俺と天狐の異世界四方山見聞録   作:黒い翠鳥

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一部前話と異なるセリフがありますが、コンの(まじな)いでファルドナ神に理解しやすいよう変換されているためです。


File No.02-2 ラクル村の神 フェルドナの記憶

その日私はようやく我が子が神隠しに遭った場所を突き止めた。

神隠しに遭ったといっても精々2時間もしない内に戻ってきているのだけど、一度我が子との繋がりが絶たれた時には悲嘆したわ。

 

あの森は深いところではベテランの猟師ですら危険な生物が生息している。

まして森に関しては素人同然の娘なら出会った時点で殺されても不思議じゃない。

 

そんな我が子が何故森に入ったのかと言えば、家族が流行り病に罹ったから。

本来であれば森に慣れたものが採りに行くべきなんでしょうけど流行り病に患った人数が多すぎた。

 

森の浅い部分に生えている薬草は採りつくされ、手に入れるにはどうしても危険な深い場所に足を踏み入れる必要がある。

そして危険を冒して薬草を持ち帰っている以上、その薬草が渡るのは採ってきた者の縁者か、希少な薬草を買い取れるような財を持つ者が優先される。

 

そもそもその薬草は量が採れる物じゃない。

量も足りず、譲ってもらえる宛てもなく、だったら自分で採りに行くしかない。

我が子はそう考えたし、我が子が持ち帰った大量の薬草が無ければ他の我が子達も同じように考えて森に入った筈だ。

 

その内何人が帰らぬことになっていただろうか。

でも我が子は帰ってきてくれた。

 

喜ばしい事ではあるんだけれど、いくつも奇妙な点がある。

第一に我が子がどうやって薬草を手に入れたのか覚えていないこと。

第二に一度私との繋がりが途切れ、別の場所から現れたこと。

第三に衣服がボロボロになっていながら、肌には傷一つなかった事こと。

 

そこから考えられるのは、他の神が関わっている可能性が高いということ。

一度繋がりが途切れたのは私の力の届かないところへ行ったから。

2時間で帰ってきている事を考えると、攫われたのではなく迷い込んだ可能性が高いわね。

 

服の損傷具合から考えると、それ相応に怪我もしていたはず。

それが傷一つ無い状態で帰って来たということはその神が癒したということ。

最低でも短時間で跡も残さず治癒できるほどの実力はある。

 

あれほどの薬草を我が子が一人で集めたというのは考えづらいから、これもその神が持たせたのでしょう。

備蓄があったにせよ集めてきたにせよ、あの森の深い部分を領域にしている可能性が高い。

 

我が子は代価となるような物を持っていなかったはずだから無償で譲られたと考える事もできるけど、それは流石に楽観がすぎる。

考えられる対価は知識、労働、そして我が子自身。

 

一介の村娘である我が子にそれほどの知識がある訳じゃない。

労働力にしてもあれだけの薬草を集められる神が、村娘が2時間で出来る程度の働きを欲しがるとは考えづらい。

ただ、人型ではない神が人の手を欲したという可能性もなくはない。

我が子自身については別に依り代や眷属にされたような跡もなく、体の一部を捧げさせられた訳でもなさそうだ。

可能性としては色事という線もありえるわね。

 

とにかくそのいずれかはその神にとって対価になる程度には価値があるということ。

そう考えるとその為に攫われたけど役目を終えたので解放されたというパターンもあり得るわ。

それを我が子が覚えていないということは、その神がなにかしらしたのでしょう。

 

何か後ろ暗いことがあった?

それにしては我が子が無事に戻ってきた事が気になる。

それならば態々森の入り口に近い場所に返す必要はないはずよね。

 

余計な話が広まるのを嫌がった?

そちらの方が可能性が高いわね。

この話が広がり、自身の周りが騒がしくなるのを嫌った。

 

そう考えるとその神のタイプも見えてくる。

信仰や名声を望むタイプではない。

性質は比較的温厚。

少なくとも領域に入った程度で罰したり理不尽な要求を突き付けるほど器量が狭いという事はない。

 

対価の有無は不明だけど、我が子が望む物を授けている。

人を無下にはしていないという事だ。

 

 

これ以上は情報が足りないわね。

 

出来れば放っておきたい懸案なんだけど、そうもいかなくなった。

薬草が足りなくなったのだ。

 

