俺と天狐の異世界四方山見聞録   作:黒い翠鳥

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前話投稿後、日間オリジナル9位 総合21位 を獲得させていただきました。
また、お気に入り登録者数も倍以上になり、嬉しい限りです。

これも本作をご覧になって下さった皆様、評価して下さった皆様、お気に入り登録して下さった皆様のおかげです。
この場を借りて御礼申し上げます。

今後とも『俺と天狐の異世界四方山見聞録』をよろしくお願いいたします。


※一部辻褄合わせの為に微加筆済。内容的には変更はありません。


File No.23-1 『親しき仲に垣をせよ』

解放形態(本気モード)じゃ」

 

その言葉と共に、コンの尻尾が一つに纏まる。

コンの神としての力をフルに発揮できる解放形態(本気モード)だ。

 

この間良い呼び方を考えておいてくれと言われたのだが、意外と本気モードという呼び方がしっくり来たのでニュアンスだけ変えてみた。

いつもの状態は制限形態(通常モード)と呼ぶようにしている。

 

解放形態(本気モード)制限形態(通常モード)で何が違うのかと言うと、基本的に神気の出力が違うだけらしい。

もちろん出力が高いからこそできるようになる事もある訳だが、別に特殊な能力が使えるようになるわけではないようだ。

むしろコンの場合は出力の大きささえ関係ないのなら解放形態(本気モード)でできる事は制限形態(通常モード)でもできると言った方が正しいか。

 

そんな解放形態(本気モード)になったコンはお尻をこちらに向け、大きな尻尾を揺らしている。

 

「え、マジでいいの?」

 

「よいぞよいぞ。今日は気分が良いから特別じゃぞ」

 

今から俺がしようとしているのは狐妖怪へ対しての禁忌に近い。

 

正直コンの解放形態(本気モード)を見たときから気にはなっていたのだが、流石にそれはやっちゃダメだろと自戒していた。

だがそれを察したコンが、一回だけならやってもよいぞと言ってくれたのである。

いやマジでありがとう。

 

「それじゃぁ、let's モフモフ!」

 

そう言って俺は()()()()()()()()()()()

 

「はぅ……だ、大胆じゃな」

 

はー、もふもふだぁ。

 

抱きしめれば沈み込むように柔らかな弾力。

撫でればすべすべとした極上の肌触り。

すりすりすれば暖かな質感が頬に触れる。

正に至高の尻尾。

 

狐妖怪の尻尾は妖力を使う為に重要な器官だ。

その為とても敏感であり、基本的に他者に触れられるのを嫌う。

相応に仲良くなれば触れることを許してくれる事もあるが、その場合でも触れるには細心の注意を払う必要があるのだ。

 

俺もコンから状況を(わきま)えさえすれば尻尾を触ってもいいという許しを得ているが、モフモフする際は力加減を間違えないようにしなければならない。

ミコトは割と強めにぎゅっとさせてくれるが、それは俺が(つがい)だから許してくれているのだ。

 

そんな訳で、本来であれば抱き枕のごとくしがみつくなど言語道断。

ぶっちゃけ許可を得ずにやったら殺されても文句は言えないほどの暴挙である。

 

「ボクもやるのだ」

 

じゃぁ、コンがいいって言ったら交代しようか。

そう思ってミコトの方を振り向くと、経立形態(ふったちモード)のミコトが後ろ向きで迫って来ていた。

 

えっ? っと思ったのもつかの間、ぽふっっと擬音がしそうな衝撃が背中を襲う。

 

こ、これはもふもふ尻尾サンド!

自分もやるって、そっちの方!?

 

前方のコンのもふもふ尻尾、後方のミコトのもふもふ尻尾。

小柄な経立形態(ふったちモード)で立っている状態の俺にどうやってと思ったら、なんと器用にも尻尾だけで俺の背中にしがみついているではないか。

いつの間にそんな事が出来るようになったんだ。

 

「ぎゅーってしてあげるのだ」

 

おお、これはもふもふパラダイス。

全身をもふもふな尻尾に包まれて、俺はこの夢のような時間を堪能したのだった。

 

 

 

 

 

もふもふ尻尾サンドを堪能後、その余韻も冷めたころにいだてんさんからフェルドナ神来訪の知らせが来た。

どうも神の役目(お仕事)で来たそうだが──あぁ、先日ルミナ神が言っていたあれの件か。

 

ミコトにお茶とお菓子の用意を頼み、コンと共に玄関へ向かう。

するとそこには何だか疲れた顔のフェルドナ神がいた。

 

「いらっしゃい。どうやらお疲れのようですけど、いかがしました?」

 

とりあえず、キツネツキとして話しかける。

 

「キツネツキくん、こんにちは。ちょっとね。体の方は問題ないのだけど、精神的に重圧(プレッシャー)が凄くて」

 

「それは……穏やかでは無いですね」

 

コン、わかる?

