俺と天狐の異世界四方山見聞録   作:黒い翠鳥

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お久しぶりです。

小説の方向性に悩んだり、新規に判明した情報と過去話での描写の矛盾に頭を抱えたりで遅くなってしまいましたが、なんとか吹っ切れました。
新たに判明した情報が致命的であれば解釈を変えて過去話を大幅にであっても修正し、方向性は軸だけは曲げずにその時のテンションに任せる。これでやっていこうと思います。
要するに修正幅が広くなった以外は今までと変わらないんですが。

さしあたって『File No.13 運用の妙は一心に存す』の妖狐に関する記述を大幅に修正しています。特に天狐や空狐の立ち位置ですね。独自解釈も含んでいます。
修正量が多いので今回は一言での説明は省略させていただきます。

お待たせしました。それでは本編をご覧ください。


File No.33-1 『商いは門門』

軽く手首をほぐしてから、手刀を構える。

狙うは二メートルほど前に置かれた丸太。

言霊はのせない。

今回は言霊ではなく動作を介した妖術の使用。

 

霊的エネルギーの性質を妖力へと変化させ、術を編み上げる。

 

手刀を振り下ろす。

その動作をトリガーにして、妖術が解き放つ。

 

手刀によりなぞった線と同じように、丸太に裂傷が走った。

見たところかなり浅くはあるが、それでも人間相手に使えば怪我を負わせる程度の威力はある。

これぞ妖術『構太刀(かまいたち)』。

 

『かまいたち』といえば、鎌のような爪を持った鼬の妖怪である『鎌鼬(かまいたち)』が有名だろうか。

 

三匹一組の妖怪であり、一匹目が人を転ばし、二匹目が切りつけ、三匹目が薬を塗るので切り傷はできるが痛みは無く血も出ないとされている────が、三匹一組の鎌鼬は案外少なかったりする。

普通に一匹で切り付けて終わりな鎌鼬の方が実は多いのだ。

その場合でも出血はしないが、場合によっては痛みを伴う事もある。

 

多分三匹一組で連携して不思議な傷をつける鎌鼬という話が大衆に受け、鎌鼬はそういうものとして広まってしまったんじゃないだろうか。

そのせいか最近は三匹でチームを組む鎌鼬が増えているらしいと知り合いの妖怪から聞いた事がある。

 

ちなみに科学の発達に伴って鎌鼬の正体は旋風(つむじかぜ)によってできる真空によって皮膚が裂かれたものであると言われていた時期もあったが、実際には旋風が起こす気圧差程度で皮膚が切り裂かれる事などまず無い。

現在ではかまいたちの伝承が北国に多い事からその正体は『あかぎれ』である、あるいは単純に風に巻き上げられた鋭利な小石などによって皮膚が切り裂かれたとされる説が有力である。

 

ただ、同様の傷をつけるのは(いたち)だけではない。

飯綱(いずな)の仕業だったり、野鎌(のがま)という草切り鎌の妖怪だったり、珍しいところだと恋人を奪われた女が怨みを込めて自分の髪を切ったらそれがかまいたちとなったという話もある。

まぁ、最後のは切り傷どころか恋敵の首を切り落としているので別物な気はするが。

 

その中に悪神、あるいは鬼神の刃に触れた為に切れたというものがある。

(かま)太刀(たち)が訛って『かまいたち』という訳だ。

それにあやかってこの妖術を『構太刀(かまいたち)』と名付けた。

 

ちなみにこの妖術だが、木の性質に変化させた妖力を圧縮して撃ち出している。

斬るというよりは叩きつけるというのが近く、丸太に出来た痕も切り傷ではなく裂傷だ。

 

なんでこんな事をしているかと言えば、単に妖術の練習である。

霊力の放出、性質の変化ときて、最近ようやく妖力の圧縮という技術が実用レベルに達したのだ。

なのでそれらの応用という事で放出・変化・圧縮を同時に行う妖術を練習しているのである。

 

