「変身なのだぁ!」
元気な掛け声と共にミコトの体が光に包まれる。
するとみるみるうちにその体形が変化していき、俺より少しだけ背が低いくらいになったところで光が収まった。
「にひひ。それじゃあ、始めるのだ」
そこにいたのは立派な大人の姿になったミコト。
身長は20cm以上伸びているし、なにより頭身比率が完全に成人女性のそれである。
印象としては、細身ではあるが痩せているという感じではなく、非常にバランスの取れた肉付きをしているというべきか。
胸も普段より大きくなっているような気がするが、これは全体的にでかくなったからか?
何を始めるのかと言えば、ちょっとケーキを作ろうと思ってな。
なんかこう、久しぶりに苺のショートケーキが食べたくなったんだよ。
材料はあるし、じゃあ作るかと相成ったわけだ。
百重御殿は古風な作りをしているが、そのサイズに関しては実は現代基準だったりする。
これは単に日本人の平均身長が伸びているにも関わらず、それをイメージする際にはあまりその身長差を考慮しない事が影響している。
俺としては使いやすいサイズなので助かっているのだが、子供サイズのミコトには少々使いづらい。
……今思ったんだが、ミコトが小さいのって昔の日本人がそんなに大きくなかったせいだったりしないだろうか?
確かミコトが描かれた当時の日本人女性の平均身長は145cmもなかったと聞いたことがある。
妖怪としては成熟している訳だし……と思ったが座敷童のように成熟しても姿は子供のままというのもいるか。
ミコトも人体比率は子供のそれだし、
となるとやっぱりその辺は関係ないのかな。
おっと、話が関係ない方にいってしまった。
で、ミコトなんだが、最初は料理をする時は踏み台を使っていた。
踏み台も妖怪なので自分で動かさずとも移動してくれるが、それでも毎回上り下りするのは少し面倒ではある。
そこで変化の術を覚えて大人サイズに化ける事で、家事をしやすいようにしたのだ。
あくまで術で化けているだけなので形態名はつけていないし、ミコトの成長した姿という訳でもないそうだが。
せっかくなので今夜はこれでしてもらえないか頼んでみよう。
ちなみにコンはミコトに気を使てか、どこかへ行ってしまった。
さて、それじゃぁ作るとしようか。
まずは
卵白は普通の鶏の卵のものだ…………成分はだが。
実は卵白のみの卵を妖怪鶏に産んでもらったのだ。
このあと使うが、卵黄のみの卵も用意している。
それと、百重御殿には泡だて器が無い。
そのうち妖怪泡だて器とかが産まれてくるかもしれないが、流石にそれを待ってはいられない。
なのでミコトに妖怪
菜箸もかき混ぜるという使い方が出来るので変化させるのに相性がいいらしい。
ちなみに変化させても妖怪
ある程度かき混ぜたら、グラニュー糖を複数回に分けて入れる。
グラニュー糖は砂糖の一種で、ショ糖の純度が高くさらさらとした結晶状のものを言う。
詳しくは省くが、砂糖にも製法によっていくつか種類があるのでその一つだと思っておいてもらえればいい。
日本では砂糖と言えば上白糖を指す事が多いが、海外においては砂糖と言えば基本的にグラニュー糖の事だ。
あっさりとした癖のない甘味が特徴で、ケーキなどの焼き菓子やコーヒーを始めとした飲み物に適している。
これは妖怪砂糖壺が出してくれた。
しばらく泡立てていると、
うん、このくらいで十分かな。
マヨイガ妖怪達がサポートしてくれるおかげで、自然と適した状態を見極められるので助かっている。
手に取っただけで使い方を理解させる能力の応用だそうな。
ついでに卵黄の方もふわふわになるようにほぐしておく。
湯煎しながらやるといいらしいのだが、今回は妖怪鉢が自身の温度を調節する事で代用としている。
食べ物の保温とか得意なんだそうな。
それからメレンゲに卵黄と事前にふるっておいた薄力粉を加え、妖怪
薄力粉は妖怪麦俵に出してもらった小麦を妖怪石臼に挽いてもらって用意した。
日本に小麦が伝わったのは弥生時代と言われているが、それを製粉した小麦粉を使った料理を庶民が気軽に口にできるようになるのは江戸時代以降を待たねばならない。
これは日本の製粉技術の発達が遅れていたため、小麦粉に限らず粉を使用した料理は贅沢品とされていたからだ。
