俺と天狐の異世界四方山見聞録   作:黒い翠鳥

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今年もあと少しとなりました。
来年も変わらず『俺と天狐の異世界四方山見聞録』を読んでいただければ幸いです。



2024/1/1追記:
おかげさまで評価数が50となり、バーが完全に真っ赤になりました。
これもいつも読んで下さる皆さん、そして評価や感想をくださった皆さんのおかげです。
今後とも当作品をよろしくお願いします。

2024/1/21追記:
タイトルにてFile No.の重複があったため、プロローグを00として数字を修正いたしました。
2024/1/25追記:
日数の計算にて致命的なミスが発覚したので、一部の時間経過に関する表現を修正いたしました。


File No.33-3 道の神 サルタビコの記憶

「以上が事の顛末ですぞ、()()()()()

 

「うむ、よくやってくれた」

 

ウカノミタマ神の化身と共に異界より帰還したその日のうちにワシはスサノオ神の屋敷(神域)を訪れた。

此度の件で協力を頼んだスサノオ神への報告の為だ。

 

話を持っていった際にスサノオ神は「面白い」の一言で協力を約束してくれた。

ウカノミタマ神の紹介のみならず、他の神々への根回しもしてくれるという。

ワシもそれなりに神格の高い神ではあるが、三貴子の一柱からであった方が話の通りは良い。

異界との交渉の為に用意した念物(ここのぎ)や美術品の多くはスサノオ神が提供してくれたものだ。

 

「しかし、妖気さえあればいくらでも米を生み出せる米俵の(あやかし)か。これほど凄まじいものをぽんと出してくるとは、侮れんな」

 

そうなのだ。

食物という、人が生きる為に欠かせぬもの。

米に限定されるとはいえ、それを自在に生み出せるとなれば得られる信仰はいかほどのものか。

 

五穀に関する権能を持つ神であれば同様のものを作る事自体は可能であろう。

しかし信仰の力を集中させたとしても作り出せるのは精々が一つ。

それが貴重であればあるほど、それを生み出す奇跡は重くなる。

それを狐憑(きつねつき)は事も無げに渡してきたのだ。

 

偉業を成した英雄への褒美にそれを授けるというのならばまだ分からないでもない。

例えば巨大な(あやかし)に襲われ奪われた聖域を取り戻すためにその(あやかし)を討ち取ってもらった、といったような大恩に報いる為であればそれもあり得よう。

 

だが、それを授けられたのは一介の絵描きであった。

それも自身とは何のゆかりもない村娘である。

 

無論、狐憑(きつねつき)も彼女が神の化身である事くらいは見抜いているだろうし、おそらくその本霊がウカノミタマ神である事までも突き止めていただろう。

ワシらに気前の良さを見せつける意図もあったかもしれない。

しかしそれを踏まえても普通に考えてはあり得ぬ事だ。

 

ワシらが求めていたのは種籾である。

この米俵を使ってほんの少し種籾を生み出してしまえば事足りたのだ。

 

ならば導かれる答えは一つ。

狐憑(きつねつき)にとってこれは大したものではないという事に他ならない。

同じようなものをいくつも持っているのか、あるいはいくつでも作り出す事ができるのか。

そんな事ができるのはワシなど及びもつかないほどに信仰を集めているか、あるいは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だろう。

手に入れるのが容易であれば、それを生み出す奇跡は軽くなる。

 

そしてそれが神器ではなく(あやかし)であるというのが更に問題となっている。

 

神器であればある程度その神の権能のうちに留まることになる。

その場合同じ分野であれば太刀打ちは難しいが、それ以外においてはどうとでもなるだろう。

しかし(あやかし)という一個の存在だと、そうとは言い切れなくなるのだ。

なんせあの異界は(あやかし)の巣と言えるほどに多種多様な(あやかし)で構成されていた。

その全てにあの米俵と同等の力があるとするならば、日乃國(ヒノクニ)の神が持つ権能の大半を代替する事が出来るだろう。

 

(ウカノミタマ)には今回の件をしばらく公表しないように言い含めておこう。おぬしも口を(つぐ)んでおれ。次の集会の時に姉上(アマテラス)らも交えて対応を考える」

 

「それがいいですな」

 

