本当はもっとサクッと終わる話のはずだったのに。
表現の負担が大きくなるため、File.No.15-2にて人間と呼ぶ場合の範囲を修正。
現実世界の人類と近しいものをタケルにとって一般的な人間という意味で「普通の人間」、獣人とかドワーフとかエルフとか全部含めて「人間」と呼称。
とある日、マヨイガの意思からコン経由で要請があった。
「タケルよ、マヨイガから新たに客を呼ぶのでキツネツキとして対応して欲しいとのことじゃ」
「ああ、了解した。とりあえず屋敷に上げて持て成せばいいか?」
「それがのぅ、内容はお主に一任するとの事なんじゃよ」
うん?
「前の吸血鬼の時みたいな感じでいいのか?」
「いや、あの時は応接を頼まれただけじゃったが、此度はやり方自体を任せるとの事じゃ。屋敷に上げて持て成すのも良いし、庭先で事を収めても良い。気に入らねばそのまま追い返しても構わぬ。とな」
委任ではなく一任。
『一任する』とは全て任せるという意味だ。
つまり決定権を譲渡するということ。
とはいえ何の意味もなく呼ぶわけでも無いのに追い返しても構わない?
マヨイガの意思は何がしたいのだろうか。
呼ぶ必要はあっても相手に興味はないとか?
いや、それなら
マヨイガも対応を決めかねているとか?
無いな。
それなら先にコンに見定めてもらうように頼むだろう。
であるなら、
ありそうだな。
それに何の意味があるのかまでは分からないが。
その辺どうなんだ、コン。
(秘密じゃ)
秘密かぁ…………うん、コンも一枚噛んでいる事が確定した。
まぁ、それならそれで俺に害は無いのだろう。
いくらマヨイガの意思が相手だからとてコンがそれを見過ごす筈はない。
とはいえそれは苦労が無いという意味ではないわけだが。
試練とかの類には、それそのものが俺にとっての
それが危険なものであったとしても、ギリギリまでは手を出さない。
逆に言えばそれでもいざとなれば助けてくれるが。
ただしそれを当てにして自ら危険に向かって行った場合は話が
コンは俺の守護狐だが、その
避けようと努力しても降りかかってくるなら災いだが、そうなると分かっているのに手を出すのはただの自業自得だからだ。
それでもなんだかんだで助けてくれそうな気はするのだが、少なくともそれは俺が痛い目を見た後だろう。
もちろんそんな事をするつもりは無いけどな。
「まぁ、それは構わないけど。肝心のお客さんはどんな相手?」
「どうやら水牛の獣人のようじゃな。見た目的には角と尾を持つ人間といった感じかの。年の頃はおそらく十五もいっておらぬ
なんかお客さんの女性率高くない?
だから何だと言われればそれだけなんだけど。
あ、いや。
「それと、かの者に贈る妖怪じゃが、お主からの要望があれば候補の妖怪から近しいものを。なければマヨイガの意思が選んだ妖怪をという感じじゃな」
「こっちから指名していいのか」
「候補の妖怪におればの話じゃがな。おらんならその中でなるべく近い力を持つ妖怪が。近いものすら無いのであればマヨイガの意思に任せるか、そもそも贈らぬという選択もある」
承知した。
もっともわざわざ俺が指名する理由はない訳だが。
それでそのお客さんはいつ頃──
「主様! タケル様! 大変です!!」
突然ドタドタという足音と共にヤシロさんがやって来た。
その声色からも相当焦っている事が窺える。
「どうしたんじゃ?」
「はい、それが……池で人が溺れているのを見つけたんです!」
マヨイガの池でか。
あそこは『水中と水上を分ける境界』に繋がる場所だから、池で溺れていたというよりはどこかの水域で溺れていたところに水面がマヨイガと繋がったというのが正確なところだろう。
ヤシロさん曰く
慌てて飛び込んだヤシロさんが救助したが、その時点で女性は意識を失っていたそうだ。
幸いにも水は飲んでいなかったのか水面に上げると呼吸を再開し始め、心音も弱ってはいなかった。
なので近くにいた
焦りで精神感応で伝えられる事は忘れていたようである。
「わかった、すぐに準備をして向かう。おぬしは体を温める為の湯を用意せよ」
「わかりました!」
コンの指示を受けたヤシロさんはそれを実行する為に部屋を出ていく。
「タケルよ」
ああ、俺たちも早く────
「
──はい?
