俺と天狐の異世界四方山見聞録   作:黒い翠鳥

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ながらくお待たせいたしました。

ようやく話が纏まりました。
キャラたちが自由に動き回るから毎回プロットがぶっ壊れて困る。
でも無理矢理プロットにはめ込もうとするとそのキャラがそのキャラじゃなくなっちゃうからなぁ。


File No.29-1 『思い内にあれば色外に現る』

「主様、タケル様、先触れがあります」

 

ある日、ヤシロさんが人魚の先触れを告げに来た。

まだまだ修行中の身という事で有用な情報である事は少ないが、偶にルミナ神やフェルドナ神が来るのを予言してたりする。

 

「昼頃にお客さんが来られるようです」

 

「時間的に考えたらフェルドナ神かフォレアちゃんかな」

 

ルミナ神が来るにはちょっと早い。

その時間帯に来た事もあるから絶対とは言わないが。

 

「いえ、それがどうも知らない方のようでして」

 

知らない人?

 

「マヨイガの客か?」

 

「いや、そんな予定はないよ」

 

コンの言葉を、いつの間にか現れた百重が否定する。

百重が呼んだ訳でもないと。

 

「どこかの妖怪が迷い込んでくるとかかな」

 

小菊さん(二尾の狐)みたいな例もあるし。

 

「儂にもよく見えぬな。これは案外大物かもしれんのぅ」

 

コンも未来視を使ってみたようだが、残念ながら上手く行かなかったようだ。

 

前にも言ったが、コンの未来視は強い力を持つ相手が関わっていると非常に見えづらくなる。

しかもこれは間接的にであっても影響が出てしまうのだ。

極端な話、相手が何の変哲もない人間であっても『たまたまルミナ神の姿を目撃した結果としてここに来るのがほんの少し遅れた』というだけでも精度はガクッと下がる。

 

これは力が大きいほど可能性の揺らぎも大きく、その揺らぎに巻き込まれる形で未来が朧気になってしまうから……らしい。

正直俺もどういう事かいまいち理解しきれてはいない。

ある程度時間が経過していればまた見えるようになるそうだが。

 

ちなみにコンの未来視の対象は百重御殿の境界の外側である。

というのも、俺やミコトが対象だと術者であるコンはともかくどうしても百重御殿の揺らぎが影響を与えてしまう。

この世との縁が一度途切れるほどの分かりやすい状態なら別だが、そうでなければまず見えないとの事。

 

余談だが百重御殿の内部は揺らぎどころか可能性がまぜくり返された状態になっているらしく、ルミナ神でも未来視が難しい状態らしい。

そう考えるとまだ任意に使う事が出来ないとはいえ、その中で人魚の先触れが出来るヤシロさんって凄いのではなかろうか。

 

話を戻すが、コンに見えなかったという事はやってくるのはそれだけの力がある者かその影響を何らかの形で受けた者という事になる。

逆に言えば誰も来ずにヤシロさんの先触れが外れる可能性は非常に低いという事だ。

 

「ヤシロさん、そのお客さんの容姿は分かりますか?」

 

「あ、はい。ぼんやりとしていてはっきりとは分からないのですが、白くて立派なおひげがあるみたいです」

 

白い立派な髭という事は、年配の男性か?

此方の世界だと女性にも髭が生えている種族がいるので確定とは言い難いが。

それでいてマヨイガまで来れるという事は仙人の類かもしれない。

 

「じゃぁ、とりあえず誰が来てもいいように準備だけはしておきましょうかね」

 

 

 

そしてその日の昼。

 

どんな相手が来ても対応できるように俺たちは客間で待機していた。

現状ここにいるのは(いつもの如くそこら中にいるマヨイガ妖怪を除けば)俺とコンとミコトだ。

ヤシロさんは別室待機。

出迎え役のいだてんさんを始めとした面霊気たちは各々の準備を終えて配置についている。

 

暫くして百重から件の相手が境界を越えてマヨイガに入って来たとの報告があった。

 

「ほう、これはこれは。ルミナ神程とは言わぬが相当に位の高い神じゃな」

 

その相手を式神越しに認識したコンが言う。

 

神かぁ。

なら百重御殿の主であり宇迦之御魂神(うかのみたまのかみ)の仕神でもある異束九十九狐(異界神キツネツキ)が対応するのが筋だろうな。

位の低い神であれば最初に挨拶だけして命婦専女(コン)に丸投げという選択肢もあったのだが。

 