 

(いや、相変わらず読心拒否されておるから何とも……。じゃが、おそらくあれじゃろうな)

 

あー、そうか。

フェルドナ神の立場で考えたらそりゃ重圧も凄いか。

 

「大丈夫。そのうち慣れると思うし、とりあえずこれが済んだらひと段落つくから」

 

(やはりな。ではさっさと終わらせて楽にしてやろうて)

 

そうだな。

こちらは()()()()()()()()()()()対応するだけだ。

 

「では立ち話もなんですし、座敷の方に行きましょうか」

 

 

 

座敷に着いて俺は上座に座り、フェルドナ神と向かい合う。

フェルドナ神もお仕事モードに切り替えたようなのでこちらも相応の態度で応じないとな。

 

「して、この度は如何様で?」

 

まぁ、内容は分かっているんだけど形式的にね。

諸事情で来訪予定日は決められてなかったからピンと来なかったが、思ったより早かったな。

 

「はい。私はこの度、貴高神五柱の連名により渡界神(わたりがみ)の号を賜り、キツネツキ神との間で言伝(ことづて)の任を務める事となりました」

 

そうらしいね。

 

「つきましてはキツネツキ神におかれましてもお認めいただきたく」

 

要するにフェルドナ神を貴高神側とマヨイガ側との間を取り持つメッセンジャーにしたいから、その役目の為にマヨイガに来ることを認めてくれという事だ。

ぶっちゃけこれ、ルミナ神から既に連絡があってお互いに合意している話だったりする。

 

その際、連絡役にフェルドナ神が選ばれた事も聞いている。

双方に縁がある神となれば妥当な神選(人選)だろう。

なのでそのうち就任の挨拶に訪れるので、その際にそれを認めて欲しいという要望があった。

 

フェルドナ神がマヨイガに来ることが出来るのは、試練を乗り越えキツネツキに認められた為という風に表向きはなっている。

それを良い事にフェルドナ神をメッセンジャーとして使ったと思われては、外聞的にもマヨイガ側の印象的にも良くない。

だからこうした根回しと手続きを経て、正式に双方から認められたお仕事ですよとする必要があった。

 

それに、本番(実際の言伝)の前に予行練習を(手順を確認)しておくという意味もある。

 

ついでに言えばフェルドナ神はあくまで連絡役であり、交渉などの権限は持っていない。

 

マヨイガ側と交渉したいならルミナ神が間に入るのが一番早いし確実だ。

実際、交渉自体は貴高神を代表してルミナ神が行う事になっている。

しかし、使者の役目までルミナ神がすると貴高神の立場上、対外的によろしくない。

 

なのでフェルドナ神に求められているのは、貴高神各々の意志を素早く伝える事。

それを基にマヨイガ側(俺たち)貴高神側(ルミナ神)で話し合いを行う。

そしてその結果を改めてフェルドナ神が異界神(キツネツキ)側(場合によっては貴高神側)の提案として相手に伝え、双方で合意したという形をとる事になる。

 

なんでこんな回りくどい事をするかというと、まぁ、面子的な話だ。

妖怪もそうだが、神にとって印象って凄い大事なのよ。

 

「わかりました。渡界神(わたりがみ)フェルドナ、貴方の精励(せいれい)に期待しますよ」

 

「はい、ありがとうございます」

 

フェルドナ神の役目は俺たちが万一ミルラト神話圏に悪影響が大きい事をやらかした場合、それを俺たちに伝えて自覚させること。

その判定は各担当分野の貴高神が行い、悪影響が大きいと判断されれば伝令神がフェルドナ神にそれを伝え、フェルドナ神が俺たちに言伝するという流れだ。

 

