「ねえ、コンさん。最近新しく
いつものように異界を訪れた
神気の濃さ的に
それほど長く滞在したという訳ではなさそうですが。
問題なのはその神気に
ミルラト神族であればこれほどの神気を持つ神を
であれば、必然的に相手はミルラト神族以外の神という事になる。
地理的にそのような神がこの異界に来ることは考えづらいと思っていましたが。
「ああ、
座卓の向こう側に座ったコンさんがそう答える。
タケルさんはミコトさんと何やら料理中らしく、ここにいるのは二柱*1だけです。
「
そんなところにまで手を伸ばす事ができるなんて、
そうなると
距離的に言えばナハトラ神族あたりが候補かしら。
これは念の為計画を急いだ方が良さそうですわ。
「どうも警戒されてしまったようでのう。まぁ、マヨイガが危険な異界ではない事は理解してもらえたようじゃし、わざわざまた来る事は無かろうて」
「それはフラグというものではありませんの?」
前にタケルさんが教えてくださいましてよ。
やっぱりミルラト神族以外の神が来ることを前提に考えておいた方が良さそうですわね。
「かもしれんのう。しかし、いきなりどうしたのじゃ?」
「いえ、馴染みのない神気を感じたので少し気になっただけですわ。それよりも今日はコンさんに少し相談がありますの。タケルさんの神殿について」
これはもう少し先の話だと思っていましたが。
どうやらサツマイモの潜在能力を見誤っていた、あるいはフェルドナの行動力を、か。
標の神の
まさか飢えによる死者を半減させるほどというのは想定外でしたわ。
「最近、各地で
「なるほど、神罰による抑止の効果が薄いと。嘗められたものじゃな」
コンさんから怒気が漂う。
異界にいる神だから自分の事を見ている筈が無い。
だから悪事を働いても神罰などないだろう、と。
「その様子じゃと、既に……か」
「ええ。キツネツキの神官を名乗った輩が、金銭を奉じればキツネツキ神の加護を賜れるなどとほざいて詐欺行為を働いていましたわ。もっとも、そいつは詐欺がばれて逃げ出そうとした時に
「ほう、導くのは何も人間だけとは限らぬようじゃな」
「さて、何のことでしょう」
その人間の詐欺を見破ったのは
「そんな事があったのは事実ですが、だからと言って見せしめに神罰を下しておけば良いというものでもありません。それは理解できますでしょう。なにせ、タケルさんは人間でしてよ」
信仰され神格を得て神に名を連ねても、神となったとしても人間である事は変わらない。
何故なら、彼はまだ人間として生きているのだから。
神となっても、人としての感性や価値観は早々変わるものではありません。
ましてやタケルさんは今まで異世界の平和な国で生きてきている。
他者を思いやれる余力がある分、逆に割り切る事が難しくなる。
でなければ、こちらの世界に来てすぐに
特に見せしめとして有効なほどの神罰ともなるとどうしても苛烈になってしまう。
そのせいで
同じ人間から──正確には非常に近しくとも生物的に同種という訳ではないようですが、まぁ、同じ人間でいいでしょう──恐怖の感情を向けられるのは気分が良いものではないでしょう。
まぁ、深層心理まで覗いた事は無いので案外気にしない可能性もありますが。
「神が裁く訳にいかないのであれば、その罪は人が裁かねばなりません。そこで
「罪を裁くのに神殿を、という事はそちらでは司法を神殿関係者が担っておるのか」
異世界では違うんですの?
興味深いですが、今は話を進めましょう。
「ええ。とはいえ国によって違いはあれど、罪を裁く法自体はあるので普通の犯罪であればわざわざ新しい神殿を作る必要はありませんわ。問題はその中に神の意思を前提としたものがある点です」
神に関わる罪とその罰。
神の意思による制裁。
その為に蓄積された記録。
それを成すだけの権威。
その為の神殿の必要性。
それらの必要であろう概要をコンさんに伝えていく。
「なるほど、話は分かった。三つ、いや四つほど質問よいかの?」
「ええ、構いませんわ」
「なら、まず一つ目。神殿を作る為の資材や人材はどうする? こちらもある程度は用意できるが、あまり大きいものを建られるだけの余裕はないぞ」
その気になれば結構立派なものを作れそうではありますが、コンさんの立場ではそこまで外にリソースを使いたくはないでしょう。
ご安心なさいな。
資金も資材も人材も全部
代わりと言っては何ですが、場所は此方に都合が良いところを指定させていただきますけど。
「ふむ。では二つ目、神殿が完成した後の運営や維持は? 儂らは百年もこちらにはおらぬよ」
しばらくは
そのうち
聖騎士隊は、
雑務を行う人員を増やす必要はありますが、こちらはそれほど難しくはありません。
それらの人間たちの給与は
名目上の扱いとしては
皆さんが元の世界に戻られた後は……何が起きるかは分かっていますでしょ。
「このような感じになりますわね。ただ、流石に大神官を派遣する訳にはいかないので
