俺と天狐の異世界四方山見聞録   作:黒い翠鳥

75 / 93
File No.36-2 日乃國の神 スサノオの記憶

 

碁を一局打ち終える。

 

「これで()()を含め、我の二目半勝ちとなる……これが最近流行り出しておるという自由布石碁か」

 

「ええ、最近頭角を現してきた秀砂(しゅうさ)と名乗る碁打ちが提唱している碁の新たな形ですな。他にも先ほど説明した布石や込みといったこれまでに無かった概念を広めております」

 

確かにこれは今までの碁に比べて自由度が高く、好むものも居よう。

これが今後の碁の主流となるか、早々に廃れるかは今後次第であろうが。

 

「で、だ。わざわざ碁を打ちに来ただけではあるまい」

 

我の言葉に、サルタビコは是とかえす(「はい」と答える)

 

「これについて調べたところ、どうやら秀砂(しゅうさ)自身が考えついたものではないようで、本人曰く『異界の仙人に教わった』と」

 

数ある異界の事を考えれば、そのようなことがあっても不思議ではない。

それに実際に仙人かはともかくそのように振舞う(あやかし)はおるし、相手にその気は無くとも秀砂(しゅうさ)という人間が勘違いしたという場合もある。

 

「そして素性を隠して実際に会ってみれば、どうやら碁の精に憑かれているようで」

 

碁の精(妖の方)か。

まぁその方面の知識が無ければ碁の精も碁を打つ仙人も同じように見えるであろうな。

 

「そこまでは良かったんじゃがな、問題はその碁の精の生まれがどうやら百重御殿らしく」

 

なに、百重御殿だと!?

我が娘(ウカノミタマ)が米俵のを授かり、今も我らが食材の取引をしている異界。

()()()()()()()()()狐憑(きつねつき)なる神の住む(あやかし)の屋敷。

 

「それは……本当に碁の精であったか?」

 

「少なくとも儂の目にはそう見えましたな」

 

そこ(百重御殿)から(あやかし)が来た、というのは問題ない。

そのような事をするかもしれぬという話は聞いている。

 

秀砂(しゅうさ)なる人間に碁の精が憑いている、これも問題ない。

碁に限らずそういった話はよくある事だ。

 

だが、()()()殿()()()()()()()()()というのはおかしいのだ。

碁はこの世の遊戯であり、この世とは異なる世界から来たという百重御殿にはある筈がない。

言葉だけであれば、異なる世界に碁と極めて近しい遊戯があれば意思疎通の為の(まじな)いでこちらの知っている言葉に置き換えられているという説明がつく。

しかしそれでもその(あやかし)は異なる世界の遊戯の(あやかし)でしかない。

それをサルタビコが見誤るとは思えん。

 

故に考えられる可能性は限られる。

狐憑(きつねつき)がこの世に来てから新たに生み出した(あやかし)である可能性もあるにはあるが、そこまでする意義があるかは疑問だ。

 

で、あるならば。

 

我が國(ヒノクニ)に碁という文化を広めたのは、一人の男だとされております。かつて日乃國(ヒノクニ)の神話を纏め上げ、それを時の天子に献上した人間」

 

サルタビコも同様に考えていたらしく、確かめるようにその可能性を口にしていく。

その人間の名は仲足(なかたり)

もっとも、あくまでそう名乗っていただけで本名なのか偽名なのかは既に知りようがないが。

 

「彼は平城(へいぜい)(みやこ)から来たと言っていたそうですが、当時の日乃國(ヒノクニ)にそのような地は無かった。これはスサノオ神もご存知なところ」

 

平城(へいぜい)(みやこ)とは何処の事だったのか。

訛りのせいで誤った表記がされていただの、箔をつける為に架空の都市をでっち上げただの、あるいは土地ではなく組織の名であったのだ等々、様々な説が今もなお囁かれているのは知っておる。

その中に、かの人物は違う世界からこの世にやって来たのではないかという説もあった。

 

「仮に平城(へいぜい)(みやこ)が異なる世界にあるとして、碁が元々その世界の遊戯であり、百重御殿が同じ世界から来ているとするならば……」

 

辻褄は合う、か。

仮定に仮定を重ねる考察であるが、百重御殿が異なる世界から来ておる以上、荒唐無稽(こうとうむけい)という程ではない。

 

「かの人物は碁のみならず我が國(ヒノクニ)に革新的な技術や思想を数多くもたらしたそうですな。それが異なる世界由来のものであったとするならば、此度の百重御殿との繋がりは食に限らず日乃國(ヒノクニ)にとって重要なものになるやも知れませんぞ」

 

確かに一理あるな。

幸いにして百重御殿との関わりについては姉上(アマテラス)の賛同を得ている。

ここで新たな利を示せれば、他の神々の説得にも拍車がかかるだろう。

 

「良かろう。必要なものがあれば申し出よ。なんなら(ウカノミタマ)を連れて行っても構わん。本神(ほんにん)には我から言っておこう。ただし、今の取引に支障を出さぬようにな」

 

「はい、心得ております」

 

かつて日乃國(ヒノクニ)を繁栄させたのは異なる世界からの訪問者であったかもしれぬか。

それならば日乃國(ヒノクニ)と百重御殿の様式が似ているというのも納得だ。

まだそうと決まったわけではないにせよ、その可能性は十分にある。

 

この世とは違う、神々ですら見たこともない世界。

そのような世界からの訪問者がこの國に何をもたらす事になるのか。

今はまだ、姉上(アマテラス)ですら見通すことが出来ぬという。

 

 

 

必要であれば我自ら向かう事も考えねばならんな。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。