流石に緊張してきたな。

まぁ『案ずるより産むが易し』ともいうし、頑張るとしよう。

 

いざとなればコンや百重もサポートしてくれる。

使うつもりは無いし軽々しく使っていいものでもないが、いざとなれば宇迦之御魂神(うかのみたまのかみ)の威光という伝家の宝刀もある。

例え異世界の神であろうとも、ここ(迷い家・百重御殿)宇迦之御魂神(うかのみたまのかみ)の領域でもある以上それを無視する事はできないからだ。

 

「ほれ、これがその姿じゃな」

 

コンが幻影でお客さんの姿を映す。

 

「これは……」

 

「凄いおひげなのだ」

 

第一印象としては、天狗。

鼻が高く、白髪白髭ではあるが老いているという感じではない。

体つきはがっしりとしていてかなりの大柄だ。

見る限りでは翼のようなものは無い。

 

現世(元の世界)であれば神であるという事も考慮して山神かと当たりを付けるのだが。

ただ、こっちは異世界だからなぁ。

 

「どうやら日乃國(ヒノクニ)の方の神のようじゃの。百重(マヨイガの意思)が言うにはそちら側の境界から来たそうじゃ」

 

日乃國(ヒノクニ)の、ねぇ。

宇迦之御魂神(うかのみたまのかみ)と同じ名の神の事を考えると、日本の神に通じる神という可能性も無きにしも非ずか。

 

いや、これはまだ単なる憶測でしかないんだが。

たまたま異世界に来た人が信仰していた神の名が残っただけで、宇迦之御魂神(うかのみたまのかみ)以外の神は日本の神とは縁もゆかりもないという可能性もある訳だし。

 

五郎左殿にもう少し詳しく聞いておけばよかったかな。

 

「ぬっ、これは」

 

「コンさん、どうしたのだ?」

 

何かあったか?

 

「相手が迎えにやった式神に名乗ったんじゃが、その神名には覚えがある」

 

「俺も知っている神か?」

 

「うむ。とはいえお主は会った事は無い筈じゃがのう」

 

そりゃまぁ、俺がお会いした事のある神なんて異世界に来てからようやく両手の指の数を超えた程度だし。

見たことのある、まで含めるともっと増えるけど。

 

「神名は()()()()()。そう名乗ったようじゃ」

 

なっ、それはそれは。

何ともまぁ、大物が来られたものだ。

 

 

 

──猿田毘古神(さるたびこのかみ)

 

日本神話の天孫降臨において瓊瓊杵尊(ににぎのみこと)高千穂峰(たかちほのみね)へと向かう際、天の八衢(やちまた)(道が幾つにも分かれている辻)にて高天原(たかまがはら)から葦原中国(あしはらのなかつくに)までの道を照らし、道案内をしたとされている。

 

鼻の長い巨漢の神であり、それが天狗のイメージを想起させることから祭礼で猿田彦に扮する際は、天狗の面を被るのが通例となっている。

また、上記の伝説から道の神や旅人の神とされており、道祖神(どうそじん)とも同一視される場合がある。

 

更に天照大御神が天の岩戸に引きこもった際、岩戸の前でエロティックに踊った事で有名な天宇受賣命(アメノウズメ)を妻に持つ。

二柱が出会ったのは天孫降臨の折だそうだが、中々に凄いやり取りをしているんだよな。

ここで語るには少々(はばか)られる話なので割愛させてもらうが。

 

ここまで語ったのが現世における猿田毘古神(さるたびこのかみ)である。

そして俺の目の前にいるのが同じ読みの名を持つ神だ。

 

あれから式神に案内されたサルタビコ神は、俺たちの待つ客間へとやって来た。

コンは現在、制限形態(通常モード)で俺の隣に座っている。

解放形態(本気モード)になっていない辺り、そのままでもちゃんと実力を察してくれる相手だと判断したのだろう。

 

ミコトは獣人形態(じゅうじんモード)でコンとは反対側の隣にいるが、基本的に求められたとき以外で発言する事はない。

というのも、流石にまだちょっと妖怪としての(くらい)が足りないので(神格)の高い神同士の会話(はなし)に口を挟めないのだ。

異界神(キツネツキ)という神格だけは高い俺の妻という事でそこらの妖怪とは一線を画するだけの格は持っているのだが、逆に言えばそれ以上の畏怖や信仰がないのである。

 