小麦は粥などにすれば粉にせずとも食べられなくもないのだが、穀粒が硬く長時間加熱しなければならない事や、表皮のふすまを取り除くのに苦労する事などからいったん製粉してから加工されるようになった。
それでも製粉自体が非常に手間がかかるうえ、回転式の挽き臼が庶民に普及する江戸時代より前の時代は
要するにどう調理しようとも食べるのが大変な穀物だったので、弥生時代以降は粉食が衰退していたのだ。
…………もしかして、
もちろん日本に似ているだけで日本じゃないのだから、単純に発明されていないだけという可能性の方が高いだろうけど。
ちなみに粉を使った料理は贅沢品だった、という事は逆に存在はしていたという事でもある。
室町時代には僧侶が間食として食していたという記録もあり、茶の湯の普及とともに再び一般にも広まったと言われている。
「ハレ」の日という特別な日には、現代のものとは異なるが小麦粉を使った料理のひとつである
「あなた、味見してみるのだ!」
そろそろいいかなと思っていると、ミコトが生クリームを挟んだパンを持って来た。
あーんをされたので、そのまま齧り付く。
うん、いい感じに仕上がっているな。
ミコトには今、生クリームを作ってもらっている。
実は今回ショートケーキを作るにあたって一番調達に頭をひねったのが生クリームである。
生クリームがいつ頃から作られ始めたのかは俺も良く知らないのだが、少なくともマヨイガには生クリームを作れる妖怪はいなかった。
しかし、俺が食べたかったのは苺と生クリームのショートケーキだ。
多少の妥協は仕方ないにしても、クリーム無しというのはなんだかなーとね。
流石にコンも生クリームの作り方は知らないようだった。
コンに現世の縁を辿ってもらえば調べられなくもないかもしれないが、流石にそうまでしてもらうのは気が引ける。
俺自身は知らないしおそらく俺の前世も知らないだろうから、作り方を知っている人までいくつも縁を経由する必要がある。
しかも知っていそうな人の心当たりもない為、完全に霧の中を進むがごとしなのだ。
なのでどうするかなと考えていると、答えは意外なところからもたらされた。
なんと、いつも妖術の勉強に使っている妖怪本に生クリームの作り方が載っていたのである。
いや、みょうが料理の時といい君はいったいどういう妖怪なんだ。
事典か教科書の妖怪かなにかなんだろうか。
ともあれ作り方が分かったのは僥倖だ。
それによると、生クリームは牛乳を冷たい場所で放置しておけばできるらしい。
ただし一般的に市販されている牛乳では駄目だとのこと。
なんでも現代における一般的な牛乳は製造過程で脂肪球の均一化が行われるかららしい。
こうする事で乳脂肪分が分離せず、味わいや風味が安定するのだそうだ。
他にも超高温殺菌をするうえで必要だったりと、より多くより低価格でより高品質に牛乳を流通させるための技術なんだとか。
なかにはノンホモジナイズ牛乳と呼ばれる乳脂肪が均一化されていない牛乳もあり、こちらでなら作れるが鮮度と手間の関係で一般的な牛乳より高価な代物だとのこと。
それに生クリームの量自体はそれほど取れないそうだ。
なので妖怪の力を頼る事にする。
牛乳に限らず色々な動物の乳を出せる妖怪
それを妖怪
氷室ってのは冬場の雪や氷を貯蔵する事で食品を冷温保存、あるいは夏場に氷そのものを利用する為に保管しておくための施設。
いわば昔の冷蔵庫だ。
しばらくして時間の調整が終わったという事で取り出してみると、上部に脂肪の層が分厚くできていた。
あとはこれを丁寧に掬えばよい。
ちなみに下の牛乳は別の料理に使う予定である。
ミコトにはこれを掬ってもらった後、上白糖を混ぜて甘味を整えてもらった。
それからフワっとした生クリームになるよう泡立ててもらっていたのだ。
「ありがとう、美味しかったぞ」
俺がそう言うと、ミコトは「にしし」と笑って調理に戻っていった。
どうやら次は苺をカッティングするようだ。
俺も次の工程に進むとしよう。
生地に溶かしたバターを加える。
バターはマヨイガ妖怪に作れるのがいた。
というのも六世紀ごろの日本では
