俺と天狐の異世界四方山見聞録   作:黒い翠鳥

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あけましておめでとうございます。
今年も『俺と天狐の異世界四方山見聞録』をご愛読いただければ幸いです。

今回は箸休め回。


修正履歴
・大まかに章分けしてみました。
・時系列の関係で少し時期を修正。


File No.27  『忘年の交わり』

「それでは新たな年の始まりを祝いまして、乾杯!」

 

「「「「「乾杯!!」」」」」

 

俺の音頭に、いくつもの声が続く。

 

本日はルミナ神とフェルドナ神、そしてフォレア(ちゃん)を迎えての新年会だ。

といってもミルラト神話圏の暦での新年会なので、現世(元の世界)的に言えばとっくに四月に入っている時期なのだが。

 

最初は以前ルミナ神と話していた、ただの花見の予定だったんだがな。

計画を立てている最中に偶々フェルドナ神がフォレアちゃんを連れて温泉に入りに来たので、ルミナ神が巻き込んだ形だ。

 

百重御殿の庭に茣蓙(ござ)を敷いた、ミルラト神話圏ではまず見ないスタイルでの宴会なので親子女神(フェルドナ神とフォレアちゃん)が若干戸惑っていたが、異文化交流という事で一つ。

 

視線を上げれば満開の桜が並び、心地よい風に桜吹雪が舞っている。

茣蓙の上にはルミナ神の提供によって得られた大量の肉を使った料理をはじめ多種多様な食事に加え、花見に(いろどり)を添える三色団子などのデザートが並ぶ。

外でも食べやすい形式という事で、自家製の(マヨイガで作った)パンを使ったサンドイッチ形式で用意した料理が多い。

 

前に百重御殿の付喪神にはパンを生成できるのがいなかったので自分で作ろうとしたのだが、酵母をどうしようかという問題が立ちふさがった。

そこで試しに味噌とか醤油とかを作っている仕込み桶に駄目元で頼んでみたところ、なんと発酵できてしまったのである。

パン酵母と味噌酵母は別物だが、酵母うんぬん以前に製造過程で()()()()()能力を持つ妖怪仕込み桶には関係が無かったようだ。

 

最近では俺が百重御殿の主になった影響でパン生地の仕込み桶なる付喪神が新たに現れている。

いつでもあとは焼くだけの状態になったパン生地が手に入るのはありがたい。

 

焼く作業は妖怪陶芸窯がやってくれた。

パン窯と陶芸窯では構造が違うし大丈夫だろうかと思ったが、妖怪窯にとってはそのくらい調整可能な範囲なのだそうだ。

こっちはこっちで最近いつの間にかパン焼き用の出し入れ口が増設されてたりする。

 

なお今回はあくまでミルラト神話圏の新年という事で、おせちやお餅は用意していない。

代わりに料理の種類はかなり用意した。

 

乾杯を終えて各々が思い思いの料理に手を伸ばす。

今日も無礼講なのでよろしく。

 

 

 

フェルドナ神が真っ先に手を出したのは煮卵のサンドイッチ。

醤油たれに漬け込んで作った煮卵を潰して具材にしたサンドイッチで、醬油の旨味が効いている一品だ。

 

パンは食パンではなく小さめのコッペパンの背を切って挟んでいる。

今日用意したサンドイッチはだいたいこの形式だと思ってくれ。

 

他にも普通の茹で卵で作った卵サンドやツナ(正確にはマグロっぽい魚の油漬け)マヨネーズを挟んだツナマヨサンドに焼きそばパン(ソースが無かったのでそれっぽい味付けをしただけだが)なんかもある。

 

 

 

フォレアちゃんが食べているのは鶏のから揚げ。

一つ食べてみて気に入ったのか、自分用の小皿いっぱいに確保しては口に運んでいる。

 

ミルラト神話圏では鶏もさることながら油が結構高いらしく、油を大量に使った揚げ物は相当な贅沢品だ。

というか、揚げるという調理法自体ないらしい。

 

それを作り方を聞いてきたフォレアちゃんに説明したら、「えっ」という表情になって食べる速度が遅くなった。

たぶん良く味わって食べようとしているのだろう。

あとから食べたくなっても流石にラクル村で用意するのは難しいだろうから。

 

なので一緒に揚げ焼きの作り方を教えておいた。

ちょっとコツがいるが揚げ物よりも少ない油で作れるので、ラクル村の経済状況でも年に一度くらいならお供えしてもらえるんじゃないだろうか。

鶏は飼ってるみたいだし。

 

もしくは鶏肉持ってきてくれたらこっちで揚げてあげてもいいんだけど。

 

 

 

ルミナ神が手を伸ばしているのはリクエストしていたハンバーグサンドか。

先日言っていた肉質の悪い牛肉を美味しく食べる料理法という事で、作ってみたハンバーグをレタスなどの野菜と一緒にパンに挟んでいる。

 

そういえばミルラト神話圏にもハンバーグと同じく肉をミンチにして成形する料理自体はあったようだ。

ぶっちゃけるとソーセージの事なんだが、こちらは豚肉を長期保存する為の加工品という性質が強かった。

そのため硬い肉を美味しく食べる為にその技術を応用するという発想が無かったようなのだ。

 

