俺と天狐の異世界四方山見聞録   作:黒い翠鳥

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File No.04-1 『縁あれば千里』

フェルドナ神の再訪問から少し日が経ったある日の事。

俺たちはいつものように妖札で遊んでいた。

 

今日のルールは丁半合わせ。

まず一人が親になり、1~3までのいずれかの数字を選び、その数だけ山札の上から裏向きのまま場に出す。

他の参加者が子になり、それぞれ場の札の数字の合計が奇数か偶数かを宣言する。

 

場の札を裏返して奇数か偶数かを確認し、当たっていた子は札の数字の合計を持ち点に加える。外れていたら何もなし。

親は『場に出した札の枚数に3を掛けた値』の得点を持ち点に加えて場の札を捨て札置き場に置く。

 

得点計算が終わったら親から見て左隣の人が次の親になり、これを最初に決めた回数だけ繰り返す。

最終的に持ち点の一番多かった人が勝ちだ。

 

奇数偶数を同数にするため1か9を抜く場合もあるが、俺たちがやる時は『森遊(もりあそび)』というルールでやることが多い。

遊は妖札の事を指すらしいのだが、森は『木が多い』=『奇が多い』となり、転じて『玉』以外のすべての札が揃った状態の妖札でゲームをする事を指す。

 

『玉』も抜かれるのが一般的だそうだが、『玉』が出たらもらえる点数が10倍になる一発逆転のルールもある。今回は抜いているが。

 

(にしき)』はなし。これは裏面の違う二組の妖札(元々二組で1セットではあるが)を混ぜて一つの山にしたものを『錦山(にしきやま)』といい、今回は一組だけを使うので錦無しだ。

二色(にしき)』=『(にしき)』という事らしい。

 

一対一でもできるが、人数がいた方が楽しいので式神にも参加してもらっている。

 

「儂が親の番じゃな。3枚じゃ。さてどうする?」

 

二十代後半の姿に変化したコンが山札から3枚のカードを場に並べた。

コン、1位と7点差だから勝負をかけてきたな。

 

変化したコンの年齢は日替わりのレベルでころころ変わる。

本人曰く気分で変えているだけで特に意味はないとのこと。

 

「半」

 

人に変化した式神が自分の予想を告げる。

2メートル近い身長と引き締まった体が特徴の男だ。

本体である白狐の面もつけている。

式神の中で最も背が高いのでのっぽさんと呼んでいる。

 

「丁」

 

対して違う予想をした式神は俺よりも背が低い。

がっしりとした体は力の強さを連想させ、それに恥じない腕力を持つ男。

愛称はごうりきさん。

なお、あくまで愛称であって名前を付けたわけではない。

のっぽさんと同じく白狐の面をしている。

 

「丁かな」

 

俺が選んだのは偶数。

これは予想というより現在トップののっぽさんと同じ宣言をしていたのでは逆転できないからという理由での選択だ。

ちなみに予想の宣言は親から時計回りに行われる。

俺は現在天狐の面を付けているが、つけているだけだ。

『稲荷下げ』状態にはなっていない。

 

「では拙者は半で」

 

最後に宣言したのは壮年の人間の男。

そう、人間だ。

 

丁髷(ちょんまげ)を結い(月代(さかやき)は剃ってないのでちゃんと前髪もあるが)、着物のような服装と腰に帯びた刀らしき武器。

月代以外は絵に描いたようなお侍さんである。

 

なんで俺たちがお侍さんと妖札をしているのか、その理由は本日の昼前まで時間を巻き戻す必要がある。

 

 

 

『今日は一日雨のようじゃの』

 

千里眼で境界の外を見ていたコンがそう言った。

 

基本的にマヨイガの天候は常時晴れだ。

マヨイガの意思の気が向いたときに雨やら雪やら降ることもあるが、今日はいつも通りお天道様(ちょっと特殊だがこれもマヨイガの妖怪らしい)が顔を出している。

となると、雨なのはマヨイガの外だろう。

 

外が雨だと人も動物も活動が消極的になるのでコンも観察を切り上げて縁側で横になった。

霊狐形態なのでもふもふである。

 