これらは現代で言う練乳やバター、あるいはチーズのようなものだったのではないかと言われている。
また
基本的に贅沢品であり、薬や
その為か、マヨイガにもこれらを作り出せる妖怪が産まれたのだ。
ただ、残念ながらこれらの乳製品は平安時代末期には次第に食べられなくなっていった。
その理由については長くなるので置いておくとして、そのせいで現代ではそれらが正確にはどんなものだったか分からなくなってしまったのだ。
今でも文献を基に様々な研究者が再現しようと試みてはいるが、そもそも出来上がったものが本当に当時と同じものなのか確認のしようがないのが現状らしい。
ならこれらを作れるマヨイガ妖怪に出してもらえば本物の
妖怪は人間の伝承や認識の影響をもろに受ける。
正確なレシピが失われ、このようなものだったのではないかという研究がされた事で、逆にマヨイガ妖怪の作れるものがそっちに寄っちゃったのである。
あるいは本物とは違う、幻の食品としての
いずれにせよ、もうマヨイガ妖怪には
逆に先ほども言ったように練乳やバター、あるいはチーズのようなものだったのではないかと考えられている事で、これらの乳製品は作れるようになったのである。
あと、牛乳を少し足してっと。
しっかりと混ぜ合わせて、うん、こんなものだろう。
残念ながらケーキ型は無いので平底の土鍋を使う。
世の中には土鍋でパンやプリンを作る人もいるので、やってやれなくはないのだ。
生地を流し込んで、トントンと余分な空気を抜く。
ちなみにこの土鍋も妖怪である。
よし、それじゃぁ焼きに行くか。
ミコトに一言告げて妖怪窯の所へ行く。
最近多機能になったとはいえ、元々陶芸窯だけあって流石に野外にあるからだ。
増設されたパン焼き用の出し入れ口に、ケーキ生地の入った土鍋を入れる。
だいたい170℃前後で25分~30分くらいがメジャーか。
お菓子作りは分量が命である。
これはお菓子を作る時は普通の料理以上に化学反応を利用しているからだ。
例えば砂糖なんかは卵白を泡立てて作るメレンゲの気泡をきめ細かく保つのを助ける働きがある。
なので砂糖を減らし過ぎるとうまく生地が膨らまなかったり、ぼそぼそとした食感になってしまう。
逆に多すぎると今度は焼き色が濃くなりすぎたり、生地の一部が十分に焼けていないという状態になったりする。
ある程度なら増減させても大丈夫だが、もちろん味や食感は変わってくる。
そしてこれは当然の事ながら焼き時間にも関わってくるのだ。
使う材料や手順、あるいは混ぜる時の温度を変えるだけでも焼き上がりの状態は変化する。
砂糖の種類を変えただけでもだ。
今回ショートケーキを作るにあたっては、コンに頼んで俺の記憶から呼び起こしてもらったレシピを参考にしている。
ただし使っている食材はマヨイガのものなのだ。
だからどのくらいの温度で何分間焼けば適切なのかが分からないのだが、この辺はもう妖怪窯に任せることにした。
なんせ『焼き上げる』能力を持つ妖怪だ。
ものの数十秒でいい感じに焼き上げてくれるのだ。
しばし待っていると、出し入れ口の扉が開いて奇麗に焼き色のついたスポンジケーキが姿を現した。
流石は妖怪窯だと褒めつつ、熱くなっている妖怪鍋を鍋つかみ(非妖怪)で掴んで持って行く。
出来立てのいい匂いがするぜ。
台所に戻ると、ミコトの方の終わっていたようだ。
ふわふわに泡立てられた生クリームと、綺麗にカッティングされた苺が見える。
「スポンジケーキ、焼きあがったぞ」
「美味しそうな匂いなのだ」
トタトタとやって来てスンスンと匂いを嗅ぐミコト。
それじゃ、仕上げに入ろうか。
妖怪土鍋に倍くらいの大きさになってもらって、できた隙間から中のスポンジケーキを取り出す。
大皿に乗せたそれをミコトが妖怪包丁で一閃すれば、綺麗に半分にスライスされる。
その断面に砂糖水のシロップを塗り、その上にたっぷりと生クリームを塗る。
そこにカッティングした苺をこれでもかと乗せる。
苺とは言ったが、現代で一般的に食べられている苺ではない。
日本人と苺の付き合いは古く、石器時代には既に食べられていたと言われている。
ただし現在の苺とは違い野苺と呼ばれる種類のもので、比較的甘みも少なく小粒であった。