コン曰く、それら全てが十分にできていればスパッと切れるらしい。

裂傷になったという事は圧縮が甘かったのだろう。

あと単純に出力不足。

 

実を言うとこの妖術は放出・変化・圧縮を同時に行う練習として特段優れているという訳ではない。

最も適性のある性質が『木』だったので、この辺りが練習に使えそうかとコンに提示された妖術の中から俺が選んだのだ。

 

術自体は既存のものだがその術にわざわざ新たな名前を付けているのは、「自分の術」として習得しやすくする為だ。

言霊みたいなものである。

 

使い道が狭そうな攻撃技を選んだのも、提示された妖術の詳細を聞いていた時にビビっと来たから。

だって飛ぶ斬撃とか男の子のロマンじゃん。

男子全員にとは言わないが、きっと少なくない同意が得られる筈だと信じている。

自分の感性に合うというのは妖術を使う上で重要なのである。

 

「手ごたえは悪くないんだが、なかなか上手くいかないもんだな」

 

『じゃが、術自体は十分に出来ておる。後はあせらず地力を上げていけばよい』

 

隣で見ていたコンが言う。

まぁ、その為に覚えた術だしな。

それじゃ、もう一回──

 

『ん? ああ。タケルよ、一旦切り上げじゃ』

 

──やろうとしたところでコンが止めた。

どうした?

 

『客が来たようじゃな。百重が言うにはどうやらサルタビコ神らしい。今、式神を向かわせておる』

 

サルタビコ神が?

前回の訪問理由と思われる百重御殿(異界)への懸念はある程度解消されたと思っていたが、まだ何かあったのだろうか。

何にせよとりあえず客間に向かう事にしよう。

 

 

 

そこらへんにいたマヨイガ妖怪経由で百重にミコトへの伝言を頼み、コンと共に客間へやって来た。

ちなみに伝言は「昼食を一人分追加で作ってくれ」という内容だ。

普通なら突然そんな事を言われても困るだろうが、今日はきつねそばにするつもりだと言っていたし材料はマヨイガ妖怪が用意できるのでそう難しくはないだろう。

 

前回の様子を考える限り食事による持て成しは有効なようだしな。

というか時間帯的に考えるとそれ目当てに来た可能性も無くはない、と思うのは考えすぎか。

食べずに帰ったら俺が二人分食べてもいいし。

 

そんな訳で客間にて迎えるのは俺とコンの二柱になる。

……自分を数える助数詞に柱を使うのはやっぱり違和感あるなぁ。

人間でもあるのだし一人と一柱でいいか。

 

「なぁ、コン。サルタビコ神が来た理由って何だと思う?」

 

「さて、前の時にマヨイガは危険な異界ではないと理解はしてもらえた筈じゃからな。単純な興味本位か、なんぞ日乃國(ヒノクニ)に有益な事でも見出したか。あるいは飯でも食いに来ただけかも知れんな」

 

幼女姿のコンが尻尾を揺らしながらそう答える。

あれ以降日乃國(ヒノクニ)に干渉するようなことはやってないし、ぱっと思いつくのはその辺りか。

式神からの報告には機嫌が悪そうだという話は無かったので、過去の所業を咎めに来たという事はないと思うが。

なんにせよ実際に会ってみてからか。

 

しばらくするとのっぽさんに案内されたサルタビコ神がやって来た。

 

「お久しぶりですね、サルタビコ神」

 

座卓を挟んで反対側に座ったサルタビコ神にキツネツキとして話しかける。

 

「ひと月ほどぶりですな。先触れもなしに突然の訪問ですまぬのう」

 

「いえいえ、構いませんよ」

 

ルミナ神然りフェルドナ神然りプライベートだと基本的に突発で来るし、別にそのくらい。

まぁ、フェルドナ神の場合は先触れに出せる配下がいないからというのもある。

神格的にそろそろ神使の一匹(ひとり)くらい作っても良さそうだとは思うが。

 