あと、もしかしたらプライベートでの連絡もあるかもしれないとの事だったが、それをやりそうな貴高神筆頭であるルミナ神は別の連絡手段があるので多分無いだろう。

 

「では、これにて仕舞(しま)いと致しましょう。お疲れ様です」

 

「お疲れ様。あー、緊張した」

 

他に言伝が無い事を確認し、仕事からプライベートに切り替える。

 

一応まだフェルドナ神には帰って伝令神に返事を伝えるという役目があるが、それはまた翌日にする予定となっている。

今回は最初から内容が決まっていたが本来はルミナ神との協議が必要だし、プライベートの言伝だったとしても俺たちが返答を考える時間がいるからだ。

 

その間フェルドナ神はどうするのかというと、いつでも返事を受け取れるように近くに待機しておく必要がある。

もちろんすぐに返事が決まったのであれば、すぐに戻ってそれを伝えなければならない。

ただ今回は協議に一日ほど時間がかかった場合を想定し、対応手順の確認を行う事になっている。

 

つまり何が言いたいかというと、本日フェルドナ神はマヨイガにお泊りすることになるのだ。

もちろん渡界神(わたりがみ)のお仕事はいつあるか分からないので、何時来てもいいように準備はしている。

 

「うん、やっぱり相手がキツネツキくんで良かった。他の神が相手だったら重圧でつぶれてたかも」

 

「やっぱり貴高神から任命(にんめい)されると緊張しますか」

 

「そうね。やる事自体はそんなに難しくない筈なのに、落ち着かなくて失敗しないか不安になってしまうわね。正直、一番の山場が過ぎてすごくホッとしてる」

 

何となくだが理解できる。

貴高神って他のミルラト神族からすれば隔絶した神格をもっているそうだし。

 

元々フェルドナ神にとって貴高神は別に主従関係がある訳ではない。

今回の役目も理屈の上ではフェルドナ神が受けなければならない理由は無いのだ。

 

しかし、それを拒否できないほどの力と影響力を持つ神が貴高神なのである。

そんな相手から(しかも五柱の連名で)指名されたら緊張もしよう。

 

「まぁ、長くとも百年ほどの話ですし、あまり気負い過ぎないようにするしかないでしょう」

 

百年以内には俺も現世(元の世界)に帰るからね。

別にそうなっても渡界神(わたりがみ)の称号をはく奪される訳では無いが、役目としては無いも同じになる訳だし。

 

人間にとって百年は長いが、ミルラト神族にとっては短いとは言わないが長くもないといった感じらしい。

 

「でもいいのかな。いくらやる事がないといってもこんなに気を抜いちゃって」

 

「他の神の所なら不味いかもしれませんが、場所がここ(マヨイガ)で相手が(わたし)ですからね。お互いに知らない仲でも無いのですし、気を張る意味もありませんよ」

 

知らない仲でもないと言えば、フェルドナ神の口調も出会った当初に比べるとかなり砕けてきたよな。

当時はどことなく威厳のある喋り方をしていたのに、今では近所のお姉さんのような感じだ。

以心伝心(いしんでんしん)(まじな)い』の翻訳のせいかも知れないけど。

 

「使者殿をもてなすのも主の役目。存分に寛いでいって下され」

 

経立(ふったち)姿の解放形態(本気モード)で側に控えていたコンが言う。

コンはコンでフェルドナ神相手には一線を引いた喋り方をしているというか。

ルミナ神相手には無遠慮に話しているのに。

 

あ、いや逆か。

コンはルミナ神に遠慮がないだけだ。

 

「そうそう、最近マヨイガの温泉が使えるようになったんですよ。せっかくですから入って行かれませんか?」

 

「え? 温泉なんてあったの?」

 

実は露天風呂があったりするのだ。

例に漏れず妖怪温泉な訳だが、気分屋と言うか機嫌によって湯量や泉質が変わる。

 

どうも最近まで寝てた(活動停止してた)そうでお湯が枯れていたが、先日からまたお湯が吹き出すようになった。

またいつ寝て(泉源が止まって)しまうかは分からないが、少なくとも数ヶ月は起きている(温泉を楽しめる)だろうとの事。

 

俺たちも堪能させてもらっている。

入り浸りすぎると今度は妖怪風呂が拗ねるので気を付けないといけないが。

 

それを簡潔にフェルドナ神に伝える。

 

