俺と天狐の異世界四方山見聞録   作:黒い翠鳥

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File No.28-4 浪人 五郎左衛門の記憶(弐)

通された部屋の中で紅と共に体を休める。

 

かつて共に妖札を遊んだ長身の男が饅頭を持ってきてくれたのでありがたく頂くことにする。

 

一口食べて目を見開く。

甘い。

饅頭の餡といえば塩味で小豆の甘味を引き立てる塩餡が一般的であるが、もしやこの餡は砂糖を使っておるのか。

そのような餡を使った菓子が菓子屋で売られているのは知っているが、とても拙者のような浪人が手を出せるような値段ではない。

これだけでも隠れ里の凄さが垣間見えるというものだ。

 

そういえば前に訪れたときの料理も素晴らしく美味であった。

もしや食材からして人の世のものとは違うのやも知れぬ。

次の饅頭を取ろうとして、ふと紅が自分の分の饅頭に手を出していない事に気付く。

 

紅は刀ではあるが、人の姿であれば食事もする。

普段は食費を抑える為にハレの日くらいしか食事をしておらぬが、せっかく用意していただいたものに口をつけない理由もないと思うが。

そう思って紅を見やれば、何やら考え込んでいるようだ。

 

「紅よ」

 

「っ! は、はい貴方様。なんですか?」

 

「あ、いや。何やら考え込んでいるようだった故、なにかあったのかと思ってな」

 

軽く話しかけると、気づいた紅が早口に答える。

急に話かけられて驚いた……ようには見えぬな。

その表情はいつもの紅であるが、どこか焦っておるようにも見える。

それに天狐殿も紅が元気とは言えぬと言っておられたではないか。

 

「いえ、大したことは。そ、そう。ここの(あるじ)様、私が居た頃はまだ主じゃなくて。前からいずれはここの主にどうかなんて皆が話してた事もあったので、懐かしいなって」

 

確かに随分若くは見えた。

ではなく、どうにもはぐらかそうとしているようにしか聞こえぬのだが……

 

「違う!! そうじゃないでしょ紅ちゃんっ!」

 

突然(ふすま)が開け放たれ、そこには妙齢の女性が開け放った勢いそのままに立ちはだかっていた。

 

宵桜(よいざくら)ちゃん!?」

 

どうやら紅の知り合いらしい。

やり取りから察するにかなり親しい間柄と思われるが。

 

「初めましてぇ、五郎左衛門さん。私は銘を夜帳(やとばり)、号を宵桜(よいざくら)と言いますぅ。紅ちゃんと同じ、妖刀ですぅ」

 

「これはご丁寧に。ご存知のようですが拙者は──」

 

語尾を間延びさせたような話し方をする女性は、そう挨拶する。

なるほど、刀の(あやかし)が化けておるのか。

紅もそうだが、一見しただけでは人と区別がつかぬな。

 

宵桜を名乗った(女性)はそのままずかずかとこちらに近づくと、唖然としていた紅の後ろに回り込んでそのまま紅を羽交い絞めにした。

 

「え!? ちょっと、宵桜ちゃん!」

 

「お黙るぅ! さっき何を考えてたか五郎左衛門さんにきりきり説明しなさい!」

 

突然の事に呆然としてしまったが、何なのだこれは。

状況がさっぱり分からない。

 

「いや、宵桜殿。拙者も無理に聞き出す気は──」

 

「五郎左衛門さん、その御気持ちは素晴らしいのですがぁ、()()()()()()()()()()()()()ぅ。でないと取り返しがつかなくなるのぉ」

 

取り返しがつかぬとは、どういう事か。

 

宵桜(よいざくら)ちゃん、そんな大げさな」

 

「大げさなものですかぁ。親友の私が気づかないとでもぉ?」

 

「…………」

 

暫くの沈黙が流れる。

ここは拙者が聞くべきかと考えていたら、その前に紅が口を開いた。

 

「ちょっとだけ、ちょっとだけですよ。私に貴方様の刀である資格があるのかと……そう考えてしまったんです」

 

「もしやあの大猪を斬れなかった事を気にしておるのか? それならば他の刀であっても同じこと。むしろ紅であったからこそ拙者は五体満足で……」

 

「違うのです! いえ、きっかけはそれなのですが。貴方様、()()()()()()()()()()()()()()()()を覚えていますか?」

 

拙者の言を遮って、紅がそう主張する。

初めて出会った時か。

この隠れ里で天狐殿より……いや、そちらではないな。

あの日、紅が語ってくれた事の方か。

 