現在の苺が日本に持ち込まれたのは江戸時代末期とされており、オランダの船で持ち込まれたためオランダ苺と呼ばれていたそうだ。
ただしこの時点ではまだ観賞用であり、本格的に苺の栽培が始まったのは明治に入ってからであった。
なのでマヨイガには普通の苺はないのである。
俺が主となった影響で
代わりに野苺を、具体的には
ジャムにしても美味しいので、いくらか作って常備している。
花言葉の一つに『幸福な家庭』ってのがあるのも好印象。
バラ科らしく枝には棘が生えており、名前の通り紅葉のような葉っぱをしているそうだが正直あんまり似てない気がする。
花言葉にはちょっと不穏なものも混じっているが、個人的には『いつも愉快』というのが好みだ。
いずれも現代の苺に比べてかなり小粒であり、味も品種改良を繰り返しまくったものと比べるにはどうしても分が悪いが、今回用意したのはマヨイガ食材なので粒も比較的大きく味も引けを取らない美味しさがある。
苺を乗せたらその上からクリームを塗りたくり、上側のスポンジを乗せる。
更にその上を薄くクリームでコーティングし、側面も同じように塗っていく。
次に
ミコトが匙で掬った生クリームをぽんぽんぽんと乗せて、妖怪
器用だな、ミコト。
それから上にも苺を乗せて、ついでにイチゴジャムも少しかけておく。
「よし、こんなものだろう」
「できたのだぁ!」
特製ショートケーキの完成である。
時間的にも丁度おやつ時だし、早速切ってみんなで食うか。
俺と、ミコトと、コンと、ヤシロさんと、百重で5ピース。
五等分するのは地味に面倒だし、大きめに作ったからサイズも大きくなりすぎるので八等分する。
残り3ピースはフェルドナ神達が来た時にでも出せばいい。
妖怪
百重に関しては食事ができるかどうかは成っている妖怪によって変わる。
「人間に化けられる」妖怪が百重に成っていれば、人間と同じように食事もできるし味も感じられる。
しかも百重であれば個々の妖怪で食事をとる場合と違い、集合意識を介してマヨイガ妖怪全体で味を共有できるのだそうだ。
もっとも、それで味を感じるか、認識するか、そもそも味が分からないかは受け手となる各々のマヨイガ妖怪によるそうだが。
味を方向性で認識する「人の姿に化けられる」妖怪が成っていても食事自体はできるが、味が直接感情に結び付かないからリアクションが薄かったりする。
なので皆で食事をする際は「人間に化けられる」妖刀の宵桜あたりが成っている事が多い。
「あなた、一緒に入刀するのだ」
ミコトがそう言って妖怪包丁をケーキナイフに変化させる。
しかもリボン付きで装花もされている豪華なの。
いや、それウエディングケーキ用のやつなんだが。
「夫婦はこれで一緒にケーキを切り分けるって聞いたのだ」
そう嬉しそうに話すミコト。
いったい誰から聞いたのやら。
まぁ、本命コン。対抗馬百重。大穴でミルラト神話圏に同様の風習があった場合のルミナ神か。
「ミコト、夫婦で一緒に切り分けるのは結婚式の時のケーキで、普通のケーキはそんな事しないんだぞ」
「え!? そう……なのだ」
そう言うと見るからに残念そうな表情になるミコト。
そんなに一緒にやりたかったのか。
そんなミコトを見ていると、何か罪悪感が湧いてくる。
俺たちの結婚式の披露宴は和風だったからウエディングケーキとか無かったし。
「でもまぁ、せっかくだし一緒にやるか」
「!! はい、あなた」
途端に顔をほころばせるミコト。
ぴったりとくっついたミコトの手に被せるようにしてケーキナイフを握る。
夫婦二人での共同作業に、俺は
その時は大きなウエディングケーキに一緒に入刀しような、ミコト。
「おやつの時間ですよ」
「なのだぁ!」
ケーキを持って座敷にやってくる。
ミコトは台所を出たあたりでいつもの姿に戻っていた。
持って行く先が居間じゃなくて座敷なのは丁度ルミナ神が遊びに来たという連絡があったからだ。
襖を開けると、そこには聞いていた通りコンとルミナ神の姿がある。
「ルミナ神、こんにちは」
「ルミナさん、こんにちはなのだ」
「お二人とも、ごきげんようですわ」
挨拶をして、持って来たケーキを置いていく。
ちなみにヤシロさんの分は先に持って行っている。
ヤシロさんはお客さんが来ていると、ごはんやおやつをいつも一人で食べる。
