俺と天狐の異世界四方山見聞録   作:黒い翠鳥

80 / 93
File No.40 は他者視点無しの予定です。

久しぶりにランキングに乗りました。
いつも「俺と天狐の異世界四方山見聞録」をご覧くださいましてありがとうございます。
お気に入り登録、感想、評価、励みになっております。


File No.40-1 『歳歳年年人同じからず』

時は過ぎ大晦日。

 

「おせち完成なのだぁ!」

 

「いっぱい作りました」

 

「お疲れ様。改めてみると壮観だな」

 

ずらりと並んだおせち料理の数々を眺めながら俺たちはお互いの苦労をねぎらい合う。

 

祝い(ざかな)の黒豆、田作り、たたきごぼう。

残念ながら数の子は手に入らなかった。

 

口取り肴にかまぼこ、伊達巻、栗きんとん。

かまぼこは自作したが着色料が手に入らなかったので白いもののみだ。

トマトで行けるか? と思ったが、思いついたのはさっきなので試してみる時間は無かった。

昆布巻きや錦玉子も用意している。

 

焼き物は鯛っぽい魚や何かでっかい海老、(はまぐり)のような貝類。

いずれもミルラト神話圏の海沿いではよく食べられている海の幸だそうだ。

 

酢のものは紅白なます、煮物は煮しめを作った。

里芋やタケノコ、手綱こんにゃくもあるぞ。

 

他にも正月料理ではないが今まで評判の良かった料理や油揚げを使った料理も多く用意してある。

量が量なのでほとんどはそのまま提供するが、一応福を重ねるという縁起担ぎもあって重箱に詰めた物も準備している。

 

 

 

(タケル)様ぁ、るみな神一行とぉ、さるたびこ神一行が来られましたよぉ」

 

おせち料理を作り終わったあと夕食の準備も済ませた夕暮れ前。

百重経由で宵桜から来客の知らせ受けたので玄関の方へ向かう。

すると、丁度ルミナ神達が面霊気に案内されて集まっているところだった。

 

「皆さん、いらっしゃい」

 

「お邪魔しますわ」

「キツネツキ君、今日はよろしくね」

「お世話になるのです」

「招いてくれて感謝するわい」

「ご厄介になります」

 

お、ウカさんもちゃんと来れたようで良かった。

さっそく座敷へ向かうと、ミコトの指揮のもと人の姿に化けた付喪神達が夕食の食材を運んでいる。

 

「なんだか広くなっているのです」

 

部屋を仕切っている(ふすま)を外したからね。

いつもより人数も多いし。

 

今日の夕食はすき焼きとちらし寿司&稲荷寿司に天麩羅、あと大皿にから揚げやフライドポテトなどの揚げ物もある。

すき焼きは牛肉が手に入らなかったので牡丹肉(いのししのおにく)を使っている。

 

ミルラト神話圏でも日乃國(ヒノクニ)でも大勢で鍋をつつくような食べ方はしないらしいので個別の鍋を用意しようかと思ったのだが、せっかく異界の年越しを経験しに来ているのだからそういうのも含めて体験したいと言われたので皆で囲む形をとった。

とはいえフェルドナ神やフォレアちゃんに取り箸は使いにくいだろうとトングは自作したが。

 

後で年越しそばも出すのでその分の余裕は残しておいて欲しい。

 

「ほう、これがすき焼きか。うまそうじゃな」

 

「溶き卵につけて食べる事が多いんですが、皆さん生卵は大丈夫ですか? 駄目ならタレや大根おろしも用意していますが」

 

食中毒とかの関係でミルラト神話圏だと生の卵は食べないらしいから。

もちろん用意した卵は取れたてだし、マヨイガ産の卵はサルモネラ菌の心配はない。

 

「私は平気よ」

 

「私も大丈夫なのです」

 

蛇神の二柱は問題なしと。

 

異界(ここ)の卵であれば問題ないでしょう。(わたくし)も構いませんわ。ですが他の味も試したいのでたれと大根おろしもお願いね」

 

「あ、ワシもそれで頼むぞ」

 

了解ですっと。

 

「私は……大根おろしでお願いします」

 

ウカさんは大根おろしと。

日乃國(ヒノクニ)では生卵を食べると聞いていたが、単に好みの問題かな。

 

 

 

夕食の準備が終わり、いただきますをして皆で食べ始める。

食事前の挨拶は各々異なるが、いつの間にかこっちで食事をする際は皆日本式の挨拶(いただきます)をするようになっていた。

郷に入れば郷に従えという事だろうか。

 

