俺と天狐の異世界四方山見聞録   作:黒い翠鳥

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File No.38-2 ウカノミタマの化身 ウカの記憶

「今から異界に行くから一緒に来なさい」

 

突然我が家にやって来たサルタビコ神がそんな事を言いだした。

いや、何でうちのところに来るわけ?

 

この間はお父様に言われたから行ったけどさ、大変だったんだからねアレ。

日乃國(ヒノクニ)の未来がかかってるって話だったし、精神的重圧が酷すぎてもう二度とやりたくない。

しかも終わったら終わったで他の神話の神と酒盛り始めるとか、うち凄く居た堪れなくなったんだけど。

それに連れて行くなら化身のうちじゃなくて(本体)の方のうちのがいいでしょ。

 

「いやなに、行先は前にも行った百重御殿という異界。先方(さきかた)のおぬしへの印象も良さそうであったからせっかくなら連れて行こうと思ってな」

 

だったら尚更うちじゃなくて(本体)の方でいいじゃん。

相手方には化身である事はばれているようだったって言ったのはサルタビコ神じゃん。

猫被るのだって楽じゃないんだけど。

 

「何でも先方で餅を搗くそうでな。つき終えたら皆に振舞うとの話だったのでおぬしもと思ったのだが、それほど嫌ならワシだけで行くか」

 

餅!?

 

おもち……

 

お餅かぁ。

 

あの異界のご飯、美味しかったんだよなぁ……

あの米俵を使えばもち米は用意できるけど、搗くとなるとなぁ。

村の人達に搗いてもらうにしても間違いなく米の出所を怪しまれるし。

 

…………

 

「わかった、ちょっと待ってて」

 

サルタビコ神に断りを入れて、仕切りで区切っている奥の部屋に移る。

普段着を脱ぎ、溜めておいた水と布を使って体を清める。

それから一張羅に着替えてぼさぼさになっていた髪を結う。

 

あとは性格を取り繕う(余所行き用に猫を被る)

想定は少し内気だけど、奥ゆかしくて守ってあげたくなるような女の子。

あと一人称を変えるのも忘れないようにっと。

 

にこっ。

 

これでよし。

準備を終えて表の部屋に戻る。

 

「お待たせしました、サルタビコ()

 

「うむ、では参ろうか」

 

美味しいものの誘惑には勝てなかったんだよ……

 

 

 

しばらくして百重御殿という異界に辿り着いた。

移動手段的に仕方ないとはいえ、境界と神通力を駆使して短時間で移動するサルタビコ神に背負われて行くのは人の体には辛いところ。

せめて神足通が要らないくらい近場の境界から直接いければなぁ。

 

異界の主の使いの仮面をつけた(あやかし)に誘われて門をくぐると、十名以上の屋敷の住人(あやかし)たちと他の神話の神と思わしき方が三柱ほど集まっていた。

 

「おや、これは待たせてしまったかな」

 

「いえ、(わたくし)達が早く来すぎただけですわ。あら、そちらの子は前に試練を受けに来ていた子ですわよね」

 

「はい、ご無沙汰しております」

 

うち、この(ひと)苦手なんだよね。

会ったのは前にこの異界に来た時だけだけど、この何もかも見通しているような目がどうにもね。

被っている猫が逃げ出さ(剥がれ)ないように気をつけないと。

 

他の二柱はサルタビコ神も初対面という事で、お互いに紹介される流れになった。

サツマ芋という芋の神とその娘だそうだ。

あの、サルタビコ神、こんなに神がいるとは聞いてないんだけど。

 

早まったかなと軽く後悔したものの、今更どうしようもない。

なるべく目立たないようにしとこ。

 

それから異界の主である狐憑神が屋敷から現れると、餅つきが始まった。

 

サルタビコ神は狐憑神に無理言って餅を搗く役をさせてもらうようだ。

他の神話の神達も餅つきを手伝うとあってはうちだけ何もしない訳にはいかないよね。

狐憑神はお客さんなのだから座って待っててくれればと言ってくれたけど、うち以外の全員が餅つきに乗り気なのに一人だけ手伝わずに餅を食べるほど図太くはない。

大人しく他の神話の神達といっしょに餅を丸めることにする。

 

おっと、あつ、あつ。

 

熱の十分に残る餅が手にくっ付きそうになるけど、これでも村の餅つきには毎年参加しているからね。

それなりに慣れたものだよ。

 

見れば月の神が奇麗に丸めた餅を次々に作っている。

え? その手つき本当に初めて?

サツマ芋の神の方は悪戦苦闘しながら餅を丸めているのに対して、娘さんの方は拙いながらも熱さを気にしない手つきで餅を丸めていく。

たぶん熱に耐性があるんだろう。

ちょっと羨ましい。

 

やがて狐憑神も餅を丸めるのに加わり、最後に運ばれてきた餅も全員で丸め終わる。

ああ、疲れた。

だけどそれも美味しいお餅の為。

作り終えたばかりの餅たちが、海苔を巻かれたり緑色の何かを乗せられたりして調理されていく。

どれも美味しそうだけどまずは出来立てのお餅を大根おろしと軽く醤油をかけて、いただきます。

 

 

んーーーーーー、美味しいぃ!