以前と比べてサルタビコ神に特に変わった様子は無いが、しいて言うなら()()荷物(にもつ)を持参しているところか。

()()荷物(にもつ)行李(こうり)という竹や柳などを編んで作られた葛籠(つづらかご)の一種を二つ手ぬぐいなどで結んで、それぞれを肩の前後に振り分けて運搬する江戸時代の旅行鞄である。

 

物は柳行李のようだが、どう見ても普通の行李では無いな。

妖怪か神器か、感覚的には多分後者だと思うが、マヨイガ妖怪にも引けを取らない力を持っているのが見て取れる。

 

「それで、本日はどのようなご用件で?」

 

「それなんじゃが、うむ。単刀直入に言わせていただこう。この隠れ里で取れる作物をいくつか譲ってほしい。できれば(もみ)があると有難いんじゃが」

 

おや、それは。

 

「もちろん只でとは言わぬ。金銀などの財に全国から取りそろえた名品、珍品の類を用意した。もし他に望むものがあればワシが日乃國(ヒノクニ)中を駆け回ってでも集めてこよう。一考してはもらえんじゃろうか」

 

そう言ってサルタビコ神は行李から金塊や銀塊を始めとした貴金属や中々に力を持っていそうな念物(ここのぎ)、あるいは美術品と思われる物質側の品を取り出しては並べていく。

 

とは言っても特に興味を惹かれるようなものは無いな。

 

もちろん俺個人としてなら気になるものはいくつもあるし、現世でお金に換えられそうな金塊とかを要らないと言い切れるほど俗世離れはしていない。

マヨイガに引きこもっているならともかく、現世に帰ったら生活する為にはお金が必要なのだ。

 

しかし隠れ里の主(キツネツキ)という立場で百重御殿のものと交換する為の品として見ると、取り立てて欲しいものは無いのである。

これは百重御殿が一つの世界として完結しているせいで、外から持ち込むものにあまり価値が見いだせないからだ。

 

ルミナ神が偶にいろいろ持ってきてくれたりするが、あれはあくまで住人である俺達の為に持ってきてくれているのであって、隠れ里の主(キツネツキ)や百重御殿へのものではない。

というかミルラト神話圏での立場の関係上、地理的には同世界の日乃國(ヒノクニ)の神に百重御殿の作物を物々交換する(売り払う)のはどうしても慎重にならざるを得ない。

 

サルタビコ神はできれば(もみ)が欲しいと言った。

米ではなく(もみ)である。

つまり少なくとも米に関しては食べる事よりも植えて増やす事を考えていると取れる訳だ。

 

フェルドナ神が試練を乗り越えて手にしたものを財力があれば購入できてしまうというのは異界神(キツネツキ)対外姿勢(スタンス)上よろしくない。

 

もちろんフェルドナ神が実際には試練など受けていないように、異世界(あちらの世界)の人たちに向けての建前(大義名分)があるならそれでいいのだが、同一世界内で異界神(キツネツキ)が異なる神話圏の神にそれぞれ違う態度を取ってしまうとミルラト神話圏での立場が揺らいでしまう。

 

プライベートでの個神(こじん)的な付き合いなら別に構わないのだが、各神話圏の人々への恩恵が絡むとそうも言っていられなくなる。

 

ついでに言うと無償での譲渡は面倒事にしかならないのでまず却下。

この辺はフェルドナ神に薬草を渡す代価として抜け殻を貰った時と同じである。

むしろ現在の俺の立場を考えると、あの時以上に相手側のデメリットが大きくなっている。

 

まぁ、あの時のは異なる神話圏の神同士の話しではなく個神(フェルドナ神)個妖狐(コン)のプライベートのやり取りという事になったし、そもそも公式(ミルラト神話)には語られない話な(そのような話はない)わけだが。

 