コンさん達の世界ではどうかは知りませんが、こちらにおいて神子とは各々の神が指名する神託を受ける人間の事を言います。
神によって選ばれる為、神官の資格を持っていなくともその座に就くことができ、大神官に匹敵する権威を持つことが出来る。
ただし権力は持たないので神の意思を遂行する場合を除き、他者への命令権は持っていない。
もちろん神子以外でも神託を下される場合はあり、神託を受けたからといって神子になれるとは限らないわけですが。
神官は神子にはなれませんが、神官でなければ神子になれるほど神に気に入られているのであれば、いずれ普通に大神官になれるでしょう。
また神子の人数は各々の神によって違い、特に何人までといった制限はない。
それに、神子のいない神も結構いますわね
フェルドナとか今の神子を選んだのはつい最近で、それまでは神子がいなかったらしいですし。
要は神子とはその神のお気に入りの
とはいえ今回は神殿の役割を考えると大神官も神子もいないというのはあまりよろしくない。
「神子にはエルラ=ドグラムア=ガ=カロミラナルをと考えていますが、どうでしょう。他に誰か候補がいましたらそちらでも構いませんが」
「エルラ、というとあの元悪魔憑きか。そう言えばあれもお主の推薦じゃったのう」
あの時は異界の意思の希望に合う
「儂は構わぬよ。ただ、タケルに推薦する前に本人の承諾を得ておれ。本人が望んでいるならタケルも断らんじゃろう」
ええ、そうさせていただきますわ。
「三つ目、神殿を作ると言ってもそうそうすぐにできる物ではあるまい。その間はどうするのじゃ?」
しばらくは
とりあえず神殿として最低限機能する程度であればひと月もあれば準備できる。
幸いエルラは
準備が出来次第、
あくまでエルラは
ある程度必要な施設が完成し、
一度迎え入れておけば常駐していなくとも権威的には問題ない。
むしろ常駐されると逆に面倒な事になりそうなので、偶に遊びにくる別荘くらいの感覚で使ってもらえた方がいいですわ。
未完成の状態で呼ぶ事にはなりますが、これは仕方がない。
採算度外視の人海戦術で工事を急ぐつもりではありますが、流石に全て出来上がるまで待ってからという訳にはまいりませんもの。
タケルさんの希望はおそらくこちらの一般的な神殿とは異なるでしょうから、相応に時間がかかる事は考慮しなければならない。
それなりに
「────と、このような感じを予定していますわ」
「なるほど。ではその間はそれほど罰当たりな輩は出ないと見ておるのじゃな」
「ええ、精々数件程度。個別に対応してもそれほど手間はかからないでしょう」
模倣犯でも出始めればもっと増えるかもしれませんが、現状を考えればそれより
そうなればいちいちこちらで対応する必要はなくなる。
それに、そのような事態にならないようにちゃんと
いざとなれば
「わかった。では最後、あくまで念のためのの確認じゃが……まさかお主、
「それこそまさかですわ。状況だけ見ればそう思われるのは仕方ありませんが」
タケルさんが無所属ならそれもありだったのですが。
流石にコンさんや
「これはあくまで『
これで
それに、この表明は我が子達よりもむしろ他の神族を信仰する人間達へ向けてのもの。
唯一無二の
上手く行けば他の神族を取り込むことも可能でしょうが、それは高望みが過ぎますか。
相手だって同じことをすれば同じ立場を得ることが出来る。
とはいえそれは此方の望むところでもありますが。
もっとも、タケルさん達がいる間はあまり関係がないですわね。
コンさんの様子を見るに、他の神族に取り込まれる事もないでしょうし。
これは百年後、タケルさん達が帰った後を考えてのものです。
ですが理由は何であれタケルさんに他の神族が関わる可能性がある以上、
実際にそうでなくても、そう見えるというのは重要ですわ。
「ならよい。現状、儂に異論はない。詳細はタケルを交えて詰めると良いじゃろう」
「理解してもらえたようで助かりますわ。とはいえ今日の所はやめておきます。先にエルラに神子の打診をした方がスムーズにいきそうですし」
「そうか。ではこの話はまた後日じゃな」
「ええ。そういえばタケルさんは今日は何を作ってますの?」
この時間ですと夕食にはまだ早いのでお菓子でしょうが、お菓子はいつも
「ああ、何でも苺のケーキが食べたくなったとかでのう。
「それは楽しみですわね」
苺、美味しいですわよね。
此方の苺と異界の苺が同じものかは分かりませんが、これは期待できそうですわ。
それからしばらくコンさんと雑談していると────
「おやつの時間ですよ」
「なのだぁ!」
タケルさんとミコトさんが美味しそうなお菓子を持って部屋に入ってきました。
今日はもう
タケルさんとミコトさんに挨拶を返しながら、
巫女とほぼ同じ意味だが、
ルミナ神の言う神子は現世の神子とは少し異なりますが、完全に一致する語句が無かったのでほぼ同じ意味である『神子』という単語に翻訳されています。
追記:尾張のらねこ様、誤字報告ありがとうございます。