ルミナ神が俺のハンバーグの説明を聞いたときに声を上げたのも、「その手がありましたわ!」って思ったかららしいし。

挽肉を固めて焼くという調理法自体はあってもそれを牛肉で作るというアイデアが無かったところに、俺がこうすればいいんじゃねって言っちゃった訳だ。

言われてみればその手段は既にあったのに、何で思いつかなかったのかという叫びだったみたいだな。

 

もちろん繋ぎを使うなどハンバーグとソーセージの作り方は同じではないが、思いついてさえいればすぐに発展していった事だろう。

こういうのが以前コンが言っていた、そしてルミナ神が欲しがっていたらしい異世界人の知識(異なる文明の『気付き』)なんだそうだ。

 

 

 

ミコトが手に取ったのはコモコモの照り焼きのサンドイッチ。

コモコモはあちらの世界で食用として飼われている大きなカエルのような姿をした生き物で、ルミナ神にはなにか物足りない味と評されていた。

今回融通してもらった肉類の中にコモコモもあったので、物足りないならタレで味付けすればいいじゃないという安易な発想で試してみたら意外といけたのだ。

 

醤油をベースにした甘辛いタレを使用しているので、醤油のないミルラト神話圏では今のところ再現できないのが難点だが。

ただ、『太陽の国』からの貿易品の中にたまり醤油っぽいのがあるらしく、今度それで試してみるとはルミナ神の言。

 

というか、太陽の国(五郎左殿の所)と貿易してたんだ……。

 

まぁ、海に隔てられているとはいえ距離的に4,000㎞くらいしか離れていないらしいから行っていけない事はないのだろう。

ルミナ神曰くミルラト神話圏の国々との国交はほぼないらしいけどね。

 

なお太陽の国という名前は以心伝心の呪いで翻訳されているだけで実際の発音とはもちろん異なっている。

国名が『太陽の国』という意味の言葉──日本(にっぽん)の意味が日本(ひのもと)みたいな感じ──なのだ。

 

 

 

コンは大量の稲荷寿司にご満悦だ。

というのも、俺が百重御殿の主になった事で新たに生まれ変わった妖怪の中に豆腐を作れる水桶がいたのだ。

これによりいつでも好きなだけ油揚げが作れるようになり、それはもう狂喜乱舞したコンが山のように作ったのである。

 

俺としても料理のレパートリーを広げられるのはありがたい。

今までは気軽に使えなかったからな。

 

湯豆腐、田楽、冷奴。

厚揚げやがんもどきなんかもいいな。

 

何より味噌汁に好きなだけ入れられるのが嬉しい。

個人的には味噌汁には豆腐だったから。

 

 

 

そして俺が食べてるのはカツサンド。

豚カツのもあるが、コモコモの肉に下味と衣をつけて揚げてみたコモカツとでも言うべき料理を挟んだカツサンドだ。

 

んー、やっぱり濃い味付けにして正解だったな。

 

コモコモの肉は食感は悪くないんだが、どうにも味が淡白すぎる。

しいて言うならフグに近い感じだろうか。

なので照り焼きのときもそうだったが、濃い目の味付けをすることでいい感じに味の調和が整ったのだ。

 

やっぱり醤油って万能調味料だな。

 

ちなみにコモコモはカエルに似ているというだけで別にカエルではないらしい。

 

 

ヤシロさんは他の式神達と同様に給仕などを担当している。

一緒にどうかと誘ったのだが、畏れ多すぎると辞退してしまったのだ。

料理自体は十分にあるから休憩時にでも食べてくれると嬉しい。

 

なお、フェルドナ神はルミナ神と同席する事についてもう開き直っていた。

ルミナ神に色々引っ張り回されているせいだろうか。

ラクル村にもちょくちょく行っているらしいからね、ルミナ神。

 

お互いの様子をみるに案外もう打ち解けているのかもしれない。

 

 

 

 

「あら、これはサツマイモですの?」

 

しばらく皆で談笑していると、ルミナ神が小皿に取り分けた大学芋をフォークでつんつんとしながらそう言った。

 

「ええ。大学芋といいまして、揚げたサツマイモに糖蜜を絡めた菓子ですね。甘く食べ応えがあって栄養価も高いと、こっち(現世)でも人気のおやつですよ」

 

「甘くておいしいのです」

 

「サツマイモって菓子にもなるのね」

 

フォレアちゃんとフェルドナ神も大学芋を口に運ぶ。

その表情を窺うに評価はなかなか悪くないようだ。

 

「ねぇ、タケルくん。これどうやって作るの?」

 

「えーと、そうですね──」

 

今回作ったのは低温の油で揚げたサツマイモに水あめと砂糖・醤油を使った蜜を絡めてゴマでアクセントをつけたものだ。

なのでラクル村で作るには厳しいかもしれないが、油で揚げない調理法だったり蜂蜜を使ったものがあったりと、色々な作り方ができるので試してみてはどうだろうか。

 

「今年中にはサクトリアでもサツマイモが安定して手に入るようになるでしょうし、こちらでも作らせてみようかしら」

 