そういう意味ではルミナ神は上手くやっていると言えるだろう。

ルミナ神が持ち帰るのはあくまで『情報』だ。

それを形にし恵みを生み出すのはあくまでミルラト神話圏の人々なので、デメリットを避けて三方良しの関係に出来るのである。

ちなみに現世(現代地球)で特許やら著作権やらに引っかかりそうなものに関してはルミナ神も配慮してくれているようである。

 

話を戻すが、これに関してはサルタビコ神の交渉方法が悪い訳ではない。

普通に考えれば穏便というか順当なやり方である。

ただ俺たち(キツネツキ)のミルラト神話圏での立場をサルタビコ神は知るすべがなかったというだけの話だ。

ミルラト神話圏と日乃國(ヒノクニ)って交流がほとんど無いらしいからな。

 

そんな事を考えていると、サルタビコ神は最後にビー玉くらいの大きさの透明な(たま)の入った箱を取り出した。

あれは、晶精珠(しょうせいじゅ)か。

 

晶精珠(しょうせいじゅ)は純気を圧縮して作られる、いわば物質化した霊的エネルギーである。

物質化とは言っても霊感が無ければ見る事はできないが。

 

主な用途としては純気を少しずつ解放して取り込むことで一時的な神気や妖気の増強、あるいは神器などのエネルギー源として利用される。

場合によっては信仰を失った神や妖怪が消滅を免れる為に延命手段として使用する事もあると聞く。

人間で例えるなら『食料兼何の電源にも使える電池』といったところか。

 

その万能性故に神や妖怪の間では通貨のように使われる事も多いそうだが、それは異世界でも変わらないらしい。

日乃國(ヒノクニ)の神だけでなく、ミルラト神話の神も晶精珠(しょうせいじゅ)を通貨のように使っているとルミナ神が言っていた覚えがある。

 

まぁ、晶精珠(しょうせいじゅ)を作るのに必要な純気の量と技術を考えたら、取引に使えるのは上級以上の妖怪かそれ以上の力を持つ神がメインになるのだが。

そのくらいの価値のある代物なのである。

 

これなら百重御殿の益にもなる……のだが、サルタビコ神の持って来た晶精珠(しょうせいじゅ)は大粒のものばかりなのでレートの調整が難しそうだ。

 

「話は分かりました。此方としても作物を提供する事自体はかまいません」

 

そう言うとサルタビコ神に嬉色が浮かぶ。

実際、立場とか義理とかそういう事を除けば妖怪でもないマヨイガの生産物を譲る事に問題は無いのだ。

この辺は百重御殿の主である俺の一存で決められる範囲である。

 

「しかし(わたし)はこれでも一応立場ある身でしてね。食材であればともかく、種籾ともなれば神徳にも関わるので金品ではお受けできかねます」

 

米も精米済みのやつなら大丈夫なんだけどね。

なんなら果物とかも種なしのものを妖怪樹に作ってもらえば渡してもいい。

 

「なので籾を求めるのでしたら(わたし)()()()()()()()()()()()()者を紹介していただきたい」

 

これでも異界神(キツネツキ)百重御殿(マヨイガ)の主だからな。

無条件に異界の恩恵をばらまく訳にはいかないし、するつもりもない。

少なくとも百重御殿には相応の見返りを確保してあげなければならない。

具体的には畏怖とか信仰とかそっち系ね。

 

異界神(キツネツキ)の神座でもあるので、(キツネツキ)への信仰が増えるのも結果的に百重御殿に益になる。

俺が必要としていない分、増えた信仰の力を純気に変えて百重御殿の霊気の補充に回してもいいわけだし。

 

「それは人間に限りますかな?」

 

「いえ。人でも妖怪でも、なんなら神でも構いません」

 

ミルラト神話圏ではフェルドナ神にあげたのが広まっちゃってるから、もとよりそのつもりは無いとは言え日乃國(ヒノクニ)では神は駄目ですとは言えないのである。

とはいえまぁ、流石に神を連れてくることは無いだろう。

 