スサノオ神も同じように考えたのか、準備が終わらぬうちは黙っておくように言われた。

あの異界の話が広まれば、授かり物欲しさに無理やり乗り込もうとする輩も出てこよう。

なにせウカノミタマ神が得たと米俵だけでも、日乃國(ヒノクニ)の勢力図が書き換わる事になりかねない代物だからだ。

返り討ちに合うだけならいいが、狐憑(きつねつき)を怒らせて食材の取引がおじゃんになったら目も当てられぬ。

 

もともとあれは駄目元であった。

もちろん取引が成立すれば御の字(最高)だが、こちらの望んでいるものが伝わればよし、これが次への布石になればと思っての事であった。

それがいささか量は少ないとはいえ取引が成立して定期的に手に入るようになったのだ。

あの美味を味わったワシからすれば、手放しがたい取引である。

 

なにせあの取引はお互いのどちらからでも一方的に破棄できる代物。

こちらがまだ種を手に入れていない以上、こちらからやめる選択肢はない。

となれば、なるべく相手の心証を悪くする原因は取り除いてしまわなければならぬ。

 

とはいえ既に異界へ行った侍がそのことを広めているので完全に異界の事を隠すのは無理じゃろうな。

 

「集会では異界の食材を使った料理を振舞ってはいかがか」

 

「それは良いな。二柱で独占できなくなるのは残念だが」

 

そもそも日乃國(ヒノクニ)で育てる目途が立てば全国に広めていくつもりだったもの。

それが早まるなら今の取り分が減ったところで必要な代償よ。

なにせあれを食べればワシらの計画に賛同する神は確実にいる。

 

「それと、集会ではミルラトの神の件も議題にあげていただきたい」

 

「おまえが異界で会ったという月神か。この国が海の外を見据えるならば外せん話だな。よかろう」

 

異界で出会う事になったミルラトの神。

それはお互いの気まぐれが起こした偶然の出会いであった。

 

ウカノミタマ神の化身が狐憑(きつねつき)の試しを受けている間、異界の屋敷の庭を散策していたかの神と案内された部屋で庭を眺めていたワシの目が合った。

それだけなら会釈でもして目線を逸らすだけなのだが、何を思ったのかミルラトの神は部屋の傍まで寄ってきて話しかけてきたのだ。

 

どうやら狐憑(きつねつき)に待たされて暇をしていたらしい。

スサノオ神にも匹敵する神気に気圧されそうになるも、日乃國(ヒノクニ)の神としてそんな姿は見せられんと笑顔で応じる。

 

神気から察するに異界に残る神気の持ち主の一柱に間違いないじゃろう。

近くに控えている狐憑(きつねつき)の使いが何も言わない辺り、この異界で自由に動き回っても許されるほど狐憑(きつねつき)と仲が良いのかもしれぬ。

 

情報収集がてらワシはその暇つぶしに付き合う事にした。

そして語られる海の外(ミルラト)の素晴らしさの数々。

ともすれば自慢としか取られないような内容であったが、不思議と嫌悪感はなかった。

海の外にはそのような世界が広がっているのか。

ワシはついミルラトの神の話しに聞き入ってしまった。

 

しかし日乃國(ヒノクニ)とて負けてはおらぬ。

今度はワシが語る番であった。

四季折々の風景に各地の名物、文化風習を様々に。

一通り語ったところでミルラトの神が言った。

 

日乃國(ヒノクニ)には素晴らしいものが多いですわね。たまに来る貿易船にさっき言っていた焼きものとか追加できませんの?」

 

確かに我が国はミルラトの神のいる国々の一部と貿易している。

しかし海流の関係もあって簡単には辿り着けない為、細々と行われているのが現状であった。

 

無事に往復できれば一角千金は間違いない。

ただし造船の盛んな我が国でもそこまでたどり着くほどの遠洋航海に耐えうる船は限られている。

結果、確実に儲けられる品目が優先され、売れるか未知数なものを積み込む余裕はない。

もし異界を通じて必要なもの、必要な数を確認できたなら、それによって生じる利益は……

 

「もし今後定期的にここを訪れるつもりがあるのなら、お互いの益になるように話し合いをしません? その場を借りられるように異界神(キツネツキ)を説き伏せるのは(わたくし)がやりますわ」

