぁ」

 

「それが()()。素晴らしい神気ですわね」

 

ルミナ神、()()って何ですか、()()って。

え? 何かあるの?

 

「賛辞、かたじけない。せっかくじゃからこのまま名乗らせていただく。我が神名は『命婦専女(みょうぶとうめ)』。正一位稲荷大明神(しょういちいいなりだいみょうじん)神使(しんし)である」

 

なんか「ばんっ!」っと背景に出てそうなポーズで胸を張るコン。

 

命婦専女(みょうぶとうめ)

それがコンの神としての名……って、これ確か──

 

「まぁ、この名は個神名(こじんめい)ではなく称号(しょうごう)なんじゃがな」

 

あ、やっぱりか。

 

命婦(みょうぶ)』というのは、宮中(宮殿の中)に上がる事の出来る資格をもつ女性の称号。

例外はあれど基本的に従五位下(じゅごいのげ)以上の位階(いかい)の女官を言う。

また、この称号が稲荷狐(いなりのきつね)に送られたことで、稲荷狐(稲荷大神の神使の狐)の異称ともなっている。

 

専女(とうめ)』というのが老いるほどの歳を重ねた女性の事。

転じて命婦専女(みょうぶとうめ)とは長年稲荷神に仕えた(メス)稲荷狐(いなりのきつね)に送られる名であり、神号(敬称)である(のかみ)を付けて命婦専女神(みょうぶとうめのかみ)と呼ばれている。

 

「では今後はミョウブトウメさんと呼んだ方がいいかしら?」

 

「コンのままで構わぬよ。命婦専女(みょうぶとうめ)のコン、じゃからな」

 

コンはそもそも(綽名)だしね。

 

「さて、お披露目も済んだ事じゃし、もうよいかの」

 

そう言ってコンが一息つくと、コンの尻尾が割けるように四本に分かれた。

服装も一瞬光輝いた後にいつもの和服に戻る。

今までと違うところと言えば髪に(かんざし)を挿しているくらいか。

 

……ってか、普通に戻れるのね。

 

「あら、もう戻してしまいますの?」

 

「あの姿は疲れるからのう。別にこちらでも神性は変わらぬしな」

 

あれはお主の真なる月の姿(トゥルース・フィギュア)みたいなものじゃよとコン。

 

つまりは尻尾を一本にまとめたさっきの姿が全力形態(本気モード)で、尻尾を四本に戻した今の姿が省エネ形態(通常モード)みたいな感じか。

今の状態でも神である事には変わりないようだが。

 

コンの一部ではない筈の命婦専女神(みょうぶとうめのかみ)の正装も消えているが、多分あの(かんざし)がそれなんだろうな。

七変化の術みたいなものを使っているのか、元々そういう力があるのかは分からないが。

 

ちなみに簪の形は赤く輝くような金属球をあしらった玉簪(ぎょくしん)である。

あの金属球、多分だけどヒヒイロカネだと思う。

 

「そもそもお主(ルミナ神)が来ておると聞いた故、丁度良いと思ってそのまま来ただけじゃ。お披露目が済めば、もうあの状態でいる理由はないからの」

 

「それはそうですわね。ところでコンさん、この後時間はありまして?」

 

「なんじゃ? まぁ、急ぎの用は無いのぅ」

 

「少し、お話をいいかしら? ()()()()()()()()()()()()、コンさんに確認しておかないといけない事がありますの」

 

コンに?

 

「構わぬよ。(タケル)も同席した方がよいか?」

 

「いえ、()()()()()()()()。必要があればタケルさんも交えて」

 

という事はコン個神(こじん)に関する話かつ、ミルラト神話圏側に影響のある話と。

それでいて()()()()()()()()()

んーー、まぁ、状況から考えて脅威度の調査かな。

 

(じゃな。あとはお互いの領分の再確認と調整あたりじゃろうが、こちらは根回し的な意味合いが強いかのぅ)

 

じゃぁ、俺のできる事は今のところなさそうだな。

 

(うむ。お主の出番は(のち)にじゃな)

 

ミルラト神話圏での立場的にも、最終的には俺とルミナ神の間で交わされた約束という形にしないといけないからな。

ルミナ神にとっても、俺たちにとっても。

 

「では丁度区切りもいいですし、()は夕飯の準備に入りますね」

 

「期待していますわ」

 

「これを片づけたらボクも手伝うのだ」

 

 

 

その後、コンとの話し合いを終えたルミナ神は、夕飯を食べるとすぐに帰っていった。

 

