俺と天狐の異世界四方山見聞録   作:黒い翠鳥

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昨日も更新していますので、見逃しにご注意ください。


File No.22-2 貴高神 ルミナの記憶

プロミネディスの神域。

そこに集ったのは五柱の貴高神。

 

太陽神 ─ プロミネディス。

 

地母神 ─ ネティア。

 

海神 ─ セルクル。

 

冥府神 ─ ゴーグス。

 

 

そして(わたくし)、月神 ─ ルミナ。

 

 

全ての貴高神が集まり、異界であるマヨイガについての評議が行われていた。

 

地母神(ネティア)は比較的マヨイガに好意的な態度を見せ、海神(セルクル)はやや懐疑的ながらも現状の関係は継続するべきと意見を述べる。

対して将来的な脅威に対して懸念を見せるのが冥府神(ゴーグス)

 

マヨイガからもたらされたサツマ芋によって、病や不作で落ち込んでいたミルラトの民の活力が戻り始めている。

それを一番肌で感じているだろう地母神(ネティア)はマヨイガに好意的。

 

元々マヨイガは海にはあまり手を出してなく、精々が眷属による食料や資源の補給程度の干渉。

故に海神(セルクル)は警戒は必要としながらも利があるうちは傍観を是としている。

 

冥府に関しては異界(マヨイガ)側が死者の復活でもやらかさない限りは関わる事はないだろう。

だからこそ、冥府神(ゴーグス)はあえて否定の立場を取っている。

 

なんせ(わたくし)地母神(ネティア)がマヨイガに好意的、太陽神(プロミネディス)海神(セルクル)は干渉には消極的ながらも現状は良しとしている。

一柱くらいは対立する神が居なければ議論は偏り、致命的な見落としをする危険がある。

 

あらゆる可能性を考慮するべし。

 

その為に冥府神(ゴーグス)は、あえて馬鹿馬鹿しいと思えるような内容──例えば異界(マヨイガ)側の行動は全て我々を油断させるためでミルラト神話圏の乗っ取りを考えているのではないか、とか──も口にする。

そんな愚にもつかないような内容のやり取りから、ふとしたきっかけで最良のアイデアが生まれる事も少なくない。

 

関わりが無いからこそ自分がその役目をするべきと、冥府神(ゴーグス)は考えている。

議論を尽くす為に否定するが、結論が決まればそれに異を唱える事はない。

 

そんな議論の中で他の貴高神の問いに答えながら、(わたくし)はコンさんとの話し合いを思い出していた。

 

 

 

 

 

「それで、話とはなんじゃ?」

 

念のため部屋を変え、コンさんと向かい合う。

あまり深層心理を読み解くのは得意ではないですけれど、懐襟(かいきん)を開いてくれているのはありがたいですわね。

少なくとも隠し立てをするつもりはないという事は分かる。

 

「貴方の通り名についてですわ。……過去のね」

 

「あー、あれじゃな。狂神狐(くるいみけつ)

 

意味は『狂気を呼ぶ神狐』。

かつて神であったコンさんは、そう呼ばれ恐れられていた。

 

これは(わたくし)の過去視をもって知りえた事。

タケルさんやコンさんを理解するために、(わたくし)は何度も過去視を行った。

その中でコンさんが元神である事を知った。

そして彼女が『狂神狐(くるいみけつ)』と呼ばれていた事を知った。

 

しかし、逆に言えば(わたくし)ですら過去視ではそこまでしか分からなかったという事。

彼女がそう呼ばれていた理由は分からなかった。

 

ミルラト神族において最も過去視に長けているという自負はありますが、流石にコンさんほどの力を持つ相手ではこれが限界。

化生としての力が強ければ強いほど干渉に対する抵抗力も高くなる。

 

(わたくし)であれば今現在のフェルドナくらいなら容易に読み解けますが、上位の神に引けを取らないレベルのコンさんですとどうしても。

もっとも、それはコンさん側からしても同じことですが。

 

分からないのであれば聞くしかない。

流石に再び神へと至った以上、あのような通り名を持つ理由を知らないままにしておく訳にはいきませんわ。

 