 

 

え、なにこれ。

餅も大根も村で作るのとは別物じゃん。

つきたてのお餅の素朴な甘味に大根おろしのさっぱりした辛さがよく合う。

これぞ定番にして至高の組み合わせ。

 

この異界の食べ物が美味しいのは分かってたつもりだったけど、うちの想像を簡単に超えてくる。

 

 

こっちのお餅は中に何か入っている。

確か異界の(あやかし)達が黒っぽいものを包んでいたはず。

どんな味なんだろ。

 

甘っ。

口いっぱいに広がる甘味はその存在を強く主張しながらも、くどさを感じさせない絶妙な塩梅。

幸せの味とはこの事か。

 

これは多分煮込んだ小豆。

それに大量の砂糖が加えられている。

そうして作られた餡がある事は聞いてたけど、これだけの甘さを出すのにいったいどれほどの砂糖が必要か。

ただの村娘ではおいそれと手に入らない高級品なのは間違いない。

 

 

こっちの緑色のは、香りから察するに枝豆かな。

一つ頂こっと。

 

おおぉ。

枝豆の芳醇な香りと自然な甘さが素晴らしいじゃん。

豆の粒々ともっちりとした餅の組み合わせが癖になる。

深い。この味は奥深い。

 

 

他にもまだまだいろんな餅が並べられている。

次はどのお餅にしよっか。

 

 

 

た、食べ過ぎた。

うっぷ。

 

サルタビコ神と一緒に帰路に就く。

神足通を使われると流石に吐きそうなのでしばらくは徒歩。

 

流石にもう猫を被る意味も無いので元に戻す。

あれ実はむっちゃ神経を使うんだよね。

 

お土産として貰った大量のお餅はサルタビコ神の持つ行李に入ってる。

あの量を直接持って帰るのは大変だ。

 

「いやぁ、食べた食べた。しかしまあ、餅一つとってもよくぞあれだけの食べ方を考えられるものだと感心するのう。それもこちらでも作れるものも多かった」

 

そう。

材料自体は日乃國(ヒノクニ)で手に入るものがほとんど。

ただ……

 

日乃國(うち)の食材で作っても同じ味には……」

 

「ならんじゃろうな。少なくとも今はまだ」

 

残念だ、素直にそう思った。

同じ料理を作る事が出来ながら、同じ味を作る事が出来ないことが。

 

これが前に百重御殿で食べた日乃國(ヒノクニ)では聞いた事もないような料理であればこんな気持ちにはならなかったのに。

なまじ同じものが作れるから、余計にそう思ってしまう。

 

「もしうち(ウカノミタマ)がもっと頑張れば、百年後もあの味が作れるようになるかな」

 

食べ物の神はトヨウケビメ神やオオゲツヒメ神のようにうち(ウカノミタマ)以外にもいる。

うちの兄だって食べ物の神だ。

 

だからうち(ウカノミタマ)は積極的に氏子を増やすような事をしてこなかった。

片田舎で信仰されるだけの小さな神である事を良しとした。

それだけで満足だった。

 

故にうち(ウカノミタマ)には食べ物の神でありながら狐憑神のような美食を生み出せない。

少なくとも()()

 

百年以内に百重御殿と狐憑神はいなくなる。

サルタビコ神からはそう聞かされてる。

その後どうなるかは、まだわからない。

それまでに百重御殿への信仰が日乃國(ヒノクニ)に根付いてくれるかどうか。

 

「可能性は、ある。ただ簡単ではあるまい」

 

サルタビコ神は神の権能に頼らずとも百重御殿のものと同等の食べ物が日乃國(ヒノクニ)で食べられる土壌を作ろうとしている。

うちが百重御殿から米俵を授かった事で米に関してはその実現が現実味を帯びてきたそうだ。

他にも多くの神が賛同し始めているらしい。

 

だったらうちも化身(人の身)ながら力になろう。

本体(ウカノミタマ)の権能を高めるにしても百重御殿の食べ物を広めるにしても、百重御殿に行ったうちの立場は役に立つ。

百年後も、あの味を楽しめるようにする為に。

 

「次は三日後の夜、異界の()()()で何かするそうじゃな。泊りになるがおぬしはどうする?」

 

どうやら異界の年越しは此方とは日が異なるらしい。

特別な料理も用意しているから予定が合えばどうかと言われたけど。

 

「行く」

 

この機会を使ってなるべく多くの縁を作る。

それが将来において必ず役に立つはず。

決して美味しいご飯は食べたいからだけじゃない。ほんとうだよ。




ウカさんは異世界のウカノミタマ神の化身ではあるものの人間として生きてきたために独自の人格を形成しています。
なので口調や性格が本体と異なっていますので悪しからず。
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