最初は問題なかった。

流行り病に罹った我が子達に薬草を煎じ、薬を調合して飲ませれば症状は改善されていた。

雲行きが怪しくなったのは比較的治りが遅かった我が子達の病が悪化し始めた時だ。

この流行り病には殊更効果があると言われていたこの希少な薬草でも症状が改善されない我が子達が出てきたのだ。

全く効果が無くなった訳ではないのか、薬の量を増やすことで症状の進行を遅らせることはできる。

後は何とか症状を抑えてる間に体が病に打ち勝つことを期待するしかなかった。

しかしそれをするには薬草が足りない。

 

病が悪化し始めた我が子の数は日に日に増えていった。

どう考えても、追加の薬草が必要だ。

出来ればあの日我が子が持ち帰ったくらいの量が欲しい。

 

私の加護では生命力を増やして病に抗う手助けをすることはできても病そのものを祓うことはできない。

私は病に苦しむ我が子達に加護を与える合間を縫ってあの日我が子に薬草を与えた神の居場所を探した。

森の奥は私の領域の外でおいそれと入ることはできないけれど、我が子が戻ってきたのは森の入り口だった。

そこなら何とか私の力が届く。

 

我が子の縁を頼りに探すこと三日。

今日になってようやくその神がいると思わしき異界を見つけることが出来た。

境界の先にあるそれは一つの生き物のような気配を漂わせていて、まるで入ってきた獲物を飲み込まんとする魔物のようだ。

 

正直帰りたくなったのだけど、我が子達を助けるためにはその神に薬草を分けてもらうのが一番確実だった。

勇気を振り絞り、意を決して境界を抜ける。

 

途中に侵入者を拒む結界のようなものがあったが、私が拒まれるような事はなくするりと抜けることが出来た。

まるで私を待っていたかのように。

一瞬、我が子に薬草を与えたのは私を釣りだす為だったのではないかなんて妄想に駆られたけど、どのみち既に帰るという選択肢はないのだ。

それに私のような木っ端な神を釣りだして何の得があるのだと、嫌な妄想を否定する。

 

そして私は異界に足を踏み入れた。

 

 

──即行で後悔したわ。

 

なによこの神気!

私のような零細の土地神はおろか神々の集まりに参加した時に見た主神クラスの神殿にも劣らない濃密な神の力。

 

幸いその神気は特に指向性はないらしく、私に害を及ぼすような事はなかったけど、正直力の大きさだけで心が折れそうになる。

でも私もラクル村の守護神として折れる訳にはいかない。

 

そうして自分自身を叱咤していると、仮面をつけた小さな動物がやってきた。

ミシロキツネかしら?

 

「ようこそおいでくださいました、お客様。本日はどのようなご用件でいらっしゃいますか?」

 

小動物を眷属にしているのかしら。

いえ、これは器物の類が化けた類の化生ね。

 

「ここの神に会いに来たの。悪いけど取り次いでもらえるかしら?」

 

(へりくだ)らず、かといって高圧的にならないように。

侮られないように、かといって不快にはさせないように気を付けて言葉を紡ぐ。

 

「申し訳ございません。現在、宇迦之御魂神(うかのみたまのかみ)はおられず、いつ戻られるかも分かりません。御用でしたら眷属の天狐が対応いたしますがいかがいたしましょうか?」

 

え? 不在なの?

本神(ほんにん)がいないのにこれだけの神気って、いったいどれほどの力を持っているのやら。

不在って事は無駄足か。

いえ、留守の対応を任されているほどの眷属ならある程度取引ができるかしら。

 

「お願いするわ」

 

「畏まりました。ご案内いたします」

 

さて、何とか薬草を手に入れられればいいのだけど。

 

 

 

化生に案内されて家の中を歩く。

最初に家に上がる際に履物を脱ぐように求められたのは驚いたけど、それがここのルールなら仕方ない。

 

家は見たことのない建築様式で、ここが異界であることをひしひしと伝えてくる。

案内された部屋の横開きの扉が開かれると、中には既に眷属と思われる者が二人ほど座っていた。

 

片方は仮面をつけた男。

こちらは大した力を感じない。

案内してくれた化生の方が強いくらいだ。

付けている仮面の方には力を感じることから、もしかしたら仮面が本体の化生の可能性もあるわね。

 

もう片方は童女。

一目見て再び心が折れそうになった。

なにこの童女、あり得ないくらい力を感じるんですけど!?

力の差が大きすぎて私程度では測りきれない。

え? 眷属でこれなの?

だったら宇迦之御魂という神はどれほどの力を持っているの?

 

っ!!

 

うわ、容赦なく神の力を向けてきた!