幸い本人に聞くのであれば、そしてそれで本人の口から出た言葉を他者に伝えるのであれば、過去視を制限する神々の協定には違反しない。

 

「まぁ、あれは正直やりすぎたとは思うとる。そのせいでこんな物騒な通り名がついてしもうたし」

 

「何をしたんですの?」

 

それを聞くとコンさんは視線を逸らした。

同時に少しだけ力の揺らぎを感じる。

どうやら過去視への抵抗を意図的に弱めたようですわね。

あくまで一部分、その件に関するところだけでしょうが。

覗いてみなさいという事ですか。

 

 

 

…………うわっ、えぐっ。

 

 

 

「コンさん?」

 

ミルラト神族も割と容赦のない神罰を下す者もいますが、ここまでではありませんよ。

正直、(わたくし)もちょっと引いてますわよ。

 

「いや、宇迦之御魂(うかのみたま)様より(めい)を賜り張り切っておったというのもあるが、正直儂としてもあの咎人はとても許せぬ行いをしたと(いきどお)っておった。そんな折に神罰(しんばち)を与えよとの命があれば、少々やりすぎてしまう事もあるじゃろ」

 

そこは否定しませんが。

 

話としては単純明快。

大罪を犯した咎人に裁きを与えよとの命令を受けたコンさんが、忠実に仕事をこなしたというだけ。

 

裁きの内容もコンさんに一任されていて、それを咎められるものではない。

そして咎人にも情状酌量(じょうじょうしゃくりょう)の余地はない。

(わたくし)とて同じことをされれば、そいつを小魚に変えて蟹に食わせるくらいはするでしょう。

 

ただ単純に、そんな(わたくし)から見ても()()()()()()()()()()()()()というだけ。

主神にそろそろ冥府(あの世)へ送ってあげなさいと言われるとか、どれだけですの。

 

何をやったかは、口を閉じさせていただきますわ。

 

「神となってからの初仕事でそんな事をやったせいか、儂はそういうの担当という印象がついてしまっての。その後も同僚から(のろ)いとかの依頼が来たり、他の神の眷属から噂されて恐れられたりと色々あってそんな通り名がついたんじゃよ」

 

「弁解とかはされなかったんですの?」

 

「特にはせんかったの。これはこれで役立つ事もあった故な」

 

なるほど、以前プロミネディスが懸念したのも分かりましたわ。

これは確かにコンさんに怒れる神としての側面を出させてはいけませんわね。

 

もしコンさんの怒りを買ったとしても、タケルさんであればそのストッパーとなれる。

例えどれだけ(いきどお)っていても、タケルさんが宥めれば矛を収めるでしょう。

 

では万一それが失われたら?

 

温厚な神程その怒りは恐ろしいとはよくいいますが、それは温厚な神ですら怒る行いをしたからに他ならない。

タケルさんが止めない、もしくは止められない状況になった時、コンさんは決して容赦しない。

 

タケルさんから異世界の祟り神の鎮め方は聞きました。

行為そのものはそれほど大きな違いはありませんが、重要なのは何に重きを置くか。

 

贖罪の供物を重視するこちら側(ミルラト神族)と違い、あちらが重視するのは誠意。

お互いの文化の違いが、致命的なすれ違いを起こしかねない。

 

特にそれが神々であった場合、誠意を見せるという精神的に重きを置く行為ができる者がどれだけいるやら。

火に薪をくべるだけになる気しかしませんわよ。

 

そして更に頭が痛くなるのが、コンさんが何をしでかすか分からない事。

異世界の神であるが故に、こちらの常識が通用しない。

どうしても対応は後手に回ってしまう。

 

異界の中ならともかく、ミルラト神話圏で事を起こせば(わたくし)達が力を振るう名分が出来る。

例え異界の中からおこなったとしても、それを辿って逆侵攻をかけることが出来る。

 

いくらコンさんでも、神としての力は(わたくし)の方が上です。

異界(マヨイガ)という優位な領域を計算に入れても、貴高神全員を相手取れるほどの力はない。

タケルさんを考慮に入れなければという前置きはつきますが、コンさんを討滅する事は不可能ではない。

 

