俺と天狐の異世界四方山見聞録   作:黒い翠鳥

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時系列的には昨日更新の前話より少し前、File No.30の頃。


File No.31-2 導く神 ルミナの記憶

「ねえ、コンさん。最近新しく異界(マヨイガ)に来た神がいまして?」

 

いつものように異界を訪れた(わたくし)は、今までは無かった神気の残り香がある事に気が付いた。

 

神気の濃さ的に貴高神(わたくし)ほどとはいいませんが、かなり格の高い神のようですわね。

それほど長く滞在したという訳ではなさそうですが。

 

問題なのはその神気に(わたくし)は覚えがないということ。

ミルラト神族であればこれほどの神気を持つ神を(わたくし)が知らないという事はあり得ない。

であれば、必然的に相手はミルラト神族以外の神という事になる。

 

地理的にそのような神がこの異界に来ることは考えづらいと思っていましたが。

 

「ああ、日乃國(ヒノクニ)の方から一柱ほどな。以前、日乃國(ヒノクニ)の人間に妖怪(神器)を贈った縁でのぅ」

 

座卓の向こう側に座ったコンさんがそう答える。

タケルさんはミコトさんと何やら料理中らしく、ここにいるのは二柱*1だけです。

 

日乃國(ヒノクニ)ですの? それは随分と遠くから来たのですわね」

 

日乃國(ヒノクニ)と言えば海を越えたはるか東にある国。

そんなところにまで手を伸ばす事ができるなんて、(わたくし)この異界(マヨイガ)を過小評価していたようですわね。

 

そうなると日乃國(ヒノクニ)以外からも神が訪れることがあり得ると考えた方がいい。

距離的に言えばナハトラ神族あたりが候補かしら。

これは念の為計画を急いだ方が良さそうですわ。

 

「どうも警戒されてしまったようでのう。まぁ、マヨイガが危険な異界ではない事は理解してもらえたようじゃし、わざわざまた来る事は無かろうて」

 

「それはフラグというものではありませんの?」

 

前にタケルさんが教えてくださいましてよ。

やっぱりミルラト神族以外の神が来ることを前提に考えておいた方が良さそうですわね。

 

「かもしれんのう。しかし、いきなりどうしたのじゃ?」

 

「いえ、馴染みのない神気を感じたので少し気になっただけですわ。それよりも今日はコンさんに少し相談がありますの。タケルさんの神殿について」

 

これはもう少し先の話だと思っていましたが。

どうやらサツマイモの潜在能力を見誤っていた、あるいはフェルドナの行動力を、か。

標の神の権能(導き)とはいえ、導かれた者の努力次第で辿り着く先は変わる。

まさか飢えによる死者を半減させるほどというのは想定外でしたわ。

 

「最近、各地で異界神(キツネツキ)を信仰する子共(人間)達が今まで以上に増えてきていますの。そうなるとそれに付け込む悪人(悪い子)が出てくるのが世の常。特に異界神(キツネツキ)はミルラト神族ではありませんでしょう?」

 

「なるほど、神罰による抑止の効果が薄いと。嘗められたものじゃな」

 

コンさんから怒気が漂う。

(わたくし)も同意見ですわ。

 

異界にいる神だから自分の事を見ている筈が無い。

だから悪事を働いても神罰などないだろう、と。

(わたくし)の友神という事を知らないんですの?

 

「その様子じゃと、既に……か」

 

「ええ。キツネツキの神官を名乗った輩が、金銭を奉じればキツネツキ神の加護を賜れるなどとほざいて詐欺行為を働いていましたわ。もっとも、そいつは詐欺がばれて逃げ出そうとした時に()()()()()()()()()()()()()()()()()()食い殺されてしまいましたが」

 

「ほう、導くのは何も人間だけとは限らぬようじゃな」

 

「さて、何のことでしょう」

 

その人間の詐欺を見破ったのは()()()()近くに来ていた(わたくし)の神殿所属で異界神(キツネツキ)への信仰も深い神官なのですけどね。

 