こ、これは相手を知る為の力ね。

看破とか読心とかそういう類の。

 

辛うじて読心は防いだ。

ただでさえこちらが圧倒的に弱者なのに心まで読まれては交渉も何もない。

私は読心とかできないのに不利すぎる。

 

心を強く持ちながら、童女の対面へと座る。

座り方これで合っているかしら。

とりあえず童女や仮面の男性と同じ座り方をする。

 

「はじめまして。私はフェルドナ。ラクル村の神よ」

 

(へりくだ)らず、かといって横柄にならないように。

神として侮られてはいけない。

私の評価はラクル村の評価にもなるのだから。

 

けれども相手を不快にさせてはいけない。

相手は圧倒的強者だ。

私はともかく万に一つもその怒りがラクル村に向かうような事があってはいけない。

 

「紹介痛み入る。儂は宇迦之御魂神(うかのみたまのかみ)の眷属・天狐。主の不在にて儂がお相手させていただくことをお許しくだされ」

 

幸い相手も意をくんでくれたのか、こちらを立ててくれた。

神としての格という一点においてのみ辛うじて私が上回っている。

それもこの童女が()()()()()()()()()瞬く間に抜かされる程度のものでしかないけど。

それゆえ神の眷属として他の神を上に置いた対応をしてくれているのだろう。

 

「この者は同じく宇迦之御魂神(うかのみたまのかみ)に仕える禰宜(ねぎ)

 

禰宜(ねぎ)にございます」

 

そう言って男性が頭を下げる。

あくまで控えているだけという事らしく、それ以上のアクションは無かった。

 

「さて、本日はどのようなご用件で御座いますかな?」

 

「二つほどあるわ。一つ目は先日ここで世話になった人間の娘がいたでしょ」

 

迷い込んだのか攫われたのかは分からな方けど、とりあえずどちらでも対応できる言い方をする。

なんとか理由を知れればいいのだけど。

 

「ええ。死に至りかねない怪我を負っていました故、傷を癒すために招かせていただきました。余計な騒動を避けるためにこの事は忘れていただきましたが」

 

その理由はあっさりと明かされた。

もちろん相手の言葉を鵜呑みにする訳にはいかないのだけど、筋は通っている。

戻ってきたときの衣服の破れ具合を考えれば、左腕あたりに大きな怪我を負っていても不思議じゃない。

 

「感謝するわ。我が子を助けてくれてありがとう」

 

両手を胸に当て、感謝を示す。

これは私の本心だ。

されど頭は下げない。

神として下げるわけにはいかない。

本当に神という立場は面倒くさい。

 

「それで二つ目なんだけど、貴方達が我が子に持たせた薬草、まだあるかしら?」

 

「常備している物ではありませぬ故に手元には御座いません。2時間ほど頂ければ同じだけご用意できますがいかがなさいますか?」

 

仕える神が不在でもあの量の薬草を2時間で揃えるという。

いえ、先ほど童女が言った言葉──傷を癒すために招かせていただきました──神ではなく自分が招いたような言い方。

最初から我が子に薬草を与えたのはこの童女。

そしてこの童女はそれが──自身の判断で神の領域に他者を入れることが──許される立場にいる。

 

「お願いするわ。それまで待たせてもらっても?」

 

「差し支えございません。しかしながらあれでは足りませんでしたか。皆様に行き渡る量をご用意できたと思っていたのですが」

 

言外に『治療以外の事に使ったんじゃないよな?』と聞かれた気がした。

 

「……今までだったら十分全員に行き渡る量だったわ。でも、今回は薬草が効きにくい人が出ちゃって足りなくなっちゃったの」

 

それには嘘偽りなく答えられる。

けれど……

 

「左様でございますか」

 

それはラクル村が必要としていた量を知っていたという事。

我が子をここに招いていた時には既に、私に気付かせることすらなく領域内の状況を把握されていたという事実がとても恐ろしかった。

 

 

 

 

 

き、緊張したぁぁぁ!!

 

 

童女と男が部屋を出ていき、ようやく私は一息つく事ができた。

 

特にあの童女の方。

実力的にはあちらが圧倒的に上なのに神格はこちらの方がちょっとだけ上なせいで(へりくだ)られているからこちらも相応の態度が必要になる。

 

だからといって侮られても困る。

最低でも不義理を働けば面倒な事になると思われるくらいでなければ(ないがし)ろにされかねない。

結局のところ、私は虚勢を張り続けないといけないのだ。

 

そういえばあの童女、なんで童女姿なのかしら。

見た目通り幼いという訳ではないでしょうに。

 

