俺と天狐の異世界四方山見聞録   作:黒い翠鳥

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File No.41-2 とある冬の日 ウカ/ルミナ

日乃國 豊葉根村

 

雪に覆われたこの村にある自宅で、ウカは炬燵に入りながら漫画を描いていた。

 

異界で炬燵を体験したサルタビコ神はそれを大層気に入り、構造がそれほど難しくない事もあいまって日乃國でも作らせたのだった。

異界の妖怪火鉢には及ばないにしても、火鉢自体は日乃國にも近いものがあるため再現はそう難しい事ではない。

ウカの使っている炬燵も、そうして再現されたものの一つを譲り受けたものだった。

 

「ウカちゃん、いるー?」

 

玄関の外からウカを呼ぶ声がした。

 

この声にウカは覚えがある。

友人であるユキだろう。

 

「開いてるから入って」

 

「お邪魔しまーす」

 

案の定、入って来たのは予想した通りの人物であった。

この村に住むウカと同い年の白髪(はくはつ)の女性。

 

ウカの家は入り口に繋がる土間と仕事場としても使っている広間の間に仕切りが無いため、炬燵にいながらその姿を確認できた。

このような作りの家は日乃國の農村ではよく見られる。

 

「今日も寒いね……って、なにそれ?」

 

ユキはウカの姿を確認すると、広間の中央に鎮座している炬燵に気付いた。

前に来た時にはこんなもの無かった筈だ。

 

「ふふふ、いいでしょ。たまに来る遠縁の親戚*1にもらったんだぁ。ユキも入ってみなよ」

 

「へぇー、それじゃぁお邪魔しまーす」

 

促されて炬燵に足を入れるユキ。

雪に冷やされた体が、炬燵に籠る熱で温められていく。

 

「ほうほう。これはこれは、いいですなー」

 

「でしょ。コタツって言うんだけど、いま東の方で流行ってる*2んだって。なんでも、かのサルタビコの神が百重御殿っていう隠れ里の主から教わった至高の寒凌(さむさしのぎ)っていう触れ込みらしいよ」

 

「それ本当?」

 

「さあね。でもそのくらい凄い代物ってこと」

 

親友の疑りをウカは適当に流す。

それが真実であるということは知っているが、ただの村娘である自分(ウカ)にはそんなこと知りようもない筈だからだ。

ウカはウカノミタマ神の化身であり一応その自覚もあるが、それは親友(ユキ)にも秘密なのである。

 

「凄いんだけど、気持ちよすぎて出られなくなるのが困ったところなんだよね。この上のところを開けて中の炭を取り換えられるようになってる*3んだけど、炭を取りに行くのも億劫になるくらい」

 

「それであそこに炭が山積みになってるのかぁ……」

 

ユキが視線を向けた部屋の一角──丁度ウカが手を伸ばせばぎりぎり届くくらいの位置──には、コタツ用と思われる炭が積まれていた。

当然ながら普通はこんな所に炭を置いておいたりはしない。

 

「でもウカがそういうだけはあるかぁ。これ私のうちにも欲しいなぁ」

 

「これと同じものだと、だいたいこれくらいかかるみたいだよ」

 

「え? 高!」

 

ウカに送られたコタツは職人に作らせた高級なやつなのでかなりいいお値段するのである。

そうでなくても火鉢も布団も安くはないのだ。

日乃國はワタの栽培が盛んで木綿が比較的安価とはいえ、庶民が気軽に買えるようなものではない。

これにはユキも購入をあきらめざるを得なかった。

 

「……仕方ない、作るか」

 

だがコタツそのものを諦めた訳ではない。

無ければ自分で作る。

日乃國の農民としては一般的な考え方である。

 

幸い構造自体はそう難しくないようだし、綿の布団は無理でも藁布団であれば……

流石に材料調達のことまで考えれば今から作っても冬の終わりまでには間に合わないだろうが、来年の冬までにと考えれば時間は十分にある。

 

「あそうだ、干し柿を持ってきてたんだった。ウカちゃん、これ好きだったよね?」

 

「干し柿!? やったぁ、ユキちゃん大好き!」

 

大げさに抱き付こうとするウカを雑に引き離しながら、ユキは持って来た干し柿をコタツの上に並べる。

一つのコタツを囲んで、気の置けない二人はそれから存分に語り合うのだった。

 

 

 


 

 

 

ラクル村 神域

 

「フェルドナ、いるかしら?」

 

そう言いながら神域に足を踏み入れたルミナ神は、奇妙な光景を目にする。

 

山頂の平たい山に似た何か。

おそらく何らかの台の上から厚手の布──おそらく布団に類するもの──を被せているのだろう。

そこから神体(蛇の姿)のフェルドナ神が顔を出していた。

 

「あ、ルミナ様。いま──」

 

「あー、そのままでいいですわよ」

 

その何かから這い出ようとするフェルドナ神を、ルミナ神は軽く手を振って制止する。

もとより近くに来たついでに寄っただけなので、態々礼儀を払って応対する必要は無いと。

 

「ところで、それは何なんですの?」

 

「キツネツキくんに教えてもらったコタツっていう暖房器具です。暖かくて気持ちいいんですよ」

 

へぇ、タケルさんに……とつぶやきながら、ルミナ神はコタツを注意深く観察する。

何となく、これはミルラト神話圏にとっても有益なものであると感じ取ったからだ。

 

「中を見てみてもいいかしら?」

 

「はい、どうぞ」

 

フェルドナ神が蛇の体で器用に布団をめくる。

すると中にとぐろを巻いたフォレアが熱を発しながら眠っているのが見えた。

 

なるほど、(やぐら)の上に布を被せてその中を温めることで熱が逃げないようにしているのですわね……と、ルミナ神はおおよそコタツがどういった物なのかを理解する。

 

「もういいですわよ。フォレアが暖かくしてくれているんですのね」

 

「本来は火鉢っていう炭を使った暖房器具を使って温めるらしいんですけど、フォレアがここを気に入っちゃって」

 

炭を使った暖房器具であればミルラト神話圏にもある。

それを使ったコタツを作るとして、人間に極めて近しい姿の自分(ルミナ)が使うならばもっと……そう、中に段差を付けて座れるようにするとか。

 

「思い付きですが案外これいけるのでは?」

 

「? どうされました?」

 

「いえ、(わたくし)もそれが欲しくなったので守護下の人間(我が子)達に作ってもらおうかと思っただけですわ。あ、(わたくし)もコタツに入ってみてもいいかしら」

 

どうぞどうぞと許可を出すフェルドナ神に礼を言い、コタツに足を入れるルミナ神。

彼女はしばらくその暖かさを堪能したあと、少し異界(マヨイガ)についての話をしてから帰っていった。

 

 

 

後日、ルミナ神が作らせたコタツの熱源には、とぐろを巻いた蛇を模したデザインものが採用されることとなった。

この蛇について聞かれたルミナ神はフェルドナ神の娘のフォレア神の姿を象ったものであると神託で返答したため、フォレア神は寒さから人々を守護するコタツの神と認識されてしまう事となる。

 

以後、ミルラト神話圏にて広まっていくコタツの熱源には、長らくフォレア神の姿を模したものが使われていくのだった。

 

 

*1
サルタビコ神がウカを迎えに来る際の設定。実際にはウカと血縁関係はない。

*2
実際にはまだ町一つ程度の規模。あれからあまり時間はたってないからね。

*3
妖怪火鉢ほど火力が続かないため、サルタビコ神の指示によって日乃國で使いやすいように改造が施されている。

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