それでもこの場にいるのは、(キツネツキ)が他の神と会う折に傍に控えさせるほどの者という箔をつける事で、ミコトの()を高めようとしているからだ。

ミコトにもそれ相応の振る舞いが求められるが、そちらの方は霊威が何とか上級妖怪の基準を満たしたくらいであるという所以外は十分に出来ているとコンが太鼓判を押していたので問題ない。

 

それに、ミコトが横にいてくれると俺もやる気が出るのだ。

 

「この度は屋敷に招き入れていただき、感謝しますぞ。ワシの名はサルタビコ。見ての通りしがない神じゃて」

 

そんなわけない。

これほどの神気を持つ神がしがないものか。

 

まぁ、実際は謙遜、あるいはあえて己を卑下することでこちらの出方を窺っているのだろう。

初手から高圧的に接してくるような神でなくてよかった。

 

「ご謙遜を。挨拶が遅れましたが私はキツネツキ。この異界の主である現人神ですよ」

 

俺に続いて次はコンが名乗り、立場上の理由で俺がミコトの紹介をする。

一通り自己紹介を済ませた後、俺は口を開いた。

 

「それで、わざわざこのような異界にまでおいでなさるとは一体どのような用向きで?」

 

「いやはや。実は日乃國(うち)の侍が永幡山(ながはたやま)に隠れ里があるという話をしているのを聞きましてな。好奇心には敵いませんで足を運んでみれば、何とも見事な隠れ里があったものじゃからついついふらっと」

 

おそらく五郎左殿の事だろう。

紅一文字の話を積極的に広めるように勧めはしたが、もう日乃國(ヒノクニ)の神が動いたか。

これは話が順調に広まっていると喜ぶべきか、サルタビコ神のフットワークの軽さに驚くべきか。

 

永幡山(ながはたやま)ってのはたぶん境界が繋がった先にある山の事かな。

 

言葉の内容に不審な点はない。

事前に百重に聞いた境界付近での様子を踏まえても、嘘はいっていないだろう。

ただ、隠している事が無い訳ではなさそうだ。

 

異世界(こちら)に来てから神と接する機会が多くなったせいか、それとも百重御殿の主となった事で妖怪側に近づいたせいか、最近は神威からある程度ではあるが感情を読み取れるようになってきた。

妖怪ほどではないが、神も結構感情が神威に出る。

 

それをコンに言ったら、「珍しい技能を会得したものじゃのぅ」と言われた。

なんか普通は出来ないらしい。

観察眼に長けた者であればできなくはないそうだが、その数はそれほど多くはないとのこと。

 

読心術と比べて汎用性で大きく後れを取るが、偽装や妨害が難しい点で優れるのだそうな。

まぁ、これは能力とかではなく表情から感情を察するようなコミュニケーション技能の一種らしいけどね。

 

あくまで俺くらいの精度で読み取れるのが難しいだけで、神威から雰囲気を察するくらいであれば大抵の神は無意識にやっている。

もっとも神威を見るより表情を見た方がよっぽど分かりやすいし、表情を取り繕える程に感情を制御できているのであればそももそ神威にはほとんど出ないので普通は読み取れないらしいが。

 

そんな俺の感覚を信用すれば、サルタビコ神は好奇心よりも警戒の色が強い。

当然と言えば当然か。

経緯自体は本当だと思うが、目的はプロミネディス神の時と同じっぽいな。

 

「それはそれは。どのような話を聞かれたかは存じませんが、実際に見てみていかがでしたかな」

 

「ワシも役目柄日乃國をまたにかける事が多いんじゃが、これほどの隠れ里はなかなかお目にかかれませんわい。なるほどあの侍の話しに偽りなしと」

 

役目柄、という事は旅に関係する神なのだろうか。

猿田毘古神(さるたびこのかみ)も道や旅人の神だし。

 

いや、同じ読みの名を持っているからといって同じだと断定するのは良くないか。

各地を移動する役目など、考えればいくらでもある。

 

「そういえば屋敷に入った折に二柱とも違う強い神気を感じたのだが、他にも誰か神がおるなら紹介してはもらえんかな」

 