夜は仕事(お役目)もあるし、今回の情報を基にミルラト神族側でもプロミネディス神をはじめとした貴高神による協議の必要があるそうだ。

俺たちの立場が以前とは大きく変わった(主にルミナ神が原因だが)ため、二柱(ふたはしら)の間でのやり取りでは済まなくなってしまったらしい。

 

もっとも、十中八九現状維持だろうというのがルミナ神の見立てだ。

以前ルミナ神が言っていた変質の事もあり、あんまり他の貴高神は関わりたくないんだとか。

 

俺達(マヨイガ)のミルラト神話圏の人間への干渉も、影響範囲という意味ではミルラト神話圏全体から見ると極僅(ごくわず)かだ。

異界神(キツネツキ)は神話圏外の神であり、直接的な信仰を向けられる神ではないというのも大きい。

 

実際に(キツネツキ)に向けられる信仰ってルミナ神に縁のある神であるとか、フェルドナ神にサツマイモを授けた神であるとか、ミルラト神族に付属した形での信仰が(おも)なのだ。

あとは演劇とかで英雄に神器を授ける役柄で登場した事で、英雄崇拝の派生で信仰されたりしているくらいか。

 

母数が大きい(ルミナ神を信仰している人数が多い)から結構な信仰が集まっているが、ミルラト神族の立場を脅かすような影響力はない。

個人で信仰する人はまぁいるかも知れないが、都市単位で信仰されるような神ではないからな。

 

それに、意外と(キツネツキ)の存在はミルラト神話圏の益になっているらしい。

そんな相手だから「わざわざ干渉する必要もないし、好きにさせておこう。やり過ぎるようならルミナ神を通して警告なりなんなりすればいい」となるだろうってさ。

 

それでコン、ルミナ神の話は何だったんだ?

 

『昔の仕事について聞かれただけじゃよ。神罰(しんばち)に関する仕事をしておったからな』

 

霊狐形態のコンが言う。

(ばち)って事は荒魂寄りな?

 

『あくまでそれ()しておったという話じゃが、まぁ、荒魂寄りじゃな。どちらかと言うと調伏(ちょうふく)の方が主な仕事じゃったな。界隈ではそれなりに顔が知られておったんじゃよ』

 

へぇー…………なぁコン、()()()()()()()調()()だ?

いやまぁ、怨霊や神敵を下す方の意味だと思うけど。

 

『さて、どうじゃろな』

 

怖っ!?

顔が怖いぞコン。

 

『かか、冗談じゃよ。その意味で合っておる』

 

お、おう、びっくりさせないでくれ。

 

『かかかっ。それで、ルミナ神の話じゃったな。纏めるとミルラト神話圏で勝手に神罰を下さぬようにとの事じゃ。納得いく理由があればルミナ神の方で行うので、その時は言ってくれと。まぁ、道理じゃな。面子の問題もあるしのう』

 

それはそうだろうな。

 

『あとはお互いの都合のすり合わせじゃな。(稲荷狐)が譲れぬ事もあるからの』

 

その辺は頼む。

稲荷神(おいなりさま)に仕える者としては、俺はただの禰宜でしかないからなぁ。

相手が神ともなるとあんまり口を挟めないのだ。

 

その調整が済んだうえで(キツネツキ)との話し合いという流れになるだろう。

 

『まぁ、こんな所じゃな。さて、儂は耶識路姫に全力形態(本気モード)のお披露目をしてくるとしよう』

 

結局ヤシロさんは夕食の時も寝床(妖怪生簀)から出てこなかったから、あれ以降にコンの姿を見ていない。

一応、夕食前に声をかけたらいつも通りに戻っていたから心配はないと思うが。

寝床(妖怪生簀)に籠るのも、ルミナ神が来てるときはいつもの事だし。

 

というかあの姿、全力形態(本気モード)でいいのか?

 

『元々、特に名称は無かったからのぅ。せっかくお主が名付けてくれたんじゃし、それでいこうかと』

 

あれは表現に困ったから適当にそれっぽい名前で呼んだだけなんだが。

 

『であれば良い呼び名を考えておいてくれ』

 

そう言ってコンは妖怪生簀のある納戸(なんど)の方へ行ってしまった。

ヤシロさん、神気に()てられてまたフリーズしなければいいんだけどな。

そんな事を考えながら、その日の夜は更けていくのだった。

 




コンの全力状態の名称、何にしましょうかね。



『所の神様ありがたからず』
身近で良く知っているものはありがたみがうすい事の例え。
それがどれほどありがたいものだったかは、失ってから初めて気づくものです。
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