ですが、その過程でどれほどの犠牲が出るか。

正直怒りを買った輩を異界(マヨイガ)に放り込んで、お好きにしてくださいと言った方がよっぽど犠牲が少なくて済む。

コンさんが怒ってタケルさんが止めないとか、よっぽどの事をしでかしているでしょうから「責任を取れ」と言ってそうしても他からは納得が得られるでしょうし。

 

更に言えばもし今回過去視で見た行いをするのなら、コンさんを討滅したところで止まらないんですわよね。

 

むしろ憎悪や怨恨によってより強くなる事も考えられる。

それは古き神々を滅ぼした怪物の猛毒のように、私達(ミルラト神族)に対する()()()()()()になりかねない。

 

以前プロミネディスが言っていた『善性の強い今のままでいてくれた方がいい。多少、善の在り方が僕達とは違っていてもね』という言葉は正にその通りだと実感しましたわよ。

 

ついでに言えば怨霊を祀って守護神にしてしまうような人間たちに信仰される神と正面から事を構えたくないというのもある。

それはつまりその神もそちら側の存在という事ですもの。

 

厄神だろうが悪神だろうが、果ては邪神まで信仰して味方につけてしまうとか、タケルさんの所の人間はいったいどんな信仰してるんですのと言いたくなる。

 

いえ、一応タケルさんに聞いていますから理解はしています。

()()()()()()()()()()()()だけで。

そんな相手と正面から敵対とか、何をされるか分かったものではないですわよ。

 

こちら(ミルラト神話圏)ではそんな事しないでくださいね。目に余る者がいたら(わたくし)に言っていただければ、少し時間をいただくかもしれませんが対応いたしますわ」

 

「承知した。が、マヨイガで狼藉を働いたり、タケルに害を成すとなれば話は別じゃぞ」

 

「構いませんわ。タケルさんの身を優先するのは当然の事ですし、異界(マヨイガ)内の出来事はそもそも(わたくし)に口を挟む権利はありませんもの。それと今後の事ですけど────────────」

 

 

 

 

 

五柱の貴高神の話し合いは佳境に入り、大方の意見は出尽くした。

 

最終的には要警戒ではあるものの積極的な干渉は必要ない。

むしろ他の神々が余計な事をしないように注意しておく必要がある。

それに伴い、異界(マヨイガ)への連絡要員を置くことで迅速な対応ができるようにすべしという意見が採用された。

 

後はそれを誰にするか決めるだけだ。

 

(わたくし)では駄目。

流石に貴高神を使者にするのは対外的によろしくない。

 

(わたくし)異界(マヨイガ)に行っているのはあくまでプライベート。

プライベートで遊びに行った時に、ついでに少し仕事の話をしているだけ。

そういう事になっている。

 

だからと言って神格の低い神では駄目。

それだと相手を(ないがし)ろにしていると取られかねない。

タケルさん達は気にしないでしょうが、これも対外的に見てよろしくない。

 

では伝令神であるクラトンならどうか。

神格的にも悪くなく、能力的にも問題は無い。

 

しかしこれも駄目。

理由はマヨイガ────というよりタケルさん。

神すらも変容させる彼の前に、神々にとって重要な役目を持つクラトンを出すのははばかられる。

下手に影響を受けても困るし、取り込まれでもしたら目も当てられない。

 

ある程度の神格があって、タケルさんの影響を受けにくい、もしくは既に影響を受けた後で変質の予測が容易な神。

出来れば異界(マヨイガ)に近い位置に拠点を持つと尚いい。

 

 

 

となると、一柱しかいませんわよね。

 

 

 

「それでは、サツマ芋の神 フェルドナに渡界神(わたりがみ)の号を与え、異界への使者に任ずる事とする」

 

こうしてフェルドナは知らないところで新たな称号を得る事になったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まぁ、計画通りなのですけどね」




だいたいルミナ神のせい。

でも恩恵もそれ以上に大きいので文句も言いづらい。


追記:cyan675様、名無しの通りすがり様、誤字報告ありがとうございます。
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