「へぇ、じゃあお言葉に甘えさせてもらうわ」

 

ミルラト神話圏にも温泉の文化はある。

元々湯量が豊富らしく入浴が娯楽の一つとして発達してきたそうで、結構な数の湯屋や温泉があるそうだ。

ルミナ神の聖域にも温泉があったしね。

 

「そういえばちょっと聞きたいことがあるんだけど、いいかしら」

 

「はい、何ですか?」

 

「私が言伝した事の話し合いはルミナ様とされるそうだけど、キツネツキくんってどうやってルミナ様と連絡をとってるの?」

 

ああ、それですか。

 

「実は直通通信回線(ホットライン)があるんですよ」

 

何かと問われれば新婚旅行の時にルミナ神と月読命(ツクヨミノミコト)を習合する際に使った(ほこら)だ。

あそこでお祈りすれば直接ルミナ神に届くのである。

 

もちろんマヨイガが異世界にある間限定だけどね。

現世(元の世界)に戻ったら流石に届かなくなってしまう。

 

「しかしこうなってくるとフェルドナ神用の祠も作った方がいいですかね」

 

渡界神(わたりがみ)としての仕事の場合は直接来る必要があるが、ちょっとした連絡なんかはそれで済ませられるのは使い勝手がいい。

もっとも、一応日本神話側に属してるマヨイガにミルラト神族の祠を立てるのも(はばか)られる(ルミナ神は月読命扱い)ので、日本の神様と習合する形になるだろうが。

 

「んー、ここまで来るのも別に大した距離じゃないし、私は別にいいかな」

 

さいですか。

 

「それでは宿泊していただく部屋に案内いたしましょう」

 

ちなみにフェルドナ神がお泊りする予定の部屋は離れ座敷(はなれざしき)である。

また、案内兼給仕としてなでしこさんが付くことになっている。

 

ミルラト神話圏のものとは様式も道具も全く違うわけだからな。

ある程度はわかっているとはいっても、流石に泊りともなれば勝手が違うだろう。

なのでなにかあればすぐに対応できるよう、世話役をつけようという事になったのだ。

 

なでしこさんなのはコンの式神であり一定の格をもっている事、感知能力に長けていて相手の要望を察しやすい事、普段は白狐の面として室内装飾(インテリア)に紛れて待機しておける事などを鑑みての結果である。

 

もちろんそこら中にいる妖怪の誰かにでも言ってくれればマヨイガの意思経由で俺たちに届くのだが、即応性という観点ではどうしても劣るからな。

 

「ところで食事は部屋の方に用意させていただく予定となっていますが、何かリクエストはありますか?」

 

「そうね……だったらオムライスがいいな。あと、できればゆで卵も」

 

「了解です。ついでに温泉卵も作りましょうか」

 

なら妖怪鶏に多めに卵を産んでもらうよう頼まないとな。

 

フェルドナ神は甘味を除けば卵料理を好む。

やっぱり神体(もと)が蛇だからかなとちょっと思ったが、フェルドナ神の神体である『ミズキリ』は鳥の卵は食べないらしいから単に個神(こじん)の好みなのだろう。

 

そもそも一般的にイメージされるほど、日本の蛇って卵を食べないらしいね。

基本的に鳥が卵を産むのは繁殖期だけなので、食べる機会が無いらしい。

現代で鶏が毎日と言っていいほど卵を産むのは、飼育環境と品種改良の賜物だそうだし。

 

もちろん鳥卵は食べなくても爬虫類の卵とかを好む蛇もいるし、逆に鳥の卵しか食べない(なんと卵が無い季節は絶食するらしい)なんて蛇も海外にはいるそうだが。

 

もしくは巳神(蛇神)様は卵を好むという話もあるので、神様になると好物になったりするのかもしれない。

まぁ、これは現世の方の話だが。

 

あとはサラダと汁物かな。

食後のデザートはいつも通り妖怪菓子箱に頼むか。

 

そんな事を考えながら、俺はフェルドナ神を連れて離れ座敷(はなれざしき)までの廊下を歩いて行った。




『親しき(なか)(かき)をせよ』

親しい間柄でも無遠慮に接しすぎると不仲のもとになるので、節度を持って接するようにという戒めの言葉。

『親しき仲にも礼儀あり』とも。
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