うまく出来たらおすそ分けしますわとフェルドナ神に言うルミナ神。

 

そういえば劇を見たので既に広まっているイメージがあったが、まだルミナ神の聖地サクトリアではサツマイモは珍しいんだよな。

フェルドナ神が飢餓が起こりそうだった地域に優先して配っていたので、豊かな都市であるサクトリアまでは商人が持ち込んだ分くらいしか出回っていないのだそうだ。

 

それでも噂自体はかなり広まっており、フェルドナ神の美談も相まってサツマイモの存在を知らない人の方が少ないらしいが。

 

「サツマイモの菓子ならこっちもですね。これも美味しいですよ」

 

紹介したのはスイートポテト。

日本発祥の洋菓子で、明治時代に広まったとされているがどこで生まれたのかとか誰が発明したのかという詳しい情報がほとんどない謎のお菓子だ。

 

裏ごししたサツマイモに砂糖・牛乳・バターなどを混ぜ、表面に卵黄を塗ってオーブンで焼き上げる事で出来る……のだが、これは妖怪菓子箱に出してもらったやつだ。

 

分類的には洋菓子だが、妖怪菓子箱も少しパワーアップしたのか日本生まれの菓子という事でスイートポテトも出せるようになったようだ。

まぁ分類は和菓子とはいえ元々はポルトガルから伝えられた金平糖やカステラも出せていたから、案外やろうと思えば前からできていたのかもしれないが。

 

今では日本のお菓子といえるものなら和洋問わず出せるようになったとのこと。

 

ただ大学芋は出せないらしい。

料理判定なのか菓子判定なのかいまいち認識が一定しないからだそうだ。

 

「これもいいですわね」

 

「サツマイモと砂糖にミルクとバター……これなら作れるかも」

 

砂糖が高価なのが難だが手に入らないわけでは無いし、なんなら蜂蜜とかで代用可能だ。

ミルラト神話圏では養蜂の技術が進んでおり、可動式巣枠を備えた巣箱がすでに発明されているなど、遠心分離器こそ無いものの近代養蜂に近しい手法がすでに確立されているらしい。

 

そのため一般的な甘味といえば蜂蜜、というくらいには浸透しているのだとか。

まぁ、それでも安い訳ではないらしいが。

 

 

 

「では、そろそろ()()いきますわよ」

 

そういうとルミナ神は人に化けた眷属蟹に持って来させたガラス瓶をドンと置く。

 

ミルラト神話圏にもガラス自体は普通にある。

吹きガラスも発明されており、一般庶民にも手が届く値段で普及しているそうだ。

ちなみに現世(元の世界)での吹きガラスの発明は紀元前一世紀頃とかなり古い。

 

「それが例のやつじゃな」

 

「これが……」

 

「なのです……」

 

「楽しみなのだ」

 

上からコン、フェルドナ神、フォレアちゃん、ミコトである。

 

眷属蟹が瓶の(コルク)を抜き、式神達が用意した酒器に中身を注いでいく。

その正体は葡萄の蒸留酒の念物(ここのぎ)

しかも莫大な(おも)いと神気によって神器クラスにまで昇華された神酒(しんしゅ)である。

 

神道でいう御神酒(おみき)念物(ここのぎ)神酒(しんしゅ)というイメージでいいだろう。

 

そもそも御神酒(おみき)とは神様にお供えしたお酒を撤下(お下げした)ものであり、人間がお下がりとしていただくお酒の呼び名なのだ。

神饌として奉納したお酒の事は、そのものずばり()神酒(しんしゅ)と呼ぶ。

 

まぁ、神道だと基本的に日本酒を供えるので、これはミルラト神話の神酒という呼び方が正確なのかもしれないが。

 

俺はお酒が飲めないし、そもそも霊的側面である念物(ここのぎ)は味わえない。

なのでルミナ神の眷属蟹が物質側の葡萄ジュースを用意してくれた。

 

もう少し現人神として神性が高まれば念物も味わえるようになるそうなんだが。

(キツネツキ)は神格は結構高いらしいんだけど、憑狐転神(ひょうこてんしん)しないと神性はいまいちなんだよね。

 

「今日は飲みますわよ!」

 

「「「「おー!」」」」

 

「お代わりはたっぷり用意してますから遠慮なさらないでくださいな」

 

それから各々楽しそうに神酒をたしなむ四柱と一人を見ながら、今年も退屈はしないだろうなと、未来に想いを馳せるのだった。

 

 

 

今後ともよろしくお願いいたします。

 

 

 

 

 

 

なお、翌日は四柱と一人仲良く揃って二日酔いに悩まされていた。

とりあえず酔い覚ましにお味噌汁を用意するとしよう。

 




結局、食って飲んだだけの話。

忘年(ぼうねん)(まじ)わり』

年の差に関係なく、親しく交際すること。
類句に『忘形の交わり』があるが、こちらは容姿や地位にとらわれず親しくすること。

みんな結構年齢差があるんですが、仲良くやれているようです。


追伸:proxyon様、緋色心様、hameid様、誤字報告ありがとうございます。
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