俺の方も最近始めた妖術の勉強がひと段落したのでコンの横に座る。

マヨイガに籠っていると時間だけはたっぷりあるので以前から気になっていた妖術に手を出すことにしたのだ。

陰陽術と迷ったが、汎用性は劣るものの比較的習得が容易で稲荷下げ状態での使用経験もある事からこちらにした。

いずれは陰陽術にも手を出したいと思っている。

現在はマヨイガにあった本で勉強中だ。(この本、実は凄い妖怪らしくコンに絶対にマヨイガの外に持ち出さないように言われた)

 

しばらくコンの尻尾をモフモフしていると、ふと何かに気付いたようにコンが頭を上げた。

 

『誰ぞ来たな。マヨイガの方の客か』

 

そう言うとコンは人の姿へ変化する。

今日はお姉さんな姿だな。

 

俺も念のため天狐の面を装着する。

するとすぐに式神が男の人を連れてきた。

 

うおっ!

 

その男を見た瞬間、衝撃を受けた。

だってお侍さんなんだもん。月代剃ってないからイメージ的に浪人の方が近いかもしれないがお侍さんなんだもん。

え? 異世界にお侍さんいるの?

もしかして忍者とかもいたりする?

 

「よくぞマヨイガへ参られた。歓迎するぞ、お客人」

 

困惑しているお侍さんを他所にコンが挨拶する。

それからお互い簡単に自己紹介をする。

このお侍さんは山元(さんもと)五郎左衛門(ごろうざえもん)(まことの)康久(やすひさ)というらしい。

え? どれで呼べばいいの?

 

(山元が苗字、五郎左衛門が(あざな)、信が(うじ)、最後のが(いみな)じゃな。五郎左殿と呼んでおれば良いじゃろ。少なくともこの者の国では軽々しく苗字や氏を呼ぶのは失礼らしいからのぅ。諱は言わずもがなじゃ)

 

『宿命通』で大体察したらしいコンが教えてくれた。

初対面でも衛門を省略するのは非礼には当たらないらしい。無論彼の国ではだが。

 

ちなみに氏とはまぁ、血統みたいなものと思っておけばいい。

現世にもあったが名乗ったもん勝ちみたいな感じだったようだし。

 

五郎左殿は太陽(たいよう)の国の阿山(あさん)という所から来たそうだ。

というか本人はまだ太陽の国を出ていないと思っているらしいのでずいぶん遠くの境界に繋がったのだろう。

恰好といい国名といい、多分この世界の日本的な国だろうと思われる。(国名は以心伝心の(まじな)いで翻訳されているからだとは思うが)

 

「して、五郎左殿は如何なる要件でこちらへ参られたのじゃ?」

 

既にコンは『宿命通』によって知っているが、そんな事はお侍さんには分からないのであえて質問する。

 

「実は拙者、それなりに腕は立つと自負してはおるが、度々頭痛に悩まされ実力を発揮することが叶わず試合にて幾度となく破れてきたのでござる。医者に見せても何故痛むのか分からぬという。そこで高名な占術士(せんじゅつし)に占ってもらったところ、このような結果が出たのでござる」

 

──龍の月の初め払暁より、都の西門から(からす)の方角へ向かえ。決して振り返ってはならぬ。さすれば汝に害なすもの悉く去るであろう──

 

「それに従い歩き続け、気が付いたらここに迷い込んでおった。断りなく踏み入った事、お詫び申し上げる」

 

「詫びるには及ばぬ。其方(そなた)がこの隠れ里に来れたという事は招かれた証拠よ」

 

「隠れ里!? もしやここはかの鶯浄土(うぐいすじょうど)か!?」

 

え? 鶯浄土ってこっちにもあるの?