「そんな事があったのは事実ですが、だからと言って見せしめに神罰を下しておけば良いというものでもありません。それは理解できますでしょう。なにせ、タケルさんは人間でしてよ」

 

信仰され神格を得て神に名を連ねても、神となったとしても人間である事は変わらない。

何故なら、彼はまだ人間として生きているのだから。

 

神となっても、人としての感性や価値観は早々変わるものではありません。

ましてやタケルさんは今まで異世界の平和な国で生きてきている。

他者を思いやれる余力がある分、逆に割り切る事が難しくなる。

でなければ、こちらの世界に来てすぐにフェルドナの子供(ラクル村の人間)を助けたりなどしなかったはずですわ。

 

特に見せしめとして有効なほどの神罰ともなるとどうしても苛烈になってしまう。

そのせいで異界神(キツネツキ)は情け容赦のない神だと印象付けられては困りますから。

同じ人間から──正確には非常に近しくとも生物的に同種という訳ではないようですが、まぁ、同じ人間でいいでしょう──恐怖の感情を向けられるのは気分が良いものではないでしょう。

 

まぁ、深層心理まで覗いた事は無いので案外気にしない可能性もありますが。

 

「神が裁く訳にいかないのであれば、その罪は人が裁かねばなりません。そこで異界神(キツネツキ)の神殿の建設を提案しに来ましたわ」

 

「罪を裁くのに神殿を、という事はそちらでは司法を神殿関係者が担っておるのか」

 

異世界では違うんですの?

興味深いですが、今は話を進めましょう。

 

「ええ。とはいえ国によって違いはあれど、罪を裁く法自体はあるので普通の犯罪であればわざわざ新しい神殿を作る必要はありませんわ。問題はその中に神の意思を前提としたものがある点です」

 

神に関わる罪とその罰。

神の意思による制裁。

その為に蓄積された記録。

それを成すだけの権威。

その為の神殿の必要性。

それらの必要であろう概要をコンさんに伝えていく。

 

「なるほど、話は分かった。三つ、いや四つほど質問よいかの?」

 

「ええ、構いませんわ」

 

「なら、まず一つ目。神殿を作る為の資材や人材はどうする? こちらもある程度は用意できるが、あまり大きいものを建られるだけの余裕はないぞ」

 

その気になれば結構立派なものを作れそうではありますが、コンさんの立場ではそこまで外にリソースを使いたくはないでしょう。

 

ご安心なさいな。

資金も資材も人材も全部(わたくし)にお任せですわ。

貴高神(きこうしん)の肩書は伊達ではありませんわよ。

 

代わりと言っては何ですが、場所は此方に都合が良いところを指定させていただきますけど。

 

「ふむ。では二つ目、神殿が完成した後の運営や維持は? 儂らは百年もこちらにはおらぬよ」

 

しばらくは(わたくし)の神官の中で異界神(キツネツキ)への信仰もある人間を遣わして運営させます。

そのうち異界神(キツネツキ)への信仰を主とする人間が増えてくれば徐々に入れ替えていく形で戻しますわ。

 

聖騎士隊は、(わたくし)の神殿の敷地内を考えていますので兼任で問題ないでしょう。

雑務を行う人員を増やす必要はありますが、こちらはそれほど難しくはありません。

 

それらの人間たちの給与は(わたくし)の神殿から出るので気にしなくて構いませんわ。

名目上の扱いとしては摂社(せっしゃ)になりますから。

 

皆さんが元の世界に戻られた後は……何が起きるかは分かっていますでしょ。

 

「このような感じになりますわね。ただ、流石に大神官を派遣する訳にはいかないので神子(みこ)を立てる必要がありますが」

 

コンさん達の世界ではどうかは知りませんが、こちらにおいて神子とは各々の神が指名する神託を受ける人間の事を言います。

 

神によって選ばれる為、神官の資格を持っていなくともその座に就くことができ、大神官に匹敵する権威を持つことが出来る。

ただし権力は持たないので神の意思を遂行する場合を除き、他者への命令権は持っていない。

 