なにせ俺は『それを授けるのに相応しい者』と言った。

一応俺は異界神(現人神)であるからして、神から神へ授けるというのはお互いの上下を決定づける行為に他ならない。

下手をするとこちらに取り込まれかねない訳で、日乃國(ヒノクニ)の神としての立場を失う危険を冒してまで求めはしないだろうし、サルタビコ神としてもそうなってしまっては紹介する意味がないからやらないだろう。

フェルドナ神の時もコンが結構気を使っていたのだ。

 

逆にまずもって取り込まれないような格の高い神であった場合、今度はそれが日乃國(ヒノクニ)の神と異界神(キツネツキ)の格を測る物差しになってしまう。

最悪日乃國(ヒノクニ)の神全体に格下の烙印が押されかねない。

それほどのリスクを負ってまでやるような事ではないのである。

 

そういう方面で考えればルミナ神のあの劇は妙手だったんだなと改めて思う。

フェルドナ神はあくまでミルラト神話の神と印象付けることで取り込みを防ぎ、キツネツキをルミナ神の友神と呼ぶ事でマヨイガ側の面子を保ちつつサツマイモに箔をつける。

そして当時のフェルドナ神は神格的には木端であったために異界神(キツネツキ)より格下に見られてもミルラト神話の神全体への影響は低い。

 

ついでに友神という同格ながら順列的には曖昧な立場であるため、今後異界神(キツネツキ)より上の立場の神が出てきたとしても、それをもってその神が貴高神より上とはならない。

同格なのは友というお互いの立場故の事であって、その神格を比べ合ってのものではないからだ。

 

「承知した。後日──そうじゃな、五日後に連れて来てもよろしいか?」

 

五日後か。

贈る籾の選定には十分な時間だろう。

他に取り立てて用事も無いし、予想以上に時間がかかっても百重御殿に外との時間の流れをずらしてもらうという手も使える。

 

「ええ、構いません。ただ、お互いの価値観の違いもありますので、(わたし)()から見てその者が籾を授けるに相応しいかは()()()()()()()()()()

 

「当然ですな。なに、あの者であれば皆様のお眼鏡にも適うでしょう」

 

ふむ、既に候補は居ると。

すぐに出てきたあたり、サルタビコ神のお気に入りの氏子(うじこ)とかかね。

 

「ところで、籾以外でしたらこの場で譲っていただくことも可能で?」

 

「芽が育たぬものであれば。その場合は────」

 

対価としてはサルタビコ神が持って来た物の中だと晶精珠(しょうせいじゅ)を除けば翡翠(ひすい)瑪瑙(めのう)といった鉱石類が良さげか。

 

美術品はよく分からないし、念物(ここのぎ)も扱いに困る。

金や銀は生み出せるのがマヨイガ妖怪にいるから百重御殿的にはあまり魅力を感じない。

ヒヒイロカネのような神話金属でもあればと思ったが、それっぽいものは無かった。

 

マヨイガ食材といえど一度に大量に用意できるわけでもないので、そう大きな取引にはならない。

もちろん外との時間のズレを利用して長期間食材を貯めこんだり、神気を注ぎ込んで強化した状態で生産してもらえば話は変わるが、そこまでしてあげる理由はない。

 

その辺りをコンと精神感応(ないしょばなし)をしながら決める。

 

今回は相手の欲しいものをこちらが持っていて、かつそれがこちらにとって貴重でもなんでもないという取引だ。

百重御殿の銘柄(ブランド)というか体面(たいめん)を保つ意味でも安売りはできないが、精神的に楽なものである。

 

コンが以前五郎左殿相手にした過去視で日乃國(ヒノクニ)のおおよその物価は見当がついていたため、食材として見ればかなり高いが霊的価値を考慮するなら悪くないと思われる価値を提示する。