お客さんと自分の主であるコン、あるいはその主である俺が一緒に食事をする時に同席すると、恐れ多くて食事が喉を通らなくなるんだとか。
遊びに来ている時は別に気にする必要はないと思うが、ヤシロさん曰くそういう問題でも無いらしい。
今日は百重と一緒に食べるとの事。
「あら、今日はお二人の手作りですの?」
「あ、分かりますか」
いくらマヨイガ妖怪の補助があるとはいえ、苺の乗せ方とかは多少不格好にもなる。
普通のショートケーキ自体もそんなに作った事は無いのに、野苺のケーキとか挑戦すればそれも致し方ないだろう。
そこから推測するくらいならできるか。
もちろん過去視で知った可能性はあるが。
「ふふ。お二人の愛情がたっぷり込められているのが分かりますわよ」
そういうの、分かるんですか。
切っ掛けはただ食べたくなったからだが、ミコトやコン達にも美味しく食べて欲しいと思って作ったケーキだ。
料理に込められた想いは、神にとっても妖怪にとってもとびっきりの調味料になるらしい。
そのため
うん、我ながら良い出来だ。
柔らかなスポンジに絡む甘いクリーム。
酸味が少なく甘味の強い
それぞれ違う甘さがかわるがわる舌の上で踊る。
マヨイガの食材で作ったからか、昔食べた苺のショートケーキよりも美味しいんじゃないだろうか。
「あなた、はいあーん」
ミコトが自分のケーキを大きめにフォークに取って差し出してくる。
そう言えばウエディングケーキに入刀をした後はお互いにケーキを食べさせ合うファーストバイトというものをするんだったか。
「一生食べ物に困らせない」「一生美味しい食事を作ります」
そんな意味が込められているんだとか。
ミコトが知っていてやっているのか、はたまた偶然なのかは分からないが。
見ればルミナ神があらあらと言った感じでこちらを眺めていた。
そしてコンは『まさか拒んだりはせんじゃろうな』と目で訴えかけてきている。
その口元がかすかに吊り上がっているあたり、お前の入れ知恵かと疑いたくなるのだが。
ちょっと恥ずかしいが、観念して差し出されたケーキを頬張る。
自分で食べた時よりも少しだけ、甘いような気がする。
唇についたクリームを、不意に顔を近づけたミコトがペロッと舐めてそのまま軽いキスをした。
ルミナ神の目もあるのに大胆だな、ミコトは。
さて、これがファーストバイトであるのなら俺も返さないとな。
俺も同じようにミコトにあーんをする。
そんなある日のおやつ時。
後日の余談。
「まじか」
もしやとは思ったが、まさか本当にできるとは。
目の前の妖怪菓子箱からも「案外できるもんだね」という感情が伝わってくる。
俺が何に驚愕しているのかというと、妖怪菓子箱が出してくれたお菓子にである。
ふんわりとしたスポンジケーキに真っ白な生クリーム。
そしてその上には存在感を示す真っ赤な苺。
まごうことなき苺のショートケーキ。
そう、妖怪菓子箱が出せちゃったのである。
妖怪菓子箱は海外の菓子でも日本で独自の発展を遂げたものであれば出すことが出来る。
そう言えば日本人が一般的にイメージする苺のショートケーキは海外では
ふとそんな事が頭をよぎったものだから、試しに出せるかやってみてくれないかと頼んでみたところ出来ちゃったのである。
元々日本のショートケーキは洋菓子を日本人の好みに合うようにアレンジする事で産まれ、それが今に至るまでに何度も改良を加えられてきたことで現代では定番となった菓子だ。
海外にもショートケーキという名前の菓子はあるが、日本のそれとは別ものらしい。
元々出せていたのか俺が主になった影響で出せるようになったのかは分からないが、食べられる菓子の種類が増えるのは良い事だ。
これは他にも色々試してみる必要があるのではないだろう。
妖怪菓子箱からも「次は何を出してみる?」とやる気が見て取れる。
さて、まずは何から試してみようか。
ミコトの変化の演出がいつもと違うのはちょっとした格好つけ。
普通にポンと化けられるけど、タケルにはいい恰好をしたいのです。
『
姉さん女房を娶ると幸せになれるという意味。
【箆増し】は年上の女房、【果報持ち】は幸せの事。
ミコトはこれでも姉さん女房なのだ。