もちろん神子以外でも神託を下される場合はあり、神託を受けたからといって神子になれるとは限らないわけですが。

神官は神子にはなれませんが、神官でなければ神子になれるほど神に気に入られているのであれば、いずれ普通に大神官になれるでしょう。

 

また神子の人数は各々の神によって違い、特に何人までといった制限はない。

それに、神子のいない神も結構いますわね

フェルドナとか今の神子を選んだのはつい最近で、それまでは神子がいなかったらしいですし。

 

要は神子とはその神のお気に入りの人間(我が子)だと思ってもらえれば間違っていませんわ。

とはいえ今回は神殿の役割を考えると大神官も神子もいないというのはあまりよろしくない。

 

「神子にはエルラ=ドグラムア=ガ=カロミラナルをと考えていますが、どうでしょう。他に誰か候補がいましたらそちらでも構いませんが」

 

「エルラ、というとあの元悪魔憑きか。そう言えばあれもお主の推薦じゃったのう」

 

あの時は異界の意思の希望に合う人間(我が子)を紹介しただけだったのですが、思ったより異界神(キツネツキ)に入れ込んでいますし、立場や地位を考えても丁度いいと思いますわ。

 

「儂は構わぬよ。ただ、タケルに推薦する前に本人の承諾を得ておれ。本人が望んでいるならタケルも断らんじゃろう」

 

ええ、そうさせていただきますわ。

 

「三つ目、神殿を作ると言ってもそうそうすぐにできる物ではあるまい。その間はどうするのじゃ?」

 

しばらくは(わたくし)が仲介する形でその都度神託を下しましょう。

とりあえず神殿として最低限機能する程度であればひと月もあれば準備できる。

 

幸いエルラは我が子(月神の信仰者)としても優秀ですし、(わたくし)が仲介する相手としては申し分ない。

準備が出来次第、異界神(キツネツキ)の神子となる為の修行という名目で神子見習いとなってもらいましょう。

 

(わたくし)が仲介している間はあくまで修行の一環という事にすれば、余計な派閥争いに巻き込まれる危険も減るでしょう。

あくまでエルラは(わたくし)の神子ではなく異界神(キツネツキ)の神子であると明言しておかなければいけませんわね。

 

ある程度必要な施設が完成し、異界神(キツネツキ)が降臨する段になって正式にタケルさんから神子に指名してもらえばいい。

異界神(キツネツキ)を迎え入れる儀式を執り行えるくらいの完成度なら、そう時間はかからずに済むでしょうし。*2

 

一度迎え入れておけば常駐していなくとも権威的には問題ない。

むしろ常駐されると逆に面倒な事になりそうなので、偶に遊びにくる別荘くらいの感覚で使ってもらえた方がいいですわ。

 

未完成の状態で呼ぶ事にはなりますが、これは仕方がない。

採算度外視の人海戦術で工事を急ぐつもりではありますが、流石に全て出来上がるまで待ってからという訳にはまいりませんもの。

タケルさんの希望はおそらくこちらの一般的な神殿とは異なるでしょうから、相応に時間がかかる事は考慮しなければならない。

 

それなりに神殿(わたくし)の財を使う事になりますが、富神(とみがみ)から「経済を回したいのでもう少しお金を吐き出してください」と言われているので丁度いいでしょう。

 

「────と、このような感じを予定していますわ」

 

「なるほど。ではその間はそれほど罰当たりな輩は出ないと見ておるのじゃな」

 

「ええ、精々数件程度。個別に対応してもそれほど手間はかからないでしょう」

 

模倣犯でも出始めればもっと増えるかもしれませんが、現状を考えればそれより異界神(キツネツキ)の降臨の方が早い。

そうなればいちいちこちらで対応する必要はなくなる。

異界神(キツネツキ)の意思が共有されることで、聖騎士隊が適切な対応を取ることが出来るようになりますから。

 