そんな事を考えていると、扉の方から「失礼します」と声が聞こえた。

何事かと思ったけど、扉の向こうに先ほど案内をしてくれた化生の気配がある。

なるほどノックの代わりなのね。

 

「どうぞ」と入室を促すと、化生がなにやら木でできた平たい板に(うつわ)とコップのようなものを乗せて入ってきた。

 

「大したものではございませんが、緑茶と茶菓子になります。よろしければご賞味ください」

 

そう言って平たい板から器とコップのようなものを私の目の前にある背の低い机にのせる。

そして役目は終わったとばかりに一礼して部屋から出て行った。

 

私は器に乗せられたものに目を向ける。

丸い何かがいくつも串に刺されたものや、蒸しパンのようなもの、四角く切られた茶色っぽい色をした何か。

茶菓子といっていたから菓子の類なんでしょうけど、あんまり馴染みのないものばかりね。

客人に菓子を出せる懐具合が羨ましいわ。

 

相手の凄さにため息をつきながら菓子に手を伸ばそうとして──

 

 

 

足に電撃が走った。

 

 

 

足に力が入らずにうまく動かせない。

足全体が痺れて何とも言えない感覚が襲う。

動くたびに感覚の濁流があぁ!!

 

 

 

あああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!

 

 

 

それからしばらくしてようやく足の痺れが収まった。

まったく、取り乱してしまったわ。

 

どうやら原因はあの座り方をしていた事のようなので足の組み方を変えてみる。

多分これで大丈夫。

人の姿はこの辺りが面倒だわ。

 

さて、せっかくだから菓子を頂こうかしら。

菓子なんて高級品、供えられることは祭りの時ですらなかなか無いのよね。

 

蒸しパンのような菓子を一つ手に取る。

ただの蒸しパンにしてはずっしりと重い。

これは中に何か入っているわね。

その重みを確かめながら口にする。

 

甘い──。

 

貴重な砂糖をふんだんに使っているのであろう黒い中身の甘さを、包み込む生地が優しく受け止めることで絶妙な味を作り出している。

一つ、瞬く間に食べてしまった。

 

一口、お茶を飲む。

適度な渋みが口の中を洗い流す。

茶葉が良いのか濃厚な味わいと心地よい香りが私の味覚と嗅覚を楽しませる。

私が知っているお茶とは色が全然違うから一瞬躊躇したけど、おいしいわね。

 

次に串に刺された丸い菓子に手を伸ばす。

ハーブか何かが練り込ませているのだろうか。

春を連想させるような品のある香りが鼻を満たし食欲を掻き立てる。

 

口に入れると感じるのは控えめな甘さ。

それをハーブの僅かな苦みによって強調することでしっかりとした甘味を感じられる。

弾力のある生地が十分な食べ応えを感じさせるのも好印象。

これ、うちの村でも作れないかしら。

 

再びお茶を一口飲み、茶色っぽい四角い菓子の方を見る。

他とは違い木製の小さなナイフのようなものが一緒に置いてある。

これを使って食べろということだろうか。

 

とりあえずそれで刺して口の中に運ぶ。

その瞬間感じたのは圧倒的な甘さの暴力。

これでもかと襲い来る甘さはもはや濃いというより重い。

けれども決して不快には感じないだけの繊細さを兼ね備えている。

こんなもの作るのにどれ程の技術と砂糖がいるのだろうか。

 

一通り味見を終え、私が感じていたのは言いようもない幸福感。

されどこれで終わりではない。

この三種の菓子はまだまだあるのだ。

私はその幸運を噛みしめながら次の菓子へ手を伸ばすのだった。

 

 

 

 

 

それから私はゆっくりと菓子を味わい、その余韻に浸ってはお茶を飲むという行為を繰り返した。

気付いた時にはあれだけあった菓子もなくなり、心に満足感と僅かばかりの寂しさが残るだけとなった。

 

あぁ、美味しかった。

 

同じ「甘い」という味であってもこれほど違う「甘さ」を表現できる菓子を作れるなんて。

私もいつかあんな菓子を好きなだけ食べれるようになりたいな。

 

 

 

……そういえば私なんでここに来たんだっけ?

 

 

 

そうだ、薬草分けてもらいに来たんだった。

気が付けば約束の2時間まであとわずかだ。

そう言えば私、対価の話をしていない。

まずい、緊張しすぎてすっかり忘れてた。

 

どうする? 何がいい?

