俺と天狐の異世界四方山見聞録   作:黒い翠鳥

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今回は説明回。


File No.03  『旅は憂いもの辛いもの』

フェルドナ神が来た翌日、コンと妖札で遊んでいる時にふと思いついた事を聞いてみた。

 

「そういえばさ、この異世界ってどんな感じなの? 『5』」

 

今日の妖札のルールは星取り御前試合。『玉』なし、相生相克なし、呼掛けなし、番狂わせありだ。

 

「どう、とは? 『3』、七将はそちらの勝ちじゃな」

 

コンが自分の出した3の札を裏返す。

 

「中世っぽい世界とか近代っぽいとか、魔法があるとか獣人がいるとかさ。 『3』」

 

初期手札は1~9のカード各1枚ずつの合計9枚。

それをお互いに一枚ずつ裏向きで出しては同時に表にする。

 

「『2』、ぬ、六将も負けたか。あまり詳しいところまでは調べておらぬが、建物や衣服は西洋風じゃったな。文明の度合いでいえば現世でいうところの江戸時代前期の村くらいじゃろうか」

 

一度使ったカードは二度使えず、負けた方を再び裏向きにする。(これは勝敗を分かりやすくするためなので負けた札を()けるでもよい。引き分けだと両方負け扱い)

これを手札が無くなるまで繰り返し、最終的に勝ち星の多い方が勝者となる。

 

「魔法とやらは存在するようじゃの。こちらに来た初日に会った女の過去にそのような話があった。どのような物かは見てみんことには何とも言えんの。『1』」

 

「『9』、げ、番狂わせかよ」

 

番狂わせとは『1』は相手が『9』だった場合、勝利するという追加ルールだ。

数字の出し方が露骨だったから先鋒と次鋒で『8』と『2』を既に使った俺に対して『1』をにおわせて『9』を封じつつ『8』を出してくると予想したんだが、裏の裏をかかれたか。

 

「獣人……なのかは分からぬが、獣の特徴を持った人ならばおったな。『5』」

 

「『4』。おっ、獣人いるのか。どんな感じ?」

 

他の追加ルールとして同じカード以外のすべてに勝てる『玉』を手札に加える『玉あり』。(その場合必然的に『番狂わせあり』になるので代わりに『2』が抜ける)

優位な属性の場合は数字に関係なく勝てる『相生相克優』、勝てるのではなく数字が倍になる『相生相克倍』。(相生と相克で分ける場合もある)

山札をシャフルして引いた9枚を初期手札とする『呼掛けあり』(これをやると運要素が強くなりすぎるのであまり好まれない)などがある。

今回は『番狂わせ』以外はなしだ。

 

「『8』。お主、獣娘(けものむすめ)が好きじゃのぉ。大体こんな感じじゃ」

 

そういうとポンと音を立てて煙と共に狐耳と尻尾が現れる。

逆に言えばそれだけだ。

個人的にはもっとケモケモしいのが好きなのでちょっと残念。

コンは陰陽の気の消費が大きくなりすぎるとかであんまり化けてはくれないし。

 

「『6』。そっか。他にはどんな種族がいた?」

 

エルフとかいないだろうか。

 

「『9』。他はまだ見かけておらんの。どこかにドワーフというのはおるらしいがな」

 

「『1』。よっしゃ番狂わせ。ドワーフいるんだ。やっぱり髭なのかな」

 

「さてのぉ」

 

コンって古風な割にカタカナの発音とか流暢だよね。

 

獣人がいてドワーフがいるならエルフもいるかな。

もっとも異世界探索はコンの『千里眼』と『天耳通(てんにつう)』頼りなので捜索範囲はそんなに広くない。

まぁ、近くに危険なものが無いか確認する事が主な目的だからなんだが。

 

なお、『天耳通(てんにつう)』とは閻魔様が地上の出来事を聞くために使っているもので要するに『地獄耳』の事である。

天耳通(てんにつう)』持ち同士ならその気になれば北海道と沖縄に居ながら会話ができる。

 

「今のところ3つほど村を見つけただけじゃ。町と言えるほど規模の集まりがあればもう少し詳しい事がわかるやもしれぬが。『6』」

 