「拙者が前世にてここを訪れ、お互いに一目ぼれしたのであったな」

 

「はい、その日より私はずっとお慕いしておりました。しかし、それは私にとっての事。今の(せい)を生き、前の(せい)の記憶無き貴方様にとっては私はただの押しかけ(かたな)

 

確かに前世の記憶は無いが。

 

「それでも、貴方様と共に在れると思っていました。あの時のようには愛されなくとも、他の刀よりも優れた刀であればお傍にいられると。ですが私は刀としての役目を果たせなかった。このままでは愛想を尽かされて捨てられてしまうのではないか……そう考えてしまったんです」

 

「拙者がそんなことをする訳ないではないか」

 

「本当に……そうですか? 貴方様でない貴方様を好いて、故に貴方様を好いた私を、私を好いた貴方様ではない貴方様は、私の愛を受け入れてくださいますか?」

 

「記憶に無くとも拙者を好いてくれて、今も好いてくれているのだろう。その時と同じように愛せるとは、すまぬが断言できぬ。しかし、今の拙者は間違いなく紅を好いておるよ」

 

人前(他の妖の前)でこのような事を言うのは、少々気恥ずかしくもあるがな。

 

「あのぉー、ここで私が口を挟むのは無粋だとは思うのですけどぉ、多分話が噛み合ってない、いいえ、噛み合ったからこそずれちゃってるので言っちゃいますねぇ」

 

でないとまた同じことが起きちゃいますのでぇ、と続ける宵桜殿。

はて、拙者は何か思い違いをしておるのだろうか。

 

それと、そろそろ紅を離してやってはもらえないだろうか。

 

「紅ちゃんはねぇ、五郎左衛門さんの前世のぉ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ぉ。でもぉ、五郎左衛門さんはその生まれ変わりだからぁ、五郎左衛門さんが好きなのぉ」

 

うむ、それは分かる。

 

「しかし拙者の前世という事はつまり拙者なのであろう? その時と同じように愛せと言われても困るが、拙者を好いてくれている事には変わりない。それが何か問題にござるか?」

 

「問題に思う人間は多いのぉ。だってそれは自分じゃない誰かを通して自分を見てるって事ぉ。自分じゃない誰かを愛しているという言い方もできるんだからぁ」

 

「しかし紅の場合はそれも拙者で……もしや普通はこうは考えぬと」

 

「これが普通というつもりは無いしぃ、その考えが間違っている訳でもないのぉ。でもそうは思わない人も多いってだけぇ。だって記憶が繋がってないんだものぉ。それを自分と思えるかっていうとねぇ」

 

想像してみたが、その言い分も分からないではない。

例えば前世の拙者が悪人であったとして、その時の罪を償えと言われたとしても今の拙者がそうせねばならないとは思わぬだろう。

しかし前世が悪人だった故に警戒するという話であれば理解できる。

 

「とはいえ紅は今の拙者も好いてくれておるのだから、それとはまた違う話だと思うにござるが」

 

「もうこの辺は感性の話しだからねぇ。五郎左衛門さんと紅ちゃんの考え方だってぇ、似ているようで違てるぅ。だからぁ、紅ちゃんも不安になるのぉ。五郎左衛門さんはそうは思ってくれないんじゃないかってぇ。そして一度考えたらそう思い込んじゃう」

 

紅の顔を見る。

心当たりがあるのか、何とも言えぬ表情をしていた。

 

「だからねぇ、ちゃんと口にしないと駄目よぉ。貴方は昔からぁ、妖怪(ひと)一倍思い込みが激しいんだからぁ」

 

そう言ってようやく宵桜殿は紅を放した。

 

「五郎左衛門さん、紅ちゃんは好きぃ?」

 

「無論、好いてござる」

 

「それは紅ちゃんがすっごい刀だからぁ? それとも自分を好いてくれるからぁ?」

 

「……きっかけがそうであった事は否定せぬ。しかしそれだけではござらぬ。拙者は紅と共に旅をして、紅の様々な姿を見てきた。刀としての凛とした貌も、人の姿の綻ぶような笑顔も、苦労を掛けておるのに健気にも拙者を支えてくれた姿も。いつの間にやら紅が隣におるのが当たり前になっていたほどに」

 

あの時からまだ一年にも満たぬはずなのに、随分と長く共にあった気さえする。

 