私の用意できる対価は私の神徳に由来するものかラクル村でどうにかできるものだけだ。

 

私の神徳は「五穀豊穣」「運気上昇」「財運隆昌」あと「祈雨」。

「五穀豊穣」──案内されている途中に畑を見たけど、むしろ相手側の得意分野っぽい。

「運気上昇」──あれだけの霊威がある相手にどれだけ効果があるか……。

「財運隆昌」──私の神徳の強さだとさっきの菓子代の方が額が大きい。

「祈雨」──雨、必要?

ダメだ、ことごとく意味がない。

 

ラクル村で用意できるものだと農産物系は同様の理由で駄目。

辺境の一村落で用意できる財もそんなに多くは無い。

後は……生贄。ダメダメ、論外。

 

そもそもこれほど力を持った神の眷属というのが想定外。

元々考えていた対価がすべて意味のないものになっている。

何か相手が欲しがりそうで私が用意できるものは……

 

「失礼します」

 

再び扉の外から掛けられた声。

しかも化生の方じゃなくて童女の方。

まだ考えがまとまっていないのに。

しかし無視する訳にもいかないので「どうぞ」と答えた。

 

すると童女と籠を持った男が入ってくる。

 

「おまたせいたしました。ご所望の品、揃いましてございます」

 

童女の言葉に、男が籠を差し出す。

中には希望した量の薬草が入っていた。

 

「勝手かとは存じますが、病に効く術を込めさせていただきました」

 

はい?

 

籠から薬草を一枚取り出して、まじまじと見る。

うわぁ、ナニコレ。

病の元を直接呪い殺すレベルの術が込められている。

たしかにこれなら薬草が効かない病だろうと問答無用で効果を発揮するだろう。

 

この量の薬草全てに同様の術が施されていることに戦慄するけど、有効な術であることに代わりは無い。

これなら我が子達を全員救えるだろう。

問題は薬草の価値が爆上がりしている事だ。

これに見合う対価が用意できない。

 

「期待以上の物ね。ご褒美は何がいいかしら? 財産? 幸運? それとも……」

 

私は最終手段を切った。

相手に丸投げである。

欲しいものを言ってちょうだい。

そこから実行可能なところまで交渉するから。

私にできる事ならなんだって頑張るから。

 

「では、着ている服を一枚頂きたく思います」

 

服?

え? それでいいの?

私の服って体の一部が変化したものだから私から離れると抜け殻になっちゃうのよ?

 

いや、正体は分からないけどこの童女も多分同類。

その程度の事は分かっているハズ。

なら抜け殻が欲しいと見るべき。

……一体何に使うのかしら。

 

「これでいいのね?」

 

外套を一枚脱いで、一応畳んで渡す。

正直薬草の対価としては釣り合ってない気がするけど、相手がそれでいいというならありがたい。

もしかしたらこちらの懐具合を考えて妥協してくれたのかもしれない。

 

「ありがとうございます」

 

そしてそれを童女は(うやうや)しく受け取ったのだった。

 

あ、そういえば勢いでご褒美とか言っちゃったけど、宇迦之御魂(童女の上司の神)に無礼だって怒られたりしないかしら……

 

 

 

 

 

その日の夜、私はあの異界に招かれた我が子の夢枕に立った。

私は直接我が子達に干渉することが難しいので遠回りになるけどこれが一番確実だ。

手に入れた薬草を無償で配って回ったこの子なら独り占めしたりすることもないでしょう。

 

いまいち状況が飲み込めていない我が子に、特別よく効く魔法が込められている薬草だと言ってそれを授ける。

病に侵されている我が子達全員にぎりぎり行き渡る量だけ。

 

残りは念のため私の方で保管しておく。

はっきり言って万能薬に近いレベルのアイテムなのだ。

残れば争いの種になりかねないほどの。

 

 

 

それから数日後、病に侵された我が子達は全員が快方に向かっていた。

すでに病魔の影響はなく、あとは失った体力を取り戻すだけだ。

それならば私の加護で何とかなる。

 

あと、変わったことと言えば私の社が綺麗になった。

我が子が私が枕元に立ったことを広めてくれたらしい。

病が治った我が子の縁者達が代わるがわる来ては掃除やらお供え物をしてくれる。

後日もっと大きな社に建て替える話も出ているらしい。

楽しみだ。

 

その影響か私の神徳にも「病気平癒」──病を快復させるが新たに加わった。

まだ効果の小さい神徳だけど、もしまた同じような事が起きた時に私の力だけで何とかできるように育てていこう。

近々お礼を言いにまたあの異界へ行こうと思う。

そろそろ籠も返さないといけないしね。

 

 

 

 

 

なお、私の抜け殻は綺麗になって部屋に飾られていました。

恥ずかしい。

 

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