「『7』。大将戦は取った」

 

これで5勝4敗で辛うじて競り勝った。

副将戦の『9』を読み切ったのが大きかったな。

 

「久しぶりの星取り戦での黒星じゃな。そういえば獣人の村には神の気配が無かったの」

 

「それは無宗教って事?」

 

「どうじゃろう、むしろ祀り上げて形を持たせる必要が無いという事の方がありうる。今度もう少し詳しく()()()()()かの」

 

コンは言霊を聞き取れるので、知らない言語でも意味を理解することが出来る。

俺は出来ないのでフェルドナ神の時はコンが言霊を利用して日本語に聞こえる(まじな)いをかけてくれていた。

フェルドナ神は翻訳能力を使っていなかったようだ。

言葉が通じなければどうするつもりだったのだろうか。

 

ちなみに言霊を聞き取る(まじな)いと言葉の意味を伝える(まじな)いを合わせて『以心伝心の(まじな)い』と呼ばれている。

 

「家畜の数が見て取れるほどに多かったし、建築様式も他の二つとは異なっておった。遊牧民なのやもしれんの」

 

「へぇ、遊牧民か」

 

まぁ、会うことも無い気はするけどね。

基本的にマヨイガに引きこもっておく予定だし。

 

「あとは、見た限りでは機械や銃器の類は見当たらなかったのぅ。無論、調査対象が少なすぎる故、それだけで存在しないと結論付けるのは早計じゃが」

 

「そんなに規模の大きい村じゃなかったしな」

 

上空視点から見た限りだと第一次産業が主体っぽい。

トラブル防止の為にあんまり近づけないので詳しくは分からないが。

コン曰く月一くらいで商人の一団が来るので、その時余分な作物や森で取れた恵みを売ったり都会から持ってきた商品を買ったりするそうだ。

 

この商隊は乗合馬車の役目も担っているらしい。

他の村の移動も単独では命がけらしく、都会へ行きたい場合はこの商隊に同行させてもらうのが一般的とのこと。

これらは例の女性からの情報。

あの女性、名前何だったんだろうな。

 

そうそう、他の村への移動が命がけなのは物理的な距離に加えて凶暴な動物や魔獣なるものが出るからだそうだ。あと、稀に山賊。

魔獣というのは人(亜人系も含む)以外の魔法を使う動物を指す言葉らしい。

森の中にもそれらしき動物がいるので、あわよくば魔法を使うところが見れないかコンが観察中だそうだ。

 

「森の中であれば一角馬とか蛇鶏とかみたいなのがおったの。もっとも、それっぽいだけで現世の物語のそれと同じかは分からんが」

 

一角馬はユニコーンの事で、蛇鶏は……そうそう、バジリスクだ。

あの森、そんなのいるんだ……

 

ちょっと生で見てみたいとは思うが、そうもいかない事情が出来た。

正確に言うならば、俺たちがマヨイガの外で活動する事が難しくなった。

 

最初に異世界の女性を助けに外に出た時にコンが気付いたのだが、マヨイガの外に出続けるとコンが弱体化する事が判明したのだ。

これはコンが妖怪としての特性を持っている事が影響している。

 

妖怪というのは極端な言い方をしてしまえば人間のイメージから生まれた存在だ。

その妖怪を知る者が多いほど存在は強固になり、その畏怖が知れ渡るほど強くなる。

逆に言えば誰も知る者が居なくなった妖怪は、存在を保てなくなって消えていく。

妖怪の中にはただ現れてすぐいなくなるような何をしたいのかよく分からない行動をするものもいるが、それは人前にその姿を現すことで自分の存在を知る人間を増やし、存在を強固にしようとしているのだ。

 

そして残念ながら異世界には天狐の存在を知る者はいないらしい。

とはいえ天狐を知る人間が少なくともここに一人居るからコンが消える事は無いのだが、どうしても信仰による強化分は失われてしまう。

 

コンで言えば『天狐』という存在への信仰と『お稲荷様の使い』という加護が消失する。

 