 

「残念ながら違うのぅ。ここはマヨイガ、人ならざる物の住む世界ではあるが(うぐいす)はおらぬ」

 

「これは失礼(つかまつ)った」

 

「気になさるな。せっかく来たのじゃ、中で(くつろ)いでいかれよ。其方の頭痛、心当たりがあるでな」

 

「!! かたじけのうござる」

 

(タケルよ、食事の用意を頼むぞ。みょうがも忘れずにな)

 

なんかよく分からんけど了解した。

しかしみょうが料理のレパートリーなんて俺にはほとんどないぞ。

 

(先ほど妖術の勉強をしておった本があるじゃろ。あれに書いておるぞ)

 

え? 妖術の本に料理のレシピが!?

部屋に戻って本をぱらぱらとめくってみると──

うわ、マジだ。

 

へぇ、結構いっぱいあるのな。

あ、炊き込みご飯に入れるという手もあるのか。

卵とじ。これも美味しそうだな。

じゃぁ、おかずは『もやしとみょうがの卵とじ』『胡瓜の漬物』『味噌汁』かな。

俺は早速本を持って台所に向かうのだった。

 

 

 

俺が料理を作っている間にコンが湯浴みを勧めていたらしい。

料理を持っていく途中にさっぱりとして小綺麗になったお侍さんに遭遇した。

何やら身を清めておいた方が良いと言われたようだ。

着ている服も汚れが落ちて洗濯後同様になっているのでマヨイガの妖怪が何かしたのだろう。

 

提供した料理はお侍さんに好評だったようで、うまいうまいと言いながら残さず食べてくれた。

これだけうまいと言われると作った方としても嬉しいものだ。

 

食事を終えてなお準備にしばらく時間がかかるとコンが言うのでお侍様を巻き込んで妖札大会と相成った。

コンに準備しなくてもいいのかと聞いたら式神待ちだそうだ。

そして何度か勝負を繰り返し冒頭に戻る訳である。

 

 

 

「この回はこれで最後じゃな。3枚よ」

 

冒頭部分よりもう一周してコンの親番。

この勝負もこれでラストだ。

 

「丁」

 

「半」

 

「丁」

 

「半じゃ」

 

俺とのっぽさんが偶数。

ごうりきさんとお侍さんが奇数。

これでお侍さんより得点の低いごうりきさんのトップは無くなった。

 

「点数は……(ここの(9))……(ここの)……(ここの)(奇数)の27点じゃな」

 

最大値じゃねぇか。そういや9が出てないなと思ったら。

って事は、ごうりきさんとお侍さんに27点入るから……

 

「一番は五郎左殿じゃな」

 

何気にお侍さん初トップだったりする。

ちなみに2位ごうりきさん。3位コン。4位俺。5位のっぽさんだ。

 

「なかなか面白うござるな。この妖札というものは」

 

お侍さんもご満悦だ。

 

「せっかくの初勝利じゃ。どれ、褒美をやろう」

 

コンがポンポンと手を叩くと、小柄な男の式神が両手で鞘に入った刀を持って入ってきた。

あれはいだてんさんだな。

コンの式神で一番足が速いらしい。

 

「持っていくがよい」

 

お侍さんは一瞬目を丸くすると、まるで主君からの褒美のように頭を下げて受け取った。

一言断ってほんの少しだけ鞘から出すと、美しい波紋が見るものを魅了する。

あれは妖刀の類だというのが一目で分かった。

 

「号を紅一文字。あらゆる物を断ち切る妖刀ぞ。其方なら使いこなせよう」

 

なんかお侍さんが涙を流して喜んでいるんだが、そんなにいい刀なの?

 

(ちと長くなるから説明は後でな)

 

了解。まぁ、喜んでいるのなら別に何でもいいんだが。

 

「さて、もう一戦と言いたい所じゃが、準備が出来たようじゃ。名残惜しいが本題に入るとしよう」

 

本題? あぁ、お侍さんの頭痛の件か。

 

「其方の頭痛、それはある妖怪に呪いをかけられておるのじゃ」

 

「なんと!」

 

「其方を一目見た時から気付いておった。故に我が式神に呪いの出どころを探らせておったのだ。今しがたその妖怪を見つけたとの報告があっての」

 

「それは、ではその妖怪を退治すれば拙者の頭痛は治るので?」

 

「うむ。しかしただ退治するだけでは駄目じゃ。その紅一文字で呪いの元、すなわち妖怪との縁を断ち切らねばならぬ」

 

何やらお侍さんは真剣な表情で覚悟を決めた目をしているが──

 

コン、それ本当?