 

なるほど、悪くない。

ただワシの一存では何とも言えんな。

ワシは旅の神ではあるが、外洋は権能の範囲外だ。

それは海にまつわる神々の領分だろう。

少なくともそちらに話を通しておく必要がある。

 

食材を買う為に定期的にこの異界に来る予定であるので、次のその時には返答を用意しておこう。

 

「色よい返事をお持ちしていますわ」

 

それからウカノミタマ神の化身が試しを終えて戻って来てもなおお互いの自慢話は続いた。

 

ミルラトにも狐憑(きつねつき)の試しを乗り越えて『サツマイモ』なるものを賜った神がいるそうだ。

そんな神の偉業を劇にして国中で演じているらしい。

この手法はわが国でも使えるな。

 

途中から酒が入ったのがまずかったのか、日が暮れるまでそれは続くこととなった。

 

「あと、ウカノミタマ神から言伝(ことづて)がある。貰ったものが言われたのと違うがどうすればよいかと。とりあえず持ち帰って保管しておくように言っておいたんじゃが」

 

本来ウカノミタマ神に課せられたのは狐憑(きつねつき)に認められて種籾を手に入れることだった。

それを氏子(うじこ)に育てさせて最終的には日乃國(ヒノクニ)中に広めていく。

その為に自分の領域の中で引きこもっていたウカノミタマ神をスサノオ神が仕送りの打ち切りを盾に引っ張り出してきたのだ。

 

しかし蓋をあければウカノミタマ神が賜ったのは完全上位互換にもほどがある米俵の(あやかし)であった。

もはや育てさせるどころか現物が幾らでも手に入るのである。

 

そしてその米俵は取り上げることも献上させることも出来ない。

神器と違って(あやかし)であるが故に意思があり、そんな事をすれば米を生み出さなくなってしまう。

下手をすればそれが狐憑(きつねつき)の耳に入り、逆鱗に触れることにすらなりかねない。

 

そのため、その担い手はあくまでウカノミタマ神でなくてはならない。

流石に化身と本霊であれば同じ神物(じんぶつ)とみなされるだろう。

 

「それに関しては我が直接出向こう。うまい米を日乃國(ヒノクニ)中に広める方針は変わらん。それに加えて毎月一定量の米を納めるように言い渡す。そちらで米が手に入れば異界から買う分を別の食材にすることができるからな。その代わり、仕送りは五倍にしてやろう」

 

ウカノミタマ神はこれを機に仕送りを増やすよう交渉すると言っていたが、この分だと仕事もしっかり増やされそうじゃな。

もっとも、この仕事だけで五倍は破格も破格である。

それがこの米俵を手に入れた手柄に対する褒美であることは言うまでもないが。

 

狐憑(きつねつき)ほどの神が仕える宇迦之御魂(うかのみたま)なる神。

ウカノミタマ神と同じ名を持つ神。

その名の持つ言霊によりより良い縁が紡げればと彼女を選んだが、それは正解であったようだ。

 

もとよりウカノミタマ神は引きこもってはいるものの能力は優秀である。

漫画とやらに傾倒しておって自らそれを作る為にわざわざ化身を降臨させていたのも今回は有利に働いた。

狐憑(きつねつき)ら異界に住む者達からの評価も悪くなかったように見える。

場合によっては引き続き異界へ連れていく事も考えなくてはな。

 

話もひと段落したところで、スサノオ神の神使が皿に乗せた握り飯を持ってくる。

異界からの帰りに試しに米俵から出してもらった米を使った握り飯だ。

 

「夜食にはなるが、せっかくの(ウカノミタマ)の成果だ。新米を炊き立てで味わおうではないか」

 

「ええ、是非とも」

 

その日スサノオ神と共に食べた握り飯は、日乃國(ヒノクニ)の明るい未来を暗示するような味であった。

 




新しい小説の掲載いたしました。
とは言っても新連載という程ではなく、昔書いていた小説を手直ししたものなのですが。
ジャンル的には王道現代ファンタジー……の筈。
なお、世界設定自体がまるっきり違うので神とか妖怪とかの設定も此方とは完全に異なります。
基本的にこちらが優先なので更新はなかなか無いと思いますが、よろしければそちらもご覧いただければ幸いです。

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