五郎左殿はあまり装飾品に縁がなかったため、紅一文字への贈り物を探しに訪れた店の商品と値段から鉱石類の価値を逆算したので、精度自体はあまり高くないが的外れという程でもないだろう。

鉱石の()に関しては正直コン頼みである。

 

コンにしても人間にとっての価値にはあまり詳しくない為、霊的な価値での査定になってしまうが問題は無い。

多分使い道は呪術道具の材料になるだろうし。

 

サルタビコ神も納得のいく取引だったのか即決し、できれば定期的にまたお願いしたいという旨の話を伝えてきた。

この様子だと多分倍の値段を示しても成立したとは思うが、安売りでなければまぁいいか。

定期購入については月一(つきいち)で今回と同程度の量かつ支払いは晶精珠(しょうせいじゅ)であればという条件で受ける。

今回サルタビコ神が持って来た晶精珠(しょうせいじゅ)は大粒なので芽の出ない食材の対価としては高価過ぎたが、次はもう少し小さいものを持ってきてもらえばいい。

生成の際に密度と大きさの調整が比較的容易なところが、晶精珠(しょうせいじゅ)が通貨代わりとして使われる理由の一つなのである。

 

取引する食材の量も仮にミルラト神話側からも同様の条件での取引を求めてきても、百重御殿的にはほとんど負担にならない程度だ。

 

なお、俺たちが現世(元の世界)に帰る時には如何なる状態であっても一方的にこの約束を破棄できる事と、状況の変化によっては通達のみで取引を終了する場合がある事も条件に含めている。

取引を望んでいるのはあくまでサルタビコ神側で、俺たちにとっては優先順の低い事柄だからである。

なのでこの約束が何らかの枷になる事は極力避けたいのだ。

だからこそサルタビコ神側も取引が不要になればそれを伝えるだけで約束はお互いに完遂したものとするという条件になっている。

 

その後、話し合いを終えたサルタビコ神はお昼の「きつねそば」をしっかり食べて帰っていった。

 

 

 

 

 

そして五日後。

 

俺たちは客間でサルタビコ神が来るのを待っていた。

今日のコンは二十歳前後の見た目で解放形態(本気モード)である。

ミコトは以前と同じく獣人形態(じゅうじんモード)で俺の隣に座っている。

 

今回はサルタビコ神も先触れを出してくれたので、準備は万端である。

 

部屋の外から式神の声がして俺が部屋に入るように促すと、扉があけられる。

そして式神に案内されたサルタビコ神が入って来た

その様子は前と特に変わりはない。

 

続いて入って来たのは二十四か五くらいに見える女性だった。

幾分か緊張した面持ちでサルタビコ神の後ろを歩いている。

 

この人がサルタビコ神の推薦する……ん?

 

人……人か?

 

なんか気配が人というより妖怪に近いような。

 

「遠いところまで、よくいらっしゃいました。ささ、お座りください」

 

「いや、短い間に何度もお邪魔して申し訳ない」

 

促されて連れと一緒に座るサルタビコ神。

ん~、でも妖怪にしては神聖な気配というか。

 

「いえ、お陰で退屈せずに助かっていますよ。それで、その者が?」

 

そう言えば神降ろしをした巫女さんの雰囲気がこんな感じだったか。

ただどちらかというと……あぁ、そうか。

 

「ええ。ほら、挨拶なさい」

 

「はい。お初にお目にかかります、狐憑き(キツネツキ)神。私は豊葉根村(とよはねむら)()()と申します」

 

この気配、()()か────え? マジで?

 




晶精珠(しょうせいじゅ)の設定は創作です。



(あきな)いは門門(かどかど)

商売のコツは、顧客をよく観察して本当に欲しているものを提供する事であるという意味。
あるいは商人にはそれぞれ専門としている分野があるので、それ専門の店で購入した方が良い買い物ができるという意味で使われる事も。
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