それに、そのような事態にならないようにちゃんと(わたくし)が標の神として導きますわ。

いざとなれば(わたくし)()()()()()()()をもってしてでも……ね。

 

「わかった。では最後、あくまで念のためのの確認じゃが……まさかお主、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「それこそまさかですわ。状況だけ見ればそう思われるのは仕方ありませんが」

 

タケルさんが無所属ならそれもありだったのですが。

流石にコンさんや宇迦之御魂(うかのみたま)を敵に回す恐れも考慮すればリスクが大きすぎますわ。

 

「これはあくまで『異界神(キツネツキ)の立ち位置を明確にし、ミルラト神族(わたくしたち)と縁あれど違う()であると表明する』為のもの。ミルラト神族(わたくしたち)にとってそれが利になるから、これだけの便宜を図っているにすぎませんわ」

 

これで(わたくし)に対する好感度がもっと上がってくれたらなどと思っていますが、それくらいはよいでしょう。

それに、この表明は我が子達よりもむしろ他の神族を信仰する人間達へ向けてのもの。

 

異界神(キツネツキ)はあくまで異界の神であって異郷の神ではない。

唯一無二の個神(こじん)として扱う事で他の神族に異界神(キツネツキ)が取り込まれるのを防ぎ、かつ他の神が縁を繋ぐ余地を残す。

 

上手く行けば他の神族を取り込むことも可能でしょうが、それは高望みが過ぎますか。

相手だって同じことをすれば同じ立場を得ることが出来る。

とはいえそれは此方の望むところでもありますが。

 

もっとも、タケルさん達がいる間はあまり関係がないですわね。

コンさんの様子を見るに、他の神族に取り込まれる事もないでしょうし。

これは百年後、タケルさん達が帰った後を考えてのものです。

 

ですが理由は何であれタケルさんに他の神族が関わる可能性がある以上、異界神(タケルさん)ミルラト神族(わたくし)の蜜月を示すものとしての価値も出てくる。

実際にそうでなくても、そう見えるというのは重要ですわ。

 

「ならよい。現状、儂に異論はない。詳細はタケルを交えて詰めると良いじゃろう」

 

「理解してもらえたようで助かりますわ。とはいえ今日の所はやめておきます。先にエルラに神子の打診をした方がスムーズにいきそうですし」

 

「そうか。ではこの話はまた後日じゃな」

 

「ええ。そういえばタケルさんは今日は何を作ってますの?」

 

この時間ですと夕食にはまだ早いのでお菓子でしょうが、お菓子はいつも神器(妖怪)で出していると聞いていますし。

 

「ああ、何でも苺のケーキが食べたくなったとかでのう。念話(精神感応)を送っておいたからお主の分もある筈じゃ」

 

「それは楽しみですわね」

 

苺、美味しいですわよね。

此方の苺と異界の苺が同じものかは分かりませんが、これは期待できそうですわ。

 

それからしばらくコンさんと雑談していると────

 

「おやつの時間ですよ」

 

「なのだぁ!」

 

タケルさんとミコトさんが美味しそうなお菓子を持って部屋に入ってきました。

今日はもう仕事(神の役目)の話しも終わりましたし、美味しいものを食べて羽を伸ばしますわよ。

タケルさんとミコトさんに挨拶を返しながら、(わたくし)はそう考えるのでした。

*1
マヨイガ妖怪は人か動物の姿を取っていない限り神器(道具)であるというスタンス。マヨイガ妖怪的にも異論はない。

*2
神基準。




神子(みこ)とは神に仕え、神楽を舞ったり神託を伝えたりする人の事。神子(かみこ)とも。
巫女とほぼ同じ意味だが、(おかんなぎ)(巫女の男性版)を含む。

ルミナ神の言う神子は現世の神子とは少し異なりますが、完全に一致する語句が無かったのでほぼ同じ意味である『神子』という単語に翻訳されています。


追記:尾張のらねこ様、誤字報告ありがとうございます。
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