溺れていたという
濡れていたであろう体は既に乾かされ、掛布団から覗く肩元を見るに厚手の服が着せられているようだ。
意識の方はまだ戻っていない。
濡れた服は洗濯中との事。
ここまで来る間にコンに聞いたのだが、彼女が今回のお客さんらしい。
彼女は本来の予定では危篤状態でマヨイガの池のほとりに流れ着く筈だった。
というのも、彼女は縁やらなんやらの関係でマヨイガにそのまま呼ぶことは出来なかったそうなのだ。
なのでマヨイガの池のほとりを三途の川のほとりに見立てる事で、
ヤシロさんが池から上がった際に近くに面霊気達がいたのは、彼女が流れ着いた時にすぐさま救命行為を行う為だったのだ。
ただ、いい意味で誤算だったのはたまたま東屋にヤシロさんが居た事。
ヤシロさんはミルラト神話圏に繋がる海出身の妖怪で、現在はマヨイガに住まう妖怪でもある。
そんなヤシロさんが彼女を発見し救助したことで彼女とマヨイガの縁の橋渡しとなり、意識こそ無いものの命に別状はない状態で迎え入れることが出来た。
これにはマヨイガの意思も「その手があったか!」と声を上げたそうな。
マヨイガに呼び寄せなければまず間違いなく死んでいただろう事を考えれば、ヤシロさんのお手柄である。
「コン、
「承知した」
とりあえず彼女の生い立ちと入水した理由を知りたい。
「ふむ、こやつはミルラト神話圏の北の方の村の
「つまり、生贄って事か」
生贄とは神に生きた動物を供物として捧げる事、もしくはその供物自体を言う。
多くの場合は捧げる直前に殺すか、捧げた後に殺される。
まさしく命を含めた全てを神に捧げる行為なのだ。
特にそれが人間である場合は
それで入水したという事は相手は川の神か、その川が流れる山の神か。
これは正直、厄介な事になった。
まず彼女を助けたことで生贄が成立しない。
人間にとって最も重要である人体、そして命そのものを捧げる行為。
それを行うという事は、そうしてでも神に祈願する必要があったという事。
個人的にその身を捧げてでも
多くの場合は安寧、この場合は村の平穏を願ってのものである可能性が高い。
逆に考えれば生贄を捧げる必要がある程に危機が訪れている、もしくは訪れるという確証があるという事。
方法が入水だった事を考えると、洪水か。
単純な自然現象か神の顕現かは分からないが、実際に力を振るうミルラト神話の神がいる以上、
それが成立しないとなれば、高い確率で村を洪水が襲う事になる。
一部突出しているところもあるとはいえ、
つまり彼女を助けるならば、村人を犠牲にするか川の神──すなわち水神──を説得する必要がある。
洪水を止めるという選択肢は、出来る出来ないを別にしても水神の領域で力を振るう以上、結局説得が必須だ。
水神が生贄を欲しているという可能性もあるが、結果だけを考えれば状況的には同じことになる。
一応、
……レアケースの方だといいなぁ。
「それで、理由は?」
「荒ぶる水神を
ああ、やっぱりか。
「あくまでこやつの過去から読み取った話じゃから、実際に洪水が起こるかは見てみぬと分からぬがな。千里眼と未来視を飛ばす故、少し待っておれ」
頼む。
これで洪水が杞憂だったら話は楽なんだけどなぁ。
とりあえずその間に今後の方針を決めておこうか。
一番楽なのは何も見なかった事にして彼女を川に還す事。
当然彼女は死ぬが、そもそもそれ自体は異世界の営みの一部でしかない。