前者は俺が居る事で一応は回復できるそうだが、後者が不味い。

なんせお稲荷様自身が居られないのだ。

回復するには稲荷神社に残された神気を使うより他になく、その神気は現世に戻るまで増える事は無い。

 

一応マヨイガの中でなら神気を外付けのオプションパーツのように使う事で、実質的に神気の消費無しで加護を使えるというのが救いか。

代わりに霊気の消耗が洒落にならないレベルになるらしいが。

 

千里眼のようにマヨイガの外に干渉する場合でもコンがマヨイガの中にいれば問題は無いらしい。

 

あと、式神はコンと霊的に繋がっているのでコンが外に出ない限りは問題なく活動できる。

流石に行動範囲はある程度制限されるようだが。(ちなみに境界を利用する事で延長が可能)

 

外に出ても数日で消えるほどコンが持っている信仰の力は浅くは無いが、何があるか分からない状態で弱体化するのは避けたい。

そんな訳で俺たちはマヨイガの外に出られなくなってしまったのだ。

まぁ、それほど不自由は無いし当初の予定通りと言えばそれまでなのだが。

 

「む? 観察していた蛇鶏に動きがあったぞ。狩りを始めるようじゃな」

 

「ちょっと俺にも見せて」

 

幻想生物の生態とかすごい気になるんだが。

コンが幻を操ってモニターのようにその風景を映し出す。

そこには3メートル近いと思われる鶏のような怪物がいた。

どうやら狙いは鹿のような動物のようだ。

 

音声が無いのでよく分からないが、おそらくバジリスクが鳴いた。

それに反応した鹿がそちらの方を向く。

 

その瞬間、バジリスクの目が光った。

何事かと思って鹿の方を見ると、その体が石のようになって倒れている。

え? 何今の、石化の魔眼?

 

初めての魔法と思われる現象に興奮していると、コンのテンションがいまいちなのに気付く。

どうしたの?

 

「拍子抜けじゃな。原理的には妖術と同じじゃ。目新しくもない。場所で呼び名が違っておるだけじゃな」

 

そういう事らしい。

 

妖術なら俺もコンに散々見せてもらっているのだ。

それと同じものと言われると興奮も薄くなる。

魔眼にしたって妖術的なものなら珍しい物では無い。

 

「観察対象を一角馬の方に変えるかの。全部が全部妖術と同じとは限らぬし」

 

人の使う魔法は別の原理であって欲しいんじゃがのう。と、コンは言う。

 

コンは新しい知識が好きだ。

コンほどの(よわい)になると周りで起こる事ほぼすべてが既に経験したことか既知の情報になってしまう。

知らない情報、新しい刺激はコンにとってのご馳走。

伝統を好み守りつつ、それはそれとして新しいものを貪欲に喰らう。

 

だからコンは人間が好きだ。

人の営み(文明)は驚くべき速度で変化していくからだ。

 

コンが幻を消すと、ちょうど式神が菓子の乗った皿を持ってきた。

どうやらそろそろ3時らしい。

 

菓子の出どころはマヨイガの妖怪の1体。

空の筈の箱の蓋を閉じて再び開けると中から菓子が現れる妖怪菓子箱だ。

急な来客の時とかに重宝する。

フェルドナ神に出した菓子もこの妖怪菓子箱で用意したものだ。

欠点は和菓子しか出せない事と、食いすぎるなという事なのか普段は一食分しか出してくれない事。

 

今日のおやつはみたらし団子か。

美味しそうだ。

 

「さて、もう一戦どうじゃ? 次は負けぬぞ」

 

コンが広げられた妖札を纏めながらそう言った。

上等。今回は勝てたが今までのトータルでは黒星の方が多いのだ。

このまま白星を増やして完全勝利してくれるわ!

 

 

 

そんな感じで俺とコンの今日という日は過ぎていくのだった。

 




夢は大きく作中遊具の商品化。


『旅は憂いもの辛いもの』
旅先では頼れる知人もおらず、土地の事情も分からないので、心配や辛い事が多いものだという意味。
昔の旅は今と違って不便で大変だったことから生まれた言葉。

マヨイガのあるタケル達は相当恵まれています。
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