当然、それは聞いてくるよね。

とはいえ、別に隠す必要があるものではない訳だが。

 

「それはおそらく命婦専女(みょうぶとうめ)の、そして私の別称である異束九十九狐(ことつかのつくも)の主神である宇迦之御魂神(うかのみたまのかみ)()()()でしょう。この隠れ里でもお祀りしていますからね」

 

宇迦之御魂(うかのみたま)とな」

 

サルタビコ神がその神名に反応した。

その様子から、どうやら五郎左殿の話しには出てきていなかったようである。

 

「ええ。そういえば日乃國(其方の国)の侍から聞きましたが、日乃國(ヒノクニ)にも同じ読みの名の神がいるとか」

 

「確かにおりますな。ワシも顔を知っている程度で言葉を交わした事は無いが」

 

この様子だと、日乃國(ヒノクニ)のウカノミタマ神はあまり有名な神ではないのかもしれない。

五郎左殿の口ぶりもそんな感じがしていたし。

 

「この地にも分社はありますが長らく宇迦之御魂(うかのみたま)様はおいでになられておりませぬし、今は儂が社を預かっている状態ですからな。紹介するのは難しいですぞ」

 

「なら仕方ない。なに、少し気になっただけじゃわい」

 

コンの言葉にあっさりと引き下がるサルタビコ神。

他にも神気を残してそうな神はいるが、牽制も兼ねて言っておくべきか。

 

「あとはミルラト神話の神々が何柱か来られる事がありますから、そちらの方かもしれませんね」

 

具体的にはルミナ神の。

 

「ほう、あの。という事はここはミルラトの神々とも交流があるのですな」

 

「ええ、その隣を借りている縁で少し」

 

あの、という事は日乃國(ヒノクニ)の神々もミルラト神族の存在は知られているのか。

ルミナ神曰く国交はほとんどないそうだが、貿易はしているらしいから話を耳にする機会もあるのだろう。

それにルミナ神も日乃國(ヒノクニ)の神々の事を知っていたし、これほど神格の高い神なら知っていても不思議ではない。

 

「ということは随分と遠いところから縁が繋がったのですな。館や内装が日乃國(こちら)のものに近かったので、ワシはてっきりそれほど遠く無いところにある異界かと思っておりましたが」

 

普通に考えればその通りなんだけど。

 

「そうですね。こちらとしてもまさか日乃國(ヒノクニ)と繋がる事になるとは思いもしませんでしたよ」

 

いやまさかね。

恐るべしは紅一文字の執念なり。

 

この際だから違う世界から来たことも言っておこうか。

コンからは言うかどうかは俺に任せるとの事だったし、読心や過去視も考慮すれば黙っていてもそのうち知られるかもしれないし。

 

実は俺も最近になってではあるが心を読まれないようにする隠心術(いんしんじゅつ)と過去視をごまかす隠歴術(いんれきじゅつ)が神にも通用するレベルになってきてはいる。

 

一応現世にいたころから心得くらいはあったのだが、ルミナ神やプロミネディス神はそれをしれっとぶち抜いてきていたのだ。

それが異界神(キツネツキ)となった事で出力が上がり、今では何のとか防げるようになった。

 

元々コンの他心通を実力で大きく劣る出会った当時のフェルドナ神が防げていたように、読む側と防ぐ側では防ぐ側に分がある。

 

もっとも、ルミナ神相手だと防ぐ理由がないというか、防がない方が結果的に俺たちに返ってくるので使わないようにしているが。

 

ついでに心を読まれないようにしていると言っても、表面的な感情くらいは読み取られているだろう。

相当な実力差があれば話は変わるが、深層は隠せても表層を隠す事は心を殺しでもしないかぎり難しい。

 

フェルドナ神の時も他心通は防がれたが表層の感情を読心する(読み取る)事はしていたのだ。

コンにとっては当たり前すぎてわざわざ言わなかっただけで。

 

ちなみにコンは俺と深く結び()いている関係上、俺の隠心術(いんしんじゅつ)をすり抜けて心を読むことが出来る。

隠歴術(いんれきじゅつ)についても同様である。

 