此方の倫理観や道徳観を押し付ける訳にはいかないというのもある。
マヨイガの客ではあるが今回は俺に決定権が譲渡されているため、呼ぶに値しなかったとする事も出来るのだ。
とはいえ心情的にはなぁ……。
ヤシロさんの行為を無駄にしたくないというのもあるし、死ぬと分かっていて還すのも目覚めが悪い。
別に俺は
問題は彼女を生かすために必要な代償がどれだけになるか。
場合によっては見捨てる選択肢を取る事も考えておく必要がある。
「ふむ……なるほどのう」
丁度目的の地が見つかったらしく、コンが幻術を利用した千里眼モニターを出してくれる。
そろそろ雪解けの季節らしいが、山の方はまだまだ真っ白だ。
その山の麓付近にあるのが例の村か。
横にある結構大きそうな川が彼女が入水した川かな。
「それで、洪水は起きそう?」
「未来視で確認した限り、まず間違いなく起きるじゃろうの。
そんな凄い雨が降るのか。
……いや、コンの言い方的にそうじゃない。
雨が切っ掛けなのは間違いなさそうだが、原因は別の……そうか、雪解け水!!
「正解じゃ。雨により積もり積もった雪が一度に解け、溢れかえった濁流が村を襲うじゃろう。普段であれば増水程度で済むが、
「という事は、水神はこれに関わっていないという事か?」
「じゃな」
神由来の洪水ではないのなら、介入の難易度は下がったな。
逆に対処の難易度は上がったが。
「むしろ逆に影響を受けておるな。増した川の勢いにあてられて神気が荒ぶっておるのが遠目から見てもわかるぞ」
自然神はその環境の影響をもろに受ける。
川の勢いが増せば川の神の力も増すだろう。
「というかこれ、力を制御できておるようには見えんのじゃが」
は?
「神気が増し過ぎて己の神威を越えておるようじゃな。おそらく
なんか凄い嫌な予感がするんだが。
「この洪水、おそらくは
やっぱりかぁ!!
それじゃあ彼女を川に還しても意味ないぞ。
はっきり言ってこの案件は荷が勝ちすぎる。
コンなら力づくで村を救う事も不可能ではないだろうが、それをしてもらうにはいろんな意味で割りが悪い。
ミルラト神話圏の話だし、ルミナ神に相談してみるか?
立場的に放っておきなさいって言われるだけな気がするな。
元々俺がこの村を救う義理は無いのだ。
あくまでマヨイガの客である彼女を助ける事で割を食う相手がいるなら埋め合わせ位はしておこうかという程度でしかない。
助けても助けなくても変わらないのであれば、それをする意味は無い。
適当なタイミングで彼女を起こして、流れ着いたとでも言ってマヨイガの選んだ妖怪を渡して終わりだ。
それ以上の責務は無く、彼女が村を救おうと再び生贄として入水しようが、死ぬのが怖くなってどことも知れぬ土地に逃げ出そうが関係はないのだ。
……あ、でもあれを使えば何とかできなくもないのか。
あー。
えーと。
うん。
思いついちゃったな。
思いついちゃったなら仕方ない。
「なあ、コン。こうしたら洪水を何とか出来ると思うか?」
「ふむ。これは流石にやってみんと分からぬが、勝算は高そうじゃな」
元々有る筈のないものだ。
ここで使う分には印象も悪くないだろう。
それじゃ、やってみますか。
『落ちれば同じ谷川の水』
始まりは違っても最後に行きつくところは同じであるという事。
人間、死ねばみな同じという意味も。
File No.25は本編3話、他者視点1話、マヨイガの記憶1話の予定となっております。
とりあえずは予約投稿済み。