「絆されたわけでは無い。恩義を感じたわけでも無い。されど拙者は紅の気持ちに応えたいと思った。紅がそうしてくれるからではない。拙者自身が紅に惚れているからだ。拙者はいつのまにか、紅に惚れておったのだ」

 

「貴方様……」

 

「これが前世にて紅に抱いた感情と同じものなのかは分からぬ。むしろ前世においての記憶などなく、同じように愛してやれぬ自分が紅の想いを受け取ってよいのかと思った事もあった。だが拙者は拙者として、紅、お主を好いている。だから他の者がどう考えていようと、生まれ変わっても思い続けてくれている事を嬉しく思う」

 

「はい! 紅は前世からずっと。いいえ、()()()()()()()()()()()()()お慕いしております」

 

迷いが晴れたように、ほほ笑む紅。

 

噛み合ったからこそ、ずれている。か。

確かにあの時に宵桜殿が口を出してくれなければ、拙者は真に紅の不安を理解できなかっただろう。

そのような心配をする必要は無いと、それで終わっていた。

紅が何を不安に思っているのか気づかぬままに話を進め、話が進むからこそ思い違えている事に気付かなかった。

 

「うん。とりあえずはこれで大丈夫っぽいねぇ。紅ちゃん、不安になったらちゃんと口にするんだよぉ」

 

「もぉ、わかりましたよ」

 

「お嫁さんにしてくださいっていうのもぉ、ちゃんと言わないと伝わらないぞぉ」

「なぁ、そ、それは」

「嫁ぎに行きますって出てったのにぃ、里帰りしても五郎左衛門さんの事を夫ですって言わないどころかあんな感じなんだものぉ。絶対告白もしてないと思ったぁ」

「だ、だって、あの時はようやく会えて気持ちが高ぶってたけど、冷静になったら断られるかもって怖くなっちゃって……」

「うんうん。わかってるわかってるぅ。紅ちゃん、無意識にマヨイガの意思に接続してたでしょぉ。思考駄々洩れだったよぉ」

「え゛っ!?」

 

何やら紅たちがひそひそと話しているが、どうしたのであろうか。

気にはなるが拙者が首を突っ込むのは無粋であろうな。

 

暫く二人で話したあと、宵桜殿が立ち上がる。

 

「それじゃぁ、用事も済んだしぃ、私はもう戻るねぇ」

 

「うん、久しぶりに宵桜ちゃんと話せて嬉しかった」

 

「私もだよぉ。でもぉ、もしかしたらまた話をする機会もあるかもよぉ」

 

宵桜殿はそう言って拙者の方を見て、ほほ笑んだ。

いったいこれはどういう意味であろうか。

 

「最後にぃ、五郎左衛門さん」

 

何かな、宵桜殿。

 

「紅ちゃんはぁ、刀の付喪神。物から変じた妖怪。それを忘れないでぇ。これから先ぃ、きっと紅ちゃんは今まで以上に人の姿でいることが多くなると思うのぉ。遠く無いうちにぃ、人のように振舞う必要がでてくるからぁ。でもねぇ、その時に()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

……それはどういう。

 

「勘違いしないで欲しいんだけどぉ、人のごとく想ったりぃ、人のように扱うのはいいんだよぉ。むしろそう思ってくれるなら私も親友として嬉しいからねぇ。でもねぇ、妖怪を人間と認識する(人として扱う)のだけは駄目。紅ちゃんはぁ……いいえ、私たちは人と見間違うほどに人に似せられるけどぉ、決して人ではないのぉ」

 

「つまり本質を見誤るな……と」

 

「そう。同じように振舞えるからって同じように考えられるわけじゃない。人と妖怪は違う。それを忘れられたらぁ、いずれ必ず()()()()()()()()。そうしたらもう、戻れない。それが私達(妖怪)という存在だから」

 

「戻れぬ、とは?」

 

「その先が破滅しかないと分かっていてもぉ、止まれなくなっちゃうのぉ。親しい人を全員巻き込んで全てを壊しちゃうかぁ、全部を拒絶して独りで終わらせるかぁ。間違っているのは分かっているのにぃ、そうするしかできなくなっちゃう。紅ちゃんにぃ、そんな事をさせないでねぇ」

 

「肝に銘じよう」

 

拙者がそう答えると、宵桜殿は頷いて部屋を出ていこうとする。

しかし、体が廊下へ出たところでこちらを振り返り──

 

「あ、でもぉ、紅ちゃんが人として扱って欲しいって言ったならぁ、そうしてあげてぇ。()()()()()()()()()()()()ぁ、寂しいけど私は応援するから」

 