 

(嘘ではないぞ。盛ってはおるが)

 

盛ってるんだ……

 

「さて、式神に案内させよう。その刀で呪いを断ち切るがよい」

 

「かたじけのうござる」

 

お侍さんは再び頭を下げると、式神について部屋を出て行った。

程なくしてお侍さんがマヨイガを出ったのを確認すると、コンが何やら妖術を発動する。

 

「念のためみょうがを食べさせたが、紅一文字の事もあるし忘却の呪いはやらぬ方が良いの。今後訪れることも無いじゃろうし、後はちょいと化かせば仕舞じゃ。うむ、これで良い。一件落着じゃ」

 

式神を通じて何やらやっていたらしいが、とりあえず一段落したらしい。

コンは霊狐形態に戻り、ふわぁと欠伸をする。

一体なんだったのか説明してほしいんだが。

 

『そうじゃのう。まず前提として理解しておかねばならぬのが占術士の予言とマヨイガに招かれた事は無関係という事かの』

 

え? 予言に従った結果、マヨイガにたどり着いたんじゃないのか?

 

『結果的にはそうなるのじゃが、元々予言の方は直接頭痛の原因の元へ案内しておったのじゃ』

 

そういうのって判るもんなのか?

 

『八卦占いじゃったからの。儂も多少嗜んでおるから『宿命通』でその場を見ればある程度は分かるのじゃ』

 

そう言えばコンも占いできたな。

俺も何度か占ってもらった事がある。

結果は当たるも八卦、当たらぬも八卦だったが。

 

『で、じゃ。予言に従って進んでいくうちに境界を通ったのであろう。その際にマヨイガ、正確に言うなら先に褒美として渡したあの刀、あれに招かれてここへ来たようじゃ』

 

あの刀が呼んだ?

 

マヨイガはある意味何処にでもあると言えるが、それでも起点となる場所が存在する。

そこから離れれば離れるほど、マヨイガに訪れるためには強力な(えにし)が必要になる。

 

今のマヨイガの起点はフェルドナ神の村の近くの森の中だ。

衣服などの様式が全く異なることを考えると相当離れている事は想像に難くない。

あの刀とお侍さんにそれほど強い縁があるとは思えないんだが。

 

『それは儂も驚いたぞ。なんせかの者が通った境界は起点より千里(4000㎞)離れておったのじゃから』

 

一瞬ぴんと来なかったが、日本の端から端までが3300㎞ほどだ。

それほどまでに遠くから来れるとは並大抵の事ではないだろう。

 

しかし、異世界のお侍さんとつい最近まで現世に有ったマヨイガの縁が想像できないんだが。

 

『今世では先のが初めての出会いじゃよ。かの者の縁は前世、正確にいうなれば七つ前の過去世じゃな。その時のものよ。おかげで『宿命通』で覗くのに時間がかかってしもうた』

 

昼餉の間だけでは間に合わず、思わず時間稼ぎの為に妖札に誘ったが、楽しかったゆえに結果良しじゃな。などとコンがのたまった。

あれ、そういう意味もあったのね。

 

『その時はかの者も現世の侍でのぅ。とはいえ貧乏な浪人であったかの者はマヨイガに訪れる事が出来たのはいいものの、着くと同時に空腹で倒れての。その際、先代の稲荷狐に手料理を振舞われたそうじゃ』

 

コンがこのマヨイガ稲荷神社の稲荷狐になったのは300年ほど前と言っていたのでそれ以上前の話か。

ちなみにコンも料理が上手いが、作る必要が無いせいか偶のご褒美の時くらいしか作ってはくれない。

 

『ところで、マヨイガに招かれた者はマヨイガの道具を一つ持ち帰れるというのは知っておるじゃろ? その際に選ばれたのがあの刀じゃった』

 

何を持ち帰れるか決めるのはマヨイガ側だ。

決められたもの以外を持ち帰ったり二つ以上持ち帰ったりするとひどい目に合う。

 