「ほぅ、これは旨い。日乃國(うち)で出せば名物になるな」

 

「これにも醤油が使われていますわね。魚醤で再現できるかしら……交易品の醤油、もっと用意できませんの?」

 

「そうじゃの、蜂蜜の輸出量を増やしてくれるなら何とかしよう」

 

「から揚げ美味しいのです」

 

「これは芋を細く切って……サツマイモでも似たものが作れそうね。でもやっぱり油が高くつくかぁ」

 

「これ美味しい」

 

「これは稲荷寿司といってじゃな──」

 

ルミナ神とサルタビコ神はすき焼きつつきながら交渉を始めているし、フォレアちゃんは大量のから揚げにご満悦。

コンに至ってはウカさんに稲荷寿司を布教し始めていた。

 

百重御殿(うち)では妖怪油壷がいるからいくらでも油が使えているが、ミルラト神話圏でも日乃國(ヒノクニ)でも油は高価な代物だそうだ。

そのせいか油を使用した料理はあるにはあるが、あまり発展していないらしい。

 

「ねぇ、キツネツキ君。ここだとどうやって油を調達してるの?」

 

「油を作れる妖怪がいるので、その子にお願いしてますね」

 

「やっぱり神器(ようかい)かぁ。油を簡単に作れる方法があるなら教えてもらえないかと思ったのだけど」

 

一応、「しめぎ」という植物の種子から油を搾る道具の妖怪はいるので大まかな油の搾り方は知ってるけど詳しくはない。

 

「そちらだと何から油を搾ってるんです?」

 

「えっと、動物なら豚が多いって聞いたわ。植物からだと胡麻だったかな。あと(いわし)とか」

 

ちらっとルミナ神の方を見ると目を合わせて頷かれたので間違ってはなさそう。

俺が知ってる中で油が取れそうなものとなると……

 

「アブラヤシとかそっちに有ったりしませんか?」

 

通称パームヤシ。

単位面積当の採油量では植物界屈指の高さを誇ってたはず。

 

「うーん、聞いたことないなあ」

 

ルミナ神も首を振るあたり、ミルラト神話圏にはなさそうだ。

 

「他だと、菜の花の種から結構とれたはず。菜の花はどうです? あ、実物を見せた方がいいですね」

 

確か単位面積当でゴマの倍くらい油が取れたはず。

菜の花はアブラナの事だが、アブラナ属の植物はだいたい似たような花をつけるので一纏めに菜の花と呼ばれている。

その為かマヨイガの菜の花はアブラナ属のいいとこ取りなスーパー菜の花だったりするのだが。

 

マヨイガ妖怪に言って菜の花を持ってきてもらう。

以心伝心の呪いでも認識の違いで上手く翻訳されないことはあるからな。

 

すぐにいだてんさんが菜の花を持ってきてくれたが、残念ながら心当たりは無いらしい。

 

「その菜の花、ちょっと分けてもらえたりなんかしちゃったり……」

 

「残念ながら簡単にはいと渡せるものではないですね」

 

「だよね~」

 

百重御殿的には別に構わないんだけど、異界神(キツネツキ)としての立場上ね。

特に今は日乃國(ヒノクニ)側の神もいるし。

フェルドナ神も冗談で言ってみただけのようですぐに引き下がった。

 

しかし、そこに一柱の神が待ったをかける。

 

「簡単には渡せぬ、という事は渡すのに相応しい者であれば一考してもらえるという事かな?」

 

「ええ、まぁ」

 

サルタビコ神も欲しいんですか?

此方としては理由さえつけられれば別にいいですが。

 

「ウカでは……その、駄目か?」

 

マヨイガ妖怪(生涯に一度きりの出会い)ではないので相応の試練を受けていただけるならいいですけど」

 

それよりウカさんが「え゛!?」って顔してるんですがいいんですかね。

そりゃぁ立場上サルタビコ神が受ける訳にはいかないのは分かりますが。

 

「ちょっと待ちなさい。それならばフェルドナも良いのではなくて?」

 

ルミナ神も?