そんな訳で防げるようになったのだからサルタビコ神相手に防がない理由も無い。

ルミナ神とは違い、まだよく知らない相手に無防備な状態を晒すのは勘弁願いたいのだ。

それはサルタビコ神にとっても同じだろう。

初めて会った時点でノーガードで心を晒し、コンの信用を勝ち取ったプロミネディス神が型破りなのだ。

 

そんな訳で俺への読心や過去視は防げていると思うが、違う世界から来た事くらいなら他のマヨイガ妖怪から知る事もあるだろうし。

 

「元々この異界は別の世界にあったのですが、とある災害に巻き込まれてこちらへ来てしまっていましてね。幸いにして帰る目星はついているのですが、それがいつになるかは何とも」

 

「なんと……それは災難でしたな」

 

「まぁ、苦労する事もありますが百年はかからなさそうですし、時折こうしてお客さんも来られるので退屈せずに済んでいますよ」

 

そのうち現世(元の世界)へ帰る事と、その時期は百年よりは短い事も伝えておく。

近いうちに居なくなるのであれば、積極的に排除する必要は無いと考えてくれれば儲けものだ。

日乃國(ヒノクニ)の神にとっては百年が近いうちに入るのかは分からないが。

神威を見るに安堵してるっぽいので、思惑通りになったのだろうか。

 

 

 

それから少しの間、コンも交えて会話を続ける。

しかし、これからどうするかね。

 

とりあえず伝えたい事は伝え終わった。

サルタビコ神の方も目的は達した事だろう。

さてこの後はどうするか。

 

うん、とりあえず昼食に誘うとしようか。

時刻は丁度昼時を少し過ぎたあたりだ。

状況的に不自然ではない。

 

「そういえばサルタビコ神は昼食はお済みですかな? まだのようでしたら一緒にいかがでしょう。大したものではありませんが、異界(マヨイガ)の食事を用意しますよ」

 

「おお、実はまだでしてな。よろしければご相伴(しょうばん)にあずからせていただきたい」

 

なんか思ったより嬉しそうに言われた。

神威にも期待の色が見て取れる。

 

「ええ、是非に」

 

とはいえ、いたって普通の献立なんだけどね。

 

 

 

そんな訳でサルタビコ神と食卓を囲む。

タイミング的に俺たちも昼食はまだだし。

 

本日のお昼は天ぷらの盛り合わせ。

それとみそ汁にほうれん草の胡麻和えと(たけのこ)の炊き込みご飯だ。

 

人魚の先触れのおかげで昼時に時間が取れない可能性がある事が分かっていたので早めに用意しておいた。

作り置きだが妖怪蠅帳に入れておいたので出来立てのままだ。

 

内容的にはいたって普通な和食だと思う。

五郎左殿の話しでは日乃國(ヒノクニ)の料理も和食に近いらしいので、サルタビコ神にとっても目新しさはないだろう。

 

一応、マヨイガの食材は俺が(ぬし)に就任した影響で更においしくなっているらしい。

というのも、元々マヨイガの食材はその特性により現世の上物と同等の品質を持っていた。

日々品種改良を繰り返し、育成技術も進歩している現世の食材と、()()()()()()()()()()()()()()()()同等だったのだ。

 

つまりマヨイガの食材は本来現世のものより美味しいのである。

そこに現代人である俺が(ぬし)になった事で、現代の水準がアップデートされた。

その結果、百重御殿で採れる作物やマヨイガ妖怪の作る食品の味は更に向上した…………らしい。

 

いやね、俺にはある程度以上になると違いがよく分からないのよ。

どれも美味しいのはわかるんだけど。

あと味が良い事と好みに合うかは別問題ってのもある。

 

とはいえ百重が言うのだからそうなのだろう。

 

それとマヨイガ妖怪のおかげで調理技術が大幅に底上げ出来ているのはありがたい。

意識せずとも自然と最適な調理を実践できるのだ。

流石に頼りっきりはどうかと思うので、少しでもモノにしようと勉強してはいるが。

 

なお、調理方法のレパートリーに関しては自分で増やさないといけないらしい。

 

肝心のサルタビコ神はどうかと見てみれば、なんとも美味しそうに食べている。

これは期待に応えられたと思ってよさそうかな。

 

途中で天ぷらの食べ方について聞かれた。

もしかして、日乃國(ヒノクニ)には天ぷらは無いのか?