『じゃが、かの者は武士の意地か「自分はまだこの刀に見合うほどの人物ではない。いずれこの刀を手にするに相応しい人物になってまたここに来る。それまで待ってもらえないか」という感じの事を言って受け取り拒否したのじゃ。まぁ、先代の稲荷狐に一目ぼれしたらしく、また来る口実を作りたかっただけかもしれんがの』

 

でも、刀が残っているという事は結局その侍が来ることは無かったと。

 

『じゃな。本来ただの人間が生涯で二度行ける場所ではないからの』

 

俺の場合はちょっと特殊らしいので例外だそうだ。

 

『で、じゃ。そんな事を言ってしまったから、それが先の刀との約束になっての。かの者が死んでも刀は待ち続けておった』

 

それは刀が妖刀、すなわち妖怪だからで、妖怪は約束を破れないからだろ。

同様の理屈で、約束した人間が死んだら無効になるんじゃないのか?

 

『そうじゃの。直接それを知る事は無かったじゃろうが、妖怪には縁を通じて約束の相手が死んだことくらいは分かるのじゃから。じゃが、たまに居るんじゃよ。律儀というか、頑固というか、相手が死んでも約束を守り続ける妖怪がな』

 

それがあの刀だったと。

 

『そしてその侍の生まれ変わりが格の高い境界を訪れ、その縁に引き寄せられてマヨイガを訪れたのじゃ』

 

その話だと、あの刀はあのお侍さんを7世前の侍と同一視してるって事か?

ただ前世がマヨイガに縁あったというだけじゃ、千里先から来るには流石に縁が弱い気がするし。

 

『基本的に『生まれ変われば別人』という考えが主流じゃが、魂が同じ人物であれば同一人物とみなす者もそれなりにおるよ。特にあの刀は今どきの人間でいうところの『ヤンデレ』というやつじゃったし』

 

そのうち人間の女子(おなご)に化けてかの者に婚姻をせまるやもしれんの。とのたまうコン。

 

え、そんなレベルで想われてるの?

そう言えば刀に相応しい人になって戻ってくるという約束だったようだけど、その辺どうなの?

 

『それに関してはちょっとこじ付けさせてもらった。あの者、妖札で一番になったじゃろ?』

 

なったな。最後怒涛の大逆転だった。

 

『その褒美として妖刀が贈られた訳じゃ。宇迦之御魂神(うかのみたまのかみ)の使いたる天狐からの』

 

確かにその通りだな。

 

『すなわち山元(さんもと)五郎左衛門(ごろうざえもん)なる侍は天狐との勝負に勝ち、褒美を与えられるほどの人物という事になる』

 

いやまぁ、確かにそうだけど。

お稲荷様の眷属の最高位に名を連ねる霊狐に打ち勝ち、その力を認められて刀を賜った侍と言えばマヨイガの妖刀を手にするに不足ない人物と言えるだろう。

 

その勝負がカードゲームでなければ。

そんなんでいいの?

 

『いいんじゃよ。こういうのはお互いがどう思うかじゃ。五郎左殿は『棚から牡丹餅』で褒美がもらえた。刀は五郎左殿の下へ行くことが出来た。双方良しじゃ』

 

なんか釈然としないが、良いならいいか。

マヨイガに呼ばれた理由は分かった。

 

じゃぁ、頭痛の原因の方は何なんだ?

妖怪の呪いがどうとか言ってたけど。

 

『そちらの方も前世の縁じゃな。こちらは二つ前の過去世じゃ。当時かの者は修行僧での、山に籠って修行しておったは良いものの、自分の課した厳しい修行に耐え切れず、土に還ったのじゃ』

 

要するに逝ってしまわれたと。

 

『普通ならばそれで終わりなのじゃが、何の因果かその髑髏(しゃれこうべ)が妖怪化しての。それも悪性の強い妖怪じゃったから輪廻の縁を通じて五郎左殿から生気を吸い上げておったのじゃ』

 

ここに来るのが後三年遅かったら命は無かったとコンは言う。

 

『直接五郎左殿が見聞きしたことでも無い故、縁を辿るのに少々時間がかかったが何とかなって良かったのぉ』

 

それを半日かけずに探し当てるコンの有能さよ。

 

なに? 安倍晴明なら半刻(1時間)かからなかった?

