ある日の事。
「あ、こんにちは」
「こんにちは。こんなところでどうされました?」
百重御殿の門を開けたら女の人がいた。
二十歳かもう少し上といった印象を受ける、
「いやー、なんか呼ばれたような気がしたから来てみたんだけどね」
呼ばれた?
となると百重かな。
(いや、
違うんだ。
だったら迷い込んだ人かな。
「完全に私の勘違いだったわ。いやー、これは恥ずかしい。自分が呼ばれたと思って振り返ったら、実際に呼ばれていたのは私の後ろの人だった時のような恥ずかしさだわ」
「はぁ」
それは確かに恥ずかしいですが。
「恥ずかしいから私はもう帰るね。じゃ、バイバイ」
そういうと女性はマヨイガの外に向かって走っていき、あっという間に見えなくなった。
何だったんだ? いったい。
「タケルよ、何かあったのか?」
「あ、コン。ちょっとね」
丁度やって来たコンに今の事を伝える。
「ふむ。どうやら
縁がない?
関わり合いになれない相手って事でいいのか?
「本来縁が結ばれるべきではない、この世の外から来たるもの。そういう類じゃよ。まぁ、縁が結ばれておらぬから今後会う事も無いじゃろう。珍しいものを見たとでも思っておけ」
よく分からないが、もう関わる事が無いならまあいいか。
マヨイガから境界を渡ったミルラト神話圏に属する国の一つ。
そこに居たのは紅い髪の女性ともう一人。
レディーススーツを身にまとい、狐耳と九本の尻尾を生やした妙齢の女性。
「探しましたよ。突然どこに行かれていたのですか」
「ごめんごめん。ちょっと、そうだね……小説で例えるなら物語中盤で現れる唐突な新キャラみたいに、主人公君の所に行ってたんだよね」
「はぁ、そうですか。それでどうだったんですか? その主人公さんは」
「その必要はなかったね。意味深な新キャラどころじゃないさ。あの子の物語に私はいらない。私の助けは必要としない。あの子にとって、私はただのモブキャラであるべきだ。クロスオーバーや二次創作でもない限りはね」
「もう少し分かりやすい例え方をしてくださいな。要らぬ深読みしてしまいますよ」
「ははは、そうだね。特に意味のない寄り道になったというだけの話さ。さあこの話はもう終わり。せっかくこっちに来たんだし、名物の一つでも食べていきたいな。何かいいのがあるかな?」
「はい、この国の名物といえば────」
これは語られるべき必要のない話。
だからきっと、これには何の意味もない。