──そう言って(ふすま)を閉めた。

 

「もう、宵桜ちゃんったら。おせっかいなんですから」

 

「紅、最後のあれはどういう……」

 

破滅するから人として扱うなと言いながら、紅が望めばそうしろという。

紅の望みであれば叶えてやりたいとは思うが、その果てがそれでは本末転倒ではないか。

 

「あれはもし私が()()()()()()()()()()()()()()()人間になりたいなら、自分たちに気兼ねするなと言ったのです」

 

「つまり妖怪は人間になれるという事か? 人に化けるのではなく人そのものに成れると」

 

「普通は無理です。でも私や宵桜ちゃんの力を使えば不可能ではない。もちろん簡単ではありませんけどね。それに、強い力を持っている神様ならそれを叶えることもできるでしょう」

 

なんと、紅はそのようなことまでできるのか。

 

「それに、宵桜ちゃんがあそこまで言ったのは私が付喪神で、貴方様が妖怪の本質に踏み込める逢魔人(オウマガビト)だからです。普通の人間であれば間違えるほどに踏み込めない。そうなる前に妖怪の方がいなくなってしまいます」

 

「話に聞く、伴侶に(あやかし)であると知られて去ってしまうというやつか?」

 

「ええ、もちろん個体差(こじんさ)はありますから正体を知られても平然としている妖怪もいますが。話を戻しまして、私が人間になれば考え方もそれに則したものになりますから、最悪でも人間同士のいざこざに収まります」

 

それはそれで勘弁願いたいが、止まれるかもしれぬだけまだましという事か。

 

「紅は、人になりたいのか?」

 

「いえ、まったく。わざわざ人に成らなくても私ほどになれば人に化けるだけで人と同じことができますから。人間の子供だって産めちゃいます。だから貴方様の愛刀がなくなる事はありませんよ」

 

いや、得物がなくなる事を気にしたわけでは無いのだが。

刀の(あやかし)としてはそちらの方が重要なのだろうか。

これも人と妖の考え方の違いという事なのやもしれぬ。

拙者もまだまだ学ぶことが多そうだ。

 

それからしばらく拙者と紅は話を続けるのだった。

 

 

 

その後、狐憑殿に呼ばれて大猪の秘密を知った。

なるほど、あの場所を縄張りとする事で強くなっておったのか。

では縄張りの外に追い出せばとは思ったが、狐憑殿が言うにはそれも難しいらしい。

 

ならばと教えられた次の方法は、紅の名を広める事。

おそらくだがより強い妖怪であると天下に広める事で、大猪の縄張りを塗りつぶしてしまうという方法なのであろう。

今までは自ら語るのは粋ではないと思っておったが、今後同じような事があり得るのであればやっておくべきか。

拙者とて紅の事を他の侍に自慢したいと思った事は、一度や二度ではないしな。

 

しかしこれも時間がかかりすぎる。

よって次の策、拙者の血を紅に与えるという方法を取る。

妖刀と言えば血を啜って強くなるというのは定番だ。

自らの血を与えて妖刀の力を引き出す。

なぜ思いつかなかったかという程に、妖刀使いがでてくる話にはよくあるではないか。

 

短刀で傷を作り、紅に飲ませる。

少々こそばゆかったが、問題なく行うことが出来た。

傷も狐憑殿の不思議な力で最初から無かったかのように消し去られた。

このようなことが出来るとは、流石は隠れ里の主と言ったところか。

 

そして減った分の血をこれまた不思議な丸薬で補う。

血が足りぬ状態では戦えぬからな。

紅の方も体に熱を持っておるようで、その瞳にはこれならという確信が見える。

 

しかし、狐憑殿が言うにはこの状態は精々半日しか持たぬという。

忠告感謝いたす。

必ずやあの大猪を討ち取りまする。

 

その後少しだけ言葉を交わし、拙者達は隠れ里を後にした。

 

 

 

かつて共に妖札を遊んだ男の最後の一人に連れられて大猪の元に戻る。

残念ながら隠れ里から直接大猪の元へ行くことは出来ぬそうで、男が持って来た錠前のような道具で拙者が一度界渡(はてわたり)にてこじ開けた境界を再び開くという方法で別の異界を経由して戻る事となった。

 

その異界より出てみれば、なるほど太陽の位置を見るに多く見積もってもあれから半刻(一時間)はたっておらぬか。

大猪もこの場を離れてはいなかったようで、すぐさまお互いの存在に気が付いた。

 

行くぞ、紅!