ちなみに今日は天つゆである。

 

 

 

食事を終えた後、サルタビコ神はあっさりと「あまり長居をしてもご迷惑でしょうからな」と言って帰っていった。

お土産にスイートポテトを菓子折りに詰めて渡してある。

気に入ってもらえると嬉しいのだが。

 

「お疲れ様なのだ」

 

そう言ってミコトが残りのスイートポテトを持ってくる。

ミコトもほとんどしゃべる事は無かったとはいえ、ずっと異界神の妻に相応しい振る舞いを続けるのは大変だろうに。

それでもこうして気遣ってくれる、俺にはもったいないような良妻だ。

 

「ミコトも、お疲れ様」

 

ミコトを引き寄せ、頭を撫でる。

「うみゅ~」と気持ちよさそうに鳴くミコト。

これにてひと段落といきたいところだが、そういう訳にはいかない。

 

「コン、どうだった? サルタビコ神は」

 

『少なくとも猿田毘古神(さるたびこのかみ)とは別神(べつじん)じゃな。分霊(わけみたま)異世界(異なる地)で信仰されたことで変質した、という訳でもなさそうじゃ』

 

別神(べつじん)か。

 

『とはいえ全くの無関係という訳ではない。繋がる縁自体は確かにあった。あったんじゃが、これを追っていくのは多分無理じゃぞ』

 

強い神威(ちから)を持つ神であればあるほど、その縁を辿っていくのは困難を極める。

何故ならその影響を与える範囲が大きすぎて膨大な量の縁が複雑に絡み合ってしまうからだ。

どんな縁かという事は分かってもどう繋がっているかが分からない。

 

縁を辿れない俺にはいまいち想像しにくいのだが、コン曰く百本の紐をぐちゃぐちゃに絡み合わせ、その中の一本の紐の端から端までを目視だけで追っていく感覚に近いとの事。

しかも紐は途中で枝分かれしまくっているのである。

そのせいで力ある存在が絡むと過去視や未来視が非常に難しくなるのだ。

特に太い縁であれば比較的容易に追えはするらしいが。

 

ちなみに以前話したミコトのような器物に魂が宿ったタイプの妖怪の過去は非常に見づらいというのも、繋がる(過去)がない為に「端はどこだ!」ってなるからしい。

 

いまいちその感覚を理解しきれていないが、コンが無理だというならそれはもう無理だ。

時間をかければ不可能ではないかもしれないそうだが、そうまでする意義は薄い。

 

「やっぱり過去に神話だけが持ち込まれてこっちで新たに神が顕現したってのが正解なのかねぇ。それなら一応、矛盾は無いし」

 

『じゃな』

 

まぁ、名前は同じでも別神であるという事が分かっただけ良しだ。

 

『それでサルタビコ神の目的じゃが、他心通は防がれたが読み取れた感情と振る舞いから察するにこちら(マヨイガ)の偵察じゃったようじゃな』

 

やっぱりか。

コンも同意見ならほぼ確定だろう。

神威から感情を読み取れるとは言っても、細かな機微を読む力で言えばコンの読心の方が上だ。

 

『じゃが何と言うか、途中から完全に食に興味が移っておったぞ』

 

あぁ、やっぱりか。

そんな気はしていた。

これは百重御殿の面目躍如といったところかな。

 

『土産を貰った時なんぞ、飛び上がらんばかりに喜んでおったしのう。少なくとも悪印象は持たれなかったじゃろう』

 

確かに分かりやすいほどに喜びの感情が霊威にでてるなぁとは思ったが。

それなら妖怪菓子箱に頼んでもう少し奮発しても良かっただろうか。

 

『まだお互いに手探りな状態じゃからな。その内また誰ぞ来るやもしれん。じゃが、おぬしは百重御殿の主として、そして異束九十九狐(ことつかのつくも)としてどんと構えておればよい。なんせ儂が憑いておるのじゃからな』

 

「ああ、頼りにしている」

 

本当に、コンには世話になりっぱなしだ。

今までも、これからもきっと。

 

「なぁ、コン」

 

『なんじゃ?』

 

「お疲れ様」

 

『お主もな』

 

そのままミコトを撫でているのと反対の手で霊狐形態のコンを撫でる。

するとコンも気持ちよさそうに「こ~ん」と鳴いたのだった。




『思い内にあれば色外に現る』

心の中で思っている事は、自然と表情や仕草に出るという事。
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