それは比較対象としてどうなの?

 

『そう言えば話を盛っているって言ってたけどどの辺が盛られてるんだ?』

 

普通にそのまんま妖怪に呪われている話だったが。

 

『妖怪化とは言っても明確に妖怪と言えるほど育っている訳では無く、呪いと言えるほど執着している物でも無かったからの。とはいえそれを一々(いちいち)説明していたのではかえって分かりづらい。それに『妖怪未満の怨霊もどきを倒した』より『相手を呪い殺す妖怪を倒した』の方が箔がつくじゃろ?』

 

あぁ、そういうこと。

 

『ちょいと幻影でそれっぽく演出しておいたし、自慢話くらいにはできる筈じゃ』

 

「そっか。それにしても前世の縁が二つも重なっているとは」

 

『一つなら割とあるが二つとなるとそこそこ珍しい話ではあるのう。とはいえおかげで妖刀の未練も果たせた訳じゃし、良きかな良きかな。普通は千里先よりマヨイガに訪れることはできんからの。まさに『縁あれば千里を隔てても会い易し、縁なければ面を対しても見え難し』じゃな』

 

へぇ、そんな言葉あるんだ。

 

「『袖振り合うも多生の縁』じゃないけれど、俺とコンにも前世での縁があったのかな」

 

『はて? 言っておらなんだったか?』

 

特にそんな話は聞いてないけど。

 

『そうじゃったか。タケルとの前世の縁じゃったな。まず、三つ前の過去世にてこのマヨイガに訪れたことがある。確かいくら掬っても水が減らない妖怪柄杓(ひしゃく)を持ち帰ったんじゃったか。当世はタケルも女性じゃったの』

 

男に生まれる確率は二分の一だからそういう事もあるだろう。

 

『八つ前の過去世では儂の勤めておった稲荷神社の神主じゃった。今際を見届けたのはこの時だけじゃったな』

 

結構付き合い長いんだな。

 

『十と三つ前、二十と一つ前、三十前、三十と五つ前とちょくちょく会うことがあったのじゃが、この辺はあまり関わる事はなかったの』

 

いったい何年前なのだろうか。

 

『四十と二つ前、四十と六つ前、四十と九つ前はまだ稲荷狐見習いの頃じゃったな。修行の際は世話になったものじゃ。主に陽の気の補充先として』

 

陽の気の補充って、あれか。男から精を搾り取るやつ。

今世でも無駄に消費するのは勿体ないからとか言って誘ってくる。

思春期の男子としては非常に嬉しい事ではあるのだが。

天狐となった今では仙人のように大気から陽の気を吸収できるので、わざわざ人から補充する必要はないはずなんだがな。

 

『こうしてみるとタケルが人として生まれた時は大体会っとるの』

 

人としての転生が50回中10回は多いのか少ないのか。

 

『後は五十と五つ前の過去世なんじゃが、当時は儂もただの狐じゃったな。その時は……』

 

ここでコンは一度言葉を切った。

過去を思い出し、懐かしむように。

 

『……お主は儂の(つがい)(おっと)じゃよ』

 

へぇ。そうなんだ。

まぁ、俺もコンも『生まれ変わったら別人』派だからそんな感想しか出てこな──

 

 

 

「嘘なのだ!!」

 

 

 

あれ? 俺でもコンでもない声が……

声の方を見ると、庭に涙目になった女の子が立っていた。

 

 

 

どなた様?

 

 




『縁あれば千里』
縁があれば千里離れた所の人と出会う事もあるし、結ばれることもあるという意味。
『縁あれば千里を隔てても会い易し、縁なければ面を対しても見え難し』を略した言葉。

『里』って時代や場所で単位当たりの距離が違うんですが、この言葉の千里はどのくらいの距離なんでしょうかね。
沢山を表す『八百万』とかと同じで『とても遠い距離』という意味だとは思いますが。
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