 

『はい! 貴方様』

 

大猪はその巨体に似合わぬほどの速度でこちらへ向かってくる。

しかしそのような分かり切った突撃では拙者達は捉えられぬ。

 

突進を紙一重で躱す。

回避が遅れたわけでは無い。

確実に紅を当てる為に限界まで避けなかったのだ。

 

そして大猪の速度をも利用して斬りつける。

毛皮を断ち、肉を切る感触。

 

通った!

 

本来であればこの程度の傷、大猪の大きさから考えれば致命傷には程遠い。

しかし拙者の手にあるのは天下一の妖刀ぞ。

その斬撃は肉を裂き、骨を断ち、その体を突き抜ける。

 

妖刀の秘儀、『山徹(やまどおし)

 

例え山と見間違うほどの巨体であっても、紅の(やいば)は必ず断ち切る。

振りぬいて、後方で巨体が倒れる音がした。

 

確実にその体を断ったという実感はあったが、油断は出来ぬ。

斬った程度では死なぬ(あやかし)なんぞいくつも見てきた。

いかなる反撃にも対応できるように、倒れた大猪の体を見据える。

 

『貴方様、既に()()()()()()()()

 

紅のお墨付きをもらい、残心を解く。

命を絶つ妖刀であるからか、紅にはそれが分かるのだ。

それを見届けた案内役の男も、一礼して去っていく。

 

猪貪怒(いのどんど)、強敵であったな」

 

結果として紅との関係を見直すきっかけになったのは良かったが。

 

「いえ、貴方様。これは猪貪怒(いのどんど)という妖怪ではありません」

 

拙者の手を離れ、人に化けた紅がそう告げる。

 

「縁も斬った事で分かりました。おそらくこの大猪の妖怪は猪貪怒(いのどんど)なる妖怪と似ていたため、()()()()()()()のでしょう」

 

「名を纏った……というのはどういう事なのだ?」

 

「妖怪は人間の認識によってその在り方を変えます。それを利用して自身をより強大な妖怪と誤認させることで、その皮を被ることが出来る。要するにただの偽物という事です」

 

偽物だったか。

いやしかし、強かった事に変わりはないが。

 

「偽物とはいえ名を纏っていた以上、その力は本物に比べられる程度までにはなりますから。代わりにその性質も纏ってしまうのですが。この大猪でしたら、おそらく『人を襲う』性質といったところですか。例え相手が自分を討ち滅ぼせる強者であっても、人であるなら()()()()()()()()

 

明らかに用意をしてきた拙者らを前に、無策で襲い掛かって来たのはそういう事であったか。

 

おそらく猪貪怒(いのどんど)とは退くことを知らぬ勇猛な妖怪だったのであろう。

タケミカヅチ様の加護を得た力士(ちからひと)に出会うまでは、負け知らずだったのであろうな。

 

「ですが、そんな事はどうでもいいですね。その正体がなんであろうと、この大猪の妖怪が田畑を荒らし人々を襲った張本妖(ちょうほんにん)には違いありません。貴方様はその退治を依頼され、見事に成し遂げた。必要なのはそれだけです」

 

「そうか……そうだな」

 

さて依頼も完遂したことであるし、早く戻って村の者を安心させてやらねばな。

その席で愛刀(紅一文字)がいかに素晴らしい刀であるかを語ろうではないか。

 

我が愛刀に斬れぬものなしと。

その武勇伝、いずれ天下に轟かせて見せよう。

 

差し当たっては討ち取った証拠としてどこを持って行けばよいだろうか。

流石に首は大きすぎて持って行けぬからな。

 

 

 

そう考えて見上げた空は、雲一つない快晴であった。




紅一文字の思い込み(前世でお互い一目ぼれ)に関しては、五郎左衛門も悪く思ってなさそうなので訂正しないでおいてあげる宵桜。

あなたが好きなキャラクターはだれ? サブ編

  • 蛇神の巫女 ルア
  • 面霊気 コンの式神s
  • 日乃國の侍 五郎左衛門
  • 妖刀 紅一文字
  • 太陽神 プロミネディス
  • 小菊を名乗った二尾の妖狐
  • 貴族令嬢 エルラ
  • 恩返しに訪れた梟
  • 生贄の水牛人の少女
  • 妖刀 宵桜
  • その他 ちょっとだけ出た方々
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