いや別にいいですけど。

 

「構いませんが、神話圏への影響とか大丈夫です?」

 

具体的には農耕(グラヌド)神とか、居るかは分からないが油の神とか。

フェルドナ神(サツマイモ)の時も色々あったでしょうに。

 

「うっ、ま、まぁ、その辺はなんとかしますわ」

 

「ならいいですけど」

 

さて、試練どうしよう。

あくまで建前だし、せっかく年末年始で集まってるのにしんどい試練をするのもあれだし。

んー、妖札でいいかな。

条件を「()を満足させれば良し」とすれば両方に配っても問題なかろう。

あ、いや。

それならもっといいのがあるか。

 

コン、悪いんだけどゲームマスターやってもらっていい?

 

(ああ、あれか。かまわぬぞ)

 

「それでは明日の昼食後にでもやりましょうか。とある世界の遊戯、道中演戯(どうちゅうえんぎ)を」

 

 

 

 

 

 

これが後々まで続くミルラト神話勢と日乃國神話勢の戦い(遊戯)の始まりになろうとは、この時の俺は思っても見なかったのだった。

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、いい湯だった」

 

現在は夜も更けてくる頃合いであり、先ほど風呂で汗を流してきたところだ。

女性陣は今頃温泉を楽しんでいる事だろう。

性別と人数の関係でサルタビコ神だけ一柱で温泉に入る事になってしまったが。

 

 

 

夕食の後は三神話交流会と称した歌唱大会と相成った。

楽器の類はコンが和琴(わごん)を弾けるほか、サルタビコ神が(こと)のような楽器を、ルミナ神がヴァイオリンに似た楽器を演奏できるそうだ。

生憎と和琴(わごん)以外は百重御殿には無い*1ので各自持ち込みとなった。

 

三柱とも音楽に関する権能を持っている訳でもなく、手遊(てすさ)びに演奏できる程度という話だったので同じ神話圏の歌い手が歌う時に軽く伴奏する程度にとどまったが。

そもそもこの三柱、演奏する側じゃなくて捧げられる側だし。

琴古主(ことふるぬし)*2琵琶牧々(びわぼくぼく)*3三味長老(しゃみちょうろう)*4のような楽器の付喪神なら一度その音楽を聞かせてやれば演奏できそうではあるが、適当に好きな歌を歌って楽しもうという趣旨だったのでそこまでしてはいない。

俺が以前音源を持ち込んだゲームの主題歌とかを歌う時は演奏してくれたが。

 

歌い手の好みなのか文化的な傾向なのかは分からないが、各々の歌にはそれぞれ違った特色があって面白かった。

ミルラト神話圏側は吟遊詩人が歌ってそうなイメージの歌が、日乃國側は民謡のような印象の歌が多かったな。

なんか途中から興が乗ったのか踊りまで始まる始末だったし。

 

 

 

さてさて時間的にはよい頃合いか。

 

そろそろ年越しそばの準備を始めよう。

もっとも、既につゆを煮てそばを茹でるだけにするまで準備してあるが。

 

マヨイガ妖怪の力を借りながら調理していると、今年もあと僅かだなという実感が沸いてくる。

あとはそばを食べて除夜の鐘を聞いたら新年か。

 

そばは細く長いので長生きできるようにとの願いが込められており、切れやすいために今年の苦労や悪縁のような厄災を断ち切るという意味がある。

除夜の鐘はもともと仏教の禅宗で行われていた行事だったが、昭和に入って全国に広まっていったそうだ。

その為か鐘をつく時間帯は寺院によって異なっていて、回数も108回とは限らないらしい。

百重御殿には寺院は無いのだが、日本の大晦日の風物詩となったことで時刻を知らせる(とき)(かね)が代わりについてくれている。

 

ルミナ神達も今日は離れ座敷に止まるそうだ。

明日は雑煮を作って、正月らしい遊びでもするとしようか。

 

 

 

来年もよろしくお願いします。

*1
(こと)はあるがサルタビコ神のは似ているだけで別の楽器

*2
琴(琴・箏・和琴などの総称)の付喪神

*3
琵琶の付喪神

*4
三味線の付喪神




特に何の思惑もなく冗談半分に聞いてみただけのフェルドナ神。
作物の種を手に入れる為に何らかの取っ掛かりが欲しいサルタビコ神。
日乃國側が交易で優位に立つことを警戒するルミナ神。

その結果始まる両陣営の誇りを賭けた遊戯(たたかい)


歳歳年年人同(さいさいねんねんひとおな)じからず』
正確には『年年歳歳花相似たり、歳歳年年人同じからず』。
流石にちょっと長かった。

花は毎年同じように咲くが、人の境遇は年々変化していくという意